第42話
回復魔法に必要な魔素をこれでもかと吸収した結果、体の自由が効かなくなった。水の中にいるように音がくぐもって聞こえるようになり、視界がぼんやりと霞んだ。
関節が固まり、筋肉も死後硬直のように動きを止めた。その結果、体を満足に動かせなくなった。地面にへたり込んでしまったが、痛みも何も感じない。感覚が全部ダメになっているようだ。
確かトーカは、人間は三百レベル分の経験値……つまり魔素を蓄積できるが、そこから先は細胞が変質すると言っていた。もしかして、今の俺がそれに近い状態なんだろうか?
突然現れた謎の白い人型の魔物と美沙が戦う様子をぼんやりと眺めていると、トーカが念話を飛ばしてきた。
《管理者:高坂渉に報告します。魔素の貯留が完了しました。自律行動が難しいようですので、当個体が管理権限を一時的に借り受け、個体名:雪ヶ原あかりへのエリクシック・ヒール行使までを代理で行います。よろしいですか?》
もはや意識を保っているのがやっとだったので、トーカへの体のコントロール権限を一時的に認めた。……俺が覚えているのは、そこまでだった。
薄れゆく意識の中、どこからか聞こえる鈴の音が嫌にハッキリと脳裏に響いていた。
§ § §
SF作品でコールドスリープから目覚める描写があるが、今の俺はそれに限りなく近い。
浮上した意識とは裏腹に、体はバッキバキに固まっている。使い物にならなかった五感が徐々に戻ってくる。
定期的な電子音と息を呑むような声なき声、消毒液のような病院の匂い、暑くも寒くもない気温……様々な感覚が蘇る。
じんわりと機能し始めた視神経に暗がりから浮かび上がるように映し出されたのは……ベッドに寝かされ、色んな装置を取り付けられた雪ヶ原と、彼女に向かって手のひらを突き出して光を放出している俺の腕だった。
《管理者:高坂渉の意識の覚醒を確認しました。ステータスのレベル維持分を除いた残存魔素は二十八パーセントです。只今エリクシック・ヒール発動中につき、コントロール権の返還は今しばらくお待ちください》
トーカの声が脳裏に響く。体は動かないので目だけであたりを見回すがその姿はない。テイムモンスターも居ない所から、恐らく皆この病室の外にいるか、カードに戻ったんだろう。
魔素が蓄積していく感覚は体調不良のせいで全く分からなかったが、魔素が抜けていく感覚は割と鮮明だ。
一番近いのは血圧計の計測後、空気を抜く時の感覚だろうか。全身が圧迫されているのが解放されるような感じだ。
嫌な人はとことん嫌がるだろうが、俺は逆に好きだ。開放感がたまらない。……あの体調不良地獄を思えば、こんな体験は金輪際無い方がいいのだが。
やがて俺の手から光の放出が止み、魔素が抜ける感覚がおさまった。魔法の行使が終わったようだ。雪ヶ原の体が淡く輝き、真っ白だった頬に赤みが差す。
ゆっくりと瞼を開いて起き上がり、酸素マスクを外してあたりを見回し……俺と目が合うと顔を真っ青にして震え始めた。そういう反応は少しショックだ、頑張ったのになあ。
俺はというと、唐突に体のコントロールが帰ってきたことでその場で膝をついてしまった。一言あってもいいんじゃないかな、トーカさん?
