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10年後に答え合わせだ

 



 読み終わったのと同時に手紙は風に乗って宙を高く舞った。オレンジ色の空に白い便箋が溶け込んでいった。

 

 私はその様子をただ眺めた。


 もうあの手紙を読み返す必要は無いと思ったからどうでも良かった。


 素足に埋まった砂はどんどん冷めていった。


 そして手紙が見えなくなった頃、隣から冬馬さんが声をかけてきた。



 「手紙なんて書いてあったの?」


 冬馬さんはそう質問したけど、特に答えは求めていなさそうだった。


 「んー未来ちゃんの愚痴かな」

 本当にただの愚痴だった。子供のように思いつきで書いた愚痴と言い訳だった。


 「愚痴ねぇ…。」

 そう言って冬馬さんは靴と靴下を手際よく脱いだ。


 「カナエちゃん、せっかく海来たんだし足元だけでもいいから入らない?」


 「うん!」


 私と冬馬さんは足首が浸かるくらいまで海に向かって歩みを進めた。



 「うわぁ冷たい!!」


 「あぁ本当だ!」


 私と冬馬さんは小学生みたいに海の冷たさを楽しんだ。


 「…まぁ忍も馬鹿だよなぁ」と言って冬馬さんは鼻を啜った。


 「なにが?」


 「タイムスリップしてきたなんて嘘ついたこと。カナエちゃんさ、本当は気づいていたでしょ?」


 冬馬さんは笑いながら私の方を見た。



 私も笑顔で冬馬さんを見返した。


 「未来ちゃんは嘘ついてないよ。」


 「え…?」

 冬馬さんの顔から笑顔が消えた。


 「未来ちゃんは本当にタイムスリップしてきたんだよ」


 「ごめん。ちょっとよく分からない。手紙には…」


 「この手紙を書いた未来ちゃんはまだタイムスリップしてないの!」


 私は冬馬さんの言葉を遮るように言った。


 “困惑”という2文字にピッタリな顔を冬馬さんはしていた。


 なんだかその顔が可笑しくて声を上げて笑ってしまった。


 私は右足を思い切り蹴り上げ飛沫を飛ばした。唇に海水が上がった。私は舌でペロリと舐めた。塩っぱい。


 そして肺にぱんぱんに空気を入れて叫んだ。






 「わぁーーーーー!!!ミーラーイ!!!!」






 オレンジ色の空を反射したオレンジ色の海が光り輝いていた。


 未来ちゃんの手紙を読んで全てが繋がった。



 本当だ。28歳の未来ちゃんはとんでもない悪女だ。全部ひっくり返した。



 会いたいよ未来ちゃん。


 会って沢山お話ししたい。


 馬鹿なことしたねって貴方のことを1発殴りたい。


 それで力一杯抱きしめたい。



 ありがとう。

 私の為に戦ってくれて。




 17歳。私は一生残る心の傷を負った。


 毎日寝る前は思い出して涙を流した。


 試験管を見ると身体が震えた。


 事件の話を不意に出されると体が硬直した。


 ネットの広告にレイプ系のものが流れるとトイレに駆け込んで吐いた。



 何をもって前と後ろを定義しているか分からないけど私は前にも後ろにも歩けている。


 これから選ぶ道に正解もハズレもないんだ。選べる権利があれば、選んだ道を正解にするように歩き続ければ良い。



 そして10年後、また会おうね未来ちゃん。



 私が選んだ正解の道を見せてあげる。





 



 

 


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