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9日目 ガリ勉とギャルと馴染み方〜成沢の場合〜




 スマホにセットしたアラームで、目が覚める。

 カーテンの隙間から差し込む朝日に眩しさを覚えながら、成沢は体を起こしてアラームを止めた。


「朝、かあ……」


 最近は待ち遠しくてたまらなかった筈の、朝。それが、何だか後ろめたいだなんて。


「いけない、いけない! 姫瑠、スマイルスマイル!」


 頬を叩いて気合いを入れる。と、階下から声がした。


「姫瑠ー、時間よ。降りていらっしゃい」

「……はあーい!」




 身支度を終えて、ご飯を食べて。そこから成沢は、お弁当の準備に取り掛かる。


「今日のメニューは……肉野菜炒めと、昨日作っておいたかぼちゃサラダに……」


 言いながら出したそれらを、テキパキと弁当箱に詰める。と、昨日の伊織の言葉を思い出す。


「グラタン、好きなんだよね……美味しいって、昨日も言ってくれたな」


 成沢は思わずにやけるが、すぐにしゅんとしぼんでしまった。


「初ヶ根くんはあんなに優しくしてくれるのに、こんな事でモヤついてるなんて。らしくないぞ、姫瑠」


 言いながら、リビングの鏡で笑顔を作る。


「うん、だいじょぶ! 学校行こうっと」


 







 成沢の家は、伊織の家より学校からは離れている。伊織の登校時刻を見越して早めに家を出た成沢は、すぐに思い人の姿を見つけて手を伸ばした。が。


「初ヶ根く……」

「ガリガネー!! なあなあ昨日の協力してくれるだろ?俺の恋路を助けると思って。な、な!?」

「うっとおしいぞ、小澤」

「辛辣!?」


「……」


 伊織と同じクラスの男子に遮られ、成沢の手は空を切った。








 時間は過ぎて、放課後。

 昼もしゅんと項垂れてしまっていた自分を心配してくれている様子の伊織に、何でも無いと笑顔を作って。誤魔化せなかっただろう自分の拙さに、成沢はがっくりと肩を落とす。


「初ヶ根くんの前ではいつでも可愛いウチでいるって決めたのに……ウチって、駄目だなあ」

「何が駄目だって?」

「!」


 掛けられた声に、はっと頭を上げた。が。その声の主に、姫瑠は再び項垂れる。


「紗雪……」

「なーんか悩み事?」


 紗雪は、成沢にとって1年の頃からの友人だ。そして、伊織と同じクラスで。


(最近、初ヶ根くんと仲が良い……)


 


 自分が風邪を引いて休んでいる間に深まっただろう仲は成沢から見てとても羨ましいもので。同時に、何だか妬ましい様な。


(違う、違う! 紗雪はウチを応援してくれてる大事な友達だもん)


 それこそが、成沢の悩みの原因だった。


「元気ないぞ、姫瑠」

「ううっ、幻滅しても良いけど。聞いてくれる?」

「ゲンメツぅ?」




 自分の気持ちを、言葉に甘えて正直に藤代へ吐き出して。嫌がられる事覚悟でのそれだったのだが、帰ってきたらのは意外な言葉だった。

 

「……そっかあ。ヤキモチだね、それ」

「そんな可愛い表現で良いのかな、これ」

「いいのいいの! 恋してる証拠じゃん、ね」


 藤代はそう言って成沢の頭を優しく撫でる。


「紗雪、ウチ……こんなでごめんね。大好き」

「何言ってんの、姫瑠! 私らズッ友じゃん。……よーし、決めた!」

「え?」

「するよ、Wデート!!」

「な、何の話!?」










 夜、自室にて。

 Wデートの顛末を知った成沢は、難しい顔でスマホと睨めっこしていた。


 画面に映るのは、新しいグループトーク。


『藤代がまさか小澤の提案に乗るとはな』

『まあね、これも2人の成就の為だし?』


 成沢が何も打てない間も、トークは上へ上へと流れていく。伊織から他の人の名前が出るたびに、仲良くしているのを見るたびに。


 こんなにも、苦しい。


(初ヶ根くんの良さが皆に分かってもらえるのは、良い事なのに)


 それに、恐らく藤代がこの提案を呑んだのは他でもない成沢と伊織をくっ付けたいが為なのだ。そんな友達にこんな感情を吐露してしまった事自体、とっても、可愛くない。


(こんなウチ、初ヶ根くんに見せられないよ……)


 そう思いながら、成沢は枕に顔を埋める。と、部屋のドアから控えめなノックが聞こえた。


「姫瑠。今いいかしら?」

「お母さん……」




 お盆にホットミルクを乗せて。ゆっくりと入って来た母に、成沢は笑顔を作る。


「ごめんごめん、友達とのトークが盛り上がっちゃって。もう寝るね。ミルクありがとう」

「……初ヶ根くんの事ね?」

「! なんで」

「ふふ、あなたが悩んでる事、お見通しよ」


 そう言って成沢を抱きしめる母親に、成沢は赤面する。


「お、お母さん! ウチもうそんなに子供じゃ無いよ」

「……こんなに大きくなって。本当、早いわね」

「……おかあさん」


「あなたが恋をして、精一杯頑張って。いろんな事が出来るようになったのも、知ってるわ。だから、大丈夫。頑張り屋さんな姫瑠は、世界一かわいい私の娘」


 正直に、でも出来るだけ傷つかないように。話してごらんなさい。きっと初ヶ根くんなら受け止めてくれるわ。そう続けた母に、成沢は涙ぐんで頷いた。


「うん。ウチ……頑張って来るね!」




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