38.ザラビスの尋問
地下回廊の虚無と鼓動
地下回廊は、まるで虚無の世界二つの息遣いの間に閉じ込められた空間のようだった。冷たく、いつからか生き続ける古びた機械のかすかな残響に満ちている。青白いネオンライトが明滅し、コンクリート壁の影をまるで生き物のように動かしていた。その空間の中央に立つのは白凪だった。感情のあまり髪が乱れ、緑の鋭い瞳は一点を射つように見つめている。
その前には、サタンがいた。
あるいは正確にはザラビス。
鉄骨の柱に寄りかかり、昼寝明けのだるそうな格好で座っている。
白凪は瞬きもしない。
ザラビスもそうだ。
違いは?
白凪が緊張しているのに対し、ザラビスは「緊張」という言葉さえ知らないような存在に見えるのだ。
スクエーター・スネークのリーダー、黒牙は一言も口を開かない。回廊の尽きに立ち、その姿は影のようにしか見えない。彼は待っている。静かに。平然と。だがその存在が放つ重圧で、周囲の空気まで凍りつくようだ。
一方で――
翔也、春奈、健は長い鉄橋を渡り、二番目の建物にやっとたどり着いた。猛撃蛇との激しい戦いのあと、体は砂埃と傷だらけだ。まだ息遣いが荒いのにもかかわらず走り続けるのは、直感がはっきりと囁いているからだ。「これで終わりじゃない」
翔也の足裏が広間の床に触れた瞬間――
ガガガロォォン!!
下から大きな亀裂の音が響き渡る。
春奈がすぐに叫んだ。「翔也っ、床が――!!」
誰も反応する暇もなく、脚下の床は中央から燃え尽きた紙のように崩れ落ちていった。
三人は暗闇の中へ自由落下する。
「何かにつかまれ!!」健が叫ぶが、掴むものは何もない。
体はコンクリートの床に激しく叩きつけられた。命に別状はないが、視界はゆらぎ、もう少しで意識が飛びそうだ。三人は這い出し、瞳を焦点を合わせようとする。
暗闇と砂埃の中から、誰かの足音が聞こえてくる。
ゆっくりと。
確かに。
近づいてくる。
薄暗いライトの下、男のシルエットがそびえていた。
翔也はできるだけ頭を上げて見上げるが、視界は真っ暗だ。
そして三人は気を失った。
ザラビスと白凪の地下空間へ戻る
白凪は少し頭を垂れ、髪が顔の一部を隠す。そして低い声で問いかけた。
「お前はサタンと呼ばれているんだな?」
ザラビスはただあごを少し上げるだけだ。
面倒くさそうに答える気配はない。
白凪は一度瞬きした。
そしてさらに大きな声で問い直す。
「お前の出自はどこだ?」
ザラビス:またあごを上げる。
白凪は拳を握る。
まぶたの血管が浮き出る。
「答えろ! さもないと殺すぞ!」
ザラビスは三度目のあご上げ。
世界一むかつく仕草だ。
白凪は冷静さを失った。
空気を圧縮したようなパンチを振り上げ、全力でザラビスの頭に打ちつけようと叫ぶ。
「このクソ悪魔め!!」
だが――
そのパンチはただ空気を切るだけだった。
なぜならサタンは、パンチが半分も進まないうちにすでに彼女の後ろに立っていたからだ。
「俺は確かに悪魔だ」サタンは平板な声で言い、見当たらない埃を服から払い落とす。
そして心の中でつけ加えた。
(まあ…「虚無の前」の存在だけど。まあいい、悪魔って呼び方が一番手軽だから)
白凪は体を振り返り、瞳を大きく見開く。
「い、いつから…?」
息が詰まるようだ。
瞳は怒りに輝いていた。
それからゆっくりと斜めに笑った。
「おっ、こういう遊びがしたいのか」というような笑い方だ。
「ほら悪魔…早く立て。あの縄は簡単に解けるだろう?」
ザラビスは完全に立ち上がり、単調な声で答える。
「うん」
白凪は思わず半歩後退した。
「え、え? 電撃されなかったの?!」
ザラビスは床のケーブルを見下ろす。
「ああ、これ電気か?」
一瞬のうちに体にその電流のパターンを模写し、白凪に「悪魔が電撃される」と信じさせるために自ら電撃を浴びた。
体はカートゥーンの焦げ人間のように少し黒ずんだ。
それでも何もなかったかのように立ち直る。
白凪:もの言わぬまま呆れている。
口は開きっぱなし。
瞬きもしない。
瞳は絵文字のように丸くなっている。
ザラビスは二秒間その姿を眺め、そして指で白凪を指差した。
そして笑った。
大きく笑った。
お腹を抱えるほどだ。
白凪の顔は真っ赤になった。
怒りじゃない…
恥ずかしさだ。
サタンのような変わり種の悪魔に口を開けたまま見られていることが、超絶的に恥ずかしいのだ。
「お、お前…!!」白凪はすぐに『白蛇の術』を発動した。
風が高圧で飛び出し、空気をむちのように切り裂く。
だがサタンは笑いながら避け続ける。
その動きはのんびりと、薄い鉄板さえ切り裂く風に床が叩きつけられ続けているのに、まるで公園を散歩しているようだ。
白凪は益々苛立ち、恥ずかしさが残るまま顔は真っ赤になる。
「笑うのはやめろ!! この不作法な悪魔め!!」
サタンはやっと笑いを収めた。
笑みは消え、いつもの平板な表情に戻った。
そして予告もなくサタンの体は変形した。
薄暗い黒い光が彼を包み、姿は東京の街中で人間だった姿に戻った。乱れた黒い髪、赤い瞳、優しいのか威圧的なのか分からない薄い笑み、そして名前は蓮零次。
