第27話
「なーんだ、そんな事で落ち込んでたンスか……どーでもよくないっスか?」
俺の話を聞いていた月ヶ瀬がつまらなそうに鉄柵に背を預けた。その姿勢のせいで「Fish Legion」とヘビメタっぽいレタリングと共に蒲鉾が描かれたTシャツの中に押し込められた二つの膨らみが強調されてしまっている。見ていない。俺は見ていないぞ。一瞬だけだ。
しかし俺の話をどうでもいいとは失礼な。越智君の事でずっと悩んでたんだぞ、俺は。
ここは広島港発江田島切串港行きのフェリーの上、海の匂いをふんだんに纏ったベタつく潮風とハタ迷惑なまでに燦々と降り注ぐ灼熱の太陽光が激しく踊るデッキの片隅だ。
数日前に月ヶ瀬から「江田島ダンジョンに同行して欲しい探索者パーティがいる」と半ば強制的に有給を取らされ、こうして拉致られたのだ。
パーティメンバーはどんな構成なのか聞いておきたかったが、先方の意向で顔合わせまで話せないとの事で聞けずじまいだった。
正直、俺の心中はダンジョンアタックどころではなかった。先日の越智君の退職した原因が俺の不用意な発言にあるんじゃないかと悩んでいた。
フェリーの客席で波間に反射する太陽光をボーッと眺めている様子に異変を察知したのか、月ヶ瀬が俺をデッキに連れ出して話を聞き出した……という流れだ。
流石にこの暑さの中、わざわざ外に出ている奴はいない。人に聞かれたくない悩みを打ち明けるにはもってこいの閑散っぷりだ。
デッキの奥まった所に設置されている自販機の近辺は屋根があるので、俺達は日陰に隠れつつスポーツドリンクを飲みながら話をしていた。
「どうでもいいって……俺からしたら大問題だよ。先輩が後輩辞めさせたようなモンだろ」
「そこ責任感じる必要あります? 話を聞いた感じだと説教の内容に落ち度は無いと思いますし、その……えーと、誰でしたっけ」
「越智君」
「そうそう、その越智君が解釈違いのまま丁種の試験を受けたのがそもそもの間違いであって、越智君が試験に落ちた事を先輩が故意にいじって傷つけたって訳じゃないんでしょ? 最近の若者が打たれ弱すぎなだけですって」
「お前は打たれ強すぎる最近の若者だけどな……と言うか、越智君の事覚えてないのか? あんなに話しかけられてたのに」
越智君は月ヶ瀬とほぼ同期という事もあり、しょっちゅう月ヶ瀬に声をかけていた。
飯に誘って断られ、遊びに誘って無視されとさんざっぱら袖にされてもへこたれずにアタックし続けていた。
何なら周囲に「どうしたら月ヶ瀬さんと仲良くなれるか」とアドバイスを乞うたくらいだ。
俺も何度もしつこく聞かれたが、他の隊員に丸投げしたり答えをはぐらかしたりした。月ヶ瀬が俺にだけ懐く理由に心当たりが無かったからだ。
月ヶ瀬の正体が俺に会いたくて栄光警備に入社したみーちゃんだと判明した今なら、俺への偏執も他の隊員への塩対応も理由に察しが付く。
……しかし、あれだけ話しかけられていた越智君の名前すら覚えてないのはどうなんだ?
