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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第三章

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第56話

「「……おお」」



 俺と空也さんから驚愕の声が漏れ出た。俺の突き出した拳が空也さんを捉え……はしなかったが、微妙にかすったからだ。

 今は黒い水から逃げる修行をクリアして三日目、彼岸の神棚で空也さんと絶賛空中バトル中だ。

 二日目も相当頑張ったが、姿勢の制御が上手く行かずに惨敗した。とは言え、かなり惜しい所まで来ていた。

 そして今日、ついに俺の拳が空也さんに届いた。……まあ、そうは言っても空也さんはめちゃくちゃ手加減しているんだろうけれども。



「いやー……まだ三日目なのに、こんな早く当たるとは思ってなかったよ。びっくりびっくり」


「俺もまさかって感じです。……まぐれ当たりですかね?」


「まぐれ当たりも当たりのうちだよ。空中での姿勢制御も様になってきたし、命中するのは時間の問題かなと思ってたけど……うん、合格って事にしとこう」



 うんうんと頷く空也さんの身体が光ったかと思うと、その姿は引き締まったシャープなイケメンからいつもの可愛らしい少年の姿に戻った。

 見た目はイケメンの方が強そうなのに、強者の気配はこっちの姿の方が圧倒的に濃いのだからバグってるとしか思えない。

 そんな不思議少年が俺に向き直り、改めて尋ねる。



「で、どうかな? ここに来てもうすぐ二週間になるよね。非現実的な体験を沢山してきたけど、少しは自身の可能性を広げられたかな?」


「そうですね、この感覚……ユーバーセンスを原初の種子が宿った肉体で使えたら、もしかしたら現実でも空だって飛べるんじゃないかと思います」


「実際、それくらいはもう出来るんじゃないかと思うよ。君は何だって出来るよ、壁を走って空を飛んで、僕に一撃入れたんだから。じゃ、残りの時間は応用編だ。自身に流れる時間を高速化させて絶え間なく降り注ぐ例の黒い液体の雨を避け続ける修行にしようか……うん?」



 何やら物騒な提案をしようとしていた空也さんだったが、山の中を爆走する何かを見つけて怪訝そうに首をかしげた。

 俺もそちらに目をやると、それはまるでスピード特化型の魔物のように土煙を上げながら、とんでもない速さで猛ダッシュしている美沙だった。

 美沙は今朝方あかりから伝書鳩が至急連絡するよう書かれた手紙を受け取ったらしく、俺達が彼岸の神棚で組み手をしている間に麓に降りて電話してくるとの事だった。

 今時伝書鳩なんて……と笑いそうになるが、ところがどっこい。この御山に限っては伝書鳩は一番早い通信手段だ。



 御山はダンジョンと似たような性質を持っており、ダンジョンの中は基本的に電波は通る。なので、本来であればスマホが使えるはずだ。

 しかしここはただでさえ電波の入りにくい広島の山間地……さらには基地局も建っていないような異界の奥の奥だ。スマホに電波が届くはずもない。

 なので、一旦電波が入る所まで移動しなければ電話は出来ない。シーカーズも当然モバイルデータ通信を使用するアプリなので、ここではメッセージやSNSの確認も出来ない訳だ。

 とは言え、出発時の美沙は軽いジョギングくらいの感覚で出発したのに、あんなに急いで戻ってくるなんて……一体何があったんだろうか?

 美沙は彼岸の神棚の横に着くやいなや、抜け殻の方ではなく空中に浮いている俺達に向かって両手をブンブン振りながら大声を張り上げた。



「父上ーーー!! 渉さーーーん!!! 中止ですーーー!! 修行! 一旦中止ーーーーー!!」



 俺と空也さんは顔を見合わせたが、どちらからともなく頷き、俺達は自分の身体へと戻る事にした。



 § § §



 体に戻ると既に命綱は外され、俺は美沙に抱きかかえられていた。しっかりと腕が回されているのは落ちないための措置だろうが、十中八九どさくさに紛れてイチャつきたい気持ちが混ざっていると思われる。



