第32話
中区河原町の川沿いから少し中に入った所にある新築アパートの工事現場が今日の俺達の現場だ。
ALC床パネルと二階壁材の搬入及び設置に伴うクレーン作業の安全確保が主業務となる。床パネルだけと言っても大きめのアパートの床材だ、結構な量になる。
ALCとは発泡剤によって気泡を内包したコンクリートの事で、断熱効果と防音性能に優れた床材だ。オートクレーブコンクリートの略……だったと思う。
月ヶ瀬は現場に着いて早々、周辺道路を確認して一方通行や道路の幅を確認し、車両の誘導ルートを策定している。
これは本来前日のうちにスマホのマップを使ってやっておくべき作業だが、そんな暇がなかった。
俺は危険予知シートを書き、所定の位置に掲示し、蛇腹ゲートを開けて工事車両の到着を待っていた。
……が、体がしんどい。先程までの仮眠が全く休息になっていない。
「しんどい……全体的にしんどい……」
「どしたんスか先輩、死にそうな顔して……まるでゴールデンウィークに田植えを手伝った翌日のサラリーマンみたいですよ」
「誰のせいだと思ってんだ、誰の……普段しない動きをさせられた上、こってり搾り取られたから全身がダルいんだよ……ステータスの底上げはどうなってんだ……」
ステータス持ちは体力増強や耐久力上昇等、ダンジョン以外の実生活にも有用な基礎能力向上効果があったはずだ。どうなってんだ、この疲労感は。
俺の疲れ果てた姿を見て月ヶ瀬はケラケラと笑っている。こいつめ、他人事だと思って……
「ステータスがあってもしんどい物はしんどいっスし、筋肉痛にもなりますよ。あたしも初めてのダンスレッスンの翌日なんか産まれたての子鹿みたくなりましたからね」
「てことは俺も明日か明後日には筋肉痛が来るのか……何か対策は無いのか?」
「んー、普通の疲労回復や筋肉痛対策くらいしかやる事ないっスね。後は回数こなして筋肉痛が来ないように体を鍛えるくらいっスかね」
「回数こなすのか? アレを?」
アレとは、昨晩俺の部屋で散々やらかした行為の事だ。月ヶ瀬もそれに思い至ったようで、顔が茹でダコのように真っ赤になる。
「な、何言ってんスか業務中っスよ!? セクハラっスよ!? 周回するのは別に望む所ですけど今言いますか!?」
「お前がいきなり回数こなすとか言うからだろ! 俺は悪くねぇ!」
「はーーー!? あたしに責任押し付けようったってそうはいかねえっスよ! 大体先輩は……」
俺に食ってかかろうとした月ヶ瀬の言葉を遮るように、町中にサイレンの音が響いた。まるで空襲警報のようなけたたましい音に、今日が何の日かを思い出した。
「あー……そういや今日っスか」
「ああ、八月六日か。てことは業者が来る予定時刻を十五分過ぎてるって事か……おっと」
さっきまでついぞ忘れていたが、今日は八月六日。先の大戦の末期、広島に原爆が落とされた日だ。
俺は両手を合わせて黙祷をする。月ヶ瀬もまた、目を瞑り頭を下げて祈っているようだった。
一分程でサイレンの音は鳴り止んだ。俺と月ヶ瀬は黙祷を止め、再び雑談に興じる。
広島に育った者のほとんどは原爆記念日だけでなく、落とされた時間まで覚えている。八時十五分だ。
様々な折につけ平和教育の名目で学校で教わるというのもそうだが、原爆投下時間になるとサイレンが鳴る。それに合わせて黙祷するのが広島に住む者の毎年恒例の行事となっている。
他県に出て初めての原爆記念日を迎えた時、サイレンも鳴らなければ平和記念式典のテレビ放送も無いし、何なら誰も黙祷しない事にカルチャーショックを受けるのは広島県民あるあるだ。
「もしかして工事車両、デモに巻き込まれてんじゃないっスか? ここのすぐ近くも通行止めになってる事ですし」
「あっちの通行止めはデモ関連じゃなくて、平和記念式典の運営の為じゃないか? ……テレビでデモの規制が厳しくなったとかって話を聞いたが、普通に街宣車走ってるよなぁ……ほら、今もどっかで何か聞こえるし」
