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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第二章

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第40話

 俺と美沙とトーカはホテルから出て、広島駅北口に面する片側三車線の道路、通称二葉通りまで向かった。

 平日昼間はそこまで混雑しないはずなのに、今は渋滞で足止めを食らった車でごった返しており、歩行者もスマホを見ては不安そうにしている。



 広島城のあるエリアは、ここ広島駅からさほど遠くもなく、広島の市街地の中でも交通量が多い場所だ。

 ちょっと事故が起こっただけでも渋滞するような場所なのに、交通規制なんぞされたら広い範囲で渋滞するのは火を見るより明らかだ。

 この様子ではバスはおろか、タクシーも動いてないだろう。広島城方面は市内電車が通っていないし、こんな有様では南口も大渋滞、下手したら臨時運休だろう。

 美沙も今日は俺と一緒にタクシーで来たので自転車も無い。レンタルサイクルの場所もよく知らないので、現場へは徒歩で行くしかない。



《管理者:高坂渉に提案します。触れている対象と共に上空を経由して目的地へ移動するアクションスキル:新規スキル004を創造しましょう。移動が格段に楽になります》



 上空を経由して目的地……それはつまり、二大国産RPGのうちの竜退治の方で出てくる移動魔法のような奴だろうか? 天井のある場所で使うと頭をぶつけるアレだ。

 頭上を気にする必要はあるかも知れないが、移動先の安全性を確かめながら降りられると考えたらとても有用だ。

 瞬間移動だと移動先の安全性が確保されない可能性がある。走行中の車のド真ん前だったり切り結ぶ刃の真下だったり、何なら「いしのなかにいる」なんて事にもなりかねない。

 創造を許可したいが……新規スキル004はちょっとダサい。自身のアバターに関連するスキルは自分で名前を付けたくせに、何故デフォルトネームを提案してくるのだろうか。

 いっそそれっぽい名前を付けてくれればいいのに……



《承知しました。スキルの創造が完了次第、新規スキル004をラピッドフライトにリネームします、お兄ちゃん♡》



 だからそれを本当にやめなさい、カードにしまうぞ。

 ……いや待った、こいつ厳密にはテイムモンスターじゃないからカード化出来ないし、パッシブスキルだから随意的に引っ込められないのでは?



《不本意ですが、当個体もカード化の影響を受けます。送還されたくありませんので、真面目に管理者:高坂渉に提案します。飛行中の姿を隠匿する為、指定した対象に生命・機械からの認識を阻害する効果を発生させるアクションスキル:ハイドプレゼンスを創造しましょう》



 確かにこんな大勢の前で空を飛んだら「空を見ろ! 鳥か! 飛行機か!」ってな具合でモロバレだし、何ならスマホで写真を撮られて拡散されてしまうだろう。

 雪ヶ原はもう頼れないので、情報の拡散だけは気をつけないと痛い目を見る。そう考えると、悪くない提案だ。許可しよう。



《承知しました。アクションスキル:ハイドプレゼンスを創造しました。出発の準備が出来ました。現地ではテイムモンスターを召喚する前に狐の面を被り、アノニマス・フォックスを名乗る恥知らずを装うのを忘れないようにしましょう》