「で、みーちゃん? 何で中止させたの?」



 さっさと命綱を外した空也さんが美沙に尋ねた。やや目つきが険しいのは美沙の下心を見透かしているからかも知れない。



「雪ヶ原さんから連絡がありました。……迷救会が動き出したそうです。それも最悪の形で」


「最悪の形?」


「渉さん、先に言っときます。決して怒らないでください。事情を聞きましたが、霧ヶ峰さんや雪ヶ原さんの落ち度ではないっス。あたしがしゃーないわって思うレベルの事が起きてます」



 前置きがやたらと物々しいが、了承しないと話が進まないので頷いておく。



「……話の内容にもよるが……まあ、いいだろう。何があった?」


「梨々香さんが入院している医療施設に迷救会……と言うよりも、求道聖蘭含む数人の教団関係者が侵入、梨々香さんの身柄を攫って廿日市にある教団本部に立てこもっています」



 いきなりの梨々香誘拐の報を受けて、足元が抜けたような絶望感と共に頭の芯から燃え上がるような怒りが込み上げて来た。

 別にあかりや静香に対して怒っている訳じゃない。誘拐なんて非合法な行動をいきなり取ってくる迷救会に、そして何も出来なかった俺に対して怒りが収まらない。

 


「発覚したのは昨晩の事っス。雪ヶ原の監視役が定時交代を行おうとすると梨々香さんは不在、医療施設内部の防犯カメラには何も映っていませんでしたが、雪ヶ原の偵察部隊が隠すように設置していた監視カメラの映像から迷救会の襲撃が発覚しました」



 こんな事にならないための……梨々香を危険な目に遭わせないための修行だったはずが、蓋を開けてみたらこのザマだ。情けない。

 あかりや静香もまさか敵の最大戦力兼トップが出張って来るとは思ってなかったのだろう。それはしょうがない。

 しかし、俺がこんな山奥で必死になって修行しなくてもいいくらい柔軟な想像力だったら、もっと早く行動出来ていたはずだ。

 例えば俺が単身で迷救会にカチコミをかける事も可能だったはずだ。俺がダメな兄貴なせいで、梨々香に辛い思いをさせてしまった。



「施設関係者はスキル由来の催眠状態になっており、施設内にいた雪ヶ原の人間は催眠状態にはなかったものの『今日は特に何も起きていない』と証言してて、恐らく求道聖蘭の能力によって何も起きなかった事にされたんじゃないかと……渉さん? 渉さん? 大丈夫っスか?」



 辛い思いをさせただけならまだマシで、もしかしたら拷問や生贄の儀式のような肉体的・精神的苦痛を味わされたり、最悪死んでしまっている可能性だってある。

 静香が梨々香の保護の話をしてきたあの時……空也さんに出会う前に原初の種子を十全に扱えていたら、こんな事にはならなかったはずなのに。

 それよりもお袋が宗教に狂わなければこんな事にはならなかった。どこで俺は間違えた……?



「ごめんなさい、渉さん」



 乾いた音とともに、俺の頬に衝撃が走る。思考の渦に飲まれていた意識が急に浮かび上がる。

 じんじんと痺れる痛みを治めるために頬に手を当てて、周囲の様子を伺う。……ああ、そうか。美沙に引っ叩かれたのか、俺は。



「……何も出来ずにむざむざ妹さんを攫われてしまった事を後悔してるんスか?」


「ああ、そうだ。こんな山奥まで来て、あんなに修行したってのに、まんまとしてやられて……俺がちゃんと原初の種子を使いこなせてたら……」


「自惚れてんじゃないっスよ!」



 言うや否や、美沙は俺の道着の襟首を掴み上げた。



「そりゃあ渉さんはチート臭い力を持ってますよ? でも相手はスキルをスナック感覚で使って殺人教唆や人攫いまでやるカルト教団っスよ? 半年前までただの警備員やってた程度の普通のオッサンにマジモンの悪党相手に完璧な対処なんて、チート能力があったって簡単に出来る訳がないでしょうが!」



 美沙に凄い剣幕でまくし立てられるが、俺はその迫力に気押されて二の句を継げずにいた。



「渉さん、あたしたちの仕事は何スか」


「……警備員だ」


「渉さん、前に言ってましたよね。人間のやる事に完璧は無いって。事故や不測の事態は絶対起こるって。そんな避けられなかった事故の影響を極小化させるのが警備員の仕事だって」