耳をすませば、近くを練り歩いているデモ隊のシュプレヒコールと昔の軍歌と演歌を足して二で割ったような聞いたこともない曲が音割れ音質で聴こえてくる。ただただ喧しい。
そもそも八月六日は広島という街の命日みたいな物であって、主義主張をぶつけ合う日じゃない。静かに祈りを捧げる日だったはずだ。
理知的な日本人は一体どこに行ってしまったのか、右も左も自己主張ばかりだ。
……まあ、お上や敵国に怯える事なく好き放題に自分のスタンスをくっちゃべっていられるのは、日本が平和である証左とも言える。
そう言えば、騒音に気を取られていたが、何処かからスマホの着信音が聞こえる。
ちなみに俺のではない。俺の着信音はスマホのデフォルト音であって、こんな自衛隊員が殺意マシマシで飛び起きそうな起床ラッパの音ではない。
「月ヶ瀬、お前スマホ鳴ってんぞ」
「え? ……あ、ほんとだ。栄光警備……あれ? うちの事務所からっスね、何だろ?」
「上番報告入れるの忘れてたとかじゃないのか?」
月ヶ瀬は俺に背を向け、スマホを耳に当てて通話を始める。
警備員は現場で仕事をして初めて契約履行となる。つまり警備員の未着は契約違反となり、責任を問われる事が多いにある。
だからどこの警備会社も、「家を出ましたよ」と会社に連絡する出発報告や、「現場に着いたので仕事の準備をしますよ」という上番報告を義務付けている。帰る際には「無事に終わりましたよ」と一報を入れる下番報告もある。
契約先から「まだ警備員が来てないんだけど」とせっつかれるのは論外として、出発報告をしていない奴は寝坊してるんじゃないか? 着いてない奴はどこかで事故ったりしてないか? と隊員の所在を会社で把握し、起こりうるトラブルに先手を打って対応する為の策となっている。
なので、出発報告や上番報告を入れてない隊員にはこのように電話連絡が入ったりする。……俺も時々やらかすので、人のことを悪し様に言えない。
「はい、月ヶ瀬です。もしかして上番報告入ってませんでした? ……え、はい? それマジです? はぁ……了解しました、先輩にも伝えときます。他に何かありますか? ……分かりました、失礼します」
一分足らずで電話を切り、月ヶ瀬がやや不機嫌そうにこちらに駆け寄ってくる。
「どうやら管制の配置ミスらしいっスよ。今日この現場休みだったみたいで、現場中止扱いにしとくのでゲート閉めて帰れって話らしいっス」
「マジか、そりゃあ誰も来ないはずだわ」
言われてみれば、作業開始時間になっても工事監督も元請けの社員も来ないのはおかしい。
しかし、こういう話も時々ある。営業担当が発注書を見間違えていたとか、配置担当が勝手に組み替えた結果整合性が保てなくなったとか、理由は様々だ。
うちではそういった警備員に落ち度がない配置ミスは現場中止手当として三千円が出る事になっている。
働かずに三千円貰えると考えたらラッキーかも知れないが、収入の低い隊員からしたら稼げないのは死活問題だ。
「他の現場の応援とかは必要なさそうか?」
「はい、今はどこも人が埋まってるから手は要らねーって言われました。帰ってヨシとの事っス」
「んー……まあいいか、布団をコインランドリーに持って行きたかったし……月ヶ瀬はどうする?」
「あたしは……って、そうだ。先輩、一つ言いたい事があったんスけど」
月ヶ瀬は腰に手を当て、眉根を釣り上げている。あからさまに「あたし、怒ってるっスよ」とポーズで表しているようだ。
「なんであかりさんはあかりって呼ぶのに、あたしの事は苗字呼びなんスか!?」
「えー……人に噂されたら恥ずかしいし……」
「好感度低い主人公に下校しようって誘われたヒロインみたいな事言ってんじゃないっスよ! あたし達もうカレカノでしょうが! はい! コールミー!」
早く早くと月ヶ瀬が両手をひらひらさせて煽ってくるので、俺は咳払いをしてから月ヶ瀬……いや、美沙に呼びかける。
「……美沙」
「声が小さい!」
