表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

砂糖製天使

作者: 源雪風

この小説は、共食いします。

俺たちは天使だ。

でも、びっくりするこたぁねぇ。

ケーキの上に乗ってる砂糖菓子だからな。

チョコレート製の誕生日プレートには、

「やまだやまとくん おたんじょうびおめでとう。」

って書かれてやがるぜ。

ちぇっ、俺たちにとっては命日だぜ。


俺は誕生日プレートの左側にいる。

そして、もう一人のやまとくんへの生け贄は、誕生日プレートの右側にいらっしゃる。

「オイ、碧よぉ、今日出荷だとよ。気持ちいいケーキの上ともおさらばだな。」

「それなら、やりたい放題しよっかな。」

碧は、ホイップクリームをぱくりと食った。

そして、喰って欠けた所の形を整えて、元通りにした。

「へっ、わざわざ形を直さなくたっていいじゃねえかよ。」

「だめだよ、ケーキを買った人が悲しむから。」


りんろんりんろん♪

来客を知らせるベルの音が聞こえた。

「お迎えが来なすったぜ。」

俺たちの乗ったケーキは、白くて四角い箱に入れられた。

箱が閉じたせいか、視界が真っ暗に塗りつぶされる。

暗くなっただけじゃねえ。

体の芯から凍りつくような寒さがまとわりついてくる。

寒い、悲しい、息苦しい。

しかも、ぐらぐら揺れて気持ち悪い。

「オイ碧、大丈夫か。」

俺はひどく心細くなって、もう一人の哀れないけにえの名を呼ぶ。

「腕が・・・やられた。」

碧は忌々しげに嘆いた。

幸い砂糖菓子の体なので、痛みは無いが、精神的につらい。

「でもたぶん大丈夫。クリームでくっつけた。」


お迎えがきてから何時間経っただろうか。

「ああだめだ、また腕が取れた。」

碧は力なくつぶやいた。

寒さで意識がもうろうとしてきた。

白い煙でせき込む。

もうだめだと思ったその時、外から差し込んできた光が俺たちを照らす。

ホイップクリームが雪のようだ。

嘘みたいにきれいだ。

悪い冗談だ。

苺は赤くてブツブツの怪物に見える。

ブツブツは全部目で、死にゆく俺たちをじっと見ていやがる。


お誕生日プレートの陰で寒さをしのぐ。

ここなら煙があまり回ってこない。

碧もやってきて、猫みたいに丸まっている。

「ねぇ、青。」

「なんだよ。」

「どうせ食べられるなら、知らないやまとって人よりも、君の方がずっといいや。」

「なっ、バカ言うなよ。」

「人に食われると、体がバラバラになっちゃうんだって。そしたらさ、もう二度と会えないんだよ。」

「仕方ねぇじゃんか。俺たちは砂糖菓子なんだからよ。」

「食べられるのが砂糖菓子の運命なら、君がボクを食べてよ。そうすればボクは何の未練もなくこの世とおさらばできる。」

「そんなこと、できねぇよ。いきなりどうしたんだよ。」

「君がボクを食べれば、ボクは君と一緒になれる。絶対に離れ離れにならないんだ。」

友達を喰うなんて嫌だ。

しかし、永久にお別れはもっと嫌だ。

とは思うが、どうしても抵抗がある。

そんな俺を見かねて、碧は取れた腕を俺に渡す。

さっきまでくっついていて、動いていた腕をどうしても食べる気になれなかった。

「やっぱり、できねぇよ。なぁ、お前はどうかしてるぜ。寒さでおかしくなったんじゃねぇか。」

「だってもうじきボクらは死ぬんだよ。どうして君はそんなに冷静でいられるの。」

碧は切羽詰まった声で、訴えかけた。

「慌てたってしょうがねえよ。おれたちは菓子。誰にも喰われなけりゃ焼却処分だ。それよりかは人に食われて死ぬ方が、菓子としての役目や誇りをまっとうできるじゃねぇか。なっ?」

「いやだ・・・。」

血迷ったのか碧は、取れた自分の腕を貪り食らう。

「オイ、やめろよ!」

俺はみていられなくなって、叫ぶ。

「君が食べてくれないなら、自分で自分を食べるしかない。」

「待て、よくわかんねぇぞ。とにかく落ちつけよ!」

「もう、どうだっていいよ。菓子の役目なんて。人間の元に届くころには、ボロボロになって、がっかりさせてやる!」

「やめろよ。そんなことしたって誰も喜ばねぇぞ。」

俺は碧を羽交い絞めにして、必死で止める。

「君はボクを食べない、自分で自分を食べてもダメ、それならこうしてやる!」

碧は俺に食らいついて、噛みちぎって、美味しそうに咀嚼し始める。

俺も怒りでついに頭がおかしくなって、碧を喰った。


友達だと思っていたヤツが、死の恐怖のせいで狂ってしまった。

現実から目を背けたかった。

俺は被害者なんだと言い訳をして、背徳的なことをする自分を守りたかった。

全てを人のせいだ、運命だ、菓子だからと言って諦めていた。

俺は弱い。

無力だ。

友達を救うこともできない。

現実に立ち向かえない。

こんな俺は喰われて当然だ。

俺なんて、消えてなくなってしまえ。


一方、やまだやまとくんと、お父さん。

「うわぁ!うまそうなケーキ。・・・・あれ、父さん、どうしたの。」

お父さんは目を疑った。

(おかしいな、買った時にはケーキの上には天使の人形が二つ乗っていたはず。・・・店員さんが載せ忘れたのか。それにしても、ケーキの上にカラフルな砂糖なんて、かかっていなかったはずだが・・・。まぁいいか。)

「いいや、なんでもない。さて、食べようか。」

「うん!」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