それにしても体がやけに重い。あれだけ体調不良が酷かったんだ、体への負担も相当の物だったろう。仕方がないと言えば仕方ない。
部屋の隅から俺に駆け寄ろうとしていた闇ヶ淵と霧ヶ峰を手で制し、俺は近くに置いてあったパイプ椅子によじ登って座り、大きくため息をついた。
ああもう、過去イチでしんどい。ゴブリンにタコ殴りにされたりラピスに腕を切られて大怪我した時よりもっとしんどい。
怪我の痛みは堪えれば済むが、体調不良系の苦痛は堪えようがない。こんな無茶は二度とゴメンだ。
「全く、手間をかけさせて……二度とこんな事するんじゃないぞ」
目眩はないものの、妙にくらくらする頭を押さえながら雪ヶ原に話しかけた。色々あっての自殺未遂だ、刺激しないように、穏やかな話し方を心掛けておく。
「……どうして」
「ん?」
「どうして、死なせてくれなかったんですか」
雪ヶ原は検査着の裾をぎゅっと握りしめ、大粒の涙をこぼしながら俺を睨んだ。
「何を捧げても……何を捨ててでも、高坂さんに好きになって貰いたかったのに……失望されて、嫌われて……もう生きてく意味もないのに! 生きてる価値もないのに! どうして! 死なせてくれなかったんですか!」
雪ヶ原が装置や点滴がついたままの腕を振るって枕を俺に投げつけるが、今の俺にはそれを避ける反射神経も受け止める体力もなかった。
素早く動いた霧ヶ峰は雪ヶ原が倒してしまった点滴スタンドも元に戻し、枕と一緒にパイプ椅子ごと倒れてしまった俺に駆け寄って抱え起こした。
いやしかし本当何なんだコイツ。見た目と声は王子様系なのにオタクみたいな喋り方するし、それなのに女の子の匂いがするし色々柔らかいしで混乱する。
勝手な理由で申し訳ないが、なるべく触らないで欲しい。シリアスな雰囲気が台無しになる。
「高坂氏、しっかり! 雪ヶ原氏、いけませんぞ! 高坂氏は貴殿の為にその身を危険に晒してまで訳の分からない回復魔法を……」
「頼んでないんですよ、助けて欲しいなんて! 霧ヶ峰さん、闇ヶ淵さん! あなた達もです! 何で私を病院に担ぎ込んだんですか! ほっといてくれたら死ねたのに!」
これが手術後のせん妄であれば幻覚や意識障害由来の戯言で済ませてもいいのだが、エリクシック・ヒールによって全て回復しているはずなので全て素面の本心だろう。
「雪ヶ原氏! いい加減に……」
霧ヶ峰が険しい表情になり、今にも怒鳴り散らしそうだったので背中をポンポンと叩いて宥める。
俺はゆっくりと霧ヶ峰の手を離れ、雪ヶ原の横に座る。
外で思い切り戦闘した後の汚れたケツを清潔な病院のベッドに乗せるのは良くないし、申し訳ないとは思うが許して頂きたい。
「なあ、あかり」
これ以上傷つけない為になるべく穏やかに名前を呼びかけたつもりだったが、更に泣かせる結果になってしまった。
雪ヶ原……あかりはシーツに顔を埋めて、呟くようにしゃっくり混じりの涙声で俺に話しかけてきた。
「もう……もう、名前で呼ばないで下さい」
「どうして? そっちから言ってきた事だぞ」
「辛いんです、高坂さんに失望されて、二度と好きになってもらえないのに……名前で呼ばれたら、期待してしまって……だけど、もう、私は……っ」
そこから先は言葉にならないのか、涙混じりの呻き声と鼻をすする音がシーツに吸い込まれる。アイドルが見せていい姿ではない。
好かれる見込みが無いのに馴れ馴れしくされるのが嫌って事なんだろうか? しかしそれなら、前提が違う。
「俺は確かに多少失望はしたが、嫌いになった訳じゃないぞ」
「嘘です……だって、だってあの時の高坂さんは……」
「嫌いにもなってないが、別に好きって訳でもないぞ」
「えっ」
あかりが素っ頓狂な声を上げて、シーツを手放して俺の顔を見る。……やっぱりそうだ、何となくそんな予感はしていたんだ。
