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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第一章・幕間

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幕間2 激突! マリンフォートレス坂(3)

「なるほど、じゃあ月島君の師匠は高速道路乗るのが嫌で、下道走ってたら事故っちゃったと」


「そうなんですー……試合開始までもう一時間も無いのに、こんな事になっちゃって……」



 俺と月島君は今、選手控え室に来ている。月ヶ瀬は最初俺と一緒に観戦出来ない事に相当ゴネていたが、最終的には「とりあえず話を聞くだけ聞いて、難しそうなら戻って来るように」と念を押された。

 俺は月島君が引っ張り回したせいでだるんだるんになったTシャツを脱ぎ、替わりにユニフォームめいたド派手なポロシャツに袖を通した。

 月島君がスタジアムの売店で買ってきた物だ。着られそうな服がこれしかなかったとの事だが、オッサンが着ると浮かれ具合が異質だ。この格好で電車に乗って帰るのはかなり恥ずかしい。



 本当ならタッグを組むはずの月島君の師匠である坂本さんが、会場までの道すがらに交通事故を起こし、到着が大幅に遅れる羽目になってしまったのが全ての原因だ。

 月島君からの相談を受けて協議を行なったエクシード・ブレイブの運営から「天候不順や激甚災害によるトラブルではないので順延は不可、但し代役を立てる事は許可する」とのお達しがあったそうだ。



「他にテイマーはいなかったのか?」


「……この大会に協力するにあたって師匠が他のテイマーをバチボコに煽っちゃったせいで、ボク達って完全にヒール的立ち位置になっちゃってるんですよ。協力してくれる人がいなくて……」


「そういやそうだったな……で、俺はどうすればいい?」



 こうなってしまった以上、協力する他ないだろう。中止になっても味気ないし、せっかく月ヶ瀬を誘ってここまで遊びに来たんだ。

 ちょっと変則的ではあるが、月島君にも恩を返し、月ヶ瀬にも楽しんで帰って貰えれば万事丸く収まるだろう。

 いつ何が起こるか分からないので、遠出する際にはダンジョンアタック用の支度を整えておく事を習慣付けている。

 東洋鉱業から預かっているカードデバイス「神楽」も持って来ているし、半日以上留守番させるのも可哀想なのでテイムモンスターは全員連れて来ている。



 俺は机にぽつんと置かれている古風な狐面を手に取り、装着した。これは月島君の師匠、坂本さんの持ち物との事だ。

 坂本さんは試合中にお祭りのお面のように斜に被って、ちょっとしたアクセサリーとして使っていたとの事だが、ちょうどいい。顔を隠すためにしばらく拝借しよう。

 見る人が見れば一発で俺だと分かるだろうが、無いよりはマシだろう。



「え、いいんですか!? ほんとに助けてくれるんですか!?」


「しょうがないだろ、他に手が無いんだから」


「やったぁ! じゃあ出場者出入り口に行くまでに軽くルールを説明しますね!」



 先程までの深刻そうな雰囲気が一瞬で霧散した。何なら月島君はスキップしそうな程にご機嫌だ。

 もしかして俺は何かしらの策略にハメられたんじゃなかろうかと妙な不安がよぎるが、もう遅い。

 俺は控え室を飛び出した月島君を見失わないように追いかけた。俺はここに来るの初めてなんだから置いて行くんじゃない。



 § § §



 教わったルールは単純な物だった。

 参加できるテイムモンスターは各人事前に登録した四体まで。テイマー本人は戦闘に参加してはならない。手持ちを全て倒されるか降参したら失格となる。

 召喚されたテイムモンスターはサッカーコートのような長方形のコンバットゾーンで戦う。

 一度に召喚出来るのは一体のみで、交代させる際はテイマーが控えている後方のタクティカルゾーンまで下がらせる必要がある。

 タクティカルゾーンに逃げ込んだ魔物への攻撃は反則が取られる。逆にタクティカルゾーンからコンバットゾーンの魔物への攻撃も反則だ。



 ヒールポーションが各人三つまで支給され、適宜テイムモンスターを回復させてもいいが、タクティカルゾーン内で治療しなければならない。

 なお、タクティカルゾーンに魔物を残し続けるような過度な遅延行為も反則となる。

 最終的に相手のテイムモンスターを全て倒した方が勝ちとなるタッグデスマッチ方式だ。



 月島君の登録したテイムモンスターは大きめの狼であるダイアーウルフのジローと洋風の鬼といった出で立ちのオーガのショーグン、ヒロシマ・エルフのシトリンにリビングアーマーのマックスくんだ。

 久しぶりに見たなあ、マックスくん。元気にしてたか?



 俺はと言うと、あれから魔物が増えていない。なので、いつものメンバーから選ぶしかない。

 ヒロシマ・コボルトのタゴサクとヒールスライムのケラマ、ヒロシマ・レッドキャップからは一番練度の高い一桜を出す。残りはドラゴンでいいだろう。

 名前を決めていないと出場出来ないと言うので、誠に不本意だがドラゴンに命名しなければならなくなった。

 髪がドリルヘアーなので適当に「ドリル」にしようとしたら、月島君がとんでもなく嫌な物を見るような冷たい視線を送ってきたので思い直した。

 最初はドリルを反対から読んで瑠璃……と思ったが、あの洋風の見た目で瑠璃と言うのも違和感がある。

 月島君に聞いたら瑠璃はラピスラズリを指すそうで、そこからネタを頂戴してラピスと呼ぶ事にした。



 選手とテイムモンスターの登録を済ませた時には既に試合開始が迫っているようで、何の心の準備も出来ないままフィールドへ向かわされる事になった。

 そうそう、俺のリングネームはアノニマス・フォックスだそうな。本名を出したくないと伝えたら月島君が考えてくれた。間に合わせ感が半端ないが、贅沢は言っていられない。



 § § §



 選手入場口からフィールドに入ると、割れんばかりの歓声が俺達を迎えた。ここに来て初めて対戦相手を見たが、当然ながら見覚えはない。閉じたコミュニティらしいから当たり前と言えば当たり前だ。

