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10日目 ガリ勉とギャルと逢瀬〜伊織の場合〜





 土曜日、急ごしらえのWデート当日。

 無難な格好で集合場所の駅前へ着いた伊織は、視線の先で手を大きく振る人影に声を掛ける。


「小澤、気合い入ってるな」

「まあね?」


 恐らく雑誌やらネットやらで履修しただろう抜け感、というやつを重視したらしい格好で、髪型もいつもより決めている……気がする小澤と雑談をしつつ、女子達を待つ。と、程なくして2つの人影が目に入った。


「ガリガネー! ついでにキョロQー!」

「ごめん、待った?」


 いつもと違う、私服の2人。

 藤代はシアー素材の上着にふんわりとしたワンピース、そして、成沢は。


 髪をゆるい三つ編みにした髪型に、オフショルダー。それに重ねる形でミニのサロペットを身につけている。そこから伸びるすらりと長い脚が眩しい。


「……俺達も今来たんだ。その、それ」

「ウチ……変かな?」

「……いいんじゃないか」

「!」


 伊織の言葉を聞いてか、後ろでハイタッチしようとする小澤と、それをスルーして成沢とハイタッチをする藤代。それを横目に、伊織は前日よりは元気そうな成沢の様子に人知れず胸を撫で下ろした。









「本当は遊園地とかが良いんだけどねー」

「まあまあ田舎だし行ける所ってなるとここになるよね」

 

 電車に何十分か揺られて、シャトルバスに乗って。辿り着いた大型ショッピングモールで、雑談しながら笑い合う。


「お、おおお俺は藤代、さんと一緒ならどこでも楽しいし?」

「どこ向いて言ってるんだ。藤代聞いてないぞ」


 来て早々新しくできたジェラートの店に食いついてどの味を食べるかきゃあきゃあと話し出した女子達に、男子勢も着いていく。


「ピスタチオショコラとラズベリーに……アーモンドミルクもいいなあ」

「ダブルまでだから選べて2種類だねー……悩むぅ」


 3つの味で悩み始めた成沢に、藤代がそっと耳打ちした。


「いっこはガリガネとシェアさせて貰ったら? ほら、あーんって」

「!! さ、紗雪!」

「聞こえてるぞ」


 まあ、それでもいいが。そう伊織が続けると、成沢が分かりやすく真っ赤になった。


「あーんしてやるよ、成沢。最初のハンバーグのお返しだ」

「う、ううう〜……」


 看病の時のあの『あーん』に比べれば、今回の同級生ノリのそれなど恐るるに足らずだ。


「俺も藤代……さんとシェアなら大歓迎だけど!?」

「私ライムヨーグルトとレモンソルベー」

「あっ!?」




「ほら、あーん」

「あ、あー……」


 真っ赤な顔のまま開けられた成沢の口に、アーモンドミルクのジェラートを差し入れる。


「美味いだろ?」

「あ、あじ、わかんにゃい……」

「じゃあもう一回行っとくか?」

「ひゃうう……」

「ひゅー、お熱い」


 そのまま茹でだこレベルに達して今にも湯気が出そうな成沢を見ながら、伊織は雛みたいだな、なんて余裕綽々で居たのだが。


「ううううウチも! ウチもやるもん! 初ヶ根くん、あーん!」

「お、おい!?」


 思わぬ成沢のカウンターに、不覚にも赤面してしまったのだった。









 それから服屋を中心にウインドウショッピングをしたり、大きな雑貨店を物色したり。そうこうしている内に、あっという間に夕食の時間になった。


「……そろそろかな」

「紗雪?」


 そう呟いた藤代が、がし、と小澤の襟を掴む。


「晩御飯付き合ってあげるから、こっからはペア別で行くよ。ほら、キョロQ!」

「えっ、えっ?ガチデート!?」

「ちっがーう!」


 ずるずると小澤を引きずりながら、藤代は成沢にウインクを投げた。


「うまく、やりなよ」

「紗雪……」

「じゃあガリガネ、姫瑠をよろしく!」

「は!?」









「……」

「……」


(藤代は成沢にうまくやれ、と言ってたが……成沢から何か話があるって事でいいのか?)


 成沢の少し不安げな様子から、仲を深めてこい、と言う意味ではなさそうだったそれの真意を伊織は推察する。その上で、夕食の席で成沢の出方を待っていたのだが。


(成沢、喋らないな)


 成沢は何か言いたそうにはしているものの、どこか尻込みしているようだった。


「何か、俺に言いたい事があるんだろう? 成沢」

「!」

「ここ最近元気が無かった事について、とかか?」


 成沢の様子から、思い当たる事と言えばそれだけだ。そこで伊織は先手を打つ。


「俺に落ち度があるなら遠慮なく言ってほしい。何か、あったのか? 成沢」

「ち、違うよ! 初ヶ根くんは何にも悪くない!! ただ……」

「ただ……?」

「ウチが、他の友達と仲良くしてる初ヶ根くんを見て……勝手にモヤっとしてた、というか」

「!」


 それは、世間一般で言うヤキモチではなかろうか。伊織がまず思ったのはそれだった。恋愛をするにあたって、高確率でぶち当たると言う感情だ。


「ヤキモチってやつか。そんなの、普通だろ?」

「……紗雪も、そう言ってくれた。でもウチ、そんな自分が許せなくて……!!」




 ぽたり、ぽたり。机の上で強く握った成沢の手に、大粒の涙が落ちる。


「初ヶ根くんのいいとこ、皆に伝わったんだもん。嬉しい事なのに……!!」

「成沢……」


 これは、難しい問題だ。伊織は眉間に皺を寄せた。ただクラスメイトや小澤達と距離を取ったのでは、成沢の心は晴れない。それに。成沢は伊織に対する周りの変化を喜びたいのだ。でもきっと、皆とは違う『何か』も欲しい。


 ここは、会話をしながら活路を見出すしかない。そう考えた伊織は口を開く。


「成沢が俺にお試しお付き合い、って言ってから。俺の周りはまあまあうるさくなったもんな」

「!」


 迷惑、だった? 涙声の成沢の声が小さく落ちる。そんな成沢に首を横に振って見せて、伊織は言葉を続けた。


「最初は正直、困らなかったと言えば嘘になる。でも、最近悪くないと思うようになったんだ」

「……うん」

「こんなの、初めてだった。それを喜びたいと、成沢は思ってくれてるんだよな」

「……うん」


 成沢に言葉を選んで話しながら、どうすればいいのか、ずっとフル回転で考えて、考えて。伊織は遂に自分なりの答えを導き出す。


「……俺がこんなに誰か1人のことを考えたのも、初めてなんだ。お前のことだぞ。……姫瑠」

「……初ヶ根、くん」



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