7年後と10年後の未来
時間経過早いです。分かりづらいかもです!
高校生18歳の秋、私は一度死んだ。
「忍…良い?貴方の名前はね、“どんなに辛いことがあっても耐え忍べる子”になって欲しくて名付けたのよ」
そう言って母はトイレットペーパーで私の股を何度も何度も拭いた。
私は焦点が合わない目で母ではなく白い天井を見た。
視界が濁る。
18年見てきた天井は不気味な何かに感じた。ベットも部屋もクローゼットも私の知っているものじゃないように感じた。
ねぇ…お母さん私何の為に生まれてきたの?
ーやめてよその質問ー
私は何の為に…。
ー何回も言わせないでお兄ちゃんのためでしょー
ねぇ…お母さん…違うでしょ。
ーお母さんが死んだ後は忍が面倒をー
そしたら私の人生どうなっちゃうの?
ーもう全部諦めるしかないのよー
嫌…そんなの嫌…お母さん!
「お母さん!!!」
私は母の手を掴んだ。
その瞬間、自分が寝転がっていたベッドからポンと空気が溢れ出る音がした。その音と同時にぽっかりとベッドに穴が空いた。
「え?」
私は吸い込まれるように真っ暗闇へと落ちていった。
やだ…。
なんで…。
何で私は救われないの?。
嫌だ。お母さん。
お母さん。
「いやぁあああああああああ!!!!!…はぁ…はぁ…はぁ」
夢…夢だよね?良かった。
身体がブルっと震えた。信じられない量の寝汗をかいていた。そしてエアコンの冷たい風が追い打ちをかける。
部屋の明かりは真っ暗で隣からは寝息が聞こえた。
私は2人を起こさないようにそっとベッドから抜け出そうとした。パジャマが汗でグジョグジョで一刻も早く着替えたかった。
右足を床につき、膝に力を入れ立ちあがろうとした時、ベッドから“ギシッ”と大きな音が鳴った。
あー…これは…。
私は恐る恐る後ろを振り返った。
「ままぁ…?どうちたの?」
「あ…カナト…ごめん起こしちゃったね。」
カナトは目をこすりながら私のパジャマの裾を掴んだ。
私は着替えるのを諦めベッドに腰掛けカナトのことを抱き上げた。
「ままぁ、こあいゆめ、みたの?」
「んー見てないよ。心配してくれて有難う。」
私はカナトのおでこにキスをした。
「まま、なきなき、してるよ」
そう言ってカナトは小さな手を伸ばし私の頬を撫でた。
カナトの優しさと小さな手の温もりに涙が溢れた。
そして、そんな私達2人に覆い被さるように後ろから冬馬が抱きしめてきた。
「偉いぞカナト。誰かが泣き泣きしている時はな、ギューすることが大事なんだ。」
冬馬は眠気と闘いながら言った。
「ぱぱぁ苦しい!やだ!いやー!ぱぱ嫌い!」
カナトは冬馬の腕を力一杯振り解いた。そしてぐずり泣き出してしまった。そんなカナトの様子を見て冬馬は目をうるうるさせた。ちいかわ親子…本当に面倒臭い。
「ねぇ忍…俺もカナトも泣いちゃったからギューして」と言って冬馬とカナトは両手を広げた。
私はそんな2人のバカ親子に対して鼻で笑った。そして目一杯手を広げて2人のことを抱きしめた。
刑務所の生活を終えた3年後私と冬馬の間には男の子が産まれた。調理師の資格を取った次の日に妊娠が発覚した。お陰で喫茶店を開く夢はしばらく先になってしまった。
子供の名前はカナトと名付けた。
もちろん海野カナエから名前をいただいた。
カナトが産まれてから2年、私と冬馬は育児に追われた。
テレビで連日映し出される海野カナエを見ることもできないくらいだった。
まさか子供を育てることがこんなにも大変だとは思わなかった。でも、それと同時に育児がこんなにも幸せなものだとは思わなかった。
気づけば私は35歳になっていた。
カナトが産まれた時は、カナトの名前を呼ぶたびにカナエの顔が浮かんだ。でもカナトが2歳になった今はカナエの顔は浮かばなくなった。
当初は血眼になって追っていたテレビもSNSも全く見なくなっていた。
どうやら私は海野カナエの強火オタクを卒業できたようだ。
そして、慌ただしい日々は繰り返しに繰り返され、そこから更に3年が経った。
カナトは5歳になり私は38歳になった。
念願の喫茶店をオープンすることができた。
もちろんお金は私の風俗時代のヘソクリ。冬馬には頼りたくなかった。忙しいけど最高に充実した日々が私を襲った。
そして海野カナエの存在すらも完全に忘れてしまいそうになった頃、店の電話が鳴った。
「未来ちゃん…カナエだけど…今からタイムスリップしに行くよ」
10年ぶりに聞いた、カナエの「未来ちゃん」という声は何一つ変わっていなかった。
最近感想たくさん、嬉しい嬉しい