「美沙」
「名前呼ぶだけじゃなくて何かあるでしょ! ほら!」
「……美沙、好きだ」
「んーーーー! 許します! やっぱり最愛の先輩に名前で呼ばれるの最高に嬉しいっスよねー!」
「人には名前で呼ばせといて、自分は苗字どころか先輩呼びを改めようとしないのはどうなんだ?」
人に恥ずかしい事をさせてニマニマと笑みを浮かべている美沙に若干イラッと来たので同じ理論でやり返してやる。
「あ、それもそうっスね。高坂さん……いや、お嫁さんになったらあたしも高坂さんになっちゃうし……お兄さんも旦那さんになっちゃうから……渉さん?」
「随分気の早い妄想が聴こえたような気がせんでもないが、声が小さくないか?」
「んもー、欲しがりさんっスねぇ……渉さんっ」
「俺には名前以外も要求してたろ、ほら」
「えへへ、これかなり恥ずかしいっスね……大好きですよ、渉さん」
少し背伸びをした美沙が、俺の頬に口づけをする。いや待った、俺はそこまで求めたつもりは無い。
慌てて周囲を確認する。俺達はまだ警備員の制服を着たままだ。こんな出来立てホヤホヤのカップルのような真似をしていい格好ではない。
幸い周囲には人影が……あ、ヤバい。若い男性が一人こっちを見ている。会社に通報されでもしたらコンプライアンス的に問題になってしまう……って、あれ?
「……もしかしてアレ、越智君……か?」
こちらを絶望的な表情で見つめている男性に見覚えがあった。つい先日、栄光警備を自主退職した越智君だ。
どうしてこんな所に? と疑問が浮かんで来るが、怒りの表情と大股でずかずかとこちらに近付いてくる越智君に思考が霧散する。マズい、完全に修羅場の体勢だ。
それを知ってか知らずか、美沙は呑気に蛇腹ゲートを閉めている。越智君には全く気がついてない。
「月ヶ瀬さん!」
越智君は俺を無視して、ゲートを閉めていた月ヶ瀬に声をかけた。月ヶ瀬はと言うと、ナンバー式の南京錠を取っ手に巻きつけたチェーンに引っ掛けた所で越智君に気がついて、たった一言つぶやいた。
「どちら様……?」
演技でも何でもなく、本当に覚えていなければ出てこないような怪訝な顔を向けられた越智君はよろよろと数歩後ずさった。
いや、まぁ、心境は分からんでもない。アプローチをかけた事を覚えてなかっただけでなく、存在すら認知されていなかったとか、あまりにも精神的にキツ過ぎる。
「俺です、越智です! 栄光警備に在籍してた時によく話しかけてた……」
「えーと、誰だっけ……ああ! 探索者試験に落ちた越智さん!」
やっと思い出せたとばかりに美沙がポンと手を叩く。うわぁ、そこ多分一番触れられたくない所だろうにグサっと行ったなぁ……
越智君の鬼のような形相がこっちを向いたので、俺は違う違うと手と頭を横に振った。そんな鬼畜な仕込み、俺には無理だ。
……いや、そういや昨日江田島行きのフェリーで美沙に越智君について相談したんだった。それを仕込みと言うなら、仕込んだと言えなくもないのかも知れないが……
「そんな事より……月ヶ瀬さん、随分と高坂さんと仲が良さそうですけど……?」
「えっ、あっ、本当に!? いやーやっぱり誰が見ても分かっちゃうんですかねー! 恥ずかしいなー! そうなんです、渉さんとは将来を誓い合った仲でして! ですよね、渉さん?」
血の涙を流しそうな越智君が殺意の籠った目で俺を睨みつけてくる。とは言え越智君は一般人のはずだから、俺を害せる程の膂力は無い訳だが。
俺は手と頭を横に振ろうとしたが……美沙からの無言の圧力を受け、無言とノーリアクションを貫く事にした。沈黙、それが答えだ。分かってくれ越智君。
「そうか……高坂さんにどうしたら月ヶ瀬さんと仲良くなれるかを聞いても答えをはぐらかしていたのは、あの時には既に……!」
越智君がギリリと歯軋りの音を立てながら射殺さんばかりの視線を向けてくる。どうして分かってくれないんだ越智君! 違う、違うんだ! マジで分からなかったんだって!
