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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第一章・幕間

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幕間2 激突! マリンフォートレス坂(6)

 ラピスはまず、ミスリル・ゴーレムの前までと歩いて行った。隙だらけにしか見えないが、キマイラもミスリル・ゴーレムも手出しが出来ない。



《このまま一撃入れて終わりにしてもいいんじゃが……せっかくじゃ。人の知識を学んだテイムモンスターの強さを見せてやろう》



 ラピスの声が会場全体に響き渡る。これはラピスの持つスキルの念話ではない。どちらかと言えばドラゴンの固有スキルである咆哮に近い。

 スキルの細やかな操作によって拡声機能のみをアクティブにしているようだ。器用な真似をするもんだ。

 観客席からどよめきが起こる。自分の意思で話す魔物は、これまでその存在を否定され続けていたので、この反応は当然とも言える。



 そんな異様な雰囲気の中、対戦相手のテイマーの指示でミスリル・ゴーレムが動いた。拳を振りかぶり、ラピスに向かって叩きつける。

 ラピスは右腕を上げ、拳をぶつけ合うような形でミスリル・ゴーレムの拳を止めた。ラピスは地面に打ち込まれた長い杭のようにピクリとも揺れない。



 観客席から歓声が湧き上がる。だがこれは、どちらかと言えば驚いて声が出たような感じの声色だ。

 月島君も大型スクリーンの方を向いて唖然としている。俺もそちらに目をやると、とんでもない光景が映されていた。



「ゆ……指一本で止めてる……!?」



 スクリーンの中のラピスは、ミスリル・ゴーレムの拳を人差し指だけで止めていた。そしてその人差し指が引っ込んだ瞬間、ミスリル・ゴーレムの全身が文字通り、粉微塵になって吹っ飛んだ。

 あまりの出来事にマリンフォートレス坂から一切の音が消えたかのように静寂が包み込む。



《この間、暇つぶしに見ていた動画に出て来た寸勁という技じゃ。ワン・インチ・パンチとも言うな。ジョブを得た人間であれば多少の真似は可能であろうが……ま、妾がやればこうなる》



 ラピスは上げたままの拳を、今度はキマイラに向けた。唸り声を上げていたキマイラの獅子の頭が、先制攻撃とばかりにラピスに炎を吐き出した。

 ラピスはやはり動かない。キマイラの業火に巻かれ、姿が見えなくなった。そこかしこから悲鳴が上がる。

 たっぷり三十秒は焼かれていただろう。ステータス非保持者であれば五秒で消し炭だろうし、ステータス保持者でも三十秒も焼かれていたら当然のように死んでいる。

 ……しかしラピスは髪の毛一つ焦がさずに、炎の中から現れた。



《妾に炎で挑もうとする気概は認めてやろう。ああ、そうそう。これも一度言ってみたかったんじゃよな。──炎とは! こうして使う物じゃ!》



 息を思い切り吸い込んだ後、ラピスの口から漆黒の炎が吐き出された。キマイラをそのまますっぽりと包み込めるような巨大な黒炎がコンバットゾーンを舞い踊る。

 十秒も経たない間に炎は消えた。そこに残っていたのは、魔物が死に絶え残した骸が消えゆく際に残す金色の粒子だけだった。



 ……こいつ、広島高速三号線で戦った時は本気じゃなかったのか。あの時にこんな攻撃を喰らっていたら、俺達は速攻で死んでいた。

 何なら、東洋鉱業から預かっている最新の装備を使っても勝てる気がしない。中本社長の言葉を借りるなら、装備でゲタを履かせた所でタカが知れているって所だ。

 もしも今のラピスに月ヶ瀬が対峙したなら……それでも多分勝てるんだろうな。一体何なんだあいつは、人間辞めてるんじゃないか?



 それはともかくとして、これで七体倒した訳だが……残りの一体が見当たらない。

 試合開始前から一体足りなかったが、終了の合図は聞こえない。つまり、最初からどこかに隠れている……?



《さて、残る一匹は……ふむ、そこか》



 ラピスが右腕を空に向けて突き上げ、フィンガースナップをした。その瞬間、晴れ渡る空に雷光が閃き、空気をつんざく轟音と共に何かが落ちて来た。

 コンバットゾーンに大穴を開けそうな勢いで衝突したのは、飛竜の亜種であるワイバーンだった。

 試合前のタクティカルゾーンに居なかったのは、こいつだけ高高度を飛行させていたからだろう。

 わざわざワイバーンを空で待機させた目的は、隠し球にしておく事で対策を取らせない為だと思われる。



 事実、その戦法は有効だったと思う。しかしそれは並の相手だったならばの話だ。

 小手先の策やパワーバランスを易々と粉砕する、不条理の塊であるドラゴンによって全て台無しにされる事態は想定していないはずだ。

 ラピスは悠々とワイバーンに歩み寄った。



《やあやあ、ご同輩。どうやら正式な契りに至っておらんようじゃな。自我を得たお主なら分かるじゃろう? カードに逃げられぬテイムモンスターの逝く先が、安寧の地ではない事をな》



 ワイバーンは地に落ちた時の衝撃のせいか、はたまたラピスの呼んだ雷の当たりどころが悪かったのか、すぐに起きる事ができなかった。

 それでもワイバーンはズリズリと這うようにラピスから距離を取ろうとする。しかしその動きは悲しいくらいに遅い。



《恨むなら主人を恨むのじゃぞ。お主の主人がカード化を覚えておったら、無駄に命を散らす事も無かった。お主の主人が見下げ果てたゲスでなければ、妾が出張る事も無かったじゃろう。お主はその運の悪さ故に、無為に死ぬのじゃ》



