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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第一章・幕間

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幕間2 激突! マリンフォートレス坂(1)

 広島はスポーツ王国だ。野球、サッカー、バレーボール、そしてバスケットボールとプロスポーツチームに恵まれている。

 しかしそのプロスポーツだが、つい最近、滅亡の危機に陥った事がある。これはもう想像に難くないだろう。

 ダンジョンの発生、並びにステータスシステムの発覚だ。



 球技のみならず、格闘技や陸上競技、芸術性を競う競技やパラスポーツに至るまで、ダンジョン発生前から存在していたプロスポーツの憲章にとある項目が追加されたのは、割と早い段階だった。

 団体によって文言に差異はあるが、具体的な内容は変わらない。それは、「競技出場者はステータスを得てはならない」という物である。



 ステータスを得た者は身体能力が格段に向上する。単純な筋力のみならず、瞬発力や持久力、動体視力や反射神経も跳ね上がる。

 結果、ステータス非保持者とステータス保持者の差は小学生の草野球チームにサイボーグ手術を施したメジャーリーガーを突っ込ませたような悲惨な物となり……有り体に言えば勝負にならなくなるのだ。

 この到底無視できない能力差に対して異を唱えたのが各種スポーツ団体であり、体育会系の著名人達だ。

 弛まぬ努力と何度も立ち上がる不屈の根性で強靭な肉体と卓越した技術を身につける事を信条とする彼らにとって、秒で手に入るステータスによって人外級の能力がポン付けされるのは神聖不可侵なスポーツへの冒涜だった。

 プロスポーツ団体からの探索者パージはそもそもの探索者が少ない時代から行われ、今日も「クリーンな」スポーツを存続させるための運営が続いている。



 では、ステータス保持者はスポーツ興行を行えないのか? と言えばノーである。探索者でもスポーツで稼ぐ手はある。

 バットを軽くボールに当てるだけでホームランが出る野球や、パスが殺人シュート級の威力を持つサッカー等の球技、競技者同士の差を計測する為に膨大な競技面積を必要とする陸上競技や水中スポーツは無理だが、格闘技方面が非常に伸びた。

 そもそもステータスは魔物と戦う為に必要な能力で、その戦闘スタイルがジョブでカテゴライズされている事もあり、試合として成立させやすいという背景もある。

 そして、超常的な能力のぶつかり合いは、何だかんだ言って派手で見応えがある。



 最初は首都圏の繁華街やスラム街でアンダーグラウンドな遊興として発生したが、犯罪の温床の撲滅を名目として反社会勢力やそれに付随する違法行為を徹底的に潰した。

 賭けの胴元が消滅し宙ぶらりんになった闘技出場者は、新設の探索者格闘技団体がそっくりそのまま拾い上げる事で、手に汗握るエクストリームスポーツとして生まれ変わらせた。

 団体発足当初は動画配信ばかりだったが、テレビの深夜枠やケーブルテレビのスポーツ専用チャンネルに進出し、雨後の筍のように日本全国に専用競技場が作られた。



 広島にも探索者の格闘競技場は存在する。五年前に竣工した安芸郡坂町にあるマリンフォートレス坂がそれだ。

 中世ヨーロッパの城塞を彷彿とさせる巨大な石造のスタジアムは、海田大橋から見ると壮観の一言だ。

 坂北インターのお陰で交通の便も良く、商業施設も多い抜群の立地であるにもかかわらず、集客を見込める大規模施設や観光スポットがない事から寂れる一方だった片田舎が、スポーツのエンタメ活用による地方創生の旗頭となりつつあるんだから大したモンである。

 そんな新進気鋭の超人気スポーツと化してしまったせいで一時期の野球のチケット並みに入手困難となってしまったマリンフォートレス坂のチケットを持って、月島君が俺の部屋に遊びに来た。



 § § §



 俺の部屋には来客用のコップが無い。他人が上がり込むようになったのもここ最近の話だ。元々誰かを部屋に呼ぶつもりなんてさらさら無かった。

 しかし、いくら用意していなかったからと言っても、来客に飲み物ひとつ出さないのは失礼だろう。

 俺は召喚していた一桜にお金を渡し、マンションの入り口にある自販機でコーヒーを買って来てもらう事にした。

 赤帽軍団の中でも、一桜の知能は抜きん出て高い。ある程度の会話もつっかえる事なく出来るし、おつかいも自販機くらいなら平気でこなすし、用事が終わるとちゃんと帰って来る。