 ……他人に言われるとややイラッと来るな、それ。



 § § §



 俺は美沙とトーカの手を取り、広島駅北口から飛翔した。

 ドローンによる空撮かフライトシミュレーターでもなければお目にかかる事もない空からの光景を生身で拝む事になろうとは思わなかった。

 高所恐怖症の人間にはかなり辛いだろう。俺も高所恐怖症という訳ではないが、生身で空を飛ぶのは股間が縮み上がる思いだ。

 せめてヘルメットが欲しい。あったところでこの高さから落ちたら間違いなく死ぬとは思うが、気分の問題だ。



 大規模工事中の広島駅や京橋川を飛び越え、眼下に流れるどん詰まりの城南通りの先に横向きに停められた警察車両とバリケードが見え始めた頃、俺達は着陸体勢に入った。

 流石に規制内にダイレクト着地を決める訳にもいかなかったので、広島城のお隣さんである広島合同庁舎一号館の東側、時間制限駐車区画となっている道路上に着地した。

 ここも混雑しているかと思いきや、どうやら警察が道路整理を行っているようで、普段とあまり変わらなず閑散としている。

 おそらく、怪我人を搬送する為の救急車の経路を確保する為だろう。



 俺はハイドプレゼンスを解除し、人気の多い城南通りではなく、合同庁舎の敷地を突っ切るように規制内への立ち入りを試みた。

 合同庁舎の出入り口で警察に止められたが、特例甲種の証明書をスマホで表示させて救援に来た旨を伝えると、入場を許可された。

 今日はカードデバイス「神楽」が無いので装備のワンタッチ装着は出来ない。しかし代替品として預かっている「不抜」はバルク品と違い、魔力の込められたダンジョン産の素材が含まれているのでカード化の対象に取ることが出来る。

 美沙は装備一式、俺は装備と狐面のカード化を解除して装着した。狐面は美沙のお姉さんである坂本さんから譲り受けたので、何かあった時いつでも被れるようにカード化して持ち歩いている。

 しかし、こうして手ずからアーマーを着るのは久しぶりだ。便利なものに慣れすぎるのは、あまりよろしくない。



 広島城東側の堀の前に到着すると、そこは既に戦場だった。

 流石近所に広島県警の本部があるだけあって、大勢の警察官が各々武器を携えて魔物と戦っている。

 シーカーズの警報によるとハーピー類が多いとの事だったが、腕が翼で足が鳥の異形の全裸体の老婆があちこち飛び回り、警察官に急降下突撃を敢行している。

 不定形の生物を四つ繋げたら消える広島ゆかりの落ち物パズルゲーに出てくるような、かわいらしいハーピーとは様相が全く異なる。

 ……そう、ここは魔物がかわいい田方ダンジョンではない。そもそもダンジョンですらない。

 俺達はバタ臭い洋ゲーモンスターと切った張ったの大立ち回りを繰り広げなければならない。



《管理者:高坂渉に提案します。現状の友軍戦力は近接戦闘職が多く、飛行型の魔物に決定打を与えられていません。せめて我々だけでも遠距離攻撃の手段を用意するべきです》



 確かに警察官は結構な割合で盾と剣を持っている。つまりナイトかソードマンだ。近場から駆けつけたであろう探索者は弓持ちや魔法使いが散見される。

 警察官の戦法は基本的にカウンター狙いで、ハーピーが降りて来て攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっている。

 あれでは時間がかかるし、複数体に狙われると危険だ。先手を打って地面に撃ち落としてから集団で袋叩きにするのが効率的だ。

 問題は友軍戦力の遠距離職の練度が不足しているだけでなく、絶対数が少ない点だ。

 命中率はお世辞にも高いとは言えないし、手数も少ないのでハーピーを追い詰めきれていないのが現状だ。



《魔力球を発生させ、手持ち武器で打撃を加えることで射出するアクションスキル:ファンゴブラストの創造ならびにヒロシマ・レッドキャップへの付与、魔素をテイムモンスターへ分配するパッシブスキル:オートアロケートを提案します》



 ……ヒロシマ・レッドキャップが手持ちの武器……つまりバットで魔力球を叩いて飛ばす……それは野球の守備練習でお馴染みの千本ノック的な奴じゃないのか? 命中率は大丈夫なのか?