 確かに言った。美沙が栄光警備に入社してきて、実地研修のメンターを任された時だ。

 うちの専任の警備員指導教育責任者はとにかく厳しい事に定評があり、新人が必ず受けなくてはならない新任教育でこれでもかと脅しつける。

 事故が起こった際の悲惨な状況の映像を見せ、その時発生が予測される金銭的な損害を殊更強調して伝え、「だから事故を起こすな」と締めるのだ。

 これをやられた新人は大体萎縮したまま実地研修に入る。事故を恐れる気持ちは大事だが、そのせいで必要な業務もビビりながらやられたんじゃ使い物にならない。

 だから俺は新人に「どれだけ用心しても事故は起こるのだから、起こった事故の対処を間違えなければ大丈夫だ」と伝えている。美沙にもそのように指導した。



「事故、起こりましたよ。完全に不測の事態です。どうするんですか? ここでさんざっぱら嘆いてたら、誰かが何とかしてくれますか?」


「……それは……」


「まだ妹さんだって助からないって決まった訳じゃないです。もしそうなってたら、今頃あかりさん本人がここに謝罪に来てるはずです。まだやれる事やりきってないじゃないですか! 何全部終わった気になってんですか!」



 美沙が俺の襟を掴んだまま強く揺さぶる。……何でお前がそんな今にも泣きそうな顔をしてるんだよ、泣きたいのは俺の方だってのに。



「何の為に修行したんですか! 何の為に原初の種子の練度を上げるつもりだったんですか! 妹さんを初手で守れなかったらそれで終わりですか!? 違うでしょう!? 全部これからでしょうが! 根性見せろって言ってるんですよ、高坂渉!」



 ついには美沙の涙腺が決壊し、ボロボロと涙が溢れた。俺よりもヒートアップされると、俺もどうしていいか分からなくなってしまう。



「……何でお前の方が泣くんだよ、泣きたいのは俺の方だぞ」


「うるさいうるさいっ! それでどうするんですか! やるんですか、やらないんですか! やらないならあたしが全部終わらせますよ!? それでもいいんですか!?」



 道着の袖で目をごしごし擦りながら、美沙が俺に選択を迫る。

 ……そうだな、美沙ならどうにか出来てしまうだろう。何せ月ヶ瀬の力の深奥と原初の種子の強力ツインターボだ、俺の出る幕はないかも知れない。

 でもそれは駄目だ、これは俺の因縁だ。美沙にも手伝ってもらうつもりではあるが、俺がケリを付けなければならない問題だ。



「やるよ、俺がやる。……心配させて悪かったな」



 俺が美沙の頭に手を乗せて撫でてやると、美沙は俺に抱きついて泣きじゃくった。

 ここ最近、美沙の泣いてる所を沢山見せられた気がする。やはり自分の彼女の涙と言うのは罪悪感が凄い。

 今回の一件が終わったら、どこかに連れて行くのもいいかも知れない。



 しかし、とりあえずは目下の問題の解決が先決だ。俺達は彼岸の神棚を後にして、ベースキャンプへ向かう道のりを急いで戻った。



 § § §



 ベースキャンプに戻った俺達は、テントや設置物を片付ける前に道着から普段着に着替えた。

 ここに来た当初の登山スタイルではなく、無地のTシャツに履き慣れたジーンズだ。これが一番しっくり来る。

 美沙は相変わらずの変なTシャツだ。何もソースがかかってないパスタが皿に盛られているイラストがプリントされている。……どれだけ変なTシャツのストックがあるんだ?



 二週間程お世話になったクッキングテーブルや椅子、テントや寝袋等を次々カード化していき、最終的には空也さんのボンサックのみが置かれている状態になった。

 そのボンサックもたった今空也さんに背負われたので、ベースキャンプは人工物が一つもないだだっ広い野原になってしまった。



「本当言うとまだまだ鍛えたかったんだけどね。一応基礎的な所は詰め込めたはずだから、後は渉君に魔の源泉……えーと、原初の種子が応えてくれるかどうかだね」


「空也さん、短い間ですがお世話になりました。ありがとうございました」



 俺は深々と頭を下げて、指導に対する感謝を述べた。



「ま、未来の身内だからね。これくらいの事はするよ。うちの美沙をよろしくね」



 空也さんから握手を求められ、俺はすぐに応じた。……やっぱり小さい。だが、その小さな手からは俺がここに来たばかりでは感知する事の出来なかった力強いオーラをひしひしと感じる。



