表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/115

第36話

「中本社長!」



 俺はこっそりウォー・クライを乗せた大声を中本社長に浴びせた。本来は魔物のヘイトを稼ぐための挑発用スキルだが、人の注意を引いたりするのにも重宝する。

 これが「聞いた者を竦ませる」みたいな効果があったら人に向けて使うべきではないが、ただ注意を引くだけだから指揮や気付けにも使いやすい。

 俺の呼びかけに中本社長が正気に戻った。 



「……こ……高坂……さん? ゴ、ゴーレムはどこに行ったんだ……?」



 キョロキョロと辺りを見渡す中本社長だったが、目の前でどったんばったんと大騒ぎを繰り返す巨岩が自分を襲おうとしていたゴーレムのあられもない姿だったと気がついて目が点になっている。



「アレ、ですね」


「いやいや待った待った! 何でゴーレムがすっ転んで……そもそもどうやってあのパンチを防いだんだ……いや、もしかして俺はもう死んでるんじゃアないのか……?」



 中本社長は完全にパニクっている。どうやら俺が駆けつけてからの一連の行動は目でも瞑っていたのか見ていなかったようだ。

 生存を絶望視していたと思うので気持ちは分からないでもないが、ところがどっこい現世だ。死んではいない。

 こっちも必死こいて助けたんだから、死んだ気になられては困る。



「話は後です、間も無く自衛隊が到着します! そこで倒れてる人を連れて保護してもらって下さい!」


「高坂さん、アンタも一緒に……いや、分かった。聞きたいことが山ほどあるんだ、死ぬんじゃアないぞ!」



 中本社長は俺にも避難を促そうとしたんだろうが、俺が単騎で対処出来ている事実に思い至ったのか、倒れてる工員を後ろから抱えて後退するように離れていった。

 入れ替わりで自衛隊の一団が照明塔の明かりの下へと駆け込んできた。

 意識不明者を搬送している中本社長を見つけた数名が手助けしつつ避難、ゴーレムの対処が目当ての大多数は俺のそばに集結していく。



「もう到着している探索者がいるなんて……探索者協会の方ですか? 所属と名前をお伺いしてもよろしいですか?」



 隊長……班長? 自衛隊の組織の呼び方は分からないが、リーダーと思しき男性隊員が俺に尋ねた。俺はスマホからシーカーズを起動し、探索者証を表示する。



「丁種……いや、特例甲種の高坂です」


「特例甲種……? ああ、ドラゴン退治の立役者の方ですね。見たところお一人のようですが……他にパーティメンバーはいらっしゃらないんですか?」


「俺一人です。……いや、一応もう一人……一匹? いますけど」



 ちょうどいいタイミングで、空からその身を濃い闇の霧に包んだラピスが降りて来た。地面に降り立ったかと思うとその体は縮んでいき、最近ではすっかり見慣れた黒ゴスロリの少女の形態を取った。



「どうやら力をモノにしたようじゃの。これでワタルもミサと同様、人外の仲間入りじゃ。まぁ、向こうはナチュラルボーン人外じゃからお主とは若干違うが……む、救助の手の者か?」