「俺が……俺の方が好きだったのに!」
「はーーー!? あたしの方が先に渉さんの事大好きでしたがーーー!? 十年越しの恋を舐めんじゃないっスよ!」
美沙の啖呵に屈したのか、ついに越智君が膝を折った。道路に膝立ちになり、ガックリとうなだれたままで何か呟いている。
……ちょっと待って欲しい。美沙の言い方だと三角関係の頂点が俺にならないか? 俺を奪い合う越智君と美沙の構造になってる気がするんだが?
勘弁して欲しい。月島君の時にもきっぱりと宣言したが、俺に男色の気は無い。
しばらく正気を失っていた越智君だったが、がばりと顔を上げ、なおも美沙に食い下がる。不屈の闘志とはこの事を言うのではないだろうか。
「月ヶ瀬さん、俺、ステータスを取得したんですよ! 俺はソードマンなんですけど、良ければ今度一緒にダンジョンへ行きませんか!」
つまり越智君は栄光警備を辞めたその足で探索者協会に行って試験を合格したという事か。この数日間で? 禁忌肢を選ぶような奴が?
どうにも拭いきれない違和感を覚えたが、それは俺だけではなかったようだ。
「……ステータスを得たって事は、丁種をもう一度受けたって事ですか?」
「え?」
美沙の唐突な質問に、越智君はキョトンとした顔を向けた。何を言われたのか理解していないその表情に、違和感が確信へと変わる。
「あ、はい、そうです! ですから一緒にどうですか? 知り合いがオススメしてるダンジョンがあって……」
「分かりました。では連絡先を頂いても構いませんか? シーカーズでいいですよね?」
美沙はすぐにスマホを取り出すが、越智君は戸惑ったままおろおろとしている。
「えーと、その……ちょっと忘れちゃって」
「なるほど、ではスマホの電話番号を頂けますか? 私の番号もお教えしますので」
「はい! ありがとうございます!」
越智君はスマホを取り出し、美沙と連絡先を交換した。それで気が済んだのか、越智君は別れの挨拶を交わして去って行った。
去り際、俺に対して勝ち誇ったような笑みを向けて来たが……あいつ、今の状況を本当に理解しているのか?
越智君の姿が消えたところで、俺は呟くように美沙に告げた。
「モグリだな」
「モグリっすね、通報はあたしがやっときます」
美沙は連絡先の交換に使ったスマホを鞄にしまい、別のスマホを取り出して操作し始めた。
越智君はおそらく、正規の手続きを踏まずにステータスを得たに違いない。でなければただのフカシだ。
研究が進んだお陰で便利になった探索者協会謹製のステータスシステムは資格保持者にしか提供されないが、ステータスの取得自体はとても簡単だ。
ダンジョン内で「ステータスオープン」と唱えるだけで、誰でもすぐにステータス持ちになれる。使い勝手の悪さに難儀するだろうとは思うが。
しかし、国内のダンジョンの管理を任せるために探索者協会を設立し、資格を持たない探索者を違法として厳罰に処すようになって以来、モグリの難易度は上がっている。
探索者協会は日本全国のダンジョンの管理を一手に引き受けている。しかし、それは発生した全てのダンジョンを把握している訳ではない。
例えば、特定の団体が隠匿しているダンジョンなんかがそうだ。
探索者協会が気付いていないダンジョンを本拠地として活動し、ひっそりとモグリ探索者を増やす事で「力が欲しいか」と問われたら二つ返事で頷くようなニューエイジかぶれを兵隊に仕立てていた新興宗教が存在していた。教団の名前はちょっと覚えていない。
自衛隊を数百人規模で突入させ教団関係者と違法ステータス持ちは逮捕・裁判を待たずに皆即殺と言う、近代の法治国家とは到底思えない結果になった。
昔はステータス絡みの研究が進んでおらず、一度ステータスを得たら消去する方法が無く、ステータスの力を使わせないようにするには殺す以外無かった。
そういった理由はあれども、宗教弾圧と取られかねない粛清ムーブは大いに批判と議論を呼んだ。