「それじゃあ、この御山を可能な限り早く出て、妹さんの救出に尽力する事。これを今回の修行の最後の課題としよう。出来るかな?」


「分かりました、最善を尽くします」


「それじゃあ空飛んで帰りますか? 広島城の時みたく認識阻害かけて飛べば楽勝でしょ?」


「いや、駄目だ」



 美沙が腕組みをしながら熟考して提案した飛んで帰る案を、俺はかぶりを振って否定した。



「何故です? ここからなら飛んで帰るのが一番確実だと思うんですけど」



 それはそうだ。ハイドプレゼンスをかけた状態でラピッドフライトを使えば一気に空を飛んで帰れる。

 だが、それじゃ駄目だ。俺の原初の種子は何だって出来る……なら、空を飛ぶ程度で満足してるようじゃ、求道聖蘭には勝てないだろう。

 もっと根本的に、不可能なことを可能にしなければならない。



「美沙、さっき俺に根性見せろって言ったよな」


「言いましたけど……何をするつもりですか?」



 俺は目を閉じて、意識を集中する。ユーバーセンスを全身を巡らせ、一本の線が通っているのを見つけた。

 これは恐らく、あかりのアビリティを俺に適用する為の魔力の通り道だろう。つまり、これを辿っていけばあかりの居所が分かるはずだ。

 俺はユーバーセンスを魔力の通り道に沿って伸ばし、終着点の周囲を探査した。

 あかりの周囲には何名かの人の気配があり、そのうちの二名は静香と綾乃だ。

 もしかして、あかり達は迷救会の近くで奪還作戦の立案中なのだろうか?

