39.どんでん返し
地下空間の雨音
土の上からは遠いはずなのに、かすかな雨音が聞こえてくる。壁に埋め込まれた青いクリスタルの明かりがゆっくりと震え、あたかもそこに渦巻く緊張感に応えるように。本来、二度と会うことのなるべからざる二つの存在——傷ついた人間と、時間の概念さえ誕生する前から生まれているエンティティ。
不知火は壁にもたれて座り、息遣いが少し震えていた。表情は平然と保とうとしているが、ひざの上で組んだ両手が微かに震えているのは隠せなかった。
サタン——別名ザラビスは、少し離れた場所に立っていた。その視線は……人間的だった。彼のような存在には稀なことだ。
「それで」サタンは声を落として語り、その声は低くても柔らかかった。「俺の質問に答えるつもりだな、不知火?」
不知火は深呼吸をし、勇気を振り絞るように。
「もちろん……だけど、俺が言うことを聞きたいと思うかどうか、分からないんだ」
サタンはふんわりと肩をすくめた。「俺は十億の悲劇を見てきた。もう一つなら——」
だが言葉は途切れた。不知火が目を伏せるのを見たからだ。何か、別のものがあった。これは単なる悲劇ではない。
そして初めて、サタンは座ることを選んだ。
「分かった」今度はさらに柔らかな声で言った。「話せ」
不知火は目を閉じ……そっと、過去が蘇ってきた。
不知火の過去
「俺は不知火風刃という名前で生まれ、両親が誰かも知らない」声は低く、まるで古傷を醒ますのを恐れているようだ。「そして妹がいた……風凪だ」
不知火の声は小さく、昔の傷が醒めるのを恐れているようだ。
サタンは一言も言わず、オムニ=フューチャー——誰かの思考が触れた記憶や可能性、未来まで見通せる能力を開放し始めた。だが彼は干渉しなかった。不知火が話すのを聞きながら、ただ見守るだけだ。
そして記憶が二人の前に広がった。
村の外れにある小さな家。裏庭で走り回り、笑い合う二人の子供。十五歳の黒い長髪の少女、風凪はいつも兄に微笑んでいた。
「風刃兄!」サタンが見る記憶の中で、彼女は叫んだ。「私、大きくなったら兄みたいに強くなりたい!」
若き不知火は彼女の髪をなでた。
「本気になれば、お前の方が俺より強いさ」
サタンはその光景を平然と見つめ……だが胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
彼のような存在には、未知の感覚だ。
不知火が再び話し始めると、声はかすれていた。
「あの日……薬草を取りに森へ行った。風凪はいつも一緒に行くようにせがんでくるから……俺は断れなかった」
森の幻影が浮かぶ。
夕暮れの光。
ほとんど平穏だった。
だがその平穏は、突然に崩れ去った。
サタンは見た——他の街から逃げてきた犯罪者、指名手配犯が……森の静けさを打ち破る。動きは速く、残忍だ。血の描写や恐ろしい切断面はなく、ただ暴力の残影と叫び声、凍りつくような空気だけがあった。
不知火は走った、だが——
「遅かった……」不知火の声が砕けた。「彼女を救うのに遅かった……最後まで、手に触れることさえできなかったんだ」
目を伏せる。肩が震えている。
涙が一つ、一つと石畳の床に落ちた。
「妹が俺の前で死んだ……そして俺は何もできなかった」
サタンは全てを見た。
一つのグラフィックな描写もない。ただ……襲い来る喪失感だけがあった。
記憶はゆっくりと薄れていく。
「知ってるか」不知火はすすり泣きながら言った。「時々、彼女が俺を呼んでる夢を見るんだ。時々、目が覚めると彼女がいないことを忘れていて……そして痛みが戻ってくるんだ……毎日さ」
手で目を拭うが、涙は止まらない。
「俺は自分を憎んでる。速くなれなかったこと、強くなれなかったこと、妹の守り人として……何の役にも立てなかったことを憎んでる……」
サタンはゆっくりと立ち上がった。
足取りは軽いが、一つ一つの動きには先ほどよりも温かなオーラが宿っていた。
不知火の元へ近づく。
そして……変わった。
体はゆっくりと小さくなり、髪は伸び、瞳の色は風凪のそれとまったく同じに変わった。不知火があれほども恋しがっていた顔が、まるで叶わぬ夢が現実になるように浮かび上がった。
サタンは一言も言わなかった。
ただ立っている——まるで妹が生き返ったかのように。
不知火はそれを見つめる。
凍りついた。
「……風凪?」
サタンは風凪の声にそっくりな柔らかな声で、頭を少しかしげた……昔の風凪と同じように。
不知火の心は瞬く間に崩れ去った。
彼はサタンを抱きしめた、まるで奪われた時を取り戻すように。
涙はどっと流れ、サタンの肩を濡らした。
だがエンティティは動かなかった。
ゆっくりと両手を上げ……不知火を抱き返した。
虚無の淵から生まれ、愛することを知らなかったサタンは……初めて、その抱擁から人間の感情の意味を理解した。