「……高坂さん、こちらの少女は……?」



 先程話しかけて来たリーダーが、ラピスについて尋ねてきた。

 後ろに控える自衛隊員の中には心当たりがある奴がいるようで、ざわざわしたり「マリンフォートレス坂」なんて単語が聞こえている。

 違います、俺は狐面被って大立ち回りを披露するようなアノニマス・フォックスなんて恥知らずとは無関係です。頼むから放っておいて欲しい。



「テイムモンスターです、お気になさらず。……一旦送還するぞ」


「うむ。帰ったらオムライスを所望するぞ」


「分かった。後で美沙にメッセージ送っとく」



 満足そうな顔をするラピスをカードに戻し、カードデバイスに戻す。

 直後、轟音と揺れが俺や自衛隊員を襲う。もしやと思いゴーレムの方を向くと、どうにか体勢を整える事が出来たようで、ゆっくりと立ちあがろうとしていた。

 動きは鈍重そうに見えるが、あの大きさだ。実際にはとてつもなく早いんだろう。



「起き上がった! ゴーレムが起き上がったぞ!」


「タンク班、前へ! 一人で受けようとするな、隊列を意識しろ! 遠距離班は距離を取って射撃体勢維持! 近接班はタンク班が攻撃を耐えてから隙を狙え!」



 ゴーレムの立ち上がる様を前に、自衛隊の判断は早かった。俺も遊んではいられないので、タンク班に合流する事にした。



「加勢します!」


「ありがたい! コイツが先程のように転んでくれたらいいんですがね!」



 自衛隊のリーダーが軽口を叩く。あれ、もしかして俺が転ばせたのは見えてないのか? それはそれで困る。

 もう一度盛大にすっ転ばせて、またぞろざわつかれると収拾がつかなくなる。カバーストーリーも用意していないので説明にも難儀しそうだ。

 俺一人の力でなく、みんなで頑張ったから倒せた……そんな筋書きでコトを穏便に済ませられないだろうか……?



《可能です。高坂渉を対象に発動しているアビリティ:キング・アンド・クイーンの効果を周囲の友軍に拡散するパッシブスキル:新規スキル002を創造しました。これにより周囲二百メートルの友軍は基礎能力値:B相当の能力上昇を受けます》



 何かサラッととんでもない事を言わなかったか、この脳内アナウンスは?

 もしかして今日発覚したヤバいステータス補正はアビリティによる物……と言うか、もしかしてアビリティ持ちって俺以外にもいるのか!?



「何だ、いきなり力が湧き出て来たぞ!?」


「おい、ステータスを見てみろ! とんでもない事になってるぞ! 何だS+って!」


「あの探索者が共闘を宣言した途端に、ステータスが……一体何なんだ、あのオッサンは!?」



 新規スキル002の影響は如実に現れたようで、周囲の自衛隊員から驚愕の声が上がる。ただの警備員のオッサンだ、気にしないで欲しい。

 しかし爆増したステータスが自衛隊員に与えた士気は絶大であり、先程まで皆死を覚悟した表情をしていたのが嘘だったかのように覇気を取り戻している。



 それもそのはず、百数十メートルのゴーレムをどうにかしてこいという命令はどう見ても特攻の指令であり、任務にあたる者達は民間人の避難の時間を稼ぐための死兵でしかない。

 それが何故かステータスがバグったかのような増加を見せた。しかもそれが任務に当たっている全員となると、生還の欲目が出て来ても何ら不思議ではない。

 まさか新規スキル002、大きな敵への攻撃力が千倍になる新規スキル001までも拡散したりしてないだろうな……? 



