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【コミカライズ始動】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第一章

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閑話5 月ヶ瀬美沙はチャンスを逃さない

【Side:月ヶ瀬 美沙】



「ご連絡のあった件につきましては、対処が済んでいますよ」



 ドラゴン騒動から一週間ほど経ったある夜の事。

 そいつ……幸村灯里と名乗りアイドル活動に従事している、裏家業と言う意味では同業者である雪ヶ原あかりとあたしは、西区の古田台にある懐石料理屋で今回の騒動の話をしていた。

 あたしとしては別に近場の居酒屋チェーン店でも良かったが、「そんな所で重要な話をする人がいますか!」と怒られ、雪ヶ原の主導でここに決まった。



 小高い山の上に建てられたこの会席料理屋のカウンターやテーブル席からは広島の街を一望出来る。どうやら雪ヶ原マネーを使って貸し切りにしているらしく、店内にはあたし達以外に客はいない。

 懐石料理も美味しいらしいが、陶板焼きもおいしいと有名だ。雪ヶ原は小鉢が沢山出て来るコース料理を、あたしは和牛の陶板焼きと釜飯を頂く事にした。

 食事の途中で雪ヶ原が切り出したのが、依頼した事態の収拾と情報操作の結果報告だった。



「お忙しい中での対応、ありがとうございました。それで、どんな感じになりました?」


「まず大前提として、起こった事を完全になかった事には出来ません。ドラゴンが広島高速三号線に飛来したのも、高坂さんが探索者を守ったのも、あなたがドラゴンを倒したのも事実。そこは覆せませんでした」


「……そうですね、そこをどうにかしろとは言えませんよ」


「高坂さんの情報操作ですが、雪ヶ原の中でも意見が分かれました。高坂さんのアビリティ……でしたか。利用すべきであると主張する者と、社会の害とならぬうちに消すべきであると……殺気を収めてくださいますか? 大丈夫です、結論を聞いてください」



 どうやら無意識のうちに殺気が出ていたようだ。どうも早合点が過ぎて良くない。

 あのドラゴン事件以来、先輩に厄介事が降りかかるんじゃないかと思うと気が気じゃない。



「雪ヶ原の決定としては、高坂さんを泳がせる事にしました。情報収集の担当は私。高坂さん関連の処遇は私の一存で決まるので……つまり、事実上の放置ですね」


「いいんですか? そんな対応で」


「いいんです。雪ヶ原の実権は私が握ってますしね。高坂さんに惚れた弱みという奴です。そこは殺気を出しても諦めませんよ。店員さんがお困りの様ですので、お茶目な行為はご遠慮下さい」



 ダメかぁ。ドラゴン相手で出したのと同程度の殺気を当てればワンチャン引いてくれるかと思ったが、この女も存外に肝が太い。



「……それで、情報操作の結果についてです。高坂さんはその類稀な実力と東洋鉱業の優れた装備によって、ドラゴンの猛攻から傷付いた探索者達を堅守。魔剣士である月ヶ瀬さんと月島さんの操る魔物による波状攻撃によって、辛くも討伐に成功と言う筋書きにしました」


「アビリティや裏の月ヶ瀬に触れないようにって事ですか?」


「その通りです。『裏』がバレたら困るのはこちらも同じですから。この点については当事者である探索者達や誘導に当たっていた高速道路の職員、各種メディアや探索者協会、各省庁までしっかりと緘口令が敷かれています。口裏を合わせて下さいね」



 ドラゴンを倒した後、あの探索者達には一応「変な事は言うなよ」と釘を刺しておいたが、やはりこう言う根回しはさすがの雪ヶ原だ。

 連絡した時はタイミングが悪く、雪ヶ原はちょうどVoyageRのライブの直前だったようで「自分がすぐに動けないので部下に任せるしかなく、情報操作が後手に回る可能性があるが、そうなっても恨まないように」と念押しされていたが……なかなかどうして、十分な仕事をしてくれた。



