第2部 24
ニーナは忙しい日々を送っていた。
議員に就任してから、様々な人物が挨拶に来る。同時にニーナ、も色々な人へあいさつに回らなければならなかった。
各地区の名士や、商会の代表、役所の行政官、同じ貴族でもある議員。毎日誰かと会って話をする。話をする。話をする。
話をするだけで一日が終わってしまう。
「アラン、私は何のために議員になったのでしょうか?」
休憩中に隣にいたアランに思わず愚痴ってしまった。
「最初だけだよ。次期に落ち着くはずた」
彼もニーナに同行することが多いはずなのに、まったく疲れた様子を見せない。それどころか、ガドと共に、法案提出に向けて、役人連中を説得しに回っているとのことなので、ニーナよりもさらに忙しいはずだ。
ニーナは己の中で、気合いを入れ直すと、アランへ次の予定を確認した。
「次はグスターヴとの面会ですね。そろそろ行きますか」
アランの先導で部屋から出て、グスターヴの下へ向かう。議場に隣接した建物には、各議員の個室が用意されている。その個室は普段の執務だけでなく、人と会う場所としても活用できた。
今回はニーナの方が議員歴が短いので、グスターヴの部屋を訪ねた。アランが扉をノックして、来訪を知らせる。
あらかじめ行くことを伝えてあったため、スムーズに中へ通された。
グスターヴの案内でアランと並んでソファに座ると、いきなり話を切り出された。
「それで、話とはなんだ」
「今度、新紙の特別税廃止に関する法律を、議会に提出する。それに賛同してほしい」
グスターヴはその申し出を聞いて、眉間に皺を寄せる。
「そうか・・・。もう少し議員としての力をつけてから、行うものだと思っていたのだが・・・。約束だから、いいだろう」
渋々ではあるが、了承してくれた。
グスターヴはついでとばかりに、忠告もしてくる。
「おそらく妨害も入るだろうが、私は関与していない。その妨害をやめさせることもできない。自分達でなんとかするんだな」
「ああ、分かっている。既に手は打ってある」
アランの自信満々な表情を見たグスターヴは、少し心配そうな顔をした。
「やりすぎるなよ」
「それはどういうことだ?」
アランは頭の上にクエスチェンマークを浮かべて、グスターヴへと問い返した。
「だから、私にやったみたいに、脅迫じみたことをするなよということだ」
「ああ、そういうことか。それは相手次第だな。相手が法を逸脱した行為で妨害をしてくるなら、こちらも相応の対応をする、逆にルールに則って妨害するなら、こちらもそれに倣って行動する。目には目を、歯には歯をだ」
「ぅうむ。まぁ・・・そうだな」
「安心してくれ。俺達も別に暴れたいわけじゃない。できるだけ穏便にことを済ませたいんだ」
アランはソファから立ち上がり、扉へ向かって歩き出した。今回の会談はグスターヴに釘を刺すものであって、それ以上でもそれ以下でもない。
ニーナもアランに続いて立ちたがり、一礼して退出した。
その後も、ニーナは何人もの人物と会った、誰もが初めて会う人物であったため、緊張が抜けずにとても疲れたる。
それでも気合いでやり抜いた。
「疲れたー」
その日の予定を全て終え、帰宅したニーナは自室のソファに倒れ込むように座る。
全身から力が抜け、脱力する。クッションに体を埋めながらリラックスしようもするも、頭の中で様々な雑音が音を鳴らしている。
本当に自分は役立っているのか。そもそも、アランはどんな人物なんだろうか。
彼と出会って数ヶ月経つが、今だに分からない。商人と名乗っているが、なぜあんなにも強いのか?商売の方は問題ないのか?疑問を挙げればきりがない。
でも、そんな彼を信じている自分がいた。初めて魔人に対する思いで一致した人。相続問題を解決してくれた人。私を議員にまで押し上げてくれた人。
アランはこれまで、多くのものをニーナに与えてくれた。それで十分だった。彼が何者なのかは関係ない。関係ないはずなのだが・・・
度々、自分の中で現れる疑念が憎い。疲労で自制心を失った心と頭が叫ぶ。アランは何者なのか、確認しろと。
「最悪ね」
思わず言葉が、口から出てしまう。
自分に協力してくれる、それだけでいいではないか。
緩み切った思考をスッキリとさせるために、ソファから立ち上がり、自室を出る。風呂に入って、すっきりしよう。
そう思ってニ階から一階へ降りると、アランと出会った。
「ニーナ、疲れているだろうから、早く寝ろよ」
なんて優しい。しかし、そんな優しさがニーナの口を滑らせた。
「本当は何者なんですか」
不意に出た言葉。言ってしまった瞬間、しまったと思った。だが、もう取り消せない。
恐る恐るアランの顔を見る。綺麗な目だ。黒く神秘の光が宿るその球体はまるで・・・。彼を見ていると無性に信じたくなる。付き従いたくなる。これがカリスマというものだろうか。
「俺が何者か、それは俺が決めることじゃない」
アランは一拍置いて、話を続ける。
「ニーナが俺の正体について疑問を抱いていることは知っている。それでも、俺が言えることはない。だから、ニーナ、お前が判断してくれ。君ならきっと正しい判断ができる」
アランが腰に挿していた護身用であろう小刀を取り出す。刀身が照明の光を反射して光る。
その小刀の柄をニーナに握らせた。
「俺が魔人のために何かしたいと思う心は本物だ。命をかけよう」
アランは小刀を握らせたニーナの手を強く握り、固定する。そして、一歩二歩と前に進んだ。もう、一歩踏み出せば、刀先がアハンの皮膚を貫くだろう。
「ニーナになら刺されても文句は言わない。だから、信じてくれ」
「はぃ」
そう言うしかなかった。もはな何がなんだか分からない。だが、アランの覚悟が本物であるということは理解できたのだった。