 パッと見た感じだと、どちらも底意地の悪そうな顔つきをしている男性のコンビだ。こちらを見てニタニタと笑っている。

 月島君の相方が変わっている事から、何かしらのアクシデントに見舞われたと考えたのだろうか。

 彼らはテイムモンスターをカードの状態で持ち歩かず、常に召喚しっぱなしにしているようだ。

 相手側のタクティカルゾーンには魔物が一列に並んで出番を待っている。先んじて待機させていたのだろうか?

 人型の魔物が二体、クマが一体、下半身がウマの人型……ケンタウロスとか言うやつだろうか、それが一体。金属質のゴーレムが一体、大きな鳥が一体、大きなライオンのような魔物が一体……七体しかいないぞ?



 コンバットフィールドの中央でレギュレーションの確認が行われた後、レフェリーがフィールドから出ていく。

 この後は各々のタクティカルゾーンに移動するのだが、対戦相手が突っかかってきた。



「オイオイオイ、どーしたァ!? お前んとこの偉そうな女はお休みかァ!?」



 月島君が一歩前に出て、俺の方をチラッと見た。余計な事をするな、と言いたそうな表情だ。

 俺はそのまま、月島君に対処を任せる事にした。



「アクシデントで遅刻しているだけですよ」


「その代役も胡散臭ェオッサンだしよォ……こりゃあ俺達の勝ちは確実だなァ、えぇオイ!」


「そうだといいですね。……高坂さん、行きましょう」



 挑発に一切乗らない月島君に舌打ちを残して、対戦相手は持ち場のタクティカルゾーンへと歩いて行った。

 俺達も自陣のタクティカルゾーンへ向かう。その途中で、月島君に声をかけてみた。



「……冷静だな」


「もちろんです。戦うのはテイムモンスター、ボクらは指示を出す側です。ボクらが熱くなってたら周りが見えなくなりますし、判断も遅れますからね」


「流石だな、俺なら手が出てしまいそうだ」


「いえいえ、ボクなんてまだまだです。これが師匠だったら煽り返して憤死寸前まで持っていきますよ。アドリブが効かないから舌戦って苦手なんです、ボク」



 にへらと笑う月島君からは何の気負いも感じない。

 こんな大勢の観客に囲まれて、対戦相手から煽られてもこんな風に笑っていられるなら、それは一つの強さだと思う。



「さ、頑張りましょうか! 勝てないかも知れないですけど全力でやりましょう! でないと終わった後、師匠にしばき回されてしまいますので!」



 月島君の目がどろりと濁ったような気がした。……観客のプレッシャーよりも怖いのか、月島君の師匠は……



『大変長らくお待たせ致しました! エクシード・ブレイブ、スペシャルマッチ! モンスターテイマー最強決定戦、決勝戦を執り行います!』



 会場に響く開始アナウンスに、観客席の熱狂が更に高まっていく。俺のこめかみに流れる汗は緊張からか、それとも会場を渦巻く熱気に当てられたか。

 ふとマジェスティックシートの方に目をやると、月ヶ瀬がニコニコ笑顔で拍手していた。何やら叫んでいるが、ここまで声は届かない。周りがやかまし過ぎるのだ。



『本日のカードは佐原湧一・宮園一平の師弟コンビ、それに対するは……おおっと、これはどうした事だ! 月島千紘の隣に居るのは見覚えの無い男! ……情報です、どうやら月島千紘の師匠である坂本(さかもと)万沙(かずさ)はアクシデントで遅刻! ピンチヒッターとして現れたのは坂本万沙と同じ狐の面を被った謎の男! アノニマス・フォックスの参戦だァー!』



 客席の盛り上がりが熱狂を通り越して爆発的だ。歓声の衝撃が鼓膜だけでなく身体中に響く。

 気分は覆面プロレスラーだ。気合いが湧いてくるのと同時に、顔がバレたら色々終わる恐怖が背筋を襲う。俺は狐面のフィット具合を二度三度と確かめた。

 月ヶ瀬の方を見ると、俺を指差しながら隣の席の人に何か熱弁している。あんなにエキサイトして、一体何を吹き込んでいるのか……いや、今は余計な事を考えたくない。あと俺の事はバラすなよ、何のための狐面だと思ってるんだ。



『アノニマス・フォックスのジョブはナイト、テイミングスキル所持者としての登場だァ! その実力は未知数、否が応でも期待が高まります! ……それでは両者、テイムモンスター召喚!』



 俺は様子見としてタゴサクを、月島君はリビングアーマーのマックスくんを出した。相手はそもそも出しっぱなしなんだから召喚もクソもない。

 タクティカルゾーンから歩を進めたのは、人の形をしている弓使いと、巨大な熊だ。

 月島君が言うには、エルフとファイア・グリズリーらしい。エルフって田方ダンジョン産じゃなかったらこんな感じなのか。顔の彫りが異常に深く、パッと見では宇宙人っぽくも見える。熊は……熊だ。



『それでは、決勝戦! 開始ッ!』



 会場に響き渡るブザーを合図に、一番槍のテイムモンスター達はコンバットゾーンに駆け寄った。



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