「ありがとうございました、助かりました」


「いえいえ、困った時はお互い様ですし、色々面白いお話も聞けました。それに私もタダ働きで終わらせるつもりはありませんから」



 ニコニコ笑顔でこちらを見る雪ヶ原。そうだ、日本屈指の諜報機関に根回しを依頼したんだから、相応の費用が必要になるのは当然だ。

 いくらふっかけられるか分かったモンじゃない。今から胃が痛い。さっきまで美味しかったステーキも味が……

 うん、やっぱり美味しい。美味しい物はどんな時でも美味しい。先輩にも食べさせてあげたい。



「要求は?」


「はい。まず、お二人には特例甲種探索者証が発行されます」


「……はい?」



 そんな物、これまで聞いたことが無い。

 探索者は甲乙丙丁の四種に分けられており、取得条件は経験年数とレベルに応じて各階級ごとに定められた試験の合格であり、そこに特例は存在しない……はずだ。



 我々丁種は例外を除いて探索者協会が発注した業務に従事する時のみダンジョンに入れる。

 丙種は攻略禁止ダンジョンの中でも難易度の低い物に入場可能で、乙種は一部入れない場所もあるが、大抵の攻略禁止ダンジョンに入場出来る。

 そして甲種はダンジョンへの入場が無制限だ。どこにでも入れる。その代わり高難易度ダンジョンや攻略推奨ダンジョンのアタックメンバーに選ばれる事がある。

 実入りの良いダンジョンにも入れる代わりに、しっかり義務も負わされるのが甲種探索者だ。その特例と言うのがよく分からない。



「初耳なんですが……特例甲種?」


「はい。その名の通り特例です。ダンジョンの入場は無制限になります。攻略推奨ダンジョンのアタックメンバーへの参加要請は……たまに来るとは思いますが員数外扱いですし、何なら参加の義務もありません」


「……それは都合が良すぎませんか?」


「探索者協会と防衛省が緘口令に同意する条件がそれだったんですよ。お二人の能力と抱えてる情報は、既に個人所有で終わらせてしまっていい範疇を超えていますからね。鈴をつけられたと思ってください」



 場末の人が来ないダンジョンの警備員で遊ばせるくらいなら、多少上手いエサを食わせつつ潰すべきダンジョンの攻略を手伝わせようと言う魂胆だろうか?

 しかしあのドラゴンの事を考えると、この程度で済んで良かったと考える事も出来る。アレは存在そのものが特大級の爆弾だ。

 業腹ではあるが、あたしが蒔いた種だ。先輩を巻き込んでしまった事が悔やまれる。あたしだけの責任で終わらせられたら良かったが……この女に頼んだ時点で仕方の無い事か。



「まぁ、それは別に構いません。落とし所としてはあり得る話ですよね。でもそれ、報酬の話とは関係が無いのでは?」


「……この特例により、お二人は事実上日本に現存する全てのダンジョンへのアクセス権を手にした事になります。無論、警備員としてではなく、探索者として。そこで提案……いえ、今回分の報酬を頂きたく思います」



 雪ヶ原は一旦箸を置き、おしぼりで口を拭く。所作がいちいち上品なのに腹が立つ。

 警備員では入れないダンジョンのレアドロップでも拾って来いと言うのだろうか。それとも高難易度ダンジョン攻略の随伴か?

 どちらにせよ、ロクな事を頼んで来ない事は分かりきっている。雪ヶ原のそのにこーっと笑った顔の裏では一体何を考えているのやら——



「メディア出演しましょう。月ヶ瀬さんはVoyageRのご当地臨時メンバー、高坂さんは専属のタンク役として。二人で有給を取ってダンジョンへ帯同して、テレビとインターネット配信に出演してください。それをもって今回の報酬とします」


「……は?」



 完全に斜め上の要求が来た。ちょっと待って欲しい。え、何? あたしに何しろって??



「もっかい聞きます」


「はい」


「アイドルやれって?」


「はい、臨時メンバーとして」


「先輩はいつだってあたしのナイトだから分かるっスけど」


「そうですね、概ね同意です。私のナイト様でもありますけど」



 頭がクラクラしてきた。何言ってんスかこいつ? あたしにそんな浮わっついた真似が出来るとでも!?



