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8日目 ガリ勉とギャルと馴染み方〜伊織の場合〜




 朝、天気は晴れ。

 久々の晴天とは真逆の表情をした伊織は学校へと思い足を向けていた。


(今日は、成沢が来る)


 それ自体は喜ばしい事、なのだが。


(成沢は一昨日のことを夢だと思っているだろうし、何でもない顔で会うか? もし誤魔化せてなかったら? そもそも何でもない顔ってどんな顔だった?)


 成沢の見てはいけない所を見てしまったような気持ちと、小っ恥ずかしい事をしてしまった羞恥心と。それが重くのしかかった伊織はまさに死にそうな気分であった。


(成沢は俺の事をクールって言ってたか? クールって何だ? ああもう、俺は今どんな顔をしてるんだ?)


 悶々とする伊織の後ろ姿。それを見つけたらしい誰かの小走り気味な足音が、伊織に近づく。


「初々根くん!」

「うわっ!?」

「ご、ごめん! 考え事してた?」

「……成沢!」


 伊織の頭いっぱいに広がっていた、成沢との一昨日のあれこれ。それが消えないうちに本人から声をかけられて、伊織は大きく飛び上がった。


「心配かけてごめんね。今日もお弁当あるから、いつもの所で一緒に食べよ?」

「あ、ああ……」

「? どしたの初ヶ根くん。なんか変だよ?」

「そ、んな事は無いぞ」

「ふーん……?」


 何となくぎこちない、2人の距離感。それに不思議な顔をした成沢を横目に、伊織は必死で足を動かした。









「ガリガネー!」

「藤代」


 所変わって、教室。

 伊織がドアを開けると同時に、嬉しそうな様子の藤代がこちらに手を振っているのが目に入る。


「昨日の追試、バッチリだったよ! 神様ガリガネ様〜」

「ふ、大袈裟だな」


 藤代の言葉に、伊織も笑顔で返す。そうしていると、横からずずいと入ってきた人影に押しのけられた。


「俺、俺も超バッチシだったし?」

「いや何でお前も受けてるんだよ」


 人影……もとい小澤の何故かドヤっている様子に、伊織が冷静に切り返す。


「こいつ赤点じゃ無いのに私と一緒に追試受けてんの。センセー超困ってた」

「小澤……」

「だ、だって! ……な? 分かるだろ? ガリガネ〜」

「全く分からん」

「そんなぁ〜!?」


 何でもない、2人とのやり取り。それにいつもの調子が取り戻せた気がしてほっと胸を撫で下ろしていると、不意に教室の外から視線を感じた。


「?」

「どしたの? ガリガネ」

「いや、何でもない」


(気のせいか?)










「初ヶ根くん、ご飯食べよ?」

「な、成沢」


 4時間目のチャイムが鳴ってほどなく。いつも通り昼食に誘いにきた成沢に、伊織は若干動揺する。と、後ろからとん、と背を押された。


「さ、ガリガネ! 行って来なよ。ね、ね。」

「藤代! 押すなって」


 背中をまあまあの力で押し続ける藤代に伊織が抗議の声を上げると、藤代はニマニマと笑う。


「いいからいいから〜ふふ、お熱い事で」

「初ヶ根くん……?」

「い、今行く」

「……」


 ファイト! と何へか分からない藤代からの声を聞きつつ、伊織はいつもの非常階段へと向かうのだった。









「ねえ、初ヶ根くん」

「……どうした、成沢」

「……ううん、何でもない!」

「……」

「……」


 昼食を取るためいつもの様に腰掛けて、会話する。が。


(成沢の様子が、おかしい)


 いつもと違い何か考え込む様な、落ち込んでいる様な。そんな成沢の様子に、伊織は朝の悩みがどこかへ吹っ飛んでしまっていた。


(朝まではこんな事無かったよな? ……俺が原因、なんて心当たりも無い)


 強いて言えば自分が挙動不審だっただろうか。そう思いつつ、伊織は弁当の感想を口にする。


「弁当、今日もありがとうな。俺、グラタン好きなんだ。凄く美味い」

「……! うん!」


 それに目をきらめかせた成沢に、伊織は表情を緩めた。が。


「……ウチ、最低だ」


 その後そっと成沢が漏らした呟きを、聞き逃してしまったのだった。









「だからさ、本当これっていい案じゃね!?」

「どこがよ、どこが!」

「お前はどう思うよ? ガリガネ!」

「は?」


 昼食を終えて、教室へと戻る。すると、もう聞き慣れてしまった騒がしい言い合いに、伊織は早々に巻き込まれてしまった。


「お前と成沢さんと俺、そんでふ、ふ、藤代、さんでのWデート。いいだろ?名案だろ?な、な?」

「はああ!?」

「何で私の相手があんたなのよ、キョロQ!!」


 Wデート? 何がどうしてそうなった。

 伊織が全く読めない状況に疑問符を浮かべまくっていると、先程まで小澤を睨みつけていた藤代が振り返る。


「姫瑠、何だか元気が無かったでしょ。聞くついでに、2人の仲もサポートするには……って考えてたら急にこいつが、ね」

「ぐぎゅう……」


 こいつ、と言われつつヘッドロックをくらった小澤が変な声を出した。が。そんな事は問題では無い。


「確かに様子はおかしかったが……と言うか何で藤代が仲を取り持つんだよ」

「姫瑠の初恋、実らせたいじゃん! ね、ね、ガリガネ。何か案出してよ」

「は、初恋?」

「え、何。知らなかったの?」




 初恋。俺が。

 もしそれが本当なら、伊織のイメージに反して成沢は恋愛超初心者と言う事になる。


「……」


 それが、少し嬉しいだなんて。そして。

 それを自分より先に、周りが知っているなんて。


 何故かモヤつく気持ちに、伊織は驚く。


(何だって言うんだ、一体……)


 その意味を伊織が知るのは、もう少し先。




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