教師と未来⑥ー死の恐怖ー
ドアの向こうから2.3人の足音がする。
きっとそのうちの1人は冬馬だ。
ドアから1番最初に入ってきたのは女の刑事さんだった。
刑事さんは現場を見て一瞬固まったが、すぐに状況を理解した。
「三上さんですね…。」そう言って男から私を引き離しバスローブを私の体に巻いてくれた。そしてベッドの端に座るように指示した。
私はゆっくりベッドに座った。
次に部屋に入ってきたのは冬馬だった。
冬馬は一瞬私の方を見て、すぐに目を逸らした。
そして冬馬は先生の方に駆け寄った。先生の腕から脈を図った。
「すみません…冬馬さんご遺体には…」
「死んでない!俺は医者だ!!」
「えぇ…死んでない!?」
刑事さんの声が裏返った。
私は虚な目で冬馬を見た。
冬馬は最初に先生の足に浸かっている真っ赤な桶を見た。そして桶から足を抜き、血の出所を確認した。
「どこからも出血していない」
「えぇ…」
と刑事さんは顔が真っ青になった。
「絵の具かなお嬢さん」と中年刑事は私のバッグから赤い絵の具を取り出した。
「そうです…。」
「どうしてこんなことを…!」女の刑事さんは涙目になって私に聞いた。
「レイプってね…無理矢理、性行為をされるだけじゃないの。殺されるかもしれないって命が脅威に落とされるの。あの人にはそれを理解して欲しかった…。」
冬馬は私の方を振り返らず先生の怪我の手当てを続けた。肩が震えていた。泣いてるんだな。バカ。
私もつられて涙が溢れた。
そして私は両腕を女の刑事さんに差し出した。
「でもカッターで先生のお腹小突いて、ちんこギタギタにしゃった。」
女の刑事さんは黙って手錠を取り出し、私の片腕にかけた。
「もう片方は良いんですか?」
「服着てください…三上さん…」
「あ、あぁ…そうですね。」
刑事さんが私の服を拾い集めてベッドの上に置いてくれた。私はゆっくりと服を着た。
「冬馬さんご協力ありがと。救急車ついたみたいだから、もう大丈夫だよ。」
「あぁ…はい。応急処置は終わりました。腹の傷も大したことありません。画鋲が刺さった程度です。ただ…」
「ただ?」
「ペニスの方はもうダメかと」
「そうですか…」
私は内心、ざまぁみろと小躍りしそうになった。
その後刑事さんに手錠を両腕にかけられた。
意外と手錠って重たいし、痛い。
「あぁ待て…。下に報道陣いるわ。お姉ちゃんこれ被ってきな」と言って中年刑事は私の頭にバスローブをかけてくれた。
「ありがとうございます…」
私は女刑事さんに肩を抱かれゆっくりベッドから立ち上がった。
「しのぶ…」
冬馬が後ろから私のことを抱きしめた。
冬馬の手は暖かかった。
「ごめんね…冬馬。私ね幸せに生きれないみたい」
「大丈夫…。忍が幸せに生きれなくても俺が忍のそばに居て幸せにさせるから…」
冬馬は力を入れて私のことを抱きしめた。少し苦しいくらいだ。
「まだ私のこと待つってこと?」
私は後ろを振り返った。
「俺は10年君を待った男だぞ。5年も10年も変わらないよ」
そう言ってから冬馬とキスをした。子供がするみたいな軽いキス。
これが最後のキスにならないことを少し願った自分が馬鹿らしい。
女の刑事さんは顔が真っ赤になっていた。
全てが終わった。
私の復讐はこれで終わり。
あぁ…カナエに会いたい。
でも、もう私はカナエに会えないなぁ。
私の知らない遠いどこかで幸せになってほしい。
私は刑事さんに連れられて、部屋を後にしようとした。
その時だった。
刑事さんが開けようと思った扉が勢いよく開いた。刑事さんも私も呆気に取られて動けなかった。
綺麗なボブカットの女が私の目の前を横切った。
タバコを吸いながら外を確認する中年刑事も、傷の手当をしていた冬馬もその女に気付くのが一歩遅かった。
女は何の躊躇いもなく、先生に向かって包丁を胸に振りかざした。