「俺達が顔を合わせたのは四回目だ。一回目はアリオンモール、二回目は江田島、呉の事件で三回目。そして今日が四回目……好き嫌い以前に、俺にとってはまだクライアント感覚なんだよ」
アリオンモールで動線確保の仕事をする前、俺にとってあかりはアイドルだった。そこからある程度距離感が近づいたとは言え、知り合いと言えるかどうかも怪しい。俺はあかりの電話番号すら知らない。
むしろ美沙の方があかりとの関係性は深いんじゃないだろうか。ラピスの件の口封じや江田島の計画の件、越智の襲撃や呉のゴーレムの件等、接点は俺よりもあるはずだ。
「今回の件にしてもそうだが、これまで俺は何も聞かされてもいない。闇ヶ淵さんとあかりが俺に関する情報で勝手に盛り上がった結果、何も知らない俺との温度差が生まれた訳だ」
アイドルなら多分、こういう話も往々にして関係してくるはずだ。もっとも、受け手と送り手の方向性は真逆だが。
ファンがアイドルを好きになり、色々知識や愛情を深めていくが、アイドルの方はファンの事をよく知らない。ファンは所詮はファンなのだ。
そうして想いの熱量の差に絶望したファンが厄介な行動を起こす……アリオンモールでの厄介ファンの襲撃なんかも同じだったはずだ。
全く同じ構図が今の状況だ。
予言や占いや状況証拠から俺の事を勝手に好きになり、俺を色んな事に巻き込もうとするが、俺は彼女達の事を全く知らない。
そう、つまりこれは……
「言ってしまえばドルオタのガチ恋みたいなモンだな」
「どるおたの……がちこい」
あかりは憑き物が落ちたように呆気にとられた顔で俯いて、オウム返しをする。闇ヶ淵も目から鱗が落ちた表情だ。
霧ヶ峰はプルプル震えながら真っ赤になった顔を手で覆っている。何だ? 共感性羞恥心的な奴か? もしかしてお前ドルオタだったのか?
「だから失望したとは言ったが、期待が薄い分下げ幅は小さいんだよ。他人に毛が生えたような物だし」
「高坂氏……その……それはそれで雪ヶ原氏がショックを受けそうな気がしないでもない気がするのですが……? 大丈夫ですかな?」
別の意味でのショックから立ち直った霧ヶ峰がツッコミを入れる。失敬な、俺だって相手を見て話をしている。
あかりは聡い子だ。妙な所で図太い神経を持ち合わせている。俺の話を理解してくれるはずだ。
「これは君達にも言える事だぞ。勝手に俺に期待して、勝手に俺を巻き込んだ。君達の中では色々話し合って決めたんだろうと思うが、結局一方通行だ」
俺は闇ヶ淵と霧ヶ峰に視線を送った後で、あかりの肩に手を置いた。あかりがびくりと震えて、恐る恐る顔を上げる。
「君達は間違いを犯した。当事者である俺に黙って色々画策して、美沙を始め沢山の人に迷惑をかけた。面倒な尻拭いもさせられたし、意識を失うレベルの魔素を溜め込んで回復魔法を使う無茶もさせられた。……それで、俺は多少なりとも失望した」
皆思う所があるようで、バツの悪そうな顔で俯いた。反論も無いので、自分達の行いの問題点に思い至ったようだ。
「……で、君達はこれからどうするんだ?」
「これから……?」
三人とも、異口同音に聞き返す。霧ヶ峰は闇ヶ淵の方を見、闇ヶ淵は顎に指を添えて考えるようなポーズを取り、あかりは深刻そうな表情で俯いた。
「これまでのミスはボタンの掛け違いのような物だ。掛け違えたのなら、掛け直せばいい。幸い、俺は無事に生きてる。危険な魔素の集まりはどうにか散らした。君達が掛け違えたボタンは俺が外してきた。……で、どうするんだ?」
「……高坂さんに、お話があります」
闇ヶ淵が真剣な顔で切り出した。さっきの頭が痛くなりそうなアニメ声ではなく、落ち着いた女性の声だ。……何でこれを先に出さなかった?
