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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第四章

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第67話

 栄光警備の日常が戻りつつある中、新たな日常に進路が切り替わりつつある人間もいた。言わずもがな、俺と美沙だ。

 静香から探索者チーム結成の話を聞かされた翌日から、俺達はしばらく霧ヶ峰ホールディングスへの出向を余儀なくされた。

 制服の試着やPVの撮影、メンバー紹介ページに載せるインタビュー、雑誌やテレビの取材等なかなかに多忙な毎日を過ごしている。

 今日は新品の制服を着てスタジオでPV用の撮影をしながら必要な書類に署名捺印だ。氷谷先生の授業は本日お休みなので、テイムモンスター達も写真を撮る事になっている。梨々香も社会見学がてらついて来ている。



「じゃあ、高坂さん。狐のお面を外してくださ〜い。……はい、OKで〜す」


 霧ヶ峰ホールディングス東京本社から出向している広報課の女性社員の指示で、さっきから俺は短い挙動の動画を撮られ続けている。

 剣を抜いたりバックステップしたり、下を向いた状態から前を向いたり……とにかく指示が細かくて短い。



「……こんなので動画なんて作れるんですか? さっきからゲームのモーションみたいな短い動作ばっかですけど……」


「もちろんです、素材さえあれば一日で出来ますよ。じゃ、動画班から貰ったリスト分の収録は終わりましたんで失礼しま〜す。霧ヶ峰ホールディングス広報課の編集力をお楽しみに〜」



 女性社員は手をひらひらと振ってスタジオから退出する。俺の撮影は終わったが、美沙やテイムモンスターの撮影はまだ終わってない。

 美沙は最初適当でいいと乗り気ではなかったが、「もしこの宣材を好きな人が見るとしても、適当で済ませていいんですか?」と撮影班が煽った結果、美沙の魂に火がついてしまった。

 美沙は最高の映えを求めてミリ単位の調整を何度も要求し、もはやブラック現場と化している。

 時折「もっと熱くなれよ!」とか「諦めんなよお前!」などと、どこぞのテニスプレーヤーみたいな激励の言葉まで飛んでいる。

 早いとこ解放してやって欲しい、みんなげんなりしてるぞ。



 そんなピリピリしている美沙の撮影ブースと違って、和気あいあいと楽しそうなのが一桜達テイムモンスターの撮影部隊だ。

 今やっている事も、カメラで撮られた映像が何に使われる物なのかもイマイチ分かってない一桜達は撮影クルーに求められるままポーズを取っている。

 一番人気はヒロシマ・レッドキャップ……かと思いきや、タゴサクとケラマだった。

 かわいい二足歩行の柴犬とぷにぷにのスライムの仲良しコンビが癒し効果抜群だったのか、一杯なでられたりおやつをもらったりしている。



 ただの社会見学のつもりだった梨々香も、静香がデザインしたドレスを着せられて慌てている。かわいい。

 写真……はプロが撮っているだろうから、後でデータをこっちにも回してもらおう。額縁が必要だな。



「高坂氏、どうやら撮影が済んだようで何よりですぞ。慣れない撮影だったと思いますが、大丈夫ですかな?」



 テーブルに置いてある紙パックのオレンジジュースのストローを刺していると、背後から静香に声を掛けられた。

 この撮影スタジオは霧ヶ峰ホールディングス中四国ディストリクト統括営業所のあるビルの十階なので、静香からすれば仕事の合間に様子を見に来た感覚だろう。



「ああ、大丈夫だ。とりあえず写真撮って貰えたのは良かったよ」


「おや、高坂氏は写真を撮られるの嫌いなタチかと思いましたが……?」


「いや、好きじゃない。だが遺影に出来そうだからな」


「遺影って……縁起でもない事を言わないで欲しいですぞ、これからバリバリ働いて頂かなければならないんですからな」



 静香が少し引き気味にツッコミを入れる。俺としては割と本心だったんだけどな。

 この歳にもなると、なかなか自分の写真を撮る機会が無くなる。それも当然の話だ、何が悲しくて中年男性の自撮りをスマホに残さなければならないのか。

 そして悲しい話だが、アラフォー・アラフィフと歳を重ねていけば動脈硬化や脳溢血等、予期せぬ病気で唐突に死ぬリスクが高くなる。循環器系のサイレントキラーが背後に忍び寄ってくるのだ。

