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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第一章・幕間

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幕間1 雨の日(2)

「きゃーいきゃーい! おでかけ! おでかけ!」


「楽しいのう、この腰の紐さえなければもっと楽しいのじゃが」


「失った信用を取り戻すのは難しいってこった、ほら、キビキビ歩け。三織ははしゃいでどっか行ったりしないようにな」


「こんにちは! あ、はい! わかました! わかまりした……?」


「キビキビ歩けとか妾は罪人ではないのじゃぞー!?」



 ギャースカやかましいドラゴンの手綱を右手でしっかり握り、準備は万端だ。俺達はこれから徒歩五分くらいのスーパーへ向かう。

 前に九音を連れて行こうとしたら、近所の花壇の花をずっと見ていたり、野良猫を追っかけたりして所要時間が一時間に伸びた。

 なので徒歩五分とは言ったが、あくまで目安だ。



 うちのマンションは空港通りから一本内側に入った所にある。

 車や通行人の通り抜けルートという訳でもないので地元民しか使わない道となっており、人通りはそもそも少ないのだが、今日は殊更に人がいない。

 今日は大雨の降る平日、通勤通学の時間帯ならまだしも、昼前にわざわざ外に出る奴は居ない。

 いつもは物珍しさから話しかけてくるおばちゃんが大体一人くらい居て、余計な時間を食う所だが、今日はその心配は必要なさそうだ。



 俺がドラゴンの手綱をくいくいと引っ張りゴーサインを出していると、三織がとててーっと俺のそばまで走り寄り、俺の左手をぎゅっと握った。



「えへへー、すべすべ、いっしょ!」



 ニコニコ笑顔で俺の顔を見上げる三織を見ていると、何か込み上げてくる物がある。欲情とかでなく、庇護欲や父性だろうか。うまい物を食わせてやりたいって気持ちが湧いてくる。

 参ったな、嫁さんもいないのにいきなり子供が出来た気分だ。思ったより悪くない。



 § § §



 買い物自体は大きなトラブルは無かった。

 三織が事ある毎に「これ、なーに?」とドラゴンに物品の説明を要求したり、買い物カゴにこっそりチョコレート菓子を紛れ込ませようとしているドラゴンにデコピンしたり、アイスクリーム什器から離れようとしない二人を引っぺがすために箱アイスを買わされる羽目になったりとなかなかに騒々しい買い物だった。

 二人がレジのおばちゃんから「お父さんと買い物? 良かったねぇ」と声をかけられているのを見て、密かにショックを受けたりもした。そうだよな、俺はもうそういう年齢なんだよな……



 アイスや冷凍食品が溶けてはいけないので、急いで帰る。雨足が少しだけ弱まっていたのが救いだ。

 駆けっこと勘違いした三織を追いかけるようにしてマンションへと駆け出す。ドラゴンはさすがに自重しているのか、俺のテンポに合わせて並走している。

 四十路手前のこの体で、軽く走っても息一つ乱れないのはステータス取得の利点とも言える。

 俺の部屋は四階の隅っこにあるのだが、まだ部屋の前に着いてもいないのに犬の鳴き声がする。タゴサクだ。凄いな、こんなに離れてても帰ったのが分かるのか。



 俺だけカッパを脱ぎ、部屋に入る。しばらく玄関で待つよう三織とドラゴンに告げ、俺は買った物を冷蔵庫や冷凍庫に放り込んでいく。

 購入品の搬入か終わったら今度は三織とドラゴンのカッパを外し、ポンチョを脱がす。靴は最近やっと自分で脱げるようになってきた所だ。

 ヒロシマ・レッドキャップに限らず、人類に近似した見た目を持つ魔物は服の着脱が可能となっている。

 靴だけでなく、このレプリカユニフォーム然とした三織の服や、ドラゴンのゴスロリ服も脱がす事も出来るし、他の服を着せる事も可能だ。

 ……断っておくが、俺はこいつらの服を手ずから脱がせた事はない。月ヶ瀬が「魔物と言えど女の子だし、お風呂に入れた方がいいのでは?」と風呂の世話をする上で知った事だ。



「たまいまー!」


「三織よ、惜しいぞ! そこは『ただいま』じゃ!」


「たまま……?」


「た! だ! い! ま! はい、繰り返し!」


「た! だ! い! ま!」


「続けて言ってみるんじゃ! はい!」


「たまいまー!!!」


「……うん、もちっと言葉の練習をしようぞ」



 俺が教えずとも、ドラゴンが率先して赤帽軍団の教育をしてくれているのは実にありがたい。子供の扱いはよく分からん。

 この年まで子供と接した事なんてほとんどなかった。せいぜい仕事中見つけた迷子をインフォメーションセンターに連れて行くくらいだろう。



「お、しっかり教えてやれて偉いな」


「当然じゃ、妾はカオスドラゴンであるが故にな! 褒めてもいいし名前を付けてくれてもいいんじゃぞ!?」


「名前は付けんが、そうだな……昼飯何にするか選ばせてやろう」


「何でもよいのか!? ならばオムライスを所望するぞ!」



 ……オムライス? 普段自炊しないオッサンにオムライスを作れと言うのか……?

 確かこの間、月ヶ瀬が晩飯を作りにきた時のメニューがオムライスとコンソメスープだったはずだ。もしかしてあのレベルを求めてるんじゃないだろうな?



「お前なあ、自慢じゃないが料理した事ないんだぞ? こないだみたいなのを俺に作れる訳がないだろ」


「むう……とは言うても妾、今オムライスの口なんじゃが……」


「むらいす! みおりもむらいす!」



 俺とドラゴンの話に割り込むように三織もオムライスを要求してくる。何で子供ってこんなにオムライスが好きなんだ? いや、俺も子供の頃はそうだったが。



「しょうがねぇなぁ……上手くは出来んから文句は言うなよ」



 冷蔵庫を確認している背中にイェーイ! だのやったー! だのと歓声が飛んでくる。やめなされ、ご近所迷惑だぞ。あと、そんなに期待してると後悔するぞ。

 月ヶ瀬は鶏肉を使っていたが、うちのオムライス……と言うか、チキンライスはウィンナーと決まっている。チキンでは無いのでは? と言うクレームは受け付けない。

 ウィンナーはある。安い奴だ。玉ねぎもケチャップもある。卵も大丈夫だ。

 冷凍庫を開けると、冷凍してあったご飯が二合分くらいある。三人で分ければ大丈夫だろう。

 俺はキッチンと呼ぶのも憚られるような二口コンロに向かい、昼食の支度を始めた。

 

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