「聞くだけ聞こう」
「私の『視』が、日本……ひいては世界滅亡のビジョンを映し出しました。それと同時に、世界の滅びに立ち向かう男性姿を見ました。私達はこれを受けて占術や『視』を行い、黒竜に乗った男性のビジョンに辿り着き、情報の裏付けを行いました。……結論として、日本の壊滅を防ぐのはあなたの力だとの答えに辿り着きました」
つまり、彼女達が会議室で語った「俺が世界を救う」と言うのは与太話でも何でもなく、マジで世界崩壊レベルの難事を俺一人に対策させようとしていたって事だ。勘弁してくれ。
「高坂さん一人に押し付けようとしていた事は確かです。その為に周囲を固めて逃げ場を無くす方法を選んだのもまた真実です。勝手に話を推し進めて、申し訳ありませんでした」
「……だからこそ俺は日本や世界を救うつもりなんて無いと答えた訳だ。で、どうするんだ?」
「高坂さんの希望をお聞きしてそれを優先しつつ、私達と共に滅亡の未来に抗って頂きたく思っています。探索者協会や他の天地六家、東洋鉱業を始めとする各種民間企業や公的機関とも連携をとりつつ、高坂さんばかりに負担が行かぬように調整します」
さっきの会議室よりはまともな話が出て来た。これなら話を聞いてもいいかと思えて来た。依然、俺が巻き込まれる形なのは納得行かないが、そこはしょうがない。
トーカ……と言うより原初の種子を俺からひっぺがす事は出来ないようだし、こうなる事を長期的に見越していた節がある。既定路線として諦めるしかない。
「やれば出来るじゃないか。それなら手助けしてもいいかなって気にもなる。トーカも言っていたが、ちゃんと周りと相談して決めた方がいい。事態の深刻さから少数で情報を回して即決したくなる気持ちは分かるが、それがもたらしたのがさっきの不和だ」
「はい。返す言葉もございません」
「その辺りは一旦持ち帰って、しっかり話し合ってくれ。……さて」
ひとまず、こっちはこれで解決と見ていいだろう。問題は俺の横で呆然としたまま涙を流しているあかりの方だ。
「あかりはどうするんだ?」
「……どうするもこうするも……好かれるどころか無関心に近くて……しかも失望されたなんて……どうすれば……私は一体、どうすればいいんですか」
「仮定の話だが……もし俺があかりの事が大好きで、それで失望したってなったら、多分二度と顔を合わせないくらいに憎んでたと思う」
かわいさ余って憎さ百倍、愛と憎悪は裏返しだ。好きの反対は無関心とは言うが、俺は決してそんな事は無いと思う。
「俺がマイナス百くらいあかりを嫌っていたら取り返しが付かないかも知れないが、俺の失望はたかだかマイナス三くらいだ。……あかりはそれくらいでも俺を諦めるのか? それとも俺の事はもうどうでも良くなったか?」
「そんな訳ない! 綾乃さんから運命の人に出会うって聞かされて、ずっとどんな人と出会うのか胸をときめかせて待ってたんですよ!? アリオンモールで私を庇って頂いた時から、あなたの事が心に焼きついて離れないんです!」
あかりが俺の手をぎゅっと掴む。まるで離してしまったら二度と掴めないとでも思っているくらいに力強い。……実際、あかりはそれくらいの気持ちでいるんだろう。
「じゃあ、どうするんだ?」
「わかりません……子供の頃からずっと、付き合う人間は氷川に決められて……人付き合いも仕事か身内だけですから……友達の作り方も分からないし、どうすればあなたが離れずにいてくれるかも分からないです……」
あかりが俺の手をさらに強く握りながら、俺の顔を覗き込んで来る。
ああ、江田島で誤射に見せかけて敵意を持って俺に矢を射掛けた氷川さんか。確かにお目付け役がやかましいので友達がまともに出来ないと言っていた。
深窓の令嬢であれば、そういう事もあるのかも知れない。俺も人付き合いは得意な方ではないんだが……
「そうだな……じゃあみんなでメシでも食いに行くか」
