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海野カナエの2年後




 「ルフィは2年修行して強くなったのに私は何も変わってないわ…」


 そう言って私は腰を動かし座る位置をずらした。久しぶりのフカフカのソファにお尻が対応していない。お尻がなんかゾマゾマする。


 「なに?刑務所で筋トレでもしとけば良かったじゃん」

 隣に座る冬馬はコーヒーを啜りながら言った。


 「無理だよあんなとこで。ただ時間が経つのをボーと待っているような場所だよ」


「ふーん…」



 私は傷害の罪で捕まって2年の実刑を受けた。


 谷村弁護士が付いてくれたのと、被害者の奥さんが情状酌量を求めてくれたのもあって短い刑期で済んだ。


 当時、マスコミは連日私のことを取り上げたそうだ。


 “阿部貞の再来”

 “風俗嬢の祈りと悲劇”

 “女の復讐”


 どれもセンスのないキャッチコピーだった。


 報道当初、世間は私を誹謗中傷する言葉で溢れ返っていたがある日を境に風向きがパタリと変わった。


 「結局週刊文春が書いてあることはどれくらい正しかったんだい?」


 冬馬はテレビのチャンネルを切り替えながら聞いてきた。


 「んー全部かな」


 「そうなんだ」

 そう言って冬馬は黙り込んだ。


 「あんたが罪悪感持たなくていいんだからね」


 冬馬はこちらに目線を合わせずゆっくり頷いた。


 テレビはワイドショーが流れていた。政治家が汚職したとか、俳優が浮気したとか、どっかの国にミサイルが落ちたとか、自分には関係ない世界が画面には映し出されていた。


 私達の間に沈黙が生まれた。そして、それを破るように


 「カナエは?」



 と私は言った。そう言ってから私は大きく息を吐き唾を飲み込んだ。私が気軽に出して良い名前じゃなかったことにすぐ気がついたからだ。


 私はあの日、カナエのためと言い聞かせて1人暴走してしまった。自分のためにあの男を半殺しにした。


 私は思わずソファの上で体育座りをし、頭を膝の下に埋めた。



 「元気だよ」と冬馬はあっけらかんに答えた。


 「そう…。最近会ったの?」


 「いや…最後に会ったのは2年前かな」


 え、それって…。


 「私と同じじゃん。」


 「君が事件を起こして以来あってないよ。カナエちゃん長野に引っ越したし。」


 「長野?それってなんで?もしかして私のせい?」


 「いや学校から退学を言い渡されたんだ。」


 「そんな…」

 私は目の奥が熱くなった。カナエが何よりも守ろうとした日常は…ダメだったのか。顔、膝下に埋めてて良かった。


 「まぁカナエちゃんはとっても元気だから安心しなよ」


 「連絡とってるの?」


 「いや、一切取ってないけど」


 「あ?」

 私は思わず膝から顔を上げて冬馬の方を見た。


 「なに?なんでカナエが元気って言い切れるのさ?なんとなくとかで言ってるんだったら殴るよ」


 「嫌だなぁ強火オタク。まぁ君はカナエちゃんのファン第一号だもんね」と言って冬馬はニヤニヤ笑った。


 「何が言いたいのよ」


 「ほらテレビ」と言って冬馬は右手でテレビの方を指差した。


 「え?」


 私は恐る恐る視線を冬馬の方からワイドショーが流れるテレビの方へ方向転換した。






 『今回の撮影で、印象に残ったことは、なんでしたか?』


 男のアナウンサーが画面に映し出された。映画の試写会イベントか何かだろう。右上のワイプには無理矢理口角を上げたコメンテーターが映し出されていた。


 まず童顔の若い男が質問に答えた。


 『今回はドッペルゲンガーをテーマにした映画だったので、本当の自分ともう一つの自分を演じ分けるとこが大変でしたね。その分やりがいも感じました。』


 印象的=大変なことなのか、どうでもいいことに突っかかりながらテレビを見た。



 『では今回主演を務めた海野さんは…』



 「え」

 私は顔をテレビに近づけた。



 『はい。演じるのは私1人ですが観客の皆さんに全くの別人と思われるように、仕草や目線の動かし方など細かく演じ分けさせていただきました。なので他の現場でも、その意識が引っ張られちゃって少し困りました』


 画面に映し出された女性はハニカミながらそう答えた。

 

 女性っていうか…いやこれ…。


 嘘でしょ。


 まさか、

 「カナエ…?」


 テロップには海野カナエ(20)と表示されていた。


 2年前に…最後に会った時のカナエとは何から何まで違っていた。


 大人になっていた。


 佇まいも見た目も。


 生まれて初めて真珠を見た時と同じ気持ちになった。


 白くて艶があって時間が止まったように静かに佇む宝石。


 ボブの髪はすっかり伸びてロングヘアになっていた。姿勢も前よりうんと良くなっていた。瞳はキラキラと輝いているが暖かさも同時に感じ取れた。


 あの時の、全てに絶望して怯えていた海野カナエはどこにもいなかった。


 2年で劇的な成長を遂げたのはルフィだけじゃなかったんだ。


 「今じゃ大女優の海野カナエ様だぞ」と冬馬は足を組み、私の様子をニヤニヤ覗きながら言った。コイツ隠していたな。私の反応楽しむために。




 『脚本の山口リホさんとは2年ぶりのタッグですね?』


 アナウンサーは隣の冬馬と同じようにニヤニヤしながら質問した。


 『えぇまぁ皆さんご存知の通り、山口リホが制作したドキュメンタリーから私の人生は大きく変わりました。今回、山口は監督ではなく脚本としてですが』


 カナエは少し困ったような表情をしながら答えた。


 『今じゃ日本のエンタメ界を支える2人になりましたね?』


 『まだまだです…。でも今回ギャラクシー賞を受賞出来たことは私達の今後の活動に大きく繋がると思います』



 「カナエ、女優になったんだ…。」


 私は力が抜けて何故か足が震えてしまった。あの子は本当に凄い強い子だったんだ。


 自分で未来を切り拓いたんだ。


  

 そしてアナウンサーが一呼吸おき、『さて!』と大きな声で言った。さっきとは打って変わって明るい口調に変化させた。


『続いての質問は、もし自分のドッペルゲンガーが本当に現れたらどうする!?ということで、海野さんは、もし!?自分にソックリな人が目の前に現れたらどうしますか?」



 私はその質問を聞いて面食らってしまった。それは画面に映るカナエも同じだった。


 カナエは少し黙って、下を少し見つめた。そしてにっこりと笑い顔を上げた。




 『自分にソックリな人と出会ったらプロポーズしようかな。似たもん同士幸せになるぞ…って。だって、わたし可愛いし。鏡使わなくても可愛い私見れるのって毎日最強じゃないですか」

  



 カナエはそう言ってカメラに向かって投げキッスをした。



 会場の溢れんばかりの歓声を受け女優海野カナエはニヤリと笑い再び投げキッスをした。





 



 



未来はONE PIECE詳しく知らない笑


番外編の読み切りでリホが作ったドキュメンタリーの話あげます。

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