 いきなりオダブツとなったら遺影にする写真が無い。そうなると、社員証や免許証の写真を引き延ばして使ったりする事も珍しくはないが……あまり良い写真とは言い難い。

 そう考えると、こうしてちゃんとした写真を撮ってもらえるのはありがたい。



「俺も若くないからな、いつ病気や怪我で死ぬか分からないと考えたら、ないよりあった方がいいだろ。中年男性は静香が思っているよりもずっと儚くて脆い生き物なんだよ」


「そんな六日目のセミみたいな事を言われても困ってしまいますな……それに遺影になりそうな写真ならどうせ雪ヶ原氏が嫌ってくらい盗撮……いえ、何でもないですぞ。ちなみに撮影は大変でしたかな?」



 唐突に話を変えたが分かっている。俺のプライバシーなんて物はアリオンモールであかりを助けた時に消し飛んでしまった、中年男性の命よりも儚く脆い存在だ。

 あかりの手元には俺のどんな写真が集められているのか……想像するだけで恐ろしい。

 それはそれとして、撮影自体は先ほどのように指定されたポーズを撮るだけで、ほとんど喋ったりもしなかったので非常に簡単だった。

 俺は静香に撮影の塩梅を伝え、疑問であった部分を尋ねる。



「ああ、俺は短い動画を小分けに撮っただけだからな。そんなに大変じゃなかったよ。だが……あんなので本当にPVになるのか?」


「逆に何の演技経験もない一般人を長尺で撮ったって使い所が無いですぞ。スポーツ選手が不自然な棒読みと取ってつけたような謎ポーズをやらされるCMを見た事ありませんかな? あんな感じになりますぞ」



 俺の脳裏に昨日テレビで見た銀行の定期預金のCMが浮かんだ。

 ユニフォームを着せられ、ボールを持たされて、棒読みでセリフを喋る野球選手の姿に俺を重ねて想像してしまい、胃もたれに近い感覚に苛まれた。



「それは……確かに嫌だな」


「なので収録を細切れにした訳ですな。当面の間は撮影やインタビューなんかの軽めの広報を織り交ぜてメディア耐性をつけて頂いて、人前に出ても平気でいられるよう訓練してもらいますぞ。以前の記者会見のデータを拝見しましたが、月ヶ瀬氏はともかく高坂氏はボロボロでしたからな」



 以前の記者会見と言うと、ラピスを倒した時の特例甲種の授与式後のアレだろうか?

 正直言って、当時の記憶がほとんどない。うっすら覚えている程度なので、相当緊張していたと思う。

 めちゃくちゃ汗をかいたのは覚えている。あと、美沙が記者と口喧嘩した事くらいか。



 しかし、人前に出る事はいくらやっても慣れそうにない気がする。

 ただの小市民なんだから当然とも言えるが、本来警備員なんて職業はメディアから取材される事も大勢の前で自分の考えを話す事もそうそうない。あるはずがない。

 イベント警備等で参集した人々に対して通行の指示をしたりする事はあるが、それとこれとは話が違う。

 いっそクソ度胸の付くパッシブスキルでも生やしてくれたら楽なのに、肝心な所でトーカは何もしてくれない。



《チキンで惰弱な管理者:高坂渉に忠告します。スキルシステムの改変を悪だとは申しませんが、過信するのも考え物です。心の強さを自分以外の何かに任せていると、いざと言う時に自力で立てなくなります。慣れる努力をしましょう》



 脳内にトーカの声が響く。

 テイムモンスターの集まっている区画に目をやると、いつの間にかメイド服に身を包んだトーカがいつもの無表情のままでこちらにピースサインをしていた。

 皮肉屋の中身を全く反映していない清楚で可愛らしい容姿にクラシカルなメイド服がこれ以上無く似合っている……なんだか無性に腹が立つ。くるっと回るな、スカートがふんわり舞う事でさらに可愛くなって二倍腹が立つ。

 とは言え、トーカの諫言もまた事実だ。何でもかんでも便利な物に頼りきりになるのは考え物だ。

 ケータイの登場で電話番号を覚えられなくなったように、パソコンやスマホのお陰で読めはするが書けない漢字が大量に増えたように、原初の種子やスキルシステムに依存するようになったら人として大事な物を失うような気がする。



(……でもお前、呉のゴーレム戦あたりでやたら新規スキルを推してなかったか? ダブルスタンダードか?)