「いやー面目ない、先輩の事しか考えてなかった物で有象無象の事までは興味ないっスね。参考までに聞いときたいんスけど、どんな奴です?」
「茶髪で、そこそこイケメンで、いつも現場にマウンテンバイクで乗り付けてて、二十代前半の……」
「あ、その時点でダメっスね。同年代の男性ってほぼほぼあたしの事気持ち悪い目で見てくるから十把一絡げで無視っスね」
「越智君めっちゃモーションかけてたのに……何か不憫だなあ……」
「興味無い異性からの干渉ってそんなモンですよ。あたしも好きな人にアピールしてもうまく回避されてるんで、人の事言えた義理じゃないっスけど」
月ヶ瀬の視線が湿度と冷気を帯びた物に変わってきたので、俺は船の後方に顔を向け、極力目を合わせないようにした。
月ヶ瀬の気持ちは分かっている。ただの後輩やちょっと仲の良かった程度の通行人が何年も俺に執着し、わざわざ隣の部屋に引越して来て、甲斐甲斐しく俺の世話や手伝いをする訳がない。
直接的な言及は無いにせよ、月ヶ瀬は俺に惚れているのだろう。こんなオッサンに懸想するなんてどうかしている。
俺はラノベやアニメに出てくる鈍感系主人公を気取るつもりはさらさらない。……しかし、こればかりはどうしようもない。
俺と月ヶ瀬は一回り以上歳が離れている。世間体から考えても、月ヶ瀬の気持ちを受け入れる事が最良の選択であるとは言い難い。
こうして知らんふりをしていれば、いつも通りの接し方に戻ってくれる。直接的な言及が無いからこそ留まれる、親密な友人のような間柄だ。
この付かず離れずの関係性がとても心地良いから、出来れば今のままを維持したいと思っている。……甘えてるんだろうなぁ、俺は。
「お、そろそろ着くっスよ。案外早いモンっスね」
月ヶ瀬がおでこに手をかざして遠くを見渡す。俺もその先に目をやった。
いつの間にか遠くにあったはずの陸地がすぐそこまで迫り、俺達の乗っているフェリーは広島港と比べるとかなり小さい桟橋に向かっていた。
江田島市切串港……俺達の今日の目的地である江田島ダンジョンへの玄関口だ。
§ § §
江田島は南区宇品にある広島港から直接アクセス出来る島の中では最大の島だ。
元々は江田島と能美島の二つの島があり、海峡部が埋め立てられて一つの島になったという歴史がある。今回俺達が訪れたのは、本来の江田島の方だ。
ここは広島県民には馴染み深い島だ。広島県下の中学生が臨海学校に赴くのは、大体この江田島だ。
二十四人乗れる大きいカヌーのような船、カッターに乗せられて慣れないオールを漕ぎ、両手の皮をズル剥けにするのが風物詩となっている。
ディスクゴルフのコースがあったり、陶芸教室があったりと多数のレクリエーション施設や研修コースを備えている宿泊研修センターを思い出す広島県民は多いと思う。
その認識が変わったのはおおよそ三年前だ。
江田島から程近い有人島である似島のダンジョンが攻略され、モントリオール仮説そのままに近場である江田島中央に新しく生えたのが江田島ダンジョンだ。
探索者協会のある広島の市街地からはかなりの距離がある江田島だが、ダンジョン発生時の対処は極めてスムーズだった。
その理由はシンプルで、ダンジョン発生地点の目と鼻の先に海上自衛隊の幹部候補生学校があったからだ。
自衛隊員はその業務の関係上、ステータスの保持が義務付けられている。その為、ダンジョン発生時の初動対応は下手な探索者がやるよりも断然早い。
ダンジョンの表層の初期探索から陣地形成、ダンジョンのランク・運用規則の制定と探索者協会への資料の引き渡しまでとんでもないスピードで済ませてしまった。
流石は世界が驚嘆するレベルの練度を誇る、我が国きっての防衛組織である。そんじょそこらの即成パーティとはモノが違う。
それ以来、江田島の印象は青少年育成の為の合宿所からダンジョンの島に塗り変わってしまった。
