第2部 25
アランは、コニン商会へと向かっていた。特別税撤廃の話を、するためだ。
今回はアランとガドの二人で、向かっている。ニーナとエマは、それぞれ別の仕事だ。
商会につくと、会長であるコニンが直々に出迎えてくれた。
「本日はようこそ」
「こちらこそ」
コニンはアランと簡単なあいさつを交わして、その後ガドとも挨拶を交わす。
三人は揃って屋敷に入り、会議室で腰を落ち着けた。
「失礼ですが、まさか本当に成し遂げるとは、思いませんでした」
コニンの第一声に、アランは苦笑する。
「上手くグスターヴの協力を、得られたことが大きかったです」
「・・・噂は本当だったのですね」
「噂?」
「ええ、ニーナ嬢が、グスターヴを従わせているという噂です」
アランは思わず、吹き出してしまった。
「コニン殿、それは違いますよ。我々とグスターヴは、あくまで協力関係です。どちらが上や、下ということはありません」
「そうですか。それでも、あのグスターヴと、そのような関係を築けただけでも、すごいですよ」
対等な関係を築くために、犯罪組織を一つ潰したり、グスターヴの屋敷に乗り込むという、大立ち回りをしたからな。なかなか大変であった。
コニンはアラン達の功績を一通り称えた後で、本題を切り込んだ。
「それで、本日お越しになったのは、約束の件ですよね」
アランとコニンが交わしていた約束。それはコニン商会が開発した、新紙に課せられている不当な特別税を撤廃した場合、商会で魔人の権利を保証する、というものだ。
たった一つの商会で、権利を保障しても大きな効果はないかもしれない。しかし、この小さな一歩が大事だ。この一歩がいつか、二歩目、三歩目に繋がり、社会が変わる。
「はい、それもあります。ただ、今日はもう一つ協力してほしいことがあって、来ました」
そう。今日の来訪の目的はもう一つあった。
「そちらに関してはガドから話します」
アランは横に座るガドに目をやる。彼は小さく頷いて、話し出した。
「コニン商会で取り扱っている食品のうち、廃棄予定のものを、安く売って欲しいのです」
コニン商会は複数の飲食店も経営している。飲食店では品切れを起こさないように、食材を多めに仕入れる。
また、食中毒を出さないように品質管理が徹底され、独自で定めた保存期間を過ぎれば、廃棄している。少し勿体無いように思えるが、客に何かあって信用を失うことの方が、損失だと考えている。
コニン商会の品質管理は上手く、一店舗あたりの廃棄食材は少ない。しかし、商会内の数十店舗全てを合わせれば、相当な量となる。
これを活用する。
「廃棄予定の食品ですか」
コニンの眉間に皺がよる。
「そうです。私達は貧民街の復興に着手する予定です。その第一段階として、食糧問題に取り掛かかるのですが、正規ルートからの調達だけでは、お金が足りません」
「うーん。そうですね・・・」
「もちろん、手間は取らせません。各店舗からの食材の回収は、こちらで行います」
コニンは頭に手をやり、考え込む。アランはその姿をじっと見つめて、答えを待った。
数分後、コニンは顔を上げて、口を開いた。
「どうして、貧民街の支援を行おうと、思ったのです?」
この質問に対しては、ガドではなくアランが答えた。
「それが一番多くの人の利益になると、判断したからです。貧民街の住人が救われることはもちろん、彼らが適正な就労につけば、税収の増加、また、この街の労働力不足の解決にも繋がります」
「就労まで面倒を見るつもりですか?」
「もちろんです。それに、今後はコニン商会の紙は需要が、高まるでしょう。その生産には多くの人手が必要なはずです」
「ぅう、そうですね」
苦々しい表情になったコニンに、アランは優しく微笑む。
「コニン殿が考えているような、商会に不利益なことにはなりません。私を信頼してください。グスターヴの協力を取り付けた、この私を」
アランとコニンの視線が交わる。
コニンは数秒目を瞑って考えた後、こちらに手を差し出してきた。その手をアランは力強く握ったのだった。
その後、三人で詳細に関して詰めていき、その日は解散となった。
日が沈み、暗闇が辺りを支配する中、アランとガドは肩を並べて帰路についていた。
「いやー、それにしても上手く行ってよかった」
ガドは腕を空高く伸ばしながら、アランに話しかける。緊張から解放され、リラックスしたその表情は、とても凄腕の行政官には見えない。
「ああ、そうだな。ガドのおかげだよ」
ガドは笑いながら、その労いを否定した。
「アラン、それは違うよ。これはアラン、君の成果だ」
ガドのまっすぐこちらを見る目が、眩しい。少し前まで濁っていたその瞳は、今や超然と輝いている。
ああ、美しいな。思わずアランは口を押さえる。言葉が口から勝手に溢れそうだった。
ガドはそんなアランを見て、笑い。少し前を歩き出した。
ニーナもガドも変わっていく。そして、その変化は等しく誰にも、もたらされる可能性がある。貧民街の住人も適切な支援を行えば、きっと変われる。今、死んだような目をしている魔人奴隷もきっとまだ間に合う。
そして、俺も・・・。
悠然と佇む月に向かって手を伸ばすも、その手は虚しく空を切るのであった。




