31.ソーニャの街へ行こう
異界の剣と目覚める力
第章:故郷への帰還と剣の覚醒
青い光の門が、文明から遥か遠く離れた異界の森の空を裂いていた。その振動は、まるで金属をゆっくりと擦るような、甲高く長い残響を伴う。
ソリッドな地面に叩きつけられるように、ソーニャはポータルから飛び出し、その場にへたり込んだ。先ほどの訓練と、人造の精霊による猛攻を耐え抜いたばかりの彼女の呼吸は、まだ乱れたままだった。
湿った土の匂い。肌を刺す冷たい風。木の葉が擦れ合う音以外、周囲には何の音もなかった。
ザラビスもまた姿を現し、指一本の動作でその光の門を閉ざす。それはまるで、地獄への扉を施錠するような、カチリとした音だった。
「よし。コトラットの街からは遠く離れた。我々の痕跡を見つけるには、かなりの時間がかかるだろう」
ソーニャは慌てて立ち上がり、スカートの土を払い落とす。
「それで……これから、どうするの?」
ザラビスは振り向いた。その視線は、いつもの気の抜けたものでも、からかうようなものでもなく、真に厳しく、集中したものだった。ソーニャは思わず唾を飲み込む。
彼は一歩、距離を詰めた。
「ソーニャ……よく聞け」
ソーニャは小さく頷く。
「さっきの一件の後……お前の力は目覚め始めている。だが、お前の身体は、まだ大きな脅威を受け入れる準備ができていない」
彼は一拍、言葉を切った。
「お前の故郷の街へ向かう。そこがお前の縄張りだ。土地勘もある。警戒レベルも、理に適っている」
不意に、ザラビスはソーニャに向かって手を差し伸べた。
「え?何のために?」
――ヴシュッ!
一瞬の瞬き。ザラビスの身体は黒と赤の光に変わり、周囲に黒い炎のようなオーラを纏った長剣の姿となった。剣はソーニャの目の前に浮遊している。美しく、同時に恐ろしい威厳を放っていた。
ザラビス(剣からの声):
「俺が前みたいにお前の剣になるんだ。まさか、もう忘れたのか?」
ソーニャは驚きのあまり、再び倒れそうになった。
「き、君が剣に化けたの!?あ、覚えてないよ、あはは……ごめん!」
ザラビス:
「落ち着け。この姿の方が、注目を集めずに、お前を守りやすい」
彼の声のトーンには、わずかに冗談めいた響きがあった。
「それに……まあ、こっちの方がクールだろう?」
ソーニャは両手で恐る恐るその剣の柄を握った。剣はまるで生きているかのように、温かく、心臓のように脈打っているのを感じる。
ザラビス:
「気を抜くな。我々は追われているかもしれないが、今度こそポータルはない。お前が道を導くんだ」
ソーニャは深く息を吸い込み……故郷の小さな街へと続く鬱蒼とした森の奥を見つめた。
「わかった、サタン……帰ろう」
ザラビスは小さく笑った。
「ああ、お前の世界を見せてくれ」
そして二人は、見知らぬ森の中を速足で歩き始めた。強い風が吹き抜け、何かを警告しているかのようだった。
第二章:黒牙の追跡者
一方、そこから遥か遠くの場所……
無数のホログラフィック・スクリーンと次元地図に満たされた暗い空間で、**『黒牙の蛇』**のメンバーたちがクリスタルのテーブルを囲んでいた。
クロキバは、ソーニャとサタンの最後のエネルギー痕跡を睨む。その暗黒のオーラは、獲物を待ち構える蛇のように、うねっていた。
クロキバ:
「……奴らは遥か遠くに移動したな。数千キロメートル。低層次元の……辺境の森か」
シラナギは唇を噛み、顔に戸惑いの色を浮かべている。
シラナギ:
「リーダー……本当に彼女を追わなければならないのですか?あの娘は……私には、脅威には見えません」
クロキバはゆっくりと首を向けた。その視線だけで、シラナギは全身が硬直する。
クロキバ:
「あの娘は……己の潜在能力に気付いていないからこそ、最も危険なのだ」
彼は再び地図を見つめた。
クロキバ:
「行くぞ。追跡は、始まったばかりだ」
シラナギは俯き、心の中でまだ反抗していた。
「……悪魔よ……あなたは本当に敵なのか?」
第三章:インフェルナル・スクラッチ
夕方の風が乾いた埃を巻き上げる中、ソーニャとサタンはついに目的地へと到着した。目の前には古い木製の看板。
『Kの街へようこそ』
その続きは?