 ラピスの周囲に渦巻いていた赤黒い霧が集結し、ドラゴンの腕をかたどる。忘れもしない、俺の腕を切り裂いたあのドラゴンの腕だ。

 ワイバーンは死の運命に抵抗しようと滅茶苦茶に足掻くが、ラピスはその抵抗ごとワイバーンを霧の爪で切り裂いた。

 サイコロステーキのように刻まれたワイバーンは、鳴き声一つ上げることも許されず金色の粒子に姿を変えた。

 もしかしたらそれは、余計な苦痛を与えずに事を済ませようとした、ラピスなりの温情だったのかも知れない。



《またの世に生まれる事があれば、まともな主人に恵まれる事を祈っておるぞ。……さて、これでしまいかのう?》



 ラピスはその身に纏っていた赤黒い霧を霧散させ、散歩から帰宅したよう気軽さで俺達のタクティカルゾーンに戻ってくる。

 しっかり八つ当たりが出来たからか、ラピスの雰囲気もいつも通りの暢気な物に戻っている。



「戻ったぞ、主人殿。しっかりと一桜の仇、取ってきたからな」


「ああ、よくやったな。ありがとう、ラピス」


「ふふ……やはり名前で呼ばれるのは良いものじゃな」



 俺はふんぞりかえってドヤ顔をしているラピスの頭を撫でてやった。……完全に勝ったつもりで気を抜いていたのが悪かった。俺達の方に駆け寄ってくる二つの影に気付くのがやや遅れてしまった。

 その影の正体は俺達の対戦相手のコンビだ。手にナイフを握りしめている。月島君はいち早く気付いて、顔を強張らせた。



「フォックスさん、ボクから離れて! アイツらが来ます!」



 月島君が俺に向かって叫ぶ。俺を危険に巻き込みたくないのは分かる。だけどな、あの二人に目に物見せたかったのはラピスだけじゃないんだ。

 俺は足元に転がっていたバットを拾い上げる。一桜のバットだ。カードに戻った際に所有者から離脱した武器はカード化のプロセスを逃れる事が出来るんだろうか?

 俺はカバーリング・ムーブで月島君の前に飛び出して、二人組のうち近い方に狙いを定めてシールド・バッシュを叩き込む。



 モンスターテイマー自身の戦闘力は一般人に毛が生えた程度だ。それはこいつらも、月島君も同じだ。

 だから戦闘力に乏しい月島君を狙ったんだろうが……では、ドラゴン戦を経たナイトとモンスターテイマーの実力差はいかほどだろうか。その答えが、これだ。

 俺のバットによるシールド・バッシュはアッパースイング気味に……こっちは確か佐原だったか、そいつの土手っ腹に食い込み、三十メートルは吹っ飛ばした。

 シールド・バッシュに全体化を適用しても良かったが、こんな連中に手の内を晒すのは癪だった。しかし現実問題として、シールド・バッシュはクールタイムが明けないと再使用出来ない。

 なので、一桜が教えてくれた可能性を試す事にした。そう、敵を吹っ飛ばすのは別にシールド・バッシュでなくていい。

 俺は渾身のスマッシュ・ヒットを……えーと、こっちは宮園か。佐原を吹き飛ばした時と寸分違わぬ位置に強振を叩き込み、ホームランコースで打ち上げた。

 こちらは少し遠めの三十五メートルといったところか。骨の数本はへし折るような手応えはあった。内臓に突き刺さってなければいいんだが、それは運だな。



《良い事を思い付いた。ワタルよ、妾に合わせよ。こう言う時は見せ場を作る物じゃろう? 昨日見たプロレスでも似たような事をやっとったぞ。ウォー・クライ、そろそろ生えとるじゃろう?》



 俺にだけ聞こえる念話でラピスが語りかけてきた。

 そう言えば、ラピスと戦った後からあまりにも忙しすぎてステータスの確認を怠っていた。

 確認したらラピスの言う通り、いつの間にか習得していた。……ステータスは適度にチェックした方がいいな、本当に。

 【ウォー・クライ】はナイトのヘイト管理用のスキルだ。雄叫びを上げることによって敵の注意を引く。気の弱い相手なら、軽いスタン効果も期待出来る。



 俺はラピスに軽く頷き、隣に立つ。ラピスは佐原と宮原を指差し、俺はホームラン予告のようにバットで前方を指し示した。

 ラピスは咆哮で、そして俺はラピスに指摘されるまで習得していた事に気付かなかったウォー・クライを発動して、会場全体に届くような大声で叫んだ。



『《頭が高いッ! ひれ伏せェい!》』



 カメラにバッチリ抜かれていたので、俺とラピスの非常に映える絵が巨大スクリーンに映し出されている。

 ここで会場のボルテージが本日の最高潮に達した。やかましくて何も聞こえやしない。鼓膜が破けてしまいそうだ。

 月ヶ瀬の方を見たら、隣の人の襟首を掴みながら俺の方を指差して何か叫んでいる。そろそろやめてあげなさい。ぐったりしてるぞ、そのオッサン。



 斯くして、俺と月島君は急ごしらえのタッグではあったがモンスターテイマー最強決定戦優勝の栄に浴する事となった。

 対戦相手の佐原と宮園は命に別状はないものの、心がポッキリと折れてしまったようだ。モンスターテイマーとしての再起は……本人の気持ち次第だろう。

 エクシード・ブレイブの広島統括責任者を名乗る男性からは是非次回以降のテイマー戦への参加を検討してくれと言われたが、冗談じゃない。

 あんなに肝を冷やして皆に戦闘をさせるくらいなら、俺が直接戦った方がまだマシだ。

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