 そして……あかり達から大分離れた所に悍ましいくらいの悪意に染まったオーラを放つ原初の種子を見つけた。そうか、こいつが……



「見つけた」


「え、何をですか?」


「求道聖蘭だ。だが直接乗り込むのはマズいな……まずはあかり達と合流しよう」



 俺はユーバーセンスを両手に纏わせ、あかりのいる場所とここをポータルで繋ぐようなイメージで空間の隙間に両手をねじ込み、力を入れる。

 流石に常識を捻じ曲げるにも程があったのか、なかなか開いてくれない。もはやこうなると力尽くだ。両手にありったけの全力を込めてこじ開ける。

 ミシミシと軋みを上げて空間に穴が空き、その向こう側では驚愕の表情を浮かべているあかり達がいた。……トーカもそこにいたのか、呼ぶ手間が省けたな。



「待った待った、渉さん何してんスか!?」


「何って、飛ぶよりこっちの方が早いだろ?」


「いやいや、これ何なんスか!? 通り抜け出来るんスか!? 通るプロセスで命が消失したりしないんスか!?」


「そんな事ある訳ないだろ、多分……では空也さん、失礼します」



 俺は穴を潜り抜け、狼狽えながらも後を追ってきた美沙の手を取って通り抜ける手伝いをする。

 俺達が穴を抜け終えた直後、バツンと大きな音を立てて穴が消失した。



「あんまり長い事持たないんだな、開いたらさっさと通らないと胴体があっちとこっちで泣き別れになりそうだ」


「ゾッとするような事言わないで下さいよ、完全に行き当たりばったりじゃないですか……あ、皆さんお揃いのようで」



 美沙があかり達に声を掛けた事で我に帰ったのか、俺達のもとへ駆け寄ってくる。真っ先に話しかけてきたのはトーカだった。



「管理者:高坂渉、どうやら練度が水準に達したようですね。奥方様も想定以上の力を得られたようですし、これなら勝算も大幅な上方修正が見込めるでしょう」


「ああ、そうだな。手放しで安心出来る程ではないとは思うが、少なくとも同じ土俵で戦えると思う。で……」



 俺は改めてあかり達の方を向く。心なしかあかりと静香の顔色が悪くなっていく。……やはり自分の持ち分で起こった不手際という事で、思うところがあるのかも知れない。



「状況を知りたい。説明してくれ」



 俺がそう尋ねると、弾かれたようにあかりと静香が頭を下げた。



「高坂さん、申し訳ありません。私の……いえ、雪ヶ原の失態です」


「いいえ雪ヶ原氏、完全にこちらのやらかしです。まさか正面突破で来られるとは思ってもいなかったので……」


「それを言うなら私も同じです。むしろ警護を引き受けていたのは当家ですから、非は当家にある物と思います」



 ……このままでは責任の所在に終始してしまって話が進まない。俺は柏手を打って話に割って入った。



「今回の件はしょうがない。梨々香の居所を掴むだけの情報網があると予測しなかったのも問題だが、求道聖蘭が直接乗り込んで来るとは思わなかった。アレが出張ったら探索者でもどうにもならんだろう。起こった事は置いといて、今はどうなってる? 敵の戦力は?」


「……はい、敵は迷救会本部に立てこもっています。前庭に十人、教会内部に少なく見積もって五十人以上の信者が警戒体制で巡回している物と思われます。スパイとして教団に送り込んでいる雪ヶ原の者も、二時間前から連絡が取れません」


「殺されたのか……?」


「いえ、殺されたのなら分かるようになっています。教団お抱えのM型催眠の使い手によって催眠状態にあるのかと」



 M型催眠……以前静香が説明していた眠気ではなく魅了で催眠状態にする奴か。厄介な奴がいたもんだ。



「恐らくですが、敵は我々の中に諜報活動に長けた集団がいる事を認知し、教団員全員に催眠スキルを施したのではないかと推測します」


「疑わしい奴を狙い撃ちにするより、全員催眠かけた方が確実って事か……とんでもないな」



 俺の周りには催眠系のスキルが生えそうなジョブは居ない。なのでその仕様がどうなってるのか分からない。

 時間経過で解けたりするのなら、雪ヶ原のスパイの復活を待って情報を貰ってから……いや、それだと梨々香の安全が担保出来ない。

 どうしたものかと思案していると、静香が一歩進み出て進言する。



「高坂氏、提案があります」


「何だ?」


「この度、探索者になりまして……ジェネラルと言うジョブを引き当てたんですが、それに範囲内の味方への精神異常無効化のスキルがあるんです。そこで部隊を三班に編成しませんか?」



 静香が提案した班分けは、求道聖蘭に直接対抗出来る俺と美沙が直接カチコミをかける第一班、梨々香を探して保護する第二班、雪ヶ原のスパイの回収や敵の戦闘員の無力化……そしてあわよくば催眠術師を始末する第三班といった物だ。



「第二班は雪ヶ原氏が適任です。聞いた話だと原初の種子の力で他人と魔力のパスを結ぶ事が出来るようになったとの事で、その都合上誰が何処にいるのか判別が付くらしいです。非探索者を連れて行けば魔力アレルギーに関しても問題ないでしょう」


「なるほど……で、催眠術が効かない静香が第三班か? この間まで一般人だったろ、大丈夫なのか?」


「雪ヶ原氏から手練れの兵隊を借り受けますから大丈夫です、それにこの失態の負い目を清算しておきたいですし」



 自分の手を握り込む静香の姿はいつものオタク然とした物ではなく、完全に意気消沈した物だった。



「負い目を清算する前に本調子を取り戻してくれ、そんなしおらしい姿はお前に似合わんだろ」


「酷い事を言いますな!? 拙者これでも深く反省している所存ですぞ!?」


「そうそう、その調子でいいんだよ。今回は誰も悪くない。……それどころか、梨々香の事を気にかけてくれて感謝してるくらいだ」



 俺は周囲を見渡す。美沙やあかり達を除いても結構な人数がいる。その殆どは雪ヶ原の人間だ。

 あれ? あそこにいるのは江田島の帰りに車を運転してくれた雪沢さんじゃないか? あの人も駆り出されたのか? マネージャーだろ?

 ……それはともかく、皆を俺の個人的な事情に付き合わせてしまって、申し訳なく思う。



「正直言って、本来なら俺が自力でどうにかしなきゃならない問題だ。こんなに大勢の手を借りる事になったのは想定外だ。恐らく、相当に被害も出るだろう。勝手だとは思う。だけど……頼む、力を貸してくれ」



 俺の呼びかけに、皆無言で頷いた。

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