引き裂かれ、黒く焦げていた。
まるで人間よりも遥かに獰猛な何かに食い破られたかのように。
ソーニャは唾を飲み込む。
「ここが……私の街?」
剣の姿のザラビスは、彼女の横に浮遊しながら、どこか呑気な、しかし警戒心に満ちた口調で答えた。
ザラビス:
「ああ。だが、お前が離れた時とは、同じじゃないと言えるな」
街の中へと足を踏み入れる。小さな村の通りは荒れ果て、家々は色褪せている。ドアは無理やりこじ開けられ、窓ガラスは戦闘の跡のようにひび割れていた。
ソーニャは周囲を見つめた。その顔には、恐怖と怒りの二つの感情が浮かんでいた。
突然、速い足音、金属の擦れる音、そして荒々しい息遣いが聞こえた。
古い建物の陰から、十四人の薄汚れた男たちが飛び出してきた。髪は乱れ、目は充血している。彼らの手には、バット、ナイフ、鎖が握られていた。
そして……
彼らの叫び声は下劣だった。
チンピラ1:
「おい!また女だ!しかも美人じゃねえか!」
チンピラ2:
「へへへ……最高だ!大当たりだぜ!」
チンピラ3:
「こっちへ来いよ、お嬢ちゃん……少しだけでいいんだぜ~」
ソーニャは反射的に一歩後ずさる。心臓が胸を激しく打つ。手が震えた。
ザラビスはすぐに、断固とした口調で話しかけた。
ザラビス:
「ソーニャ。怯えるな。昨日のことを思い出せ。お前は二十人の犯罪者とそのボスを打ち破ったんだ」
ソーニャは唇を噛む。
しかしザラビスは彼女の心拍を聞いていた。
ザラビス(内心):
(この子はまだ若い……怖がるのは当然だ。昨日はあんなに意気込んでいたのに。よし……景気づけの時間だ!)
突如、ザラビスは出力をわずか**0.000001.1%**だけ上げた。
ザラビス:
「行け!奴らに、お前がどれだけ変態野郎を憎んでいるか、見せてやれ!」
ソーニャはハッとした。彼女の顔に浮かんだ煉獄のような赤色の目が、わずかに輝く。
ソーニャ:
「……そうよ。彼らは……昨日の犯罪者たちと同じ……」
だが、ソーニャはまだ躊躇している……。
ザラビスは心の中で笑った。
(よし!行け!)
ザラビス:
「行け、ソーニャ!!俺がいる!」
そして、なぜか、その効果は絶大だった。
ソーニャの目が見開かれ、呼吸が変わる。穏やかな暗黒のオーラが、彼女の身体を包み込んだ。
ソーニャ:
「わかった……
行くわ」
突如、彼女は前へと飛び出した。
ソーニャは叫ぶ。
「死ねっ!死ねっ!死ねよ、この変態どもがっ!!!」
ザラビスは思わず噴き出した。
ザラビス:
「ハハハ!!そうこなくっちゃ――」
ソーニャ:
「黙れ」
ザラビスはすぐに固まった。
ザラビス:
「は、え?お、おう……わかった……」
彼は、面白い教師に叱られた子供のように、ぴたりと静まり返った。
――戦闘開始
最初のチンピラが鎖を振り回す。
だが、ソーニャは電光石火の如く低い姿勢で屈み込んだ。
ザラビスが指示を出す。
ザラビス:
「左!下!突き刺せ!」
ソーニャは正確に従った。
ガキン!ズシャッ!!