「総員、気を抜くな! 敵の攻撃に備えろ!」



 リーダーからの叱責に皆短く返事をして、ゴーレムの攻撃に備える。やはり本職のタスクフォースはそこいらの探索者とは練度や連携が段違いだ。

 よくも転ばせてくれたなとでも言わんばかりにゴーレムが天を仰いで吼え、俺達に向けてテーブルを叩くような格好で拳を振り下ろして来た。

 盾を持つ者は盾を頭上に掲げ、その一撃を受け止める。タンク班の面々の口からうめき声が漏れる……が、潰れた者は誰一人として居ない。



 ……実は、バフのおかげで三倍になっている俺のエンデュランス・ペインを全体化を使ってこっそりとタンク班全員に拡散している。

 拡散したバフに加えて三倍エンデュランス・ペインが機能すれば、そう簡単にやられはしないだろう。

 状況に合わせた新規スキルを都度都度作れば目立たないように戦えるのかも知れないが、ご都合主義的にポンポンと新規スキルを生やすのは、あまりやりたくない。

 別に舐めているという訳ではなく、強すぎる力には反動があるのではないか? と睨んでいるからだ。

 違法カスタムステータスだって色んなものを削りながらブーストをかける。種子の能力だって何らかの犠牲の上に成り立っていてもおかしくはないのだ。

 ご随意にと言われても、その後が怖くて濫用なんて出来る訳がない。



「防いだ……防いだぞ! あの攻撃を!」


「近接班、エンゲージ! 遠距離班も撃ち方始め!」



 今防いだのはゴーレムの右拳だが、肩たたきのように今度は左拳が振り下ろされた。敵の攻撃を耐えられると分かったタンク班は必死に拳を受け止める。

 その間、受け止められた拳に向かって刀剣類や矢が放たれたが、贔屓目に見たところで被害は僅少……決定打にはなっていない。



 ダンジョンの壁は非常に硬い。

 かつて「真っ直ぐ掘り進んだら攻略が楽になるのでは?」と考えてツルハシやドリルで壁を掘り抜こうとした者は何人も居たが、一度たりとも成功した例はない。

 このゴーレムがラピスの言う通り、迷宮漏逸の具現化だとしたら、その外皮はダンジョンの壁だ。

 いかにバフがかかっていたとしても、致命的な破壊にまでは至らないだろう。

 耐える事は出来ても倒せない……俺がここに来るまでに抱いた「倒せるビジョンが見えない」という危惧が顕在化している。



「クソッ! 硬すぎる!」


「矢も全然刺さっていません……どうしたら!」


「コイツ、弱点とか無いのかよ!」



 有効打を与えられていない近接班から弱音混じりの狼狽が漏れる。

 俺なら力任せに叩き壊せるだろうが、それをやってしまうともう言い逃れ出来ない。中本社長の前でゴーレム相手に単騎で制圧しているので手遅れと言えなくはないが、今は目撃者数が多すぎる。

 新規スキル001に頼る事なく、なるべく順当に且つ穏当にこの場を切り抜けたい。……いや、待てよ。そもそも順当な戦い方って何だ?



 このゴーレムは普通のゴーレムではない。普通のゴーレムは動けなくなるまで叩き潰すか、胸部に埋め込まれているクリスタルで出来たコアを抜き取るか叩き壊せば倒せる。

 しかしこいつは魔素濃度過多に伴う迷宮漏逸現象の一種で、中の魔物が出て来るような「いつもの」迷宮漏逸ではなく、どういう訳かダンジョンそのものが人型になっている聞いた事もない変わり種だ。

 こいつはダンジョンなんだ。そこにヒントは無いだろうか?

 ダンジョンを攻略すると、ダンジョンは消滅する。ダンジョン・コアと呼ばれる水晶玉を砕けば攻略となる。

 つまりこいつのどこかにダンジョン・コアがあって、それを砕けば攻略扱いになって消えてくれるんじゃないか?



 思えば、このゴーレムの事を観察する暇がなかった。迫り来る拳と海でじたばたしている様しか見ていない。

 俺はタンク班に一旦離れる旨を告げて少し距離を取り、ゴーレムを下から上へとチェックする。

 胸部にはゴーレムらしいコアは無い。やはり常軌を逸している。関節部分は階段で出来ており、体は全体的にうっすらと光っている。

 洞窟タイプのダンジョンの中にはヒカリゴケのような物が壁にびっしり生えている物もあると言うが、多分こいつはそういうダンジョンだったのだろう。



 ゴーレムの顔には目も耳もなく、真一文字に切り裂かれたような口だけがある。……いや、額に何かある。

 宵闇の中にあっても虹色の輝きを放つ、バスケットボールくらいの大きさの水晶玉だ。

 黒い霧に包まれているその水晶玉を見ていると生理的な嫌悪感を覚える。一刻も早く叩き壊した方がいいとも思える。もしかして、あれがダンジョン・コアか?



