未来とカナエの再会①
遅くなりました!
目を瞑り10年前のカナエとの記憶を思い起こす。
そうすると必ずあるところで引っかかる。
当時から疑問だったことだ。
どうしてカナエは私がタイムスリップしたっていう、
くだらない嘘を信じ込んだのか。
足りない頭で考えたけど全く分からなかった。私は目を開き腕時計を見た。約束の時間から30分過ぎている。カナエのやつ…来ない。
潮風が生臭い。私は大きなため息をついた。
『すみません写真いいですか?』
「は…」
振り返ると、仲睦まじい男女カップルがいた。女の方はスマホを私に向けて差し出していた。断らせる気ゼロじゃん。
まぁでも、ここはカップルにとって最高の撮影場所か。
カナエが待ち合わせに指定した場所。
今、私は世界三大夕日が見られる港町の橋にいる。
全長120メートル、幅30メートルの大きな橋。
そう幣舞橋から見渡せる夕日は、世界三大夕日と言われているそうだ。海と川の境目にあるこの橋からは夕日が…太陽の輪郭がはっきりと見える。
そして広大でかつ静かな水面は鏡のように夕日を反射させ、空も海もオレンジに染まった幻想的な景色が広がっている。
私は大きく息を吸ってから「良いですよー」とカップルに笑顔で言った。生ぬるい潮風が鼻に抜けた。
「はいチーズ!」夕日をバックに2人の写真を撮った。
「こんな感じで良いですかね?」と言って女の方にスマホを返した。
女は真剣にスマホを睨みつけた後「すごい…!背景全部オレンジ色!!ありがとうございます!」と嬉しそうに言った。
撮り直しにならなくて良かった。
カップルは手を繋ぎながら橋を後にした。
『あ、すみません。じゃあ私達も撮ってもらって良いですかね?』
今度は女3人組に声をかけられた。
その後、老夫婦、親子、外国人と立て続けに写真撮影を頼まれた。
橋の上でずっと1人でいるから周囲の観光客から、写真撮影してくれる優しい市民だと勘違いされてしまったようだ。
あーカナエのやつ、なんでこんな橋の真ん中を待ち合わせ場所にしたんだよ!てか来ないし!
約束の時間から40分は過ぎていた。
外国人の撮影を終えた後、また後ろから声をかけられた。
『すみません。私も一枚写真良いですか?』
あーもう我慢の限界。無理。
「ごめんなさい!私の善意はもう終わ…」と振り返りながら言いかけて、やめた。
「久しぶり未来ちゃん」
「か…」
10年ぶりに彼女に会った。
音が止まった。
潮風も止んだ。
一瞬、空間が無になった。
そして胸がドクンと大きく鳴った。
私の中で止まっていた何かが動き出した。
「カナエ…」
カナエは黒いマーメイドワンピースを着ていた。袖の部分はシースルー。
髪型はあの時の私達と同じボブカット。
あの頃とは違って圧倒的なオーラがカナエにはあった。さすが女優だ。通りすがる人達は全員一度カナエの方を見ている。
カナエはサングラスをゆっくり外し私のことを見つめた。
「38歳の未来ちゃん…。懐かしいな…。」と言ってカナエは目を細めた。カナエの瞳にはオレンジの夕日がゆらゆら写っていた。
私は何から話せば良いか分からず黙ってしまった。そんな私の戸惑った様子を察したカナエは
「未来ちゃんは何も変わってないね?そのボブの髪型も」と笑いながら言った。
「変わったよ」
「ふーん…冬馬さんと結婚できた?」
「できた。子供もいるよ。」
「えぇ!!こど…こども!?」と言ってカナエは視線を私の顔から私のお腹に移した。
「大丈夫。もう5歳だから。」
「良かった。それならもう大丈夫だ。」
「何が?」
私は眉を顰めた。
「未来ちゃんがタイムスリップしても大丈夫ってこと。」とカナエは橋の下のオレンジ色に輝く海を見つめながら言った。
はぁーまたコレだ。私はため息をついた。
「あんた28にもなって何言ってるの?私はタイムスリップしてないって10年前に手紙にも書いたよね?」
「手紙?あーアレね。」と言ってカナエは夕日の方を見てニヤニヤした。
「なんでカナエは….」
「28歳の未来ちゃんは!タイムスリップしない…でも、38歳の未来ちゃんは!タイムスリップして17歳の私に会うの!」とカナエは声を張って言った。
「は?」
私はカナエが何を言っているのか全く分からなかった。
「まぁタイムスリップしたら分かるよ。」と言ってカナエはバックから何かを取り出し私の手に渡した。
「何これ?」
それは、うさぎのストラップが付いた鍵だった。
「私の家の鍵!17の私に見せてあげて!」
「え、待ってカナエ!私全然話についていけてないんだけど」
「いやぁ…そう言われても。タイムスリップの方法をあの時教えてくれたの未来ちゃんだし…」
「いやだから…は?」
何かのドッキリかと疑った。それでも周りを見渡してもTV局らしき人も冬馬の姿もない。
10年ぶりの感動の再会が、なんだかシックリ来ない。カナエに会って“音が止まった”とか表現した5分前の自分を殴りたい。
「さぁ未来ちゃん!そろそろタイムスリップしてもらうよ!」と言ってカナエは屈伸を始めた。
「え、なんで屈伸?!」
「だってこれから海に落ちるし…」
あー意味わかんない。5歳の息子の方がまともに会話ができるぞ。頭がクラクラしてきた。
「カナエ1回、話を整理しよう!あそこの建物でも入ってさ!お茶しながら!」
私は左手で頭を押さえながら言った。
「未来ちゃん大丈夫だよ。これからいくらでもお話をする時間はあるから….」
そう言ってカナエは私のことを強く抱きしめ、体の重心を思い切り左に傾けた。
私から見て左は川…いや海だ。
「な…」
ドップゥンという水の音が鳴った。
水の冷たさによって一瞬で身体が硬直し息が出来なくなった。
川と海が混ざり合った水の中、そこにオレンジの夕日が溶け込む。
そこは生と死が入り混じった空間だった。
死は過去なのか未来なのか、生は過去なのか未来なのか、今まで考えたこともない思想が頭の中に突然流れ込んできた。
どうやら私はこれからタイムスリップをするようだ。
やっと覚悟が決まった。タイムスリップをして何をするかよく分からないが。
さぁ今は薄れる意識に身を委ねよう。
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「ねぇ…待ってるから」
「どこで?」
「未来でだよ。」
元々この作品のハッシュタグにSF付けてたんですよ(^-^)
あと4話くらいで完結です。この4話が私が1番描きたかったところです。最後までお付き合い宜しくお願い致します。
感動の再会はまだです笑