そんな江田島の切串西沖桟橋横の年季を感じる建物の中で、俺と月ヶ瀬は合流予定のパーティの到着を待っていた。
四人掛けのロビーチェアがいくつか置かれている休憩スペースの利用者は少なく、俺達と似たような江田島ダンジョン目当ての数人の探索者が、今日の予定を相談している。
俺達の待ち人である先方は同じ切串行きでも呉ポートピアパーク発の船に乗ったようで、一キロ離れた別の切串港に着いてしまったらしい。
車ごと島に渡って来ており、迎えに行くので動かずに待っていて欲しいとの事だ。この暑さの中で歩くのはしんどいと思っていたので丁度いい。
俺達が仕事の話やテイムモンスターの話をして時間を潰していると、建物の外の路上に一台の白いワゴン車が停車した。特に何の特徴もない、ただの軽バンと言った感じの小さめの車だ。
開いた助手席からひらりと飛び降り、こちらに駆け寄って来る人物には見覚えがあった。
「え、あれって……幸村灯里……!?」
「そっス、あれが今回の同行者っス。どうにか渡りをつけてくれって頼まれたモンで……」
俺が以前アリオンモールでのイベントの際に警護したアイドルグループであるVoyageRのリーダー、幸村灯里だった。
当然の話ではあるが、今はアイドルの衣装ではなく私服に身を包んでいる。真っ白なワンピースに麦わら帽子と完全に夏の装いだ。ひまわり畑に立たせたくなる。
建物内に居た数人の探索者と思しき男女が、唐突な全国区の有名人の登場に皆驚き、スマホを取り出して写真を撮っている。
「高坂さん、お久しぶりです。今日はタンク役、よろしくお願いしますね。月ヶ瀬さんもお付き合いいただきましてありがとうございます」
幸村は頭をぺこりと下げて笑顔を向けた。それに呼応して周囲の視線が一気にこっちに投げかけられる。
この視線の種別は幸村に対する物とは全く違う。月ヶ瀬はともかく、俺に対しては「こいつ誰?」とでも言いたげな、不審者を見る物に近い。
「幸村さん、おはようございます。えーと、ここだとちょっと……移動しません?」
周りの反応に居た堪れなくなった月ヶ瀬がこの場を離れる提案をしたので、俺も頷いておく。
人目を引いている状態で出来る話は今のところ何も無い。世間話ですらSNSで拡散されてしまいそうだ。
「ああ、気が利かず申し訳ありません。ではお二人とも、こちらへどうぞ」
俺達は幸村に案内され、路駐で待機していた白いバンへと近寄った。流石に野次馬はついて来る事はなかったが、終始視線とスマホが向けられっぱなしだ。
助手席に乗り込もうとした俺だったが、何者かに肩口を強い力でぐいっと引っ張られた。
抵抗しようとする時間も与えられず、いつの間にか開いていた後部座席のスライドドアから車内に押し込まれてしまった。端に置かれていた大きな熊のぬいぐるみがクッションの代わりになってくれたおかげで無傷だ。
下手人は立ち位置的に月ヶ瀬か幸村しかいないはずだが、このはたき込みが誰の仕業なのかを確認しようと入り口を見ると、幸村が軽やかな身のこなしで乗り込みながらドアを閉めていた。
「はい、高坂さんは私の横です。月ヶ瀬さん、すみませんが助手席へお願いします」
のそのそと助手席に乗り込んで来た月ヶ瀬の顔が苦虫を十匹ほど一気に噛み締めたような酷い顔をしている。到底女子がしていい表情ではない。
月ヶ瀬がドアを閉めたのを合図に、俺達を乗せたバンは路面表示が消え掛かっているひび割れたアスファルトの上を走り始めた。
§ § §
今回の江田島ダンジョン探索は、月ヶ瀬と幸村、そして俺を主軸にして動画を撮るらしい。
俺と月ヶ瀬はドラゴン退治の立役者であり、そして日本に二人しかいない特例甲種探索者であり、日本屈指の装備メーカー「東洋鉱業」のスポンサード探索者だ。