「リーダーの……ええと、すみません。お名前を聞いていませんでした」


「ああ、申し訳ない。樫原です、どうかしましたか?」


「アイツの額に何か付いているようなんですが、見えますか?」


「本当ですか? 少し確認してみましょう」



 樫原さんが双眼鏡を覗いて、ゴーレムの顔を確認する。あまり時間をかける事なく樫原さんは双眼鏡を外し、俺に向き直った。



「……間違いなくダンジョン・コアですね。破壊出来れば、もしかしたら……しかしダンジョン攻略扱いになって、どこか他に別のダンジョンが生まれたら……下手な事は出来ません、上層部の判断が必要です」


「とは言えあのゴーレムを野放しに出来ませんから、やはりやっつけてしまうしか手は無いのでは?」



 樫原さんは顎に手を当てて考えているが、あまり悠長に熟考は出来ない。

 タンク班の盾や武器がゴーレムの攻撃を受けるたびにひしゃげている。戦っている本人にはバフがかかっているが、装備には何も寄与しない。

 装備本来の耐久力はそもそもバルク品相応であり、いくらバフのおかげで器用の基礎能力値が高くなり、武器防具の扱いが上手くなったとしても、材質の限界を超える運用は出来ない。



「樫原さん、タンクの限界が近付いています! 指示を!」


「……遠距離班! ありったけのスキルを使ってゴーレムの額にあるダンジョン・コアを撃ち抜け! 全責任は俺が取る!」



 樫原さんの号令があたりに響くと、後方から散発的に矢を射かけていた遠距離班が本気を出した。

 ゴーレムの顔目掛けてスキルの乗った矢がシャワーの様に飛んでいく。迷彩を基調とした装備なのに自動小銃ではなく弓矢という所が妙にシュールだ。



 放たれた射撃のうちの数本が、ゴーレムの額に鎮座ましますダンジョン・コアへ深々と突き立った。

 ここからでははっきりとは見えないが、強化ガラスが砕け散った時のように粉々になった虹色に煌めく破片が夜空に舞っている。

 ゴーレムが一際長い雄叫びを虚空へと放ち、黄金の粒子へと変わっていく。

 一瞬の静寂の後、自衛隊員達の勝ち鬨が爆発のように発生した。樫原さんもホッとした表情をしている。



《ダンジョン・コアの討伐が確認されました。このままでは空気中に放出された魔素により次元の穴が開き、近隣にダンジョンが再生成される事でしょう》



 脳内アナウンスが不吉な予報をぶっ込んできた。やはりこいつはダンジョン扱いで良かったようだ。

 しかし、そうは言っても対処法が無い。

 これまでダンジョンへの対策は難易度の高いダンジョンを攻略し、難易度の低いダンジョンを残す事で全体的な難易度を落としていく「出る杭を叩く」作戦だった。

 ラピスが探索者協会のお偉いさんの前でうっかり漏らしたダンジョンの素となる「ホール」をヴェルアーク……つまり魔素を使ってどうにかする方法はまだ聞けていない。

 そもそも魔素の研究は近年ようやく少し進んだとかで、まだまだ謎の多い要素だ。

 ラピスの話を聞いたとして、俺に理解出来るかどうか……そしてどんなジョブを持つ人間ならダンジョンの完全消滅が可能なのかも分からない。



《ダンジョンを生成する魔素に逆位相の魔素をぶつけるカウンター方式は高コスト且つ非効率的です。空気中の魔素を吸収し、ダンジョン生成を失敗させる供給阻害方式を提案します。空気中の魔素を効率良く収集するパッシブスキル:新規スキル003を創造する準備は出来ていますが、如何しましょう?》

 


 そうやって人の考えに挟まってくるのはよくない事だと思うぞ、脳内アナウンス。自重するように。

 それはともかくそのスキル作っといて欲しい。……濫用したくないとかいいながらこのザマだ。

 目立ちたくはないんだが、かと言って今後、東洋鉱業や呉に住んでいる人達が新しく湧くダンジョンに気を揉むのは不憫だ。

 せめて、地味でバレにくいスキルであって欲しい。あのキラキラしているゴーレムの残滓がサイクロン式掃除機よろしく俺に向かって来るようなド派手なエフェクトは論外だ。



《了承しました。空気中の魔素を効率良く且つ地味に収集するパッシブスキル:新規スキル003を創造しました。使用者に似て地味で没個性で事なかれ主義を体現したような効果で着実に魔素を収集中です》



 ちょっと辛辣過ぎやしないか? もしかしてコイツ、実は派手なスキルにしようとしてたのを邪魔されて拗ねてるのか?



