アドルフとアンネ
ある所に、アドルフという名前の一匹のオオカミが住んでいました。
アドルフには友達がいません。
みんな、アドルフを怖がって近寄らないからです。
「ああ、僕もみんなと遊びたいなあ」
友達が欲しかったアドルフは、勇気を出してみんなに話しかけます。
ですがみんなは、よけいに怖がるばかりです。
「寂しいけれど、みんなを怖らせるくらいだったら、離れた所でずっと一人で暮らそう」
そう考えたアドルフは、村はずれに一匹で住むようになりました。
月日は流れ、アドルフの家のまわりは大きな森でおおわれました。
いつか来てくれるかもしれないお客さんのために、アドルフは毎日お茶とお菓子のお勉強をしています。
陽のささない森の中だけれど、アドルフはいつだって誰かの事を考えています。
そんなある日、アドルフの所に一人の少女がやってきました。
びっくりしたアドルフは、思わず隠れます。
「だ、誰だい?」
「私の名前はアンネ。道に迷っちゃったの」
ドアの向こうにいる初めてのお客さんに、アドルフはドキドキしています。
「とても美味しそうな匂い。お菓子を焼いているの?」
テーブルの上には、ちょうど焼き立てのお菓子がおいてあって、アンネはそれを見つけました。
「まあステキ!良かったら少し、お邪魔してもいいかしら?」
アドルフは迷いましたが、アンネを家へ招く事にしました。
「初めまして、私はアンネ。あなたお名前は?」
アドルフは驚きました。
自分の姿を見ても怖がらない相手に初めて会ったからです。
「アンネは僕が怖くないのかい?」
「あら、どうして?」
アンネが不思議そうにそう答えると、アドルフは泣き出してしまいました。
「アドルフ。僕の名前はアドルフ・・・」
アドルフがひとしきり泣き終えると、二人は一緒にお茶を飲むことにしました。
初めて出来た友達と飲むお茶は、アドルフがこれまでに飲んだどのお茶よりも美味しいお茶でした。
お茶会を楽しんだアドルフとアンネでしたが、遅くなるといけないのでお別れすることにしました。
「心配だから家まで送るよ」アドルフがそう言うと、
「ありがとう。森に住む悪いオオカミが出ると怖いから助かるわ」とアンネは言いました。
アドルフは傷つきました。
悪い事なんか何もしていないのに、みんなにそう思われているのが悲しかったからです。
村へと帰るあいだも、アドルフとアンネは色んなお話をしました。
美味しいクッキーの焼き方、上手な紅茶のいれかた。
今日はアドルフが生きてきた中で、一番楽しい日でした。
村の近くまで来ると、アドルフはアンネに言いました。
「いいかいアンネ、よくお聞き。森に住むオオカミは本当に悪いやつなんだ。だからもう二度と、一人で森へなんて来ては行けないよ」
「分かったわ。でも、そうしたらもう二度とアドルフには会えないの?」
アンネが寂しそうにそう言うと、アドルフは答えます。
「心配いらないよ、アンネ。次は僕が君のお家へ遊びに行くから」
そう言って笑顔でアンネと別れると、アドルフは村に背を向けて歩き出しました。
やがて、夜の闇に鉄砲の音が聞こえると、アドルフは力なく倒れて動かなくなりました。
ですが、ずっと一人ぼっちだったアドルフは、それでも月明かりに照らされて、いつまでも幸せそうに微笑んでいました。
誤字脱字、感想などありますれば、どうぞ遠慮なくお聞かせください。