 俺が疑問を呈すると、トーカはそっぽを向いて撮影の方に意識を向けた。逃げやがったな。

 俺は静香との会話に戻る事にした。



「……分かった、とりあえず当面はそれでいい。警備員の仕事の方は?」


「出来ればしばらくお休みを頂いた方がよろしいかと。栄光警備の方は今の所人手が足りているとの事でしたので、月ヶ瀬氏と一緒にお休みにするよう具申しておりますぞ」


「そうか、分かった。……ところで、そのメディア耐性を付けるための訓練はいつから?」


「とりあえず来週、新規チーム立ち上げの記者会見をやりますんでそこからですな。一言二言もらうつもりではおりますが、野球のヒーローインタビュー程度に思ってもらったらよろしいかと。東洋鉱業の装備を忘れないようにお願いしますぞ。……月ヶ瀬氏ー!? あんまりうちの撮影班を困らせないでいただけませんかー!? 死相が滲み出ててもはやゾンビですぞー!?」



 静香は俺との話は終わりとばかりに、撮影班を困らせている美沙の仲裁に向かった。

 もはや途中から理不尽な事ばかり持ちかけて来るブラック企業みたいな感じになっていたので、撮影班にとっては救いの手となっただろう。

 俺はオレンジジュースの紙パックを握り潰すようにしながら飲み干し、賑やかな撮影ブースを眺めていた。



 § § §



 そんな騒がしい撮影のあった翌週。

 ヒロシマピースレイドへの参加の準備も含めてそこそこ忙しい毎日を送っていたが、俺と美沙は事前に聞いていた記者会見に参加する為に霧ヶ峰ホールディングスのビルを訪れた。

 今日は二階の大会議室をフルに使った記者会見だが……思ったよりも大々的だ。

 俺達が座るであろう椅子の背後には、記者会見にありがちな会社のロゴや広島サンブリンガーズのマークが描かれた市松模様のパネルが置かれている。本格的……と言ったら失礼か。

 来場者用に設置された椅子の数もかなり多いし、会場入口の受付に用意された入場許可証もかなりの枚数が用意されている。

 これだけしっかりしたセッティングをしていると言う事は事前に様々なメディアに声をかけているはずだが……一週間で出来るような簡単な話ではないはずだ。いつから計画してたんだ?



「渉さん、そろそろ準備しないと打ち合わせに間に合わないっスよ」


「ああ、悪い。今行く」



 俺は忙しそうに行き交うスタッフの合間を縫うようにして控室に向かい、制服に着替えてからスタッフを交えての打ち合わせに参加した。静香はまだ来ていない。

 今日発表するのは霧ヶ峰ホールディングスが探索者チームを結成する事、そのメンバーがドラゴン討伐の立役者である美沙とこれまで正体不明だった謎のテイマーナイト「アノニマス・フォックス」の中の人である俺である事。

 さらにはイメージキャラクター兼応援団長に今をときめくアイドルグループVoyageRのリーダー、幸村灯里が就任する事だ。



 チーム関係者と応援団長が顔見知りどころか同じマンションに住んでいて、普通に飯を食う仲である事は当然秘密だ。

 恋人の美沙はともかく、他はあまり面識がない体で話を進めなければならない。

 今日は別の仕事の兼ね合いで会見に出席出来なかったあかりが大人しくしてくれればいいんだが……俺達の預かり知らぬ所で変な爆弾発言をぶっ込んだりしないよな?



 一応スタッフから台本的な紙を一枚渡されたが、こんなのはあってないような物だ。

 自己紹介や意気込みの例文は載っているが、質問タイムの想定問答集は無い。素人に好き勝手喋らせていいのか?

 美沙に渡された紙も確認させてもらったが、やはり大した事は書いていない。好きにしろって事だろうか……? 静香は何を考えてるんだ?