《管理者:高坂渉の所有するヒロシマ・レッドキャップのステータスを確認した所、どの個体も魔力はそこそこあるものの魔技の能力値が低く、敏捷と器用が高い傾向にあります。十分クリーンナップを狙える打撃力だと思われます》



 一掃して欲しいのは走者ではなくハーピーなのだが、トーカが言うなら有用な作戦なんだろう。見た目のトンチキさはともかく、九人で弾幕を張れば結構な対空射撃になるだろう。魔素分配も含めて許可だ、許可。



《承知しました。アクションスキル:ファンゴブラストとパッシブスキル:オートアロケートを創造しました。アクションスキル:ファンゴブラストはヒロシマ・レッドキャップのカードを対象に付与を完了しております》



 じゃあこのまま召喚したら全員使えるようになってるって事か? 便利でよろしい。



「よし、それじゃあ行くぞ……全員召喚!」



 総枚数十二枚のカードを手に取り、召喚する。

 ヒロシマ・レッドキャップ九人にヒロシマ・コボルトのタゴサクとスライムのケラマ、そしてカオスドラゴンのラピスが光を纏って現れた。



「おとーさーん!!」



 久しぶりのフルメンバー召喚にテンションが上がったのか、一桜が俺に抱きついた。遅れてみんなわちゃわちゃと俺のもとへと駆け寄ろうとするが、ラピスが柏手を打って制する。



「はーいそこまでー。やらねばならん仕事があるんじゃから、おしくらまんじゅうで時間を潰すでないぞー」


『はーい!』



 息ぴったりの赤帽軍団の返事にラピスが頷いた。



「よしよし。で、こやつが原初の種子かの」


「はい。原初の種子のサポート人格の受肉体、トーカと申します。先輩におかれましては、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします」


「一にして全なる者に教える事なぞありゃせんじゃろがい、むしろ教わりたいくらいじゃぞ……ま、共にワタルを支えて行こうぞ」



 トーカとラピスは握手を交わしている。知能の高い者同士、理知的な会話が可能なようで何よりだ。

 そして知能がまだまだ成長中のかわいい娘達である赤帽軍団がキラキラおめめで俺を見上げながら何かを報告したがっている。

 皆を代表してお姉さんの一桜が俺に話しかけてきた。



「あのねあのね! 何か新しいスキルが貰えたよ! 試していーい? いーい?」


「おや、新しいスキルっスか? レベルが上がったりしたんスかね? でもヒロシマ・レッドキャップってスキルが生えるような種族なんスかね?」



 俺の横に控えていた美沙が一桜の頭をなでくり回しながら不思議そうにしている。



「原初の種子の力で生やしたんだよ。今のこの子達は対空射撃が出来るぞ。……ではヒロシマ・レッドキャップの皆は空を飛んでるハーピーに新スキルを叩き込んでやれ。落ちて来た奴は近接戦闘職に任せて、とにかく飛んでいる奴を落とす事に集中するように」



 赤帽軍団から元気な返事が返ってくる。しかし不満を持つテイムモンスターもいるようだ。うちのかわいいわんことスライムだ。

 赤い子はスキルもらえてズルい! と言わんばかりに悲しそうな目と思念で俺に訴えかけていたタゴサク・ケラマの仲良しコンビに指令を言い渡す。

 