「しかし助かりました、敵の様子を探るのは探索者の基礎でしたが、人命救助とゴーレムの攻撃を食い止めるのに手一杯でダンジョン・コアに気付きませんでした」



 樫原さんが反省を口にしながら握手を求めて来たので、俺も握手に応じた。脳内アナウンスに気を取られていたので少しビクッとしたのは内緒だ。



「冷静になれば、いずれ気付いたと思いますよ。しかしゴーレムの攻撃も続いていましたし、人的被害は相当に増えたはずです。そうならずに済んでホッとしています」


「いやはや、流石は特例甲種の探索者だ。警備員にしておくのが惜しいくらいですよ。どうですか、うちに来ませんか?」


「いえ、規則正しい生活ってのがどうにも性に合わないもので……警備員やってるのが一番気楽ですよ」



 樫原さんからの社交辞令の勧誘に、これまた定型分のようなお断りのセリフで返す。規律で雁字搦めな生活とかぞっとしない。

 やはり、ぬるま湯のような環境でのんびりやるのが一番だ。お国を守る仕事を否定するつもりはないが、俺には無理ってだけの話だ。



「おそらく、来月までにダンジョンが再出現する事でしょう。我々も場合によってはダンジョン捜索に駆り出されると思います。出来れば高坂さんにはお力添えをお願いしたいところですが……」


「申し訳ありません、こればかりはうちの会社との兼ね合いですので……今日こうして駆けつけたのだって下番後だったからですし」



 そんな感じで樫原さんと今後の話をしていると、上空からバラバラと空気を切り裂く騒音が聞こえてきた。

 見上げてみると、一機のヘリがこちらに向かっているのが見えた。自衛隊のヘリには見えないし、かと言って機体に社名なんかも入ってないので報道のヘリでもなさそうだ。

 段々近付いて来て、ヘリの様子が分かるようになる。乗っているのは美沙とあかりだった。二人とも俺に手を振っているので手を振り返してやる。

 美沙の身柄は保護しているとは聞いていたが、まさかここまで乗り込んで来るとは思わなかった。家で待っていてくれても良かったんだが……



 まさかここに降りて来ないだろうなと思っていたら、ヘリは向きを変えて呉の市街地方面へ飛んで行った。

 美沙が操縦士に何か怒鳴りつけていたのがちらっと見えたが、何を要求しているのかは何となく分かる。無茶を言うのはやめなさい、ここに降りちゃダメなんだから。

 ヘリコプターはヘリマーク……Hを丸で囲んだマークがある所にしか着陸出来ないと航空法で決まっている。

 離着陸時に邪魔になる物がないかとか、ヘリの重量を支えられるだけの強度があるかとか、ヘリマークを設置するための基準があるんだそうな。

 雪ヶ原と関わりのあるヘリと言っても、ヘリである以上は航空法に縛られている。このあたりにあるヘリポートと言えば自衛隊か病院くらいしか無い。

 民間のヘリを停めさせてくれるのかどうかという問題はあるが……どうにかしそうな気がする。既に根回しをしていてもおかしくはない。

 遠ざかるヘリを眺めつつ、やがて騒々しく駆けつけて来るであろう美沙の事を思い、少しだけため息混じりの笑いが出てしまった。



 俺はふと喉の渇きを覚えた。俺はカードデバイスを操作して装備を解いた後辺りを眺め、少し離れた所にある無傷の自販機を見つけ、微糖のコーヒーを買った。

 こういった工場の自販機は何故か道端の自販機より安い。福利厚生の一環だろうか? とても羨ましい。

 俺は微糖と言うにはやや甘味の強いコーヒーを片手に、しばしの休息を取る事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