33.長栄レポート
スクエア・スネークの帰還と、二人の夜
崩れかけた高層ビルの狭間を、跳ねるように走る蝶影蛇。体はボロボロに傷だらけ、ソーニャの斬撃で息遣いも荒い。だがその傷は瞬く間に癒えていき、瞳は獲物の香りを嗅ぎつけた猟犬のように、乱れたまま鋭い光を放っていた。
砂漠の果てに建つ古びた建物——巨大な爬虫類の骨と、黒い蛇の紋章が描かれた汚れた旗に囲まれた、そこが「スクエア・スネーク」のアジトだ。
アジトの闇の中で
青い蝋燭の炎だけが闇を照らす一室で、黒牙蛇は正座していた。爬虫類特有の黄色い瞳が、薄暗い光を反射させている。
蝶影蛇が扉を蹴り開けると、全員の視線が一気に集中する。
目を閉じた巨漢・猛撃蛇が半身を起こし、鉄肌蛇は低い鳴き声を上げ、体中の鱗の入れ墨が光を弾ませる。唯一の女性・白凪蛇は、短い白い髪に隠れた顔で、指輪をまわし続けながら座り続けていた。
黒牙蛇は小さく咝るように囁いた。
「……帰ってきたな。死んだと思っていた」
蝶影蛇はすぐに低い笑いをこぼし、声は刺々しい。
「あいつを刺すところまではいったが、手遅れだった……だが、何か手に入れた」
全員が息を呑む。
蝶影蛇の報告
蝶影蛇は顔を正すと、口を開いた。
「標的は……ソーニャという少女。角の生えた怪物——一種の悪魔と一緒だ。だが不思議なことに、その悪魔は彼女に素直だ。さらには武器に変わる……二枚刃のサーベルに。生きているサーベルだ」
猛撃蛇が指を鳴らす。
「素晴らしい! その少女……俺が力を吸収すれば——」
鉄肌蛇が言葉を遮る。
「フン。生きているサーベルか? 明らかにその悪魔自身だろ」
蝶影蛇は素早く頷く。
「少女が『サタンを傷つけたのか!?』と叫んでいた。だから……その悪魔の種族名はサタンだ」
黒牙蛇が頭を上げ、鋭い視線を送る。
「……サタン。人間に従う角の悪魔? 不気味だ」
部屋の片隅、白凪蛇がやっと指輪を止め、髪の下から鈍い赤い瞳を覗かせた。
「……だとしたら……その悪魔を捕まえてはどうだ?」
彼女は冷たい微笑みを浮かべる。
「サーベルに変わっている時に捕まえるのだ。考えることのできる悪魔よりも、武器の方が壊しやすいだろう」
猛撃蛇と蝶影蛇は即座に頷き、興奮ぎみになる。
だが黒牙蛇が手を上げ、彼らを止めた。
「方法は?」
亀裂だらけの窓から冷たい風が吹き込む。白凪蛇は少し頭を垂れ、微笑みを深めるだけだ。
「……任せなさい」
廃屋の夜
汚れた街の反対側、ソーニャとサタン——別名ザラビスは、かつて彼女が住んでいた古い家に向かって歩いていた。屋根には穴が開いていて床もガタガタだが、少なくとも眠るには充分な隠れ家だった。
ソーニャは砂埃のついた床にぺしゃんこと座り、長い戦いの疲れで体が震え続けていた。
サタンはサーベルから二つの角を持つ悪魔の姿に戻り、壁にもたれかかって座った。
ソーニャは彼をにらむ。
「さっき……なんで黙ってたの? 傷ついたのか、死んだのか……心配したのに」
サタンは笑い、まるで全てを知っていながら故弄するような表情だ。
「君の成長を見たかったんだ。鍛錬の成果をな。めちゃくちゃ良かったよ、知ってる?」
ソーニャはブツブツと文句を言い、体を向けて彼から遠ざかる。
「フン……だけど、今度から黙ったままにしないで。さみしいんだから」
サタンは小さく笑う。
「え? 俺がいるじゃん? 君のお気に入りの変わり者悪魔が」
ソーニャは相変わらず背を向けている。頬にはほんのりと赤みが浮かんでいた。
そして彼女は突然、何かを思い出したように言った。
「さっき……攻撃してきた人、誰だったの? 名前を聞くの忘れちゃった……」
サタンは眉を上げ、悪戯っぽい笑いをする。
「ええっと。そんなに簡単には教えないよ。代償が必要だからな。ははは!」
ソーニャはすぐにサタンの腹を叩く。
ドンッ!
鉄を叩くような音が響く。
ソーニャ:「痛っ! はははっ——」
サタンは二秒間動かない。それから演技で眉をひそめ、腹を押さえる。
「ああ……痛い痛い、この子は本気だな……」
ソーニャは笑い続け、サタンが真面目な顔になるとやっと止んだ。
「彼らは……犯罪組織だ。『スクエア・スネーク』と呼ばれている。五人組だ」
彼は空に五人の姿を描き、指で一つ一つ指差す。
リーダーの黒牙蛇——「黒い牙の蛇」。
蝶影蛇——「跳ぶ影の蛇」。
鉄肌蛇——「鋼の鱗の蛇」。
猛撃蛇——「盲目の打ち蛇」。
白凪蛇——「白い風の断ち蛇」。唯一の女性だ。
サタンは不気味な笑みを浮かべる。
「油断しちゃいけない。君も見た通りだろ? 特にさっきの蝶影蛇は強い」
ソーニャはそれを聞いて小さく笑う。心に温かさが広がる——安心感と、友達がいるという実感。たとえそれが角の悪魔であっても。
「だけど……白凪さんは女の子だよね? そんな組織に入るのはどうしてなの……?」
サタンは一気に話題を変えた。
「明日は妹を探す旅を続ける。いいな? 眠れ」
ソーニャは言いかけて口をつぶる。
「え? あれ? まだ話したいのに——」
サタン:「眠れ」
最終的にソーニャは降参し、汚れた布を毛布代わりに引き寄せて目を閉じた。
数分後、ソーニャは深い眠りに落ちた。
ザラビスの思考
サタン——ザラビスはまだ座り続け、暗い天井を見つめていた。赤い瞳は炭火のように鈍く光っていた。
彼は眠らない。眠れないのだ。
ソーニャの寝顔を見つめ、心の中で囁く。
『この世界……新しい概念だ。友情、勇気、恐怖……これらの感情。俺はこれら全てを、飽きるまで、そして倦怠感が消えるまで理解しなければならない』
小さな微笑みの裏には、はるかに大きな目的が潜んでいた。
数十億の体験を済ませ、全ての可能性を見届け、今まで知らなかった全ての感覚を味わうこと——。
だが今はまだその時期ではない。長い旅は始まったばかりだ。
そしてその夜、ザラビスはすでに「この世界を去る時」を決めていた。あと三年——その時が来れば、彼はこの世界から消えるのだ。
(注:ナロウ小説調にするため、人名や組織名には日本語読みをつけ、文調を柔らかく且つ緊張感のある表現に調整しました。場面転換や心理描写も小説らしく強調しています)




