表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷の王様  作者: 本郷
22/36

第2部 22


 アランは役人達が務める官署へと足を運んでいた。


 人気のない廊下を歩く。


 普通あれば、官署の中は昼夜問わず人で溢れかえっている。しかし、ここだけは人の気配をほとんど感じられない。行政府の建物が連なる一角の端に建てられたその建築物は、いつできたのか分からないくらい古い。


 そんな場所にアランの目的地はあった。


「ガド、入るぞ」


 扉をノックして部屋に入る。入室許可は待たない。


 部屋の中では、一人の男が資料に埋もれながら仕事をしていた。


 亜麻色の黄色がかった淡い褐色の髪の毛で、猫目の特徴を持つ男。


 出会った当初は、全てを諦めた目をしていた。しかし、瞳の奥に燻った炎を見たアランは、ガドの趣味であるチェスを通じて交流を深めていった。


 アランもチェスは好きだった。仕事の忙しい父と、二人きりの時間がとれる遊戯だったからだ。少しでも強くなろう、もっと長い時間父と指したい、という一心で強くなった。


 その結果、いつのまにか魔王国の中でも屈指の強さとなっていた。


 ガドとの対戦は、アランの圧勝で終わった。いや、圧勝せざるをえなかった。ガドが想像以上に強くて、下手に手を抜けなかったのだ。


 アランとガドの対戦は毎日行われた。彼は日に日に強くなっていく。おそらくガドは対人戦をこれまでやってこなかったのだろう。アランとの戦いを通じて、徐々に実践的なチェスへと形をなしていった。


 その成長速度には目を見張った。圧倒的な応用力。ガドの才能の感じられずにはいられなかった。


 そして半月ほど経過したところで、アランは敗北した。


 いや、強くなりすぎだろ。


 普通にショックだ。だが、嬉しいこともある。


 ガドの目に炎が宿っていたのだ。そうして彼を仲間に誘い、無事承諾を得ることができた。


 それからというもの、アランは定期的にガドの元へ訪れ、政策についてに詰めたり、チェスに興じた。


 今日もまたガドの元へとやってきている。


「どうだガド、頼んでいたものはできたか?」


「ああ、大枠は固まった。あとは詳細を決めるだけた」


 アランは渡されたた資料に目を通す。


 ガドから渡された資料には、貧民街の復興計画が書かれていた。


 ニーナの影響力を高めるには、成果を出さなくてはいけない。そして、成果を出しやすく、かつ街としても改善しなければいけないことが、貧民街の状況であった。


 街の東部に位置する貧民街。正確にどこからどこまでという境界線はない。不衛生でボロボロな建物が立ち並ぶ区域を貧民街と呼称している。


 事業に失敗した者、怪我や病気で働けなくなった者、親を失い生活のすべを失った者、様々な者が貧民街へ住み着いていた。


 その貧民街では定期的な炊き出し等は行われているものの、全ての支援が行き届いていない。


 街の行政府もお金を投じて改善しようとしたが、議員である貴族からの反対が根強く実行に移せずにいた。


 だからこそやる価値と意味がある。貧民街の住人を支援して、就労までこぎつければ、人々の生活の安定、ひいては労働力と税収の増加につながる。


 問題は財源であった。どこかから、お金や物資を引っ張ってくる必要があった。


「新紙の特別税撤廃を先に進めよう。お金はそこからとる」


「現状では難しくないか?」


 ガドの言葉にアランは疑問を呈す。


 確かに旧紙保護の先頭に立っていたグスターヴはこちらの申し出に頷くだろう。彼が影響を及ぼせる貴族も賛成してくれるかもしれない。しかし、利権は様々なところで絡んでおり、グスターヴの一存でどうにかなるような状態ではなかった。


「新紙の売上予測だ」


 ガドはそう言って一枚の紙を追加で手渡してくる。


「特別税を撤廃することで、新紙の価格は大幅に下がる。そうなれば、新紙と旧紙で価格の逆転現象が起こる。新紙は価格も安く、質もいい。旧紙の顧客を奪えることはもちろんだが、これまで紙を使うことに躊躇いがあった層の、需要も掘り起こすことが出来ると思う。売上は爆発的に伸びるだろう。あと、近くの街に輸出することで利益を得ることもできる」


 ガドの言葉はまだ続く。


「結果としてこの街の紙の販売額は大幅に増える。そうなれば、もちろん販売額に対して行政府に入ってくる税金も大きくなる」


 心なしかガドの目が生き生きとしていた。


「試算額では、これまでよりも多くの税金が入ってくる。だから、これを利用する」


「利用?」


 アランはガドが話しやすいように相槌をうった。


「ああ、この増加分の税収を上手く分担するんだ。俺たちが使用する分はもちろん確保する。だが、余った分は議員やその議員についている行政官に使う権利を与え、仲間に引き込む」


 得られる売上、税収、貴族達の利益、行政官の利権。それらを総合考慮して、ガドの提案は現実的かつ非常に有効なものであった。


「よし、これで行こう」


 アランの言葉に、ガドは笑顔をつくり、二人は具体的な行動計画を話を移した。




 一週間後、照りつける太陽の元で、汗ばみながらも、満足そうな顔をする二人の男がいた。アランとガドだ。


 アラン達は新紙に掛けられている税の撤廃のために、議員や行政官達の説得に取り掛かっていた。


 議員定数は七十一名。法案を可決させるためには過半数以上の賛成が必要であるため、三十一名の同意を取り付ける必要があった。


 グスターヴの協力で十四名の賛成はかたい。とすれば、残りは十七名。狙うは紙の税率にそこまで関心の高くない議員である。


 アランとガドは狙いをつけた議員やそのブレーンとして働いている行政官に説明行脚を繰り広げた。


 説得は難航した。しかし、粘り強い交渉の結果、なんとか狙っていた全員に法案の賛成の確約をもらうことができたのだった。







 アランは議場の関係者席に座りながら、ニーナの様子を伺っていた。彼女は堂々とした様子で法案を提出する。そして新しい紙の有効性を訴え、不当な税に対して声高に批判する。


 ニーナは新紙に課せられていた特別税の撤廃法案を提出した。


 続いて、行政官たるガドが議場で詳細な説明を行う。多くの議員がその言葉に頷いている。


 そして、採決にとなり、賛成三十一票、反対三十票で法案を可決することができた。


 アランは大きな拍手をする。


 アラン達の夢がまた一歩、現実へと近づいたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