今では特定の魔力を急激に流して体内の魔力回路をズタズタに引き裂く事で、二度とステータスが使えないようにする技術が出来ている。
しかし全身の血管に結石をビッシリと生やして血液を一周させるような激痛に苛まれると聞くし、施術を受けた者はその痛みで発狂したりおおよそ四十パーセント程度は死亡するらしいが、皆殺しの憂き目に遭っていた暗黒時代よりはマシだろう。
「しっかし、あんなバカな真似よく出来たモンっスよね。こっちのカマかけに全部ひっかかってましたよ」
「俺も越智君があそこまでバカだとは思わなかったよ……ちょっと可哀想になるな」
越智君は美沙が仕掛けたトラップに見事にハマっていた。
まず、丁種は自分の意思でダンジョンには潜れない。ダンジョンに行けるのは五号警備に従事している時だけだ。
なので「丁種に受かった」と言いながらダンジョン探索に誘うのはどう好意的に解釈したとしてもあり得ない話だ。
次に、シーカーズを利用していないと思しき点だ。シーカーズは国が用意した探索者専用SNSだ。探索者はSNSの利用の程度はどうあれ、必ず登録しなければならない。これは探索者資格保持者の義務だ。
ダンジョンへの入場手続きにも使えるのでスマホに専用アプリをインストールするのは探索者がまず最初にやる事だ。
越智君はスマホを持っていたにも関わらず「忘れてきた」と答えた……つまり越智君はシーカーズの何たるかを知らなかったと判断出来る。
これが普通の犯罪なら状況証拠しか無いという事もあり、冤罪を恐れて見逃す事もあるかも知れないが、モグリ探索者となると話は別だ。
一匹居たら百匹居ると思えなどとゴキブリ扱いをされているような連中だ、猿酒のようなステータスでも数が揃えば凶器集合準備罪に騒乱罪、果ては内乱罪で十三階段を登らされても文句は言えない。
そんなパブリック・エネミーであるモグリ探索者を認知しているにもかかわらず敢えて放置したなんてお上にバレた日には、俺達も何らかのペナルティを食らう可能性だってある。
知り合いであっても通報する、これしか俺達に出来る事はない。悪く思わないでくれよ、越智君。
ちなみに美沙が越智君に教えたのは会社携帯の番号だ。会社携帯は過度な私用を防ぐために隔週金曜日に事務所に集められてシャッフルされる。
スマホを持てるだけの経済力がない隊員や個人携帯を仕事に使いたくない女性隊員の為に用意されている。越智君は自前のスマホを持っていたから知らなかったんだろう。
「よーし、通報出来たっスよ。後は探索者協会の仕事っスね」
「お疲れさん、じゃあ俺はコインランドリー行って布団を洗濯してから帰るからな」
「むー……置いてかないって約束したのに……」
「……洗濯が終わったら帰るから、家で待っててくれ。夕飯は何かガッツリした物を食べたい」
ぷくーっと頬を膨らませて抗議する美沙の頭を撫でながら要求を伝えると、美沙は途端に目をきらきらさせながらうんうんと頷いた。こいつの扱い方がちょっとだけ分かった気がする。
俺は制服のワイシャツを脱ぎ、美沙に解散を告げた後にバイクに跨った。
せっかくの降って湧いた休みだ、少し足を伸ばして佐伯区楽々園あたりのコインランドリーに行くとしよう。何故か近くにスーパー銭湯があるのはただの偶然だ。
§ § §
ちなみに余計なおでかけをした事はすぐに露見し、美沙にしこたま怒られた。
今後は騙すような事はせずにきちんと報告する事と、今度美沙の実家近くの温泉旅館へ旅行デートに連れて行く事を約束させられた。
しかし、そんな話がどうでも良くなってしまうようなショッキングな話題がテレビで報じられ、俺達はしばし顔を見合わせた。
それは、海外製の違法なカスタムステータスの使用者が発見され、当局が逮捕したものの逃走を許してしまうという内容のニュースだった。
被疑者の名は越智雄介……俺達が通報した、元同僚の越智君だった。