「多分、そんなにあたし達に喋らせる時間を取らないタイプじゃない記者会見なんじゃないスか? お披露目程度って感じの」


「うーん……その割には会場の規模が結構仰々しいんだよな……美沙の言うようにお披露目程度で済めばいいが……」


「だって全国規模の大企業、霧ヶ峰ホールディングスの探索者チームっスよ? 真面目に記者会見やるならこんなペライチの紙切れじゃなくて、原稿用紙数十枚分くらいの台本を事前に渡されるはずっスよ。こんなんアドリブでやれって言ってるようなモンじゃないっスか」



 手元の紙をピラピラと振りながら美沙が不満を漏らす。美沙の発言はもっともの話で、あまりにも台本が適当すぎるのだ。



「だよなぁ……ちょっとこれはなぁ」


「考えられるのはあたし達に喋らせるつもりがないか、記者が全員雪ヶ原の人間だから何喋っても表に出ないってな所だと思いますけどね……ま、やれるだけやってみましょ」



 もはや諦めたと言わんばかりに深いため息をつきながら、美沙は舞台袖のように身を隠せるよう立てられた衝立の裏でスマホをいじり始めた。

 やがて静香と霧谷さんと初対面の壮年男性がやって来て、本日の会見出席者が揃った。

 挨拶を交わして自己紹介をするが、この男性は中四国管区の統括支部長の児玉さんとの事だった。霧ヶ峰の分家でない事に少し驚いた。

 栄光警備の監督・監査も主に児玉さんが行うらしいので、今後会う機会もそこそこあるだろう。懇ろに社交辞令を織り交ぜながら話をしていると、記者会見開始の時間になった。

 ステージの端のマイクスタンドの前に本日の司会進行を務める女性社員が立ち……あれ? あの人俺の撮影を担当した人じゃないか?

 あの時は随分とのんびりした喋り方だったが、司会なんて出来るのか?



「皆様、本日はお忙しい中、霧ヶ峰ホールディングス探索者チーム結成の記者会見にご足労頂きまして、誠にありがとうございます。定刻になりましたので、始めさせて頂きます。それでは、弊社CEOの霧ヶ峰静香、並びに中四国ディストリクト統括支部長の児玉靖より皆様にご挨拶を申し上げます」



 会場のスピーカーから女性の聞き取りやすい声が流れて、静香と児玉さんが舞台袖から出て行った。……なんだ、普通の喋り方も出来るのか。心配は不要だったな。

 ステージ上で静香や児玉さんが挨拶をして、チーム結成の経緯やあかりが応援団長に就任する件を説明した後、ついに俺達の出番となった。

 正直二人の話はほとんど覚えていない。手のひらに人の字を書いて飲み込むので手一杯だったからだ。ただ、あかりの話が出た時会場が騒がしくなったのはギリギリ覚えている。



「それでは、霧ヶ峰ホールディングス広島サンブリンガーズの所属探索者をご紹介します。高坂渉、月ヶ瀬美沙です。どうぞ!」



 司会のセリフに合わせてオーケストラや合唱が混じったヘビメタ然としたBGMが流れる。これアレだ、シンフォニックメタルだ。嶋原さんが好きな奴だ。

 まるで中ボスでも現れそうな雰囲気の中、俺が先に舞台袖から出て壇上に上がる。

 美沙も続いて会場入りすると、カメラのフラッシュがもたらす光の洪水に溺れそうになる。眩しすぎて前が見えない。

 俺はなるべく光を直視しないようにしながら移動して、静香と児玉さんの間に立つ。

 美沙も俺の横に立ち、記者席の方を見ているが……その表情をチラッと見ると、能面の様に無表情だった。

 そういえば、以前の特例甲種の会見の時もこんな感じだったな。嶋原さんが前に言ってた「美沙は俺以外には塩対応」の行き着く先がこの無表情なんだろうか?