「あたしのジョブを言ってみるがいいっス」


「この数日で急激に変わったりしてなければ普通に魔剣士ですよね? 問題ありません、アイドルのジョブ持ちでなければアイドルになれない訳ではありませんからね。その容姿に動きのキレ、十分素質がありますよ」


「あたしの年齢を考慮してくださいよ、『うわキッツ、歳考えろ』とか言われたかないっスよ」


「大丈夫です、ちゃんとメイクして黙ってれば上がりたての大学生くらいには見えますよ」


「そもそも歌とか舞踊は苦手なんスけど」


「存じております、ボイストレーナーに歌唱指導をお願いしましょう。ダンスレッスンの手筈も整えておきます。今のお住まいは西区観音、悔しい事に高坂さんのお隣でしたよね? なるべく近場を探しておきます」


「何で存じてんスかね、普通に怖いんスけど……あと、あたし目立ちたくないんスけど」


「裏の月ヶ瀬としてですよね? 表の顔が目立つくらい、大した事ではないですよ。今あなたと話しているのは、実家が裏家業なのにアイドルをやっている先駆者ですよ?」


「レアドロップ集めろとかダンジョン攻略とかじゃないんスか!? どーしてもアイドルじゃないといけないんスか!?」


「誰にでも出来る事をわざわざ頼んでどうするんですか。あなた達にしか出来ない事をさせるから特別な報酬になるんですよ」



 ダメだ、これはもう既定路線で話を進めている気がする。こちらも無理を言った手前「それは嫌です」と突っ撥ねる事はしたくない。

 しかしアイドル……あのどうやって着てるのか分からないフリフリした服を着て、愛想を振り撒きつつ歌って踊って魔物を倒せと……?

 背筋に薄ら寒い物が走る。そんな事になったら実家に帰った時にこれでもかと嫌味を言われてしまうし、お嫁にも行けない。……先輩以外のお嫁さんに行くつもりは毛頭無いが。



「案外、高坂さんも普段見せない月ヶ瀬さんの意外な一面を見て惚れ直したりするかも知れませんよ? 何だかんだで高坂さんも殿方ですし、綺麗に着飾った月ヶ瀬さんに悩殺されたり——」


「やります。あたしやれます。やらせてください」



 やはり向こうから来たチャンスはしっかり掴まないとダメだと思う。チャンスの神様は後頭部がツルッパゲだ。後から掴もうとしてもツルツルの頭は掴めない。

 良い話の後のご飯はおいしい。「えっ何こいつチョロ過ぎん?」と言う心の声が聞こえそうな雪ヶ原の視線と同等に冷めつつあるステーキや釜飯も、より美味しくなると言う物だ。

 よーし! アイドル活動がんばるぞー!



 § § §



 それから一ヶ月、あたしは警備の仕事をこなしつつ仕事終わりと休日にボイストレーニングとダンスレッスンを受ける事になった。

 最初の一週間が特にキツかった。あたしとて月ヶ瀬、体を動かす事に関しては他家に長じている。……と思っていたが、それが大きな間違いだった。



 ボイストレーニングは呼吸そのものから始まった。音程もダメだがそれ以前の問題と言われて声の出し方から徹底的に叩き込まれた。

 ダンスレッスンも酷いモンだった。正直ナメていた。ダンスに使う筋肉が戦闘時に使う筋肉とは根本から違う。ツブシが効かない。

 全然指示通りに動けないし、翌日から地獄の筋肉痛カーニバルの開幕だ。それでもレッスンは行われる。仕事もまた然りだ。ステータスの補助は一体どこに行ったのか、これが分からない。

 公私ともに産まれたての子山羊みたいにプルプル震えながら過ごす事を余儀なくされたあたしに、先輩は優しく声をかけてくれた。しゅき。



 トレーニング開始当初、歌においては「都市伝説が生まれそうな呪歌」や「地獄の業火で焼かれる亡者の嘆き」、ダンスにおいては「逃げる最中腰を抜かした泥棒」や「カニの喧嘩」等と講師陣からは散々な言われ様だったが、半月もレッスンを継続すると段々とマシになっていった。

 当初の予定通りの一ヶ月のレッスンが終わる頃には、一般人と研修生の間くらいの実力との太鼓判? を押されるに至った。がんばりました。



 これで終わりかぁ……と胸を撫で下ろしていたら雪ヶ原から「収録があるまで定期的にレッスンを受けてくださいね」とのメッセージが来た。

 えー!? これまだ続けるの!? 死んじゃうよマジで!

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