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奴隷の王様  作者: 本郷
17/36

第1部 17


 エマ全速力で街中を駆け抜けていた。


 ニーナに付けていたカゲに、大きな脅威を感じたからだ。


 今の時間帯だとアランと一緒にいるはず・・・


 不安を振り払うように走った。

 

 エマのいる場所からそこまで遠くはない。時間を要することもなく眼前にエマの姿が目にはいった。


 ほぼ同時にニーナの後ろに人影が突如として現れる。無表情な銀髪の女。まだ幼さの少し残こるその顔とは相反して、右手にはナイフが握られていた。


 キンッ!


 金属がぶつかり合う甲高い音が響く。


 ニーナのカゲに潜ませていたエマの分身の振るった武器と、女のナイフがぶつかり合い火花を散らす。


 エマは足に魔力集中させ、残りの距離を一気につめる。己の分身と斬り合っている女に短剣を振り下ろした。


 女はエマの攻撃をいなし、後ろへと跳躍して距離をとる。


「エマ?」


 二人のやりとりを見ていたニーナは、震える声をかけてきた。


「アランは?」


「い、いつもの喫茶店の近くで、・・戦っています」


 ニーナの言葉を聞いて、エマは舌打ちしそうになった。ニーナだけを先に逃すということは、敵対している相手が、誰かを庇いながらでは、戦うことが難しいほどの強敵ということだ。


 目の前の女をじっと見つめる。無表情に立っている女の口角が僅かに上がったような気がした。同時に女の体がブレる、そして消えた。


 それは無意識だった。握る短剣を己の背後へと振るう。


 キンッ、と甲高い金属音が再び辺りに響き渡った。


 いつの間に。


 高速移動かあるいは瞬間移動か。おそらく能力によるものだろう。


 なんて厄介な相手だ。


 女はエマに攻撃を防がれると、長い無用と言わんばかりに、再び消えて、先程の位置に戻っていた。


 長いため息をついて、空を見上げる。


「ニーナ、アランはなんて?」


「衛兵の、詰所まで・・走れと」


「なら、こいつは私がなんとかするから行きなさい」


 エマは街中に放っていたカゲを集める。一度戻してしまうと再設置することに手間がかかる。しかし、そんなことは言ってられない。


 その集めたカゲをニーナの護衛として彼女の影に潜ませた。


 一瞬躊躇いを見せたニーナであったが、すぐに踵を返し走り出す。


 賢い女性だ。


 エマは目の前の女を見る。ニーナを追う様子はない。邪魔者の排除を第一に考えたのだろう。


「あなたも先程の男の仲間ですか?」


 女からの質問にエマは答えずに、逆に問い返す。


「それを知りたければ、まずは自分から名乗ったらどう?」


 数秒の沈黙の後に女が「リオネス」と単語で返事した。


「そう。私はエマ、あなたの想像している男の仲間。ちなみに仲間はまだたくさんいるから、彼女を追っても無駄」


「それは嘘ね。もし、まだ仲間がいるなら、あなたはあれだけ多くの能力を、彼女の護衛としてつけない」


 抜け目のない女だ。エマはリオネスの挙動に注視しながら、作戦を考える。しかし、思考が形を成す前に事態は動いた。


 目の前からリオネスが消える。そして、気がつけば彼女は再び背後にいた。繰り出されるナイフでの攻撃をエマは短剣でなんとか防ぎ、転がるようにして後ろにさがり、距離をとる。



 エマは先程からのリオネスの行動を思い出して、彼女の才能を予測していた。


 瞬間移動?


 もし、本当に瞬間移動が使えるのなら大した才能だ。


 たが、そんな都合が良すぎるものは存在しない。必ずデメリットや制限が存在する。


 リオネスがナイフを携え向かってくる。目の前に来たところでその武器を振り下ろした。エマの構えた短剣とぶつかり合いそうになった瞬間、彼女は消えた。


 エマは咄嗟に周囲を見渡す。どこにも彼女はいなかった。しかし、不意に違和感を感じて、顔を上に向けるとそこにやつはいた。ナイフの刃がもう少しでエマの頭部に突き刺さるところだった。咄嗟に体勢を屈め、攻撃を受け止める。


「ぐっ」


 無理な姿勢で攻撃を受け止めたからであろう、体が悲鳴を上げた。


 それでも痛む体を無理矢理動かし、短剣で反撃する。


 すると、リオネスはまたしても消えた。


 前後左右、そして頭上を確認すると彼女の姿はない。


 (どこに消えた)