 そんな事を考えていたら、勇壮なBGMが止まった。えーと、こっから先は……ああ、そうだ。BGMが止まったら俺から先に自己紹介するんだったか。



「ご紹介に預かりました、霧ヶ峰ホールディングス広島サンブリンガーズに所属する事になりました高坂渉です。普段は栄光警備株式会社にて各種警備業務に従事しています」



 よし、噛まずに言えたぞ。心の中で胸を撫で下ろしていると、美沙が続いて自己紹介をする。



「同じく、霧ヶ峰ホールディングス広島サンブリンガーズに所属する事になりました、月ヶ瀬美沙です。高坂同様、栄光警備株式会社にて五号警備を主軸に警備業務に従事しております」



 美沙は全く物怖じせず、極めて平静に自己紹介を終えた。やはり凄い胆力だ、とても羨ましい。

 俺達の自己紹介の後、少しだけ記者席がざわついた。無理もない、あの殺人事件からまだ一ヶ月と少ししか経っていない。記憶が風化するにはまだまだかかる。

 そんな会場の空気を無視して、司会の女性が話を進める。



「月ヶ瀬は半年前に広島高速三号線に襲来したドラゴン討伐の功労者で、探索者協会より国内で唯一、特例甲種探索者として認定されました。高坂は同様に特例甲種探索者の認定を受け、さらに呉におけるダンジョン・ゴーレム討伐において大きな貢献を果たし、綺羅星の如く突如現れその後全く姿を見せなかった謎のテイマーナイト『アノニマス・フォックス』として、マリンフォートレス坂のみならずネットを大いに騒がせた張本人でもあります」



 司会の女性による俺達の経歴紹介に、会場内が一際どよめいた。

 特に大きな反応を見せたのは探索者界隈の情報誌であるシーカーズ・フィールドを刊行している出版社、長崎書房の記者だ。

 男女一名ずつで臨席しており、男の方は大きく目を見開いて俺をガン見しているし、女の方は鬼気迫る表情でスマホを操作している。

 シーカーズ・フィールドは結婚情報誌や住宅情報誌の地方版のような作りになっており、コアとなる特集以外はそれぞれの地方ごとのダンジョン情報を掲載している古参の探索者情報誌だ。

 スタジアムでの対人戦や対人戦興行団体であるエクシード・ブレイブ関連の話題にも結構な誌面を割いていて、俺の事を何度か取り上げているのを見た事がある。

 これまで結構な頻度でアノニマス・フォックスへの取材申し込みが来ているとエクシード・ブレイブから連絡があったが、今まで丁重にお断りしていた。

 一度受けたら申し込みが増えるだろうし、他の取材も受けなくてはならなくなると思って断っていた訳だが……もしかしてあの男性記者、ずっと取材を申し入れてた張本人なんじゃないか?



「皆様、気になる点も多々あると思いますが、後程質疑応答の時間を設けますので、今しばらくご清聴頂きますようお願いいたします」



 いつまでも騒然としたままの記者席のお歴々を黙らせる為に司会の女性が注意する。少しばかり時間はかかったが、落ち着きを取り戻した会場が静かになった。

 記者会見の進行が再開したが、薄っぺらい台本を渡された理由については美沙の予想が当たった。

 説明するのは静香や児玉さんの仕事だった。俺達は特に喋る事がない。時折話を振られては「そうですね」とか「しっかり頑張っていきたいと思います」などと答える程度だった。

 しかしそんなイージーモードも長くは続かなかった。とても気分の重い質疑応答の時間がやって来た。



「それでは質疑応答に移りたいと思います。ご質問のある方は手を挙げて頂き、スタッフがマイクをお渡ししますので所属とお名前の発表の後、質問をお願いします。……はい、ではそちらの男性」



 司会が指名したのは、さっきからずっとこっちを見続けている男性記者だ。誰よりもピンと背筋と手を上に伸ばしている。その本気さが怖い。

 スタッフからマイクを渡された男性記者が、俺から視線を外さずに質問する。



「長崎書房の佐原と申します、高坂さんに質問です。アノニマス・フォックスの正体が高坂さんであるとの事ですが、これは本当でしょうか?」



 やはりそこを聞いてくるか。静香に目配せすると、軽く頷いている。好きに回答してもいいって事だろうか。



「その通りです。……と言っても、言葉では信用出来ないでしょうから……召喚!」



 俺はあらかじめ用意していた一桜とケラマとタゴサクとラピス……マリンフォートレス坂で共に戦った四体を召喚した。

 壇上に四体のテイムモンスターが現れると、凄まじい勢いでフラッシュが焚かれた。

 一桜とタゴサクは眩しそうにしているが、ラピスは止まない閃光の中で自信たっぷりに胸を張っている……やはりラピスは度胸が据わっている。ケラマはいつも通りタゴサクの頭上でぷるぷるしている。