 ドラゴン曰く一桜はお姉ちゃん気質らしく、他の面子を牽引する為にもしっかりしなければという意識が学習結果に影響を及ぼしているのではないかとの事だった。

 ……一桜の話は脇に置いといて、月島君の話に戻ろう。



「実は、マリンフォートレス坂で試合に出る事になりましてー」


「試合って、月島君自体の戦闘力はほぼ皆無なのにか?」



 月島君のジョブはモンスターテイマー、テイムした魔物を戦わせる事に特化したジョブだ。

 多彩な攻撃方法を持つ魔物と比べて、テイマー自身は特筆すべき長所が無い。

 身体能力も非ステータス保持者からしたら十分化け物じみているが、他のジョブと比べると非力と言わざるを得ない。



「そうなんですよー。モンスターテイマーやテイミングスキルの希少性もあいまって、昨今の極めて閉塞的で秘密主義的なコミュニティ運営や、知名度や露出度の少なさから来る世間の不理解が問題視されているんですけどー」


「……クローズなコミュニティってのは聞いてたが……そんなに問題になってるのか?」


「そうなんですー。人に話したがらないから知られない、知らない物は誰から見ても怖い物……って感じですねー。こうやってテイマー界隈の話をベラベラ喋るボクみたいなのは珍しいんですよー。で、もっとこの界隈の事を知ってもらう必要があるねって話になりましてー」


「その解決策がこの……これか? モンスターテイマー最強決定戦?」


「……はいー、元々エクシード・ブレイブの運営から打診はあったんですー。テイマー部門を設立して、既存のマッチとは違う魔物同士のバトルを観客に見せないか? みたいな感じでー」



 エクシード・ブレイブとは探索者による総合格闘技の興行団体だ。確か、日本のプロレスラーが立ち上げたって話だ。

 その人も訳あって探索者になった結果、古巣でのマッチアップが出来なくなってしまったらしく、ならば探索者が参加できる総合格闘技を企画しようと思い立ったそうだ。



「しかし、よくテイマー側から許可が出たな。閉鎖的な集まりなんだろ?」


「実は他のテイマーは消極的だったんですー。でもうちの師匠が『そんな事言って、お前らの魔物の扱いが猿回し以下だからビビってんだろ。このままだと私がお前らよりも上って事になるが、それで良ければ黙ってシコシコ芸でも仕込んでろ』って煽った結果、みんな『やってやろうじゃねェかこの野郎!!』とキレ散らかしちゃって……」



 何ともまあ、びっくりだ。モンスターテイマーってそんなに沸点が低いのか。

 とはいえ、これもまた師弟制度の弊害とも解釈出来るだろう。閉鎖的な環境だと自分の流派こそがナンバーワンという考えが定着しがちなのかも知れない。

 本来であればコミュニティの平穏の為に触るべきではないタブーの領域、そこに踏み入るどころかユンボで整地し始めるような所業に一同がブチ切れた……大方、そんな所だろう。



「で、すったもんだがありまして……日本最強のテイマーを決めようって事になったんですねー」


「へぇ……で、このチケットの試合は誰が出るんだ?」


「ボクと師匠ですねー」


「……ん? 他にもいるんだろ? その、全国のモンスターテイマーが」


「あ、はい。タッグマッチなんですけど、ボクと師匠が勝ち上がっちゃいましてー。相手は全国各地飛び回って活動してるテイマーの師弟ですねー。それ、実は決勝戦のチケットなんですよー」



 いや、ちょっと待った。普通の試合でもなかなかチケットが取れないのに、次はいつ開催されるか分からないモンスターテイマーの試合で、しかもそれが決勝戦? とんでもないプラチナチケットになってるんじゃないのか?

 試しにフリマサイトで検索してみたらマリンフォートレス坂のモンスターテイマー最強決定戦・決勝戦のチケット価格が外側の自由席でも二十万円で取引されており、軽くビビってしまう。



「……なあ、このチケットっていくらしたんだ? いくらか払った方がいいか?」


「あー、これ関係者席なんでタダの奴ですー。支払いは別に気にしなくてもいいですけど、人に売ったりしないでくださいねー。フリマサイトやネットオークションに出したら速攻でバレますからー」


「そんなマネはしないが……ところで、このチケット……二枚分あるように見えるんだが?」


「はい、美沙ねぇを誘って一緒に来て下さいー。こないだ『高坂さんを遊びに連れ出すきっかけがなかなか見つからない』って愚痴ってましたのでー。ああ見えて奥手で恥ずかしがり屋なんですよー」



 ほんとぉ? と聞きたくなるのをぐっと堪えて、俺は頷いておく。案外、あのウザめの後輩キャラは照れ隠しだったりするのかも知れない。俺は月ヶ瀬の事を知らなすぎる。

 月島君にマリンフォートレス坂までの公共交通機関のアクセスの確認をしていると、一桜が帰って来た。ちゃんと冷たいコーヒーを二本買って来た。

 片方は無糖、もう片方は微糖だった。一桜曰く「どれが好きか分からなかったから、違う奴を一つずつ買って選べるようにした」との事だった。

 そういう判断が出来るのは素直に賞賛に値する。やはり一桜は他のヒロシマ・レッドキャップよりも断トツで賢い。俺は残った無糖のコーヒーを一口飲んで、一桜の頭をしっかりと撫でておいた。

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