【閲覧注意】タイムスリップ① カナエ28歳、未来18歳
カナエ視点です。
今までで1番閲覧注意です。
苦手な人は飛ばしてください。
未来ちゃんは無事過去にタイムスリップすることができたかな。
動揺している未来ちゃんを茶化したけど、18歳の私もあの時は驚いた。
タイムスリップが実在するなんて18歳の時は信じられなかった。
まぁでも未来ちゃんも実際に私の家に行って、18の私に会ったら嫌でも信じなきゃいけないでしょうね。
ふふふ…未来ちゃんが帰ってきた時の反応が楽しみだな。
って…アレ?
ここどこ?
そういえば私、未来ちゃんを海に落としてからの展開、あの時聞いてなかった。
あれ…?未来ちゃんと一緒に海に落ちて…。
ここ…どこ。
気がつくと私は椅子に座っていた。目の前には茶色の食卓テーブルがあった。テーブルの上には綿棒や電池、シャチハタが置かれていた。
私は周囲を見渡した。
アパート?そんなに広くないし日当たりも悪い。白い壁には大きなシミや穴が幾つもある。
干してる洗濯物から、おそらく3人暮らしだ。成人男性が1人…成人女性1人…。あとワイシャツ…学生が1人か。
置き時計、時間は11時30分。
壁にはお薬カレンダー。
台所には小さな食器棚。全部の食器がカラフルでプラスチック製。
確実に私の家でもなければ、マネージャーさんの家でもリホの家でもない。
じゃあ、ここは誰の家?
その時、テーブルの上に卓上カレンダーが置かれていることに気づいた。
私は指を震わせながらカレンダーを手に取った。
「2013年…20年前…」
そんなあり得ない。私もタイムスリップしてる。
そんなの聞いていない。タイムスリップするのは未来ちゃんだけじゃないの?
急に身体が重くなってミゾオチがギュッと締め付けられた。
20年前…私は8歳…。知らない。8歳の時にこの家に来た記憶なんて無い。
私は椅子から立ち上がりリビングと思われる部屋を出た。
その時、身体が強張った。歯からガチガチと音が鳴った。
今まで生きてきた中で聞いたことのない音が聞こえた。
男の叫び声….違う…これ。
私は両手で口を覆った。朝に食べたものを吐き出しそうになった。
男の喘ぎ声だ。終始叫び続けている。尋常じゃない声量。声になんの意味もなくただ人の声帯から音を震わせているようなものだった。
ドラマや映画のセックスシーンの撮影でも、こんな男の喘ぎ声は聞いたことがない。
「あ〜〜〜〜うーーーーーーいーーーーーにょーにょーおお、おお、お!」
声に合わせてギシッギシッという音も聞こえた。
目の前にあるドアが閉まった部屋で何が行われているのか容易に推測できた。
そして、その男の相手をしている女性が誰かも容易に推測できた。
10年前、未来ちゃんが逮捕されてから3ヶ月後に文春からある記事が出た。
『ペニス切断事件、風俗嬢ミライの悲惨過去』
その記事の内容はまさに地獄のような家庭環境で育ったミライちゃんの過去が書かれていた。
母子家庭で父親は失踪。
ミライちゃんは高校生の時、性加害行動の傾向を持つ兄の性欲を処理していた。でも、その性欲処理係に耐えきれなくなり家出。
そして、その兄と母との間には現在5歳の娘がいる。三上忍に代わり次は母が兄の性欲処理をすることになり妊娠に至ったと書かれていた。
この記事を機に未来ちゃん改め三上忍に同情するものが増え、きょうだい児の性被害を防止するデモが全国的に行われた程だった。
私はドアノブには手をかけることは出来たが、ドアを開けることが出来なかった。
ドアを開けて良いのかも分からなかった。
そもそも人違いかもしれない。
それに女の人の声は全く聞こえない。
「おあーわーーーーーあーーーー!!!!」
扉の向こうから獣のような叫び声が聞こえる。
私の目には涙が浮かんだ。
怖い。怖い。ドアを開けてどうすれば良いの。どうしよう。怖い。怖い。
なんでだよ。女優になってからレイプシーンは何度も撮ってきたじゃないか。
早く扉を開けて未来ちゃんを助けなきゃ。
10年前の地獄の記憶が蘇る。
教師、屋上、バッシュの音、荒い息、血走った目…そして試験管。
私は足から力が抜けドアの前に座り込んだ。
「なんでだよぉ!私のバカ!動けよ足!」と言って何度も足をグーで叩いた。
未来ちゃんは私の心を救ってくれたのに、どうして私は動けないの。
足を10回ほど叩いた時に、ドアから小さな声が聞こえた。
か細くて枯れた女の声だった。
『シノブ…がんばれ…がんばれぇ』
部屋の中にいる18歳の少女は、レイプされている自分におまじないをかけるように小声で何度もそう呟いていた。
『がんばれ…負けるなわたし…がんばれがんばれ』と。
私はドアノブを強く握り這うように部屋を開けた。足はまだ力が入らない。
「未来ちゃん!!!!!!」
私は泣き叫びながら彼女の名前を呼んだ。