ソーニャは剣の柄でチンピラの顎を打ち砕き、次に影のような速さで喉を切り裂いた。
血が宙に舞う。
チンピラ4:
「ば、馬鹿な!!速すぎる!!」
ソーニャは家の壁に飛びつき、身体を押し上げ、まるで流星のように上から舞い降りた。
ザンッ!!
二人目のチンピラの首が地面に転がる。
ソーニャ:
「一匹」
二人のチンピラが発砲した。
銃弾が唸りを上げて飛んでくる。
ザラビス:
「待つな!ロールだ!」
ソーニャ:
「ロール?それ何!?」
ソーニャは素早く地面を転がる。彼女がいた場所を、銃弾が爆発させた。
立ち上がる。
跳躍する。
そのうちの一人の心臓を突き刺す。
ソーニャ:
「二匹」
残りが一斉に襲いかかってきた。
獣のように叫びながら。
チンピラたち:
「捕まえろおぉぉ!」
ザラビスが叫ぶ。
ザラビス:
「弱気になるな!お前は昨日のソーニャじゃない!」
ソーニャは唸った。
ソーニャ:
「わかってる!」
彼女は剣を振り回し、回転した。
その動きは小さな嵐のようだった。
ズィッ!ズィッ!ズィッ!
四人のチンピラが即座に倒れ伏す。
残りは逃げ出した。
ソーニャ:
「一人も逃がさない」
彼女は走り出した。
常人よりも遥かに速く。
一人、また一人と、彼らの首、胸、心臓が剣に貫かれていく。
まもなく……
全てが静止した。
沈黙。
まるで世界が止まったかのように。
ソーニャは死体の山の中に立ち、呼吸が速い。頬には血が伝っていた。
ザラビスが静かに言った。
ザラビス:
「ふむ。お前は着実に強くなっているな」
しかし、ソーニャが答える間もなく
地面が揺れた。
ドム……
ドム……
ドム……
重い音。巨人の足音。
ザラビスの口調が変わる。
ザラビス:
「そ、ソーニャ……警戒しろ。八メートル級の怪物が、こちらに向かって走ってきている」
ソーニャは凍り付いた。
顔が青ざめる。
ソーニャ:
「な、何よ!?八メートル級の怪物って!?」
ザラビスは素早く思考を巡らせる。
ザラビス(内心):
(どうやら、これは人為的な実験体らしいな……あのイカれた少年が、人間と獣、あるいは特定のエネルギー概念を合成させたのだろう……ちっ。我慢だ。笑いが止まらなくなりそうだ)
ザラビス:
「とにかく……デカい生物だ。そして、猛烈な速さで来ているぞ」
――八メートル級の怪物、出現
道の端にあった遠くの建物が、何かにぶつかった衝撃で突然崩壊した。
ガァァァァァァァルルルルルルゥッ!!!
怪物が姿を現した。
灰色の皮膚、長い腕、上下に裂けた顎、赤く燃える目。
八メートル。
速い。
飢えている。
ソーニャは後ずさった。
ソーニャ:
「サ、サタン……あれは……あれは、あまりにも大きすぎる!!!」
ザラビス:
「ソーニャ!集中しろ!俺がお前と一緒だ!」
ソーニャは剣をさらに強く握りしめた。
サタンの剣から、黒と赤のオーラが激しく燃え上がる。
ザラビス:
「前へ!跳べ!お前の最初の技を使え!」
ソーニャ:
「技!?忘れたわ!あ、思い出した!」
ザラビス:
「今だ!!!」
怪物が巨大な腕を振り下ろす。
ドォン!!