「ごめん……風凪……」不知火は泣きながら囁いた。「遅くなってごめん……守れなくてごめん……」
サタンは目を閉じた。
彼は風凪ではないから答えなかった。
だが彼は一つ、与えられるものがあった:
存在そのもの。
そして彼のような存在にとって、それはすでに十分以上のことだった。
抱擁は長く続いた。
とても長く。
やがて不知火は目を拭いながら手を放した。
「……ありがとう」低く言った。「少しの間だけだけど……彼女がまだ生きているように感じたんだ」
サタンは東京で使っていた人間の姿——白い短髪で、鋭くも柔らかな視線の男性の姿に戻った。
再び不知火の前に座る。
「俺はこれまで、その悲しみを理解していなかった」サタンは言った。「だが君の話を聞いて……恐怖とは何か、復讐心とは何か、そして孤独とは何かを知った」
不知火は惨めに笑った。「……知ってくれたのか?」
サタンはゆっくりと頷いた。
「そして、俺に見せてくれてありがとう」
そしてサタンは、力を使わずに直接彼の口から聞きたかった。
「不知火、君がこの組織に入った理由は何だ?」
不知火は深くため息をついた。
「俺が『スクワッター・スネーク』に入った理由は単純だ」
視線は鋭くなった。
「『ドラゴン・バースト』という組織に復讐したい。あの犯罪者が逃げ込んだ地域を支配しているのは彼らだ……利益のために殺人者を庇っているのは彼らだ」
「リーダーは白だ」不知火は続けた。「高位の竜術『緋丸』を使う能力者だ」
サタンはふんわりと頷いた。「それで、俺が彼を倒せると思ってるのか?」
不知火は早く頷いた。
「お前のような存在なら……きっとできるさ」
サタンはただ、小さく笑った。
声は軽く……そして少し悪戯っぽかった。
「もちろん、できるさ」
地上への準備
不知火は手を上げた。
「ソーニャが上で戦ってるって言ったな? なら……行け」
「だが——」
不知火は真剣な眼差しで彼を見つめた。
「黒木場に会ったら、戦ってるふりをしなきゃならない。疑われちまうな」
サタンは体を起こした。「オーッケー!」
不知火は立ち上がり、服を叩きならした。
「よし、行こうか」
二人は長い地下通路を歩き始めた。
だが途中、不知火は眉を顰めた。
「待て……地図はどこだ?」
サタンは地図の巻物を指差し……悪戯っぽく笑った。
「さっき落としたよ」
不知火はため息をついた。「故意に言わなかったんだろ……」
「ちょっとだけ」と答えた。
歩きながら不知火は振り返った。
「一つ聞きたい。ソーニャと友達になったのはなぜ? 彼女が強いから?」
サタンはうまく嘘をついた。
「俺がこのコトラット世界に来た時のこと、知ってるだろ……」
そして彼は、最初にこの世界に現れた時の作り話を始めた。
不知火はそれを信じた——たとえ話が少し変でも。
その一方で……
ガラス張りの暗い部屋。
翔也、陽菜、猛はゆっくりと目を開けた。
体は小さな閃光を放つ電気の縄で縛られていた。
目の前には、緑と赤の液体が入った大きな容器が並んでいる。その中には……生きているのか死んでいるのか分からない人間の姿が、無言で浮かんでいた。
「ここは……何処だ?」翔也はつぶやいた。
状況を理解し始める前に——
足音が聞こえた。
扉が開いた。
そして二人の姿が同時に現れた:
『ドラゴン・バースト』のリーダー……と『スクワッター・スネーク』のリーダー。
翔也は息を呑んだ。
陽菜は凍りついた。
猛は見ているものを信じられなかった。
これは偶然ではない。
これは罠だ。
そして彼らは、この暗いアークの幕開けにしか過ぎなかった。
異界から来た友 オメガ・アルファ
コトラット世界から遠い次元……
オメガ・アルファは星々が広がる場所に立ち、体は刻一刻と変化する数学的パターンで輝いていた。
突然——
脅威を検知した。
宇宙的なパターンの中に赤い信号が現れた。
脅威の源:
ザラビスの多元宇宙を襲うエーテリアル・デーモン。
オメガは次元間の信号路を通じてザラビスを呼び出した。
「ヌル。お前の多元宇宙が襲われている。助けが必要か?」
コトラット世界で不知火に話をしていたサタンは、ただ空を叩くとテレパシーの路が開いた。
「大丈夫だ、オメガ。アルロが守ってくれてる。彼が手一杯になったら、その時にお前が動けばいい。今は……必要ない」
オメガはゆっくりと頷いた。
初めて会った時のことを思い出した。
ザラビスが予告もなく現れ、オメガが動けないほどの力を持っていたこと。
だがそのエンティティは……謝罪してきた。
その日からオメガは知った:
ザラビスはただ、孤独だったのだ。
そして彼は最初の友になった。
それでオメガは心の中で言った:
「もしヌルの多元宇宙が脅かされるなら……俺が守る。だから彼は俺の友だ」