「タゴサクとケラマは戦闘エリアを巡回、負傷者に回復魔法をかけてやってくれ。お前達にしか出来ない事だ、頼んだぞ」



 俺の命令に目を輝かせながらタゴサクは手を挙げ、ケラマはタゴサクの頭に乗ってぷるぷると震えた。こちらもやる気は満タンだ。



「ラピスは遊撃だ、小さい子達の面倒を見ても良いし、個別で戦ってもいい。ただし、ドラゴン化はしない事。魔物扱いされて攻撃を受けるぞ、多分」


「うむうむ、心得ておる。うまい具合に立ち回るので安心せよ」



 トーカと話していたラピスはこちらを向き、親指を立てた。最近よく海外ドラマを観ているので感化されたのだろう。中指を立てるような子にならなければいいが。

 一通り作戦を伝えたので、俺は皆に戦闘開始の号令をかける。



「では各々作戦開始! 怪我しないよう、ご安全に!」



 ご安全にー! と皆が唱和し、三々五々に散っていく。俺と美沙は新スキルであるファンゴブラストの具合を確かめる為に、赤帽軍団について行く。



「ちなみにどんな遠距離攻撃スキルなんスか?」



 美沙が痺れを切らして俺に尋ねた。そりゃあ気になるよな、田方ダンジョンのヒロシマ・レッドキャップはスマッシュ・ヒットくらいしか使って来ないもんな。



「一応魔法攻撃に分類される……かな」


「魔法!? ヒロシマ・レッドキャップが!?」



 美沙が本気で驚くのも無理はない。

 魔術系のジョブで重要になるのが魔力と魔技の基礎能力値だ。魔力が無ければ魔法は撃てず、魔技が無ければ魔法を上手くコントロール出来ない。

 基本的に、レッドキャップは知能が低く、それに伴い魔力と魔技も極端に低いとされている。

 うちの子はラピスの教育を受けているもあり、そんじょそこらのレッドキャップとは比べ物にならないくらい頭は良い。その結果が魔力に反映されているのだろう。



 しかし魔技は魔法を使わなければ伸びない。そしてRPGのステータスで言う所の魔法命中率に近い役割も担っている。

 なので、例えばこの子達にファイアボルトを仕込んだとしてもそうそう簡単には当たらない。使い物になるまで練習させる時間もない。

 だからバットによるノックで……つまり器用と敏捷でパラメータの低い魔技の代用とする作戦だ。



「こればかりは見てのお楽しみだ。……よし、それじゃあ一桜、あそこを飛んでる奴はどうだ? 当たるか?」



 俺は本丸下段……広島護国神社のあたりでホバリングをしているハーピーを指差した。ここからでは二百メートルは離れている。難しいだろうか?



「んー……やってみるね! 一桜はお姉ちゃんだからね! お手本します!」


「おう、頑張れお姉ちゃん」



 俺が一桜の肩をポンと叩くとふんすと鼻息荒くし、腰より少し上の高さに白く輝く魔力球を浮かび上がらせた。これはノックと言うよりはティーバッティングに近いな。



「それじゃあいっきまーす! よーいしょー!」



 一桜は気合い一発、当たればホームランと謳われた広島の往年の助っ人外国人を彷彿とさせるような強烈なアッパースイングで魔力球を真芯で捉えた。

 パカーン! と小気味良いバットの打撃音が辺りに響く。……物質を叩いてる訳でもないのに、何で音が鳴るんだ? 不思議な現象だ。

 打球は一直線にハーピーに向かい、その土手っ腹に直撃した。バランスを崩して落ちてくればいい程度に考えていたが、俺の期待を斜め上に裏切った。

 魔力球はハーピーの腹部を貫通した所で消滅した。ハーピーはおぞましい悲鳴を上げながら墜落、地面に追突する前に光の粒子に変わる。



「え……渉さん、何なんスかコレ」


「アクションスキル、ファンゴブラストだ。魔力球を浮かべて、あの通り……ティーバッティングで飛ばすスキルだ。魔技の低さを器用でカバーする為にこんな事になった」


「そのスキルをこの子達が使うんスよね? 見た目がこう、何と言うか……もはや少年野球チームっスね」



 一発で仕留めた事を胸を張って自慢している一桜に対して、他の赤帽軍団が拍手と共に「おー」と感心の声を上げている。

 そして我も我もと魔力球を生み出しては、空を飛ぶハーピーに狙いをつけてティーバッティングを開始している。

 もはや赤帽軍団にとってハーピーはバッティングセンターのホームランボード程度の認識のようで、次々に魔力球に射抜かれたハーピーが絶叫と共に落ちてくる。



「これって魔力切れになったりしないんスかね? あんだけバカスカ撃ってたら、魔力切れを起こして気絶しそうな気がしますけど」



 美沙がふと疑問を口にする。美沙は魔法も剣も両方使う魔剣士なので、魔法の運用についても身を持って理解しているから当然の疑問だ。

 魔法は魔力を消費して発動させる。消費した魔力をマナポーションや自然回復で魔力を回復させなければ、いずれ魔力切れで昏倒する。



「通常であればその通りです、奥方様。しかし今は管理者:高坂渉によって魔力に変換してもなおも有り余る程の魔素が常に供給されています。この状況下の彼女達は魔力切れを起こしません」



