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奴隷の王様  作者: 本郷
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第2部 19


 今日は引っ越し日和の快晴だ。泰然と佇む太陽に応援されながら、アランは荷物を移動させていた。


 多くの物を宿屋に置いていなかったため、時間はかからない。


 ベッドや机などは、前住人の物を使うことにする。買い替えも検討したが、余計な出費は控えたかったため、新しい物は買わなかった。


「片付けは終わりそうですか?」


 引越し先の家主であるニーナが、軽い口調で尋ねてくる。


 この家はニーナの、いやウォーカー家の住宅であった。貴族の当主になったニーナは、義母のカーラとその息子のビッコを追い出した。自身の誘拐及び暗殺未遂の件で二人を問い詰め、追い出したのだった。


 ニーナが家族に対して強行な態度に出た時、アランは目を丸くした。以前の彼女であれば、そんなことはしない。いや、できなかった。


 ある日を境に確実に変わった。それまで不安定だったものが、一本の芯が通ったかのように、安定したのだ。


 カーラとビッコを追い出したニーナは、その勢いで使用人も全員解雇した。仕方がないとはいえ、カーラに協力していた者を雇い続けることはできなかったようだ。


 その結果、広い屋敷に一人で住むことになった。そして、スペースを持て余したニーナが、同居の提案をしてきたのだった。


「一緒に暮らしませんか」


 彼女の屋敷であれば、アランとエマが住んだとしても十二分の広さがある。


 アランは少し悩むも、その提案をありがたく受けた。宿屋でいつまでも暮らすわけにはいかない。何より近くで暮らすことで便利なことが多い。


 少ない荷物をエマと共に運び入れる。


 アランとエマはカーラとビッコが使用していた部屋を使うことになった。


 アランは部屋に備え付けられているソファに手をやる。少し触っただけなのに、高級な革で作られていることが分かる。


「それにしても、本当に良かったのか?ここに住まわせてもらっても?」


 近くにいたニーナに尋ねるが、彼女は笑顔で肯定した。


「はい。一人では持て余しますから。それに少しでもお返しがしたかったので」


 その好意を遠慮なく受けることしたアランだった。

 





 ひと段落ついたところで、アランとエマ、ニーナの三人で昼食をとった。料理人も全て解雇しているので、この料理はエマが作ったものだ。


「やっぱりエマの料理は美味しいですね」


 ニーナの言った通り、もはや一流の料理人と遜色がない腕を持つエマの作った食事に、舌鼓をうちながら、箸を進める。


「そう言えば、今後の動きとしては、やはり新紙の特別税撤廃に向けて動くのですか?」


 ニーナが食事中の話題提供として話を振ってくる。


 彼女がウォーカー家の当主になり、正式に街の議会に議席を持つようになってから、手続き等で忙しかった。そのため、これまで今後の方針について話す余裕がなかったのだ。


 実はこうして三人で食事をとることも、久しぶりである。


「いや、まだ法案を通すだけの力が足りない。いくらグスターヴの援護が得られると言っても、もう少しニーナ自身が影響力を持たないといけない」


「そうですね・・・。やはり、地道に力をつけていくしかないですね」


「ああ。だが、そのためにも優先的にやらないといけないことがある」


「それは何ですか?」


 ニーナの疑問に、アランはすぐに答えずに横にいたエマを見た。


「仲間」


 単語だけで答えたエマに「正解だ」と言って、アランは顔を綻ばせる。


 エマは飲んでいるスープカップから口を離し、言葉を続ける。


「私たちには、人手が足りない。特に行政に通じている優秀な人材の確保は必須」


 エマのカゲから一本の黒い手が伸びる。その手には書類が握られていた。


「調べておいた」


 紙を黒い手から受け取ったエマは、その用紙をアランに渡した。


「さすが。仕事が早いな」




 食事を終えるとアラン、エマ、ニーナの三人はエマの用意した人物リストから、人材を探した。


 リストの中には、様々な情報が記載されていた。現在の仕事内容はもちろん、これまでの経歴、どの学校に通っていたのか、職場での評判、好きなものに至るまで事細かに書かれている。


 さてと、誰を選ぶか。


 リストの人物をひとり一人つぶさに見ていく。エマが選んだ人材だけあって、皆優秀だ。また、こちらからの誘いを受けられるように、派閥との関係が薄い人物が選ばれている。


 そんな中で、特に気になる人物がいた。


 名前は「ガド」。エリートが通う学校を主席で卒業し、行政官登用試験もトップで通過している。任官してからも、出世コースを歩み、実績もきちんと出していた。


 しかし、一年前に汚職が原因で左遷させられていた。だが、・・・。


 汚職についても調べられている。


 内容を見たアランはそれががただの事件ではないことを感じ取った。


「エマ、このガドという人物について聞きたい」


「無気力、・・・何かを諦めているような男」


「だが、そんな男をこのリストに加えたことには、理由があるんだろ?」


「アランならば、彼を上手く扱えると思って。それに彼ならば他の貴族の目を全く気にしなくていい。」


 確かに。汚職で左遷された男を、囲い込もうとする貴族などいないだろう。


「いいのではないでしょうか。過去の実績も申し分ありませんし」


 ニーナが追従するように肯定を示したことで、ガドに会って、話をすることになった。

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