地面が砕け散る。土煙が小さな嵐を巻き起こした。
ソーニャは普段より高く飛び上がった。ザラビスのオーラに引っ張られるように。
ザラビスが叫んだ。
ザラビス:
「技――『ヘル・アイズ』、起動!!」
ソーニャの目が深紅に輝き、瞳孔が地獄のシンボルのように変化した。
彼女の世界が減速する。
怪物の全ての動きがスローモーションになった。
しかし、ソーニャの身体は速いままだった。
ザラビス:
「奴の右肩を切り裂け!」
ソーニャは急降下する。
シュラァァアアッシュ!!!
怪物の肩が半分に引き裂かれた。
黒い血が噴き出す。
その生物は激しく咆哮した。
ガァァアアアアアァァッ!!!!!
ソーニャは着地し、約五メートル後方に吹き飛ばされた。力の差に、彼女の膝が震えている。
ソーニャ:
「はぁ……はぁ……でも、まだ生きている!!!」
ザラビス:
「当たり前だ!あんなデカいのが一撃で死ぬわけないだろ!?もう一度攻撃しろ!」
怪物は巨大な岩を持ち上げ、それを投げつけてきた。
ザラビス:
ザラビス:
「左に跳べ!ロール!それから前進!」
ソーニャは指示に従う。
全速力。
そして、彼女が走り込んでいる最中に
ザラビスは最後の命令を下した。
ザラビス:
「ソーニャ!新しい技だ!
今すぐ名前をつけろ!!」
ソーニャは反射的に叫んだ。
ソーニャ:
「新しい技!『インフェルナル・スクラッチ』!!」
赤色のオーラが彼女の全身から噴き出した。
彼女は跳び上がり、その身体は赤い流星のように空気を切り裂く。
怪物は防御しようとしたが、遅すぎた。
ソーニャァァアアアア!!
ドゥアァアアアアアァァルルル!!!!
彼女は怪物の頭上から腹部へと、真っすぐに切り裂いた。
胴体が縦に両断される。
怪物は倒れ、二つに割れた身体が地面に落ち、大地が揺れた。
ソーニャは着地し、膝は震えているが、しっかりと立っていた。
土埃が降りてくる。
静寂。
ただ一つの声だけが響いた。
ザラビス:
「……ソーニャ……それは……本当に凄まじかったぞ」
ソーニャは息を切らしながらも、誇らしげに微笑んだ。
ソーニャ:
「これが……私の街のために……」
ザラビスは静かに笑った。
ザラビス:
「ああ。そして、お前が嫌いな全ての変態どもにも、だな」
ソーニャは剣を見つめ、二人は小さく笑い合った。
しかし、遠くの
今にも崩れそうな古い建物の屋上に
二つの人影が静かに立っていた。
シラナギ。
そして、クロキバ。
クロキバ:
「……あの犯罪宗派のリーダーによる実験体を、両断したか。面白い」
シラナギ:
「ソーニャ……あの娘は……苦しんでいるように見えます」
クロキバは薄く微笑んだ。
クロキバ:
「追跡は、始まったばかりだ」
クロキバは、以前にも同じセリフを言ったような気がした。
読者の皆さまへ
いつも『虚無王ザラビスは退屈している』をお読みいただき、
心より感謝申し上げます。
第31話につきまして、文章の間隔が読みづらく、
ご不便をおかけしてしまい誠に申し訳ございませんでした。
皆さまに快適に読んでいただくために、
次回以降はレイアウトと文章の見やすさを
より丁寧に整えてまいります。
同じことを繰り返さぬよう、今後は一層気をつけて執筆いたします。
それでも変わらず読み続けてくださる皆さまの存在が、
私にとって何よりの力となっています。
本当にありがとうございます。
物語はこれからさらに深く、激しく、
そして驚きに満ちた展開へ進んでいきます。
どうか、これからも『虚無王ザラビスは退屈している』を
よろしくお願いいたします。
皆さまの応援が、作品を前へ進める原動力です。
これからも楽しんでいただけるよう、全力で書き続けます。
— 釘宮連




