タイムスリップ② カナエ28歳、未来18歳
「未来ちゃん!!」
私は泣き叫びながら部屋に入った。
「ねぇお願いやめてよ!やめてください!未来ちゃんから離れてください…!」
でも部屋にいた2人は私の声にビクとも反応せずその行為を続けていた。
ギシギシという音と男の叫び声がより一層大きく聞こえた。未来ちゃんの顔は見えなかったが、ボブカットは今と何も変わっていなかった。
私は震える足でなんとか立ち上がった。
叫びながら腰を振る男の肩を掴み、未来ちゃんから引き離そうとした。
「未来ちゃんに触るな!!この野郎!!」
「うんがぁああああああ!!!!」と男は叫び私を部屋の奥まで突き飛ばした。
「きゃぁ!」
左の肩を思い切りぶつけた。
ダメだ。やっぱり男の力じゃ、女の私なんて敵わないじゃないか。
あの時だって抵抗出来なかった。
力じゃ…勝てない。力じゃ…。
じゃあ何で勝てる?。私は。
脳裏に28歳の未来ちゃんの顔が浮かんだ。
28歳だった彼女は私に変わってあの教師に復讐した。それも暴力で勝ち取った。女だって暴力で勝ち取れる。
未来ちゃんは私のことを何度も助けてくれた。
今度は私の番だよ。未来ちゃん。
私は未来ちゃんの部屋の上に飾ってあったトロフィーを手に持った。
トロフィーには『私のちょっぴり普通じゃない家族 文部科学大臣賞』と書かれていた。
私はそのトロフィーで男の頭を殴りつけようとしたが、やめた。死んだら困る。
私は男の背後に周り全力で首を絞めた。大丈夫。30秒…30秒なら気絶。
男は首を絞められている最中も腰を振っていたが、徐々にスピードが落ち倒れた。大丈夫。死んでない。
私は一安心し大きなため息をついた。そしてベッドで足を広げピクリとも動かない1人の少女の元へ寄った。
「私にそっくりだ。」
私の右目から一筋の涙がぽたりと落ちた。
未来ちゃん…私達本当にソックリだね。
私はベッドに腰掛け、未来ちゃんの頬を撫でた。
ぼんやり天井を見ていた18歳の未来ちゃんは、ゆっくりと私に焦点を合わせた。
「なにこれ?」と彼女は言った。
「え…?」
「なんで私が目の前にいるの?」
全身から冷や汗が流れた。ヤバい考えてなかった。これ冷静に考えたら不法侵入じゃないか。私は言い訳を高速で考えた。
そうだ。叫び声が聞こえたから不安で来たっていうお隣さんの設定で行こう。彼女にそう説明しようとした瞬間
「良かったぁ〜」と彼女は大きな声で言った。
「え?み、未来ちゃん?」
彼女は両手で顔を隠し体を震わせた。
「未来ちゃん…だいじょ…」
「私、やっと死ねたんだぁ!!!」
今度は、彼女が手を伸ばし私の顔に触れた。
「私やっと死ねたんだ。やったぁ…ばんざーい…ばんざい…。死ねたぞ。わたし死ねだぞ。」
彼女は生気のない顔で掠れた声でそう言った。
未来ちゃんの白い体は、昔友達からプレゼントでもらった白色のドライフラワーみたいだった。
彼女の両足には痣、そして性器からは血が溢れていた。
「未来ちゃん…」
何度彼女は兄の性欲処理をしてきたんだろうか。
何度彼女は自分を押し殺して生きてきたのだろうか。
何度彼女はこの世界に絶望してきたんだろうか。
想像なんてできないのに、考えただけで涙が溢れた。
「なんで泣いてるの?」そう言って未来ちゃんは私の頬を触り涙を拭き取った。
「未来ちゃんっ」
「なーに?」
彼女は私の方を見てニッコリ微笑んだ。
「今すぐ逃げて…」
「へ?」
彼女はまだ夢の中にいるような顔をしていた。
私はそんな彼女の両頬を両手で囲った。
「こんな家から逃げてよ!!!」
彼女の目が大きく開いていくのと同時に目の中になった光が消えていった。
「逃げてどうするの?どうなるの?学校は?お母さんは?お兄ちゃんは?冬馬は?」
私の涙の粒は未来ちゃんの頬に何滴もかかった。
「そんなの知らない!!全部捨てろよバカ!!」
「ダメだよ。おにぃちゃんもね、お母さんもね本当は良い人なんだよ。アレの時はあんな感じだけど普段は会話もできるよ。お母さんは私が良い成績取ったら喜んでくれるし…。あぁでも今日は…セックスまでいくとは思ってなかったなぁ」
未来ちゃんは聖母のような優しい顔つきで言った。
「もうゴタゴタうるさい!!さっさとこの家から出てけ!!バカ!!」
「なに…?なんで?」
未来ちゃんの眉毛が少し傾いた。
「アンタは!これから自分のために生きるんだよバカ!!」
「え…?」
「馬鹿みたいに金貯めて、好きなもの買って、暇な時はダラダラ動画垂れ流して、デパコス買いまくって、自分の人生のために生きるの…」
「ふふ…私はお兄ちゃんの為に生まれて…」
「違う!あなたは幸せになる為に生まれてきたの!!ゴミ兄貴のことなんて捨てちまえ!」
「そんなこと…」
「ゴミみたいな環境に生まれたらゴミみたいなことして抜け出すしかないの!」
無理だよ…と擦れるような声で未来ちゃんは言った。
「あなたなら出来る!未来ちゃん…私、待ってるから!!」
「は…どこで?」
「ここでだよ…未来ちゃん」と言って私は彼女の手を強く握った。
未来ちゃんは噛み締めるようにゆっくりと頷き眠りに落ちた。
私は寝落ちた未来ちゃんを5分ほど見守り、部屋を後にした。
救急車を呼ばなきゃ。
多分、あの血…未来ちゃんは処女だった。それに陰部の裂傷が激しかった。性感染症の恐れもある。
私はリビングの固定電話に電話をかけようとした。その瞬間、
「忍…!あんたなんで学校行ってないのよ!」
と後ろから怒鳴り声が聞こえた。
私はゆっくりと後ろを振り返った。
中年の女性。未来ちゃんに似た顔…。
この人は間違いなく、
「お母さん」だ。未来ちゃんの。