 トーカが美沙に説明しているのを聞いて、俺も合点が行った。それならもっと的を増やしても問題なさそうだ。

 俺はウォー・クライに全体化を乗せ、作戦区域内の魔物に届くように雄叫びを響かせた。

 間も無く、俺のウォー・クライに気を引かれたハーピーが群れでこちらに飛んできた。……ちょっと数が多いな。秋口の夕方に群れになって飛ぶムクドリを想起させる。



「俺達が頑張ったら、その分タゴサクとケラマが仕事しやすくなるからな! ここが正念場だ、頑張れ!」



 おー! と皆の声が響き、赤帽軍団のバッティングセンターが始まる。総勢九名の魔力球の弾幕がハーピーの群れを寄せつけない。

 美沙も細剣に魔法を纏わせるいつもの魔法運用ではなく、ファイアボルトやアイスボルトを始めとするボルト系の魔法を上空へと放っている。

 ラピスは腕組みをしながら快音を響かせる小さい子達を眺めて頷いている。その姿は少年野球チームのコーチのように見える。

 やろうと思えば広範囲に雷を落とすくらい簡単にやってのけるラピスだが、行動を起こす様子が全く見られない。今回は赤帽軍団に花を持たせる魂胆なのだろう。



 十数分程ハーピーを撃ち落とし続けていると、ハーピーの数がかなり減り空を飛んでいる個体もまばらになってきたが、気になる事がある。



「トーカ、そういやエリアボスはどこだ? 出現する兆候があるって言ってたよな?」



 そう、俺が美沙とラーメンを食いに行く算段を立てながら会議室を出ようとした時、トーカが確かにそう言った。

 他の魔物が出現しているなら、先程のウォー・クライに反応して押し寄せているはずだ。だが、今のところ出現を確認しているのはハーピーだけだ。



「ダンジョン内でもそうですが、エリアボス級はその性質上、生成に多少時間がかかります。魔素の集まり方が異常ですので、普段より大分時間が短縮されるとは思いますが、通常の魔物のように次々生まれると言うことは……」



 トーカの解説を遮るように、二の丸跡地の太鼓櫓が爆発したかのように吹き飛んだ。

 木材と白漆喰の残骸から顔を出したのは、十数人分の人間の上半身を雑に融合させたような、十メートル程はありそうな鈍色の巨人だった。



「ご希望のエリアボス級の魔物が発生しました。個体識別を行いましたが、未知の種族でした。身体的特徴からヘカトンケイルの近縁種ではないかと思われます」


「お前……それはエリアボスなんてレベルじゃないぞ」



 ヘカトンケイルはギリシャ神話に出てくる五十の頭と百の腕を持つとされる巨人だ。

 俺の目の前で堀に落ちてバシャバシャやってる巨人はそこまで腕の数はなさそうだが問題はそこではない。

 ダンジョンにおいてヘカトンケイルはエリアボスの中では最下層近辺で出現する大ボス的位置付けの魔物だ。

 広島で言えば矢野ダンジョンや尾道ダンジョンに出現する。だがどちらもダンジョン・コアがある階層の手前に出てくるし、戦うとなると相応の被害を覚悟しなければならない。

 間違ってもこんな街中に出てきて良い魔物ではない。下手したら建物が街区単位で崩壊してもおかしくない……もう太鼓櫓が爆散している時点で無傷は手遅れなのだが。



「確実にダンジョンの大ボスレベルっスね……どうします? あたし達でどうにかします? それとも探索者や警察に任せます?」


「そりゃあお前、ほったらかす訳にもいかんだろ……ほら行くぞ! 一桜達はハーピーへの攻撃を継続しながら俺に続け! あまり近付き過ぎてヘカトンケイルに狙われるなよ!」



 堀から這い出て、城南通り沿いに植えられた枝ぶりの良い松をへし折りながら、近場の探索者に狙いを定めるヘカトンケイルの侵攻を阻止すべく、俺は皆に号令を掛けながら走り出した。

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