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奴隷の王様  作者: 本郷
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第1部 8


 予定を全て終え、アランは喫茶店で一息ついていた。


 コーヒーをすすりながら、目の前に座るニーナを見つめる。


 (どのように伝えようか)


 頭をかきながら、今日の出来事を、どう講評しようか悩んでいた。



 本日アランはニーナと共に行動していた。彼女がどのような活動をしているのか、この目で見るためだ。


 はじめにアランを引き連れたニーナは、大広間へ向かった。そこで先日と同じように、魔人の権利保証を謳った演説を行うも、誰も関心を持ってくれなかった。


 いや、一部の反対派の人達が文句を言ってきた場面があったので、誰も関心を持ってくれなかった、というのは嘘になる。


 だが良い反応をしている人は、誰もいなかった。


 広間での演説を終えると、事前に約束してある大商会の邸宅へ向かい、商会の代表と話をする。ニーナは魔人の権利ついて語り、あちらは商品の販路拡大のための話をし、双方の話は噛み合っていなかった。


 そして、商人の家を出ると、ニーナに活動に対する感想を伝えるために、二人は喫茶店に入ったのだった。


「率直に言うと・・・」


 アランは意を決して口を開く。ニーナはゴクリと唾を飲んで言葉を待った。


「ニーナの活動は素直すぎる」


「素直・・・ですか」


「ああ。素直さは武器にもなるが、人は正しさだけでは動かないんだよ」


 アランは魔王の一家に生まれた。兄が2人いたため、王になることは期待されていなかったが、それでも幼少より帝王学を教えられてきた。また、期間は短かいが、魔王として実際に国を統治した。


 だからこそ、人の動かし方についての知識も経験も、アランは兼ね備えていた。


「人の行動には目的が必要だ」


「目的ですか・・・」


 言葉を選びながら、アランはゆっくりと話す。


「例えば、先程の商人にとっては魔人のことなど、どうでもいいんだ」


「どうでもいいなんて・・・。魔人に関しては社会全体で、考えなければいけない課題ですよ」


「そうだねニーナ。その考えは正しい。だけど、多くの人は自分のことしか考えられない」


 アランがニーナを見ると、彼女は少し悲しそうな顔をしていた。


「ニーナもそうだろう。例えばこの街の商会に課されている税金の話に、興味はあるかい?」


「もちろんで・・・す」


 詰まりながらも言い切るニーナに、アランは笑顔を作って再度問う。


「本当に?」


 ニーナは観念した、というような顔をつくり、ため息をついた。


「すいません。重要な問題だとは思うのですが、そこまで興味はありません」


 アランは優しい笑顔で頷く。


「そういうものなんだよ、生き物というものは。だからこそ、その人が興味を持ってもらえる話をしなければならない」


「興味ですか?」


「ああ。大きく三つの方法がある」


 アランは指を立て「三」という数字をつくる。


「まず一つ目が、相手がその問題に対して、興味を持ってもらえるような情報を伝えること。今回で言えば、魔人の権利を守ることで、商会にどのようなメリットがあるかだな」


 ニーナはアランの言葉を熱心に紙に書いて記録している。


「そして二つ目が、ギブ・アンド・テイクの状態にすること。例えば、相手のお願いを一つ聞いてあげる代わりに、こちらの要求を呑んでもらうということだ。相手は、自らの要求が叶うと知れば、話に興味を持ってくれる」


 ニーナの顔を見ると、難しそうな表情をしている。自分が与えられるものが、何かを考えているのだろう。


「そして、三つ目は脅迫。これは興味を持ってもらうとことからはずれるが、権力や暴力で相手を従わせることで、こちらの要求をのんでもらえる」


 全ての説明が終わり、アランは一息ついてから、ニーナに問いかけた。


「ニーナはどれが良いと思う?」


 アランの言葉に、ニーナは即答した。


「二つ目です。私に相手の願いを叶えて、代わりにこちらの要求も呑んでもらえ、とアランは言いたいのですね」


「そうだね。さすが、ニーナ。一つ目は間違ってはいないけど、あまり響かないだろう。演説などで多くの人に訴えかける時は、一つ目のほうほうの方がいいんだけどね」


 アランが出来の良い生徒を賞賛するようにニーナを褒めると、彼女は照れるようにはにかんだ。


 しかし、ニーナは次の瞬間には暗い顔をする。感情の起伏が激しい人だ。


「私には、相手に提示できるようなものがありません」


「それに関しては任せてくれないか」


 アレンが自信満々に提案する。


「ニーナ。君には、君にしかできないことをやってほしいんだ」


「私にしかできないこと・・・」


 ニーナはアランをチラリと見て、答えを求めているようであったが、アランは何も言わなかった。



 一週間後に再び会う約束をして、2人は喫茶店を後にするのだった。







 

 アランはその後、図書館へ向かった。中へ入り指定の個室へ行く。エマが大量の書物が積み上がっている机の脇で、本を読んでいた。


 今日のエマは、アランからの頼みで、先に図書館へと来ている。そして、あらかじめ伝えられていた資料を、集めていたのだった。


「ありがとうエマ。資料は揃っているか?」


「ええ」


 机の上にはこの図書館に所蔵されているこの街の歴史、地理、産業、そしてエマが分身体を使って調べた、有力者の情報が記載されている資料が並べられていた。


 アランは机に座り資料の読み込みを始める。ちなみに他の誰にも邪魔されないように、今回はお金を払って、図書館内の個室を借りていた。


 隣で同じくエマが資料を読みあさっている。だが、そんなことを感じられなくなるくらいアランは集中し、思考する。

 


 どれくらい時間がたったであろうか、扉を叩くノックの音で、アランの意識は現実世界へと引き戻された。


「どうぞ」


 エマが、扉へ駆けていく。


 扉の向こう側から現れたのは、前回訪れた際に対応してくれた司書であった。


「すいません、閉館時間でして・・・」


 司書のこちらを見る目が、「またコイツか」というような少し呆れた顔になっていたので、アランは少し気まずい重いをしながら、急いで片付けをした。


 


 図書館を出ると、辺りはすっかり暗くなっており、人通りも少なくなっていた。


「どう、考えてはまとまった?」


 エマが試すようにこちらに問いかけてくるので、アランは鷹揚に頷く。


「ああ。方向性は決まった。後はその場の運と、ニーナの実力しだいだな」


「何それ。失敗したらどうするの?」


「失敗しないように頑張るけれども、駄目ならしょうがない。次を頑張るさ」


 アランの言葉に、エマは少しだけ笑ったような顔になった。



 翌日からニーナとの約束の日まで、アランとエマは計画を煮詰めていくのだった。

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