「……とまあ、こんな感じです。一桜達に近い子は探せばいるかも知れませんが、ラピスは特別なんで間違えようがないと思います」


「わざわざありがとうございます。高坂さん達は今後、エクシード・ブレイブやその他団体が主催する対人戦の興業に参戦する予定はありますか?」



 この質問は……どうだろうな。正直な所、対人戦どころじゃないと言うのが本音だ。

 以前月島君と出場したのは止むに止まれぬ事情があったからで、別に声援を受けながら戦いたいって欲求がある訳じゃない。

 そもそもこのチーム自体はダンジョンに潜る為のチームであって、対人戦を行う為のチームじゃない。どうにも返答に困るな。



「前提として、広島サンブリンガーズはダンジョン・アタックに主軸を置くチームになると聞いています。俺……いや、私自身、五号警備を含めてダンジョンでの活動が主になると思います。それ以外の事は、今は考えられないと言うか……」



 俺が静香の方をチラッと見ると、助け舟を出すように回答を引き継いでくれた。



「広島サンブリンガーズ所属の社員は、当面の間ダンジョンでの活動に専従する事になります。当社で把握していない活動に参加した結果、本業に支障が出る……などといった事態になると困ります。ですので、取材の申し込みを含めた社員へのオファーは専用の窓口を通して頂き、当人を含めたチーム全体で勘案し、お受けするかどうかを判断します」


「なるほど……ご回答頂きまして、ありがとうございました」



 佐原記者がマイクをスタッフに返したのを確認し、俺は一桜達を送還した。場所をとってしまうからな。

 時同じくして、司会の女性が次の質問を募った。



「それでは次の質問に移ります。質問のある方は挙手を──」



 それからは広島のローカルメディアや経済専門誌、ネットニュースサイトと言ったバラエティに富んだ記者勢が質問していった。

 俺達への質問も多少あったが、静香に対する質問が多かった。

 内容としては活動は広島のみに限定するのか? 他チームと合同でダンジョン・アタックに臨む事はあるのか? 現時点での目標は何かあるのか? といった感じだ。

 静香の回答は「それらを含めてこれから方針を決める」との事だった。今決まってるのはヒロシマピースレイドに参加するって事だけだもんな。



 何故あかりが広島サンブリンガーズの応援団長に就任したのか? と言う問いもあったが、それに関しては「高坂に命を救われた恩があり、それに報いる為と聞いている」などと返答していた。

 まさかアリオンモールでの件をうまいこと使われるとは思わなかったので、ギョッとしてしまった。

 俺からも「アリオンモールでイベント警備をしていた時に幸村さんが襲われているのを助けたが、業務上必要な措置であり、恩に着せたつもりは全くなかったので今回の件については驚いている」と付け加えておいた。



 氷のような無表情を貫いていた美沙にはほとんど質問が来なかったが、終了間際に探索者向けファッション誌の記者から放り込まれた「月ヶ瀬さんと高坂さんとのご関係は?」と言う質問に対して、やや食い気味に「夫婦です」と答えていた。

 急いで割り込んで「まだ結婚してません、恋人関係です」と訂正すると、美沙が俺の顔を見ながらとてもいい笑顔を浮かべていた。こいつ、記者をダシにして俺に関係性を公表させたな!?



「すみません、時間が押しているのでお惚気はそのあたりにしていただいて……」



 司会の女性からツッコミが入り、あちこちから失笑が漏れた。これまでどうにか平静を保ってきたが、もう限界だ。恥ずかしくて仕方がない。

 時間が押しているのは事実だったようで、この直後記者会見の終了が伝えられた。正直ホッとした。

 俺は顔を記者席から隠すように背中を向け、衝立の裏に引っ込み、控室へと退散していくのだった。

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