「ごはん、ですか?」
あかりはきょとんとした顔で聞き返した。
「そうだ。メシに行くでもいいし、遊びに行くでもいい。居酒屋で一緒に飲んでもいいし喫煙所でタバコを吸いながら雑談するでも……いや、あかりは未成年だったな。とにかく話をしたり一緒に過ごしたり、頼まれ事をこなしたり……つまり、自主的に自分の時間や手間や資産を他人に割く事で、関係性は生まれる」
人付き合いとは結局のところ、何を捧げて、何を受け取ったかで決まる。それは有形無形のリソースのやりとりだ。
自分の時間を費やし、他人と話す手間に心を割き……自分のリソースを相手に費やす事で、絆は生まれ、育まれる。
逆にリソースを費やすのをやめた時から、絆は腐って枯れていく。釣った魚に餌をやらないと死ぬのと同じだ。
若い子が飲みニケーションを好まないのはリソースの搾取と考えてるからだろう。年寄りは自主的に参加しているような物だが、若者はそうではない……一方通行なんだよな。
「あかりは恐らく、俺の為にたくさんの時間や手間、金銭を費やした事だろう。だが、俺はまだ何もしていない。何のリソースも割いていない。せいぜい仕事で悪漢から守ったり、美沙に連れられて江田島に行った程度だ。……俺からあかりへの絆が繋がってないんだ」
「……そう、ですか」
あかりが俺の手を掴んでいる力を緩めた。そこで俺は逆にあかりの手を取った。微かな震えが伝わって来る。
「だから、機会をくれないか? 俺があかりにリソースを割いて絆を結ぶ機会を、俺がお前達の事を理解する機会を……そして、美沙やトーカがお前達を受け入れるかどうかを判断する機会を」
俺はゆっくりと皆を見渡しながら提案した。闇ヶ淵も霧ヶ峰も目をまんまるに見開いて驚いていたが、一番反応が劇的だったのがあかりだ。
あかりは検査着の袖でぐいっと目を拭い、もうすぐで触れそうなくらいの距離まで顔を近づけた。
「そ、それはつまり! 私をお嫁さんにして頂けるチャンスがまだあるって事ですか!? ……あいたっ」
俺はあかりを引き剥がし、額にデコピンをくれてやった。判断が極端過ぎる、もう少し自制して欲しい。
「バカタレ。俺は美沙が好きだし、あかりの想いには応えられないってあの時言っただろ? 不貞は不法行為だっつーの。ただ、これから協力体制を作り上げる必要があるなら、せっかくだし仲良くした方がいいだろって事だよ」
「むう……分かりました。高坂さんともっとお話しする機会を工面します。ええ、工面しますとも。何を差し置きましても!」
あかりが鼻息荒く宣言した。目が決意ガンギマリだ。
頼むから日常生活や仕事は差し置かないで欲しい。この様子だとアイドル辞めて広島に住みますとか言い出しそうで怖い。
「今の立場とかは差し置かずに大切にしてくれ。……それじゃあ、今度はもっと腹を割った話をしよう。お前達が俺に黙っていた事、話さなければならない事、俺や美沙の気持ちやこれからの事をな」
俺はゆっくりと立ち上がり、病室の出口へと歩いていく。
体の調子も大分良くなってきた。十全とは言えないが、美沙が心配だ。
「……どちらへ行かれるんですか?」
あかりが俺に問いかけた。俺は振り返らずに答える。
「広島城へ。美沙はまだ、戦闘エリアにいるはずだ。早めに戻ってやらないとな」
「分かりました。……少しだけ待ってください」
あかりが俺を呼び止め、ベッド脇に置いてあるバッグを漁り、何か取り出した。あれは……江田島でドロップした星形のペンダントか。
あかりは銀の鎖を首に巻き、祈るようにペンダントトップを握り込んでスキルを発動した。途端に俺の気だるさが吹き飛び、力が溢れる。
「これが私のアビリティ、キングアンドクイーンです。効果は強力な支援、詳細は……また今度しましょうね」
「ああ。それじゃ、後は頼んだ」
俺は頷く闇ヶ淵と霧ヶ峰に片手を上げて応え、病室を後にした。