白凪は恥ずかしさのあまり半分目をつぶっていることに気づかず、攻撃はつぶやきながら叩くようなものになっていた。
「俺を弱いと思うな!!」「殺してやる!!」「俺の顔を見るな!!」
サタンは高速な曲線で避け、小さく跳ね、体をかしげる。一度も反撃はしない。その動きは、より面白い何かを待っているように見える。
白凪の風の圧力が床を裂き、コンクリートの柱を崩し、破片を四方に飛ばすが、サタンはいつものように傷一つ負わない。
動きは柔らかくて速く。
軽やかで正確だ。
まるで白凪自身が攻撃を放つ前に、それを知っているかのようだ。
二人の戦いは不条理な光景になっていた。一方は怒りと速さで攻撃し続け、もう一方は退屈そうに踊っているように動くのだ。
だが…ザラビスが反撃しないことが。
それこそが何よりも脅威的なのだ。
もう一方の場所
ソーニャは息を切らし、体は砂埃と汗だらけだ。息遣いは浅いのに瞳は燃え続けている。唇をかみしめ、視線は獲物を見つけたワシのようだ。
長英は数メートル先にしっかりと立っている。
顔は平然としているが、息遣いは少し荒くなってきた。エネルギーは大幅に減っているが、体はまるで生きた城壁のようだ。
「まだ降りないのか?」長英は平然と問いかける。
ソーニャはまぶたについた細い血痕を拭き、少しひびの入った黒いサーベルの柄をしっかりと握り締める。
「サタンを取り戻すまでは、絶対に」低い声だが決意に満ちている。
長英は右足を前に出し、再び戦闘姿勢を取る。
冷たい息が唇の隙間から漏れる。
「そうか…続けよう」
そして二人は消えた。
本当に消えたのではない。動きがあまりに速く、足が床に叩きつけられるたびに小さな爆発音が響くのだ。
長英が先に攻撃を仕掛ける。
右パンチは弾丸のように飛び出し、周囲の空気が震える。
ソーニャは横に跳び、サーベルを小さく回転させる。サーベルは空気を切り、黒い風の波を生み出す。
二人はパンチ、キック、素手の攻撃を交わす。
一撃一撃が空間中に轟音を響かせる。
床は亀裂する。
壁は崩れる。
砂埃が立ち込める。
まるで互いに打ち合う稲妻のようだ。
最初はソーニャが大きく劣っていたが、その速さと機敏さは徐々に長英に迫っていく。長英の攻撃パターンをゆっくりと読み取っているのだ。攻撃する前の長英の隙間、息遣い、足の加重の全てを記憶している。
戦略が徐々に形成される。
長英はそれを察した。
「お前の動き…上がってきたな」
ソーニャは答えない。
再び進撃する。
サーベルを低く振り、長英に「手を下げて防御する」と思わせる罠を仕掛ける。
ソーニャは左に肘を回し、小さく跳び上がり、上から攻撃を仕掛ける。
長英は防御するが少し遅れ、肩に細い傷が残る。
ソーニャは着地する。
長英は肩に手を当てる。
指に少し血がついている。
彼は小さく笑った。
「面白い」
これがソーニャが初めて勝ちを感じた瞬間だ。
だが彼女はこれで終わりじゃないことを知っている。
長英にはまだ力が残っている。
――
地下空間へ戻る
白凪はすでに息を荒らし、顔は恥ずかしさ、怒り、挫折感が混ざり合って真っ赤になっている。
サタンは依然としてのんびりと避け続ける。
風の攻撃は徐々に弱まってきた。
やがて白凪は攻撃をやめた。
息を整える。
サタンもまた止まる。
白凪のすぐ前に。
距離は腕一本分だ。
「もう終わりか?」サタンは平板に問いかける。
白凪は再び拳を握るが、攻撃はしない。
ただ見つめている。
その視線は殺したい敵の視線ではなく、何か理解できないものを見つけた人のようだ。
「…お前は到底何者なんだ?」囁くように言った。
ザラビスは瞬きもせずに見返す。
そして答えた。
「俺は悪魔だ」
白凪は緊張する。
「…で、でも人間になれるんだ…どうして?」
サタンは平板に答える。
「まあ悪魔が俺だから自由だ、そうだろ?」
白凪は依然として理解できず、困惑した表情を浮かべる。
「…本当に分からない…お前は人間にまで…なんて言うんだろう…」
サタン:
「なんて言
白凪は拳をゆっくり下ろし、恥ずかしそうに、少し震えた声で答えた。
「ち、違う……その……君は、俺の“妹”になってくれないか……?」
サタンは肩の力を抜いたまま、落ち着いた声で言った。
「いいよ。ただ……一つだけ聞いてもいいかい、白凪じゃ?」
白凪はうなずき、短く答えた。
「いい。聞いてくれ」
サタンは視線を向け、静かに尋ね始めた。
「どうやってスクォータースネークの組織に入ったの?
それと……君の過去に何があったんだ?」
白凪は一瞬黙り込み……そしてゆっくり口を開こうとした――。
――その頃、建物の上階。
ソニャと長影はまだ互いの戦闘スタイルをぶつけ合い、激しく戦っていた。
ソニャの表情からは疲れが完全に消え、再び長影へと踏み込む。
そして――
まったく別の世界、別の現実、別の次元。
巨大すぎる存在が宇宙の外側に立ち、まるで他の存在との対話を終えたかのように、ゆっくりと瞳を開いた。
白い長髪。
頭上には色とりどりに輝く“宇宙的な三角”。
豪奢で純白の衣をまとい、
瞳には“数学的なアレフの数字”が無限に浮かぶ。
その名は――
オメガ・アルファ。
TO BE CONTINUED…