特に月ヶ瀬は見た目が良い。視聴者ウケするだろうからという事で、月ヶ瀬にアイドルの衣装を着せて幸村と一緒に歌って踊る絵が欲しいんだそうな。
今回VoyageRのメンバーが幸村だけなのも、VoyageR三名に月ヶ瀬一人ではどうしても埋もれてしまうからだとか何とか。
動画の構図とか分からんが、プロがそういうならそうなんだろう。
月ヶ瀬も月ヶ瀬で、今日の為に何週間もレッスンに通って歌とダンスを練習したと言っていた。……かなり大掛かりな計画なのに、俺には一言も無かったのが若干気にかかる。
今回の旅程のメンバーは月ヶ瀬、幸村、俺、そして今現在車を不機嫌そうに運転している幸村のマネージャー的な役割の女性の四名だ。名前は氷川さんだ。
初対面の挨拶はしたのだが、ロクな返事は返ってこなかった。どうにも俺に対して塩対応と言うか、嫌悪感を剥き出しにしているように見える。
俺に対して嫌悪感を持つ氷川さんに殺意を向ける月ヶ瀬、俺に対して積極的にコミュニケーションを取ろうとする幸村に対して敵愾心を露わにする月ヶ瀬と、車内の空気が地獄と化している。
そんな雰囲気を完全に無視して、幸村が次々に話しかけて来ていた。本当に肝が太いなこの子は、そうでもないと芸能界を生き抜けないのだろうか。
「あ、そうだ。特例甲種探索者、おめでとうございます。ドラゴンを相手に逃げずに戦うなんて流石です」
「ああ、それはどうも……勝てたのはまぐれだし、皆が必死で戦ったおかげですよ」
「敬語は結構ですよ、私の方が年下なんですから。……運も実力のうちと言いますし、突然現れたチャンスをモノにするには実力も必要です。それに、高坂さんが前線で攻撃を引き受けたからこそ、他の人も攻撃出来た訳ですから……どうかご謙遜なさらずに」
痛いくらいのキラキラの眼差しを向けられて、どうにも居心地が悪い。
何せあのドラゴン戦は月ヶ瀬の独壇場だったし、俺の貢献度なんて微々たる物だ。身の丈に合わない賞賛程恐ろしい物はない。俺は幸村から距離を取りたかったが、そうもいかない事情があった。
ただでさえ軽バンの車内は狭いと言うのに、先程俺の身を守ってくれたクマのぬいぐるみが運転席の後ろの座席を占守しているせいで、俺のすぐ真横に幸村がいる形になっている。何なら若い女性特有のいい匂いがしている。
これで鼻の下でも伸ばそう物なら、運転席と助手席の二人の機嫌がもっと悪くなりかねない。先程から俺の視線はクマのぬいぐるみに釘付けになっている。他に目のやり場がないからだ。
「……今回、他のメンバーの皆さんはいらっしゃらないようですが?」
「敬語はいらないと申しましたのに……浜本と桝本は今回お留守番です。浜本はCMの撮影、桝本はレッスンと週刊誌のグラビア撮影がありますので……残念でしょうが、私で我慢してくださいね」
チラリと視界の端で見えた俺に微笑みを向ける幸村の様子と、ルームミラーから見えてしまった運転席の氷川さんが眉根に皺をこれでもかと寄せて舌打ちしている姿に胃が破壊されそうだ。
本当に何かもう、居た堪れない。勘弁して欲しい。月ヶ瀬が若過ぎると困っていたのとは比べものにならない。
「そんで幸村さん、今回は江田島ダンジョンの何層まで行くんです?」
助手席でスマホを弄っていた月ヶ瀬が不機嫌そうに幸村に訪ねた。
ずっと幸村の相手をさせられていた俺としては丁度いい助け舟となったが、そこは実際気になる所だ。
江田島ダンジョンは最低でも乙種探索者でなければ立ち入る事が出来ないダンジョンであり、迷宮漏逸対策の巡回も自衛隊員が行っている。警備員が介在する余地が全くないダンジョンと言える。
そういう意味では俺と月ヶ瀬にとっても無縁のダンジョンであり、事前情報を調べる必要も無かったので、どういった特徴のダンジョンなのか全く知らなかった。
遅まきながら俺もスマホを取り出してシーカーズを起動、マップ機能から江田島ダンジョンの情報を表示させる。