 時間にして1分。周囲を注意深く観察するも見つけることはできなかった。


 まさか、ニーナのところへ・・・


 慌てて駆け出そうとするが、そこに隙が生まれる。


「よそ見をしちゃダメよ」


 突如として目の前に現れたリオネス。彼女が振るったナイフを、今度こそ避けることはできなかった。


 腹部が猛烈に熱を帯びていくのを感じる。続けて攻撃を仕掛けてきたリオネスの猛攻をなんとか防ぎ、後ろに下がる。


 腹部の傷を見ると、そこからは止めどなく血が流れ出ていた。


 魔力で止血するも、戦闘力の低下は否めない。


「やっと良い一撃が入った」


 目の前ではリオネスが嬉しそうな顔をしている。


 不覚であった。一瞬の隙をつかれた。

 

 己の不甲斐なさに、体の内からふつふつと怒りが込み上げてきた。


 情けない。情けない。


 こんなことではアランのパートナーとしてやっていくことができない。


 両手で己の顔を叩き、気合いを入れる。


 思いだせ。戦乱期を。アランが討たれるまでひたすら戦いに明け暮れたあの日々を。


 体に纏わせる魔力を徐々に大きくする。体の至ることが限界の合図である痛みを主張するが、それを無視して魔力を流し続ける。


 全身を自分が耐えれる最大の魔力で補強した。

 

 エマは一歩踏み出す。そして、二歩目で周りから見れば消えたかのように錯覚するくらいの速度でリオネスに突っ込んでいった。


 短剣での一撃がリオネスに襲いかかる。彼女はその速さに驚くも、持っていた武器で防御した。だが、不意の一撃であったためか、攻撃を受け止める体勢が万全でなく衝撃で後ろへ弾き飛ばされる。


 そんのリオネスに容赦のない追撃をかける。瞬間移動で逃げる隙を与えないように、絶え間のない攻撃をしかける。


 エマの攻撃は確実にリオネスにダメージを蓄積させていった。体には無数の切り傷ができ、傍目から見ればぼろぼろであった。だが、一方でリオネスもエマの一撃の速さと重さに徐々にではあるが、対応してきているようだった。


 そして、リオネスは一瞬の隙をついてエマの目の前から瞬間移動で姿を消す。


 エマはリオネスが消えても焦ってはいなかった。踵を返して自らの背後約三十メートルくらいの場所へ移動する。そこにはなんとリオネスがいた。


「どうしてわかったの」


 言葉を噛み締めながら悔しそうに呟くリオネスに、エマが答える。


「あなたの影はもう縛られている。どこにいても位置は分かる」


 その言葉にリオネスが苦々しそうに自らの影を見た。


「それに今の移動であなたの移動条件の確信が得られたは。あなたは見えている範囲でしか、移動できないのでしょ」


 その言葉にリオネスは何も答えない。だが、おそらく正解だろう。もし無制限に移動できるなら、戦いで分の悪くなったエマの前から、一旦は完全に姿を消すはずだ。それをしないのは移動に制限があるから。


 エマは今までの移動と、彼女の視線を思い出す。全ての移動が視線の先だった。


 加えて、彼女がこの状況から瞬間移動で逃げないのは、移動距離によって次の移動に制限がかかるのかもしれない。


 どちらにしろ、長距離の移動ができないのであれば影を縛ったリオネスはもはや逃げられない。


「降参しなさい」


 冷ややかなエマの降伏宣言に、リオネスは微笑で答える。


「まだ、勝負はついていないわ」


 ナイフを右手に構えたリオネスは集中力を高めているようだった。


 エマは捕縛することを諦め、とどめをさすべく攻撃体勢に移行する。


 先に動いたのリオネスであった。エマの目の前から消える。だか、それを想定済みのエマは彼女の縛り付けた影を元に居場所を探る。自分の背後に存在を感知したエマは、カウンターを決めるべく小刀を振おうとする。


 するとその時、刹那の時間ではあるがエマの視界がぐにゃりと歪んだ。歪みは一瞬であったが、背後に振るった小刀は空をきり、攻撃をしかけた方向と逆の向きにリオネスがいた。彼女のナイフが最初に喰らった一撃と同じ場所に突き刺さる。


 エマはその攻撃で悶絶し、うずくまった。その隙にリオネスはまた消えて、視界からいなくなった。


 エマは影につけた目印でリオネスを追うが、彼女はどうやら走って移動しているようだ。


 追おうとするも、体におったダメージで正常な動きをすることができなかった。


 エマは目を瞑り、回復に専念する。


 先程の出来事はおそらくエマ自身も移動させられたのだ。そのため、こちらの攻撃が空振りに終わり、逆に相手の一撃を受けるはめになった。


 体を自らの影で強化してはいたものの、怪我を負った場所に渾身の攻撃をくらっては、エマもまともに体を動かすことが難しい。


 暫く呼吸を整え、なんとか体を動かし、リオネスの後を追った。


 結局、その先でリオネスを捕まえることは、叶わなかった。

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