【最終回】10年後の未来は
「どうして笑っているの?」
カナエは不思議そうに私のことを見つめた。
「とっても簡単な問題だったから」
ドアノブから手を離し、私はカナエの方に向かった。
左のサイドの髪を耳にかけた。私たちお揃いのボブカット。
「なに…するの?」とカナエは目を大きく開きパチパチしている。小動物みたいで可愛い。
私は両手でカナエの頬を覆った。
「ねぇ…カナエ」
「なに…?」
「チュウしてもいい?」
「…」
カナエは私の目は離さずにゆっくりと首を縦に動かした。
大切な人とキスをするのは流れ星が砕けるような感覚だ。煌めいてた星が綺麗にほろほろと砕けるような感覚…。
カナエはそっと目を瞑った。私もカナエの唇の場所を確認し目を瞑り、そしてキスをした。
あぁ…星が砕ける。頭の中でほろほろと音が鳴る。
キスを終えカナエの顔を見た。カナエは目を開けて閉じる度、瞬きする度に何粒も何粒も涙をこぼしていた。
「…どうして分かったの?」
「…未来をなめるなよ」
私はそう言ってニヤリと笑った。
私はベッドから立ち上がり、部屋を後にしようとドアノブに手をかけた。
「未来で待ってるから」
今度はカナエの方を振り返らずに言った。
そして私はドアを思いっきり開けた。その瞬間、体が急に鉛のように重たくなった。目はフラッシュライトを当てられている感覚になり、肺の中に水が入り息は出来なくなった。手足を動かそうにも重たくて思い通りに動かない。耳からはキュルキュルと音が鳴り続けた。
あぁ…これ死ぬ…。
そう思った瞬間、一瞬の衝撃と共に息の苦しさが突然無くなった。
「え…?」
私は目をゆっくり開くと、オレンジの光に染まった海が見えた。そして、さっきまで私が立っていた橋は目の前…いや目の上にあった。
私は海の上にいた。首から上だけ海から顔を出せていた。私は足をじたばたさせなんとか沈まないようにした。
「おかえりミライちゃん!」
目の前には、ずぶ濡れの海野カナエ28歳がいた。彼女も私と同じく首から下は海の中だ。
「カナエ…」
どうやら私たちの長い長いタイムスリップは終わったようだ。
私達は震える体で…海の上で…いや海の中で抱きしめあった。
何から話せばいいのか分からない。お互い笑顔のまま黙り込んでしまった。いや、私達にはもう言葉は要らない。
カナエと私は同時に頷き唇を合わせた。
お互いの過去の痛みを一つずつ噛み締めるように長い時間キスをした。海の味か涙の味かは分からないがしょっぱいキスだった。
でもこのキスには終わりがある。
ドボン!ドボン!と大きな水飛沫が2つ上がった。
私とカナエはキスをやめ、飛沫が上がった方に視線を向けた。
「おいシノブ!!!それ不貞行為!不倫!浮気!カナエちゃんでも許さないぞ!!」
と私の愛する夫…冬馬がすごい剣幕でクロールをしてこちらに近づいて来た。
そしてもう一つの飛沫からは長髪の綺麗な顔をした女が溺れながらカナエの方に近づいてきた。「カナエ…無理…死ぬ…わたし泳げないんだよ…」と言ってどんどん沈んでいった。
カナエの彼女だろうか。初めて見たけど、なんとなくカナエのタイプの女の子だと思った。沈んでいってるけど。
そんな2人の様子を見て、私とカナエはお互いに目を合わせて思いっきり笑った。
「じゃあカナエまたね!」
「うん!未来ちゃんも元気でね!!」
そして私達はそれぞれの愛する人がいる方へ向かった。
8歳、精神年齢が兄より自分の方が上だと認識した。今までしてきたお手伝いが介護なのだと認識した。10年間、私は兄のためだけに生きた。
18歳、家を逃げ出して身体を売り続けた。好き放題に生きることができた。この10年間は自分のためだけに生きた。
28歳、カナエと出会って冬馬と再会した。子供にも恵まれた。彼女達のおかけで、過去の痛みと向き合うことができた。この10年間は大切な人のためだけに生きた。
10年単位で私の人生は大きく変わっている。
さぁ38歳、私は誰の為に、何の為にどんな10年を歩むんだろうか。
どんどん小さくなっていく彼女の背中を見つめながら、私はこれからの未来に胸を躍らせた。
皆さん今までありがとうございました!
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皆さんのお陰で制作のモチベーションを維持することができました!本当にありがとうございました!!
感想くれた方には必ずお返しします!感想、ご意見お待ちしてます!→追記2024/12/18 誹謗中傷や第三者がコメントを閲覧した時に不快に感じると私が判断したものは随時削除しております。ごめんなさい。無料で書いている作品なのでその辺の裁量的判断はお許しください。
詳しい話は活動報告の方で描かせていただきます!
ポイントの方も尻尾振ってお待ちしています!