出てきた情報を見るに、江田島ダンジョンの構造はかなり異質だ。
内部に入ると広大で深そうな海の上に、壁も天井もない幅三メートルの石畳の道が迷路状に広がっている。ドローンを使って空撮すれば行くべき道や立ち塞がる魔物の姿が一目瞭然だ。
そして江田島ダンジョンの一番大きな特徴として、二階層以外に降りる際、パーティメンバーで手を繋いで降りなければ同一の階層に辿り着けない点が挙げられる。
もし四人パーティがアタックしたとして、全員が手を繋げば同一マップの同一地点に降りられるが、手を繋がずに階層を降りると、別パーティとして認識されてしまい、それぞれ別のマップに飛ばされる。
一度別マップに飛ばされてしまうと、一階層に戻らない限り、一生かかっても合流出来ない仕組みになっている。
こういった多重次元的なダンジョンはMMORPGにありがちな形式である事から、ゲームから取ってインスタンスダンジョンと呼ばれる事が多い。
第一階層から第九階層までは槍持ちの磯臭いマーマンや人間くらいの大きさのラージオクトパス、ダツのように海中から飛び出して突き刺さろうとするランスフィッシュといった海産物系の魔物が待ち構えている。
ドロップ品に関しては、大当たり枠が魔力を貯留する性質を持つ特大のアクアマリンで、アクセサリに仕立てれば魔法を使うジョブの非常時の魔力タンクとして使える便利素材だ。
ハズレ枠として魚やタコやイカ等の海産物が出てくるが、これは食品として流通ルートに乗せられないので、探索者達が近場の砂浜で海鮮バーベキュー大会を催しておいしく頂くようだ。
「今回は十階層まで降りますよ。百メートル四方の四角いステージ状になっていて、階層ボスが出現します。ボスを倒したらそこをステージとして使って歌とダンスの撮影をして終わりです」
「今から潜るんスよね? 船の最終便に間に合うんスか?」
「ダンジョンの帰り道の心配はいりませんよ。江田島ダンジョンは階段を上がるとゲートの外にワープさせられますから、実質行きの事だけ考えれば大丈夫です」
確かに基礎情報に「帰りはすぐに帰れるダンジョン」との記述がある。
普通のダンジョンは特定の階層に棲む階層ボスを倒して帰還する際、来た道を辿って帰る必要がある。
行きで倒している分魔物は少なくなっているが、それでも魔物との遭遇の危険性は無視出来ない。
しかし、江田島ダンジョンは階層ボスに限らず、階段を登ると何階層であってもすぐさま外に出る事が可能だ。
この仕様のせいで、江田島ダンジョンの受付はゲート付近に野晒しで設置されている。ダンジョン内に設置しても、利用者が帰りに通過しないのであれば受付の意味がないからだ。
「まあ、詳しい話はダンジョンに入場してからにしましょうか。ほら、見えて来ましたよ!」
幸村が俺の前面に体をねじ込むようにして助手席と運転席の間から乗り出し、前方を指差す。その際、布地の薄いワンピース越しに幸村の柔らかい肢体に接触しまう形になってしまった。
いや、本当に勘弁して欲しい。こんな状況を週刊誌やスポーツ新聞の記者にスクープ映像として撮影されでもしたら、どんな目に遭うか分かったモンじゃない。
世の男性なら現役アイドルとのラッキースケベだと大喜びだろうが、人の目と世間体を何より気にする警備員のオッサンとしては、リスクの大きさに様々な物が縮み上がってしまう。
右隣に鎮座するクマのぬいぐるみに強くめり込むようにして幸村を避けつつ覗いた前方には、自衛隊が建てたと思われる白い仮囲いが見えてきた。
あの囲いの中に俺達の目的地、江田島ダンジョンの入口が待ち構えている。
「それじゃ、頑張りましょうね。高坂さん」
振り返って天使のように微笑む幸村に波乱の予感しか感じられず、俺は引きつった笑みを返す事しか出来なかった。




