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奴隷の王様  作者: 本郷
30/36

第2部 30


 エマは、街の倉庫が密集している区画へと来ていた。目印をつけた者達が、この区画の建物へと、戻っていったからだ。


 日は沈み、辺りを暗闇が支配していた。


 闇に潜みながら、目的の建物へ近づく。外観は何の変哲もないただの倉庫。しかし、中には無数の気配を感じた。


 建物には正面についている扉以外、入れそうな場所はない。腹を括るしかなかった。


 正面に回り、扉に手をかける。やはりというべきか、鍵がかかっており、びくともしない。仕方なく、扉を蹴破ろうと足を上げた。その直後、扉の向こうから、猛烈に魔力が膨れ上がるのを感じる。

 

 横に飛び退くのと同時に、扉が吹き飛んだ。


 中から五人の男たちがでてくる。


「お嬢ちゃん、道に迷ったのかい?」


 舐め腐った態度をとる男の顔面に、拳を振り抜く。


 男は紙切れのように吹き飛んでいった。


「てめぇ!」


「話しかけてくるなんて、随分余裕ね」


 男達の顔つきが変わる。相手は四人。早く処理しなければ、まだ中にいる者達に、逃げられるかもしれない。エマはカゲを召喚して、四人の相手を任せた。


 単身で建物の中に入る。男達は追ってこようとするも、それをカゲが阻んでいた。


 自分の持ちうるカゲを顕現させ放つ。


 黒いカゲが残像となって、エマの前から消えていった。




 倉庫の中は、三階構造になっており、数十分で制圧と、中の確認が完了した。しかし、有益な情報は見つからなかった。


 残るは・・・。


 地下へと続く階段をみる。


 ゆっくりと一歩一歩階段を、降りていく。


 カゲにやられたのだろう。途中で倒れている者が、何人もいた。


 歩く。歩く。そして、数分後に、通路の奥にある扉が見えてきた。


 直感的にここだろう、とエマは思った。


 扉に手をかけ、中に入ると、気を失った状態で、椅子に座っている男が見える。カゲにやられたのだろう。


 エマは机や書棚の中を探る。この作業はカゲにできないので、自分の手で行う必要があった。


 そのとき、背後に違和感を感じた。咄嗟に背にしていた、入口の方を振り向く。そこには意外な人物が立っていた。


「魔人・・・」


「おいおい、まさか俺の正体を一発で見破るとは」


 どうしてこんなところに魔人がいるんだ。鎖や拘束具もつけていない。


「なぁ、あんた、どうやって俺が、魔人だって分かったんだ」


「何者?」


「人の質問には答えないのに、こっちには聞くのか?」


 男は三十代後半くらいか。短髪で髭面の、少しやつれたおじさんである。見た目は人間にしか見えない。


 エマが魔人だと分かったとは、魔力の感度が高く、魔人の証である魔核を見ることができたからだ。


 男は自らの頭を乱暴に掻きむしって、こちらの質問へ、解答してきた。


「何者かねぇ?アジトを襲っているという情報が入ったから、見にきたんだよ。まさか、こんな小娘一人に、落とされているとは、思わなかったけどな」


 次はお前が答える番だ、と言わんばかりの顔で、こちらを見る。


「私には魔核が見える。だから人間でなく、魔人だと分かった」


「へぇー、見えるやつがいるのか」


 男は優雅に無性髭をなでながら、こちらをじっと見つめてくる。


「それで、私を捉えにきたんでしょ」


「そうだな。大人しく捕まってくれると助かる」


「それは無理」


 二人の間の空気が、徐々に熱を帯びていく。


 先に動いたのは男だった。腰に刺していた剣を抜き、エマに向かって振り下ろす。恐ろしく早くて、重い一撃。横にステップして回避するも、床を抉る斬撃の鋭さに、冷や汗が出る。


 エマはカゲを触手のように伸ばし、先を尖らせて 男へ攻撃する。それを男は、持っていた剣で弾き飛ばした。


「能力もちのやつなんて、全員把握していたはずなんだがな。街の外の人間かい、お嬢ちゃん?」


 こにらに攻撃を仕掛けながら、質問する男の口調は、まるで世間話をしているようだ。


 エマは迫り来る斬撃を避け、時には自らの小刀でいなしながら、じっと男のことを観察する。


「おいおい、そんなに見つめられちゃ、惚れるじゃないか」


 男はすっと目を細めて、急に自らについて語り始めた。


「俺の名前はダン。しがない魔人だ」


 ダンの語りを聞いたエマは、嫌な予感がした。


「昔から相手を理解したい、という気持ちが強かったからか、心の中を、記憶を覗く能力を手に入れた」


 エマの予感は当たった。これは自己開示。自らの情報を相手に伝えることで、先入観を植え付ける。


「この能力に目覚めた時は、天啓だと思ったよ」


 ダンの口を塞ぐべく、攻撃を仕掛けるが、いなされる。


「相手の素肌に触るだけでいいんだ。それだけで、記憶に入り込み、その中にある負の感情を、増幅ささることができる」


 エマは思考を停止させ、ダンの言葉を考えないようにする。エマ自身が素肌に触れられることで、記憶を読まれると思い込めば、思い込むほど、能力にかかりやすくなる。


 上段から振りおさられる一撃を、寸前のところでかわす。駄目だ。考えないようにと、意識するほど目の前の戦いが疎かになる。


 集中できない。仕方がない・・・。


 エマは目の前の攻防に専念することにした。ダンの能力に関しては、触れられなければ良いのだから。


「素肌に触らせなければいい、と思っているだろ?」


 こちらの心を読んだかのように、ダンが問いかけてきた。


「俺と戦ったやつは、だいたいお前と同じ言論に至る。だか、それは悪手だぜ」


 ダンの速度が目に見えて早くなる。斬撃も今までにもまして重い。


「お嬢ちゃん、お前は既におれの術中だ」


 ダンとつばぜり合いになっていたエマだが、力負けして、後ろに数歩よろめく。その隙をつかれた。


 ダンから伸ばされた手が、エマの手にほんの少しではあるが、触れる。


 その瞬間、エマの視界は、暗闇に覆われた。

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