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【コミカライズ連載中】アラフォー警備員の迷宮警備 ~【アビリティ】の力でウィズダンジョン時代を生き抜く~  作者: 日南 佳
第四章

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閑話22 【Master Scene】可能性の蕾が開く時

【Master Scene】



 フェニックスと死闘を繰り広げていた所に乱入してきた珍客に、嶋原は目を白黒させた。

 それはかつて、後輩である高坂渉と共に警備業務に従事した田方ダンジョンに出没するヒロシマ・レッドキャップだった。



(ヒロシマ・レッドキャップをテイムしとったのは記者会見の動画で知ったが……いかん、こっちに来たら一発で死ぬぞ!)



 ヒロシマ・レッドキャップは弱い種族だ。

 田方ダンジョンの固有種ではあるが、その戦闘能力は駆け出しの探索者でも苦戦せず倒せるほどだ。

 少女の姿をしているのは探索者に庇護欲を植え付ける事で身を守ろうとする生存戦略ではないかとの研究もあるが、ことフェニックスに対してそのような戦略は無意味である。



「こっち来んな! 死ぬぞ!」



 嶋原が駆け寄ってくるヒロシマ・レッドキャップの少女、二葉に怒鳴りつけるが、二葉はそれよりも早く嶋原に接近した。

 二葉が全身から光を放ち、嶋原がその光に包まれた。



(うお、何じゃい! この腹の底から見透かされとるような感覚は!)



 まるで細胞の一つ一つ、記憶の一秒一秒まで切り分けられて観察されているような感覚に、嶋原は身震いした。

 嶋原は一瞬気を抜いてしまった事に狼狽え、フェニックスに向き直ると……フェニックスは不自然に上を見上げていた。

 いつの間にか嶋原の前に移動し、渾身のジャンピングアッパーでフェニックスの顎を叩き上げた二葉の仕業だった。



「……嘘じゃろ」



 嶋原は驚愕した。二葉の挙動が既にヒロシマ・レッドキャップの能力を凌駕している。

 着地後すぐに拳を構えワンツージャブからのストレート。小柄なフィジカルに見合わない鋭く重い蹴りがフェニックスに突き刺さる。

 それら全てがフェニックスにとっての有効打となっている……つまり、二葉にはフェニックスの弱点が見えている事を如実に語っていた。

 的確にフェニックスの弱点である魔力の濃い部分に打撃を与えていく二葉の手には金色に輝くナックルダスターが握られており、振るうたびに幻想的な金色の燐光を巻き上げる。

 嶋原はその輝きと二葉の動きに目を奪われたが、すぐに二葉と共にフェニックスに対して攻勢を強めた。

 やがて、視線はフェニックスに向けたままで二葉が口を開いた。



「おっちゃん、ごめんね。アタシ、おっちゃんの中身、いろいろ見ちゃったんだ。……お兄さんの事とか、怒ってる理由とか」


「……そうか」


「お父さんの事、怒らないであげて欲しいなって。お父さんも自分から進んで犠牲になってでもみんなを助けようとした訳じゃないんだ。そうするしかなかっただけで」


「分かっとる。……お前は、兄貴や高坂みたいな真似はするなよ」


「……ごめんね、おっちゃん。アタシはおっちゃんと同じ道は歩けない。アタシも力があったら、お父さんと同じ事をすると思うから」



 二葉の体がナックルダスター同様、金色のオーラを放つ。魔素の輝きと共に二葉のポニーテールがゆらゆらと揺れる。

 自らの魔素を代償に身体能力を数段高めるスキル、《リミット・ブレイク》……本来、嶋原が習得するはずだったスキルを、二葉が行使した。



「みんなが戦えるようになるまで、まだもーちょっと時間がいるんだ。お父さんならきっと『ここが命の張り時だ』って頑張ると思う。──だから」



 二葉の姿が掻き消える。直後、不可視の打撃にフェニックスの巨躯がゆらぐ。

 全方向から浴びせられる打撃に反応出来ず、戸惑いの鳴き声を漏らすフェニックスの頭上に二葉が出現し、強烈な踵落としを食らわせる。

 強かに打ち付けられたフェニックスが地面にどうと倒れる。二葉が綺麗な着地を決め、さらに金色のオーラを強めた。



「ヒロシマ・レッドキャップ改めイデアル・ヒーロー、二葉! ちょっと無理してでも、こいつを押し留めるよ!」



 変異は成った。

 弱きその身に絶望し、力を求め、その結果理想へと辿り着いた、探索者のジョブをその身に宿す全く新しい魔物。

 ドラゴンやフェニックス同様古の伝説をモチーフにしたであろう幻想種のひとつでありながら、まさに今生まれたばかりの新しき伝説・イデアル。

 その一体目、二葉が目を煌々と輝かせながらフェニックスを睨みつけていた。



 § § §



(こわい、こわい、こわい!)



 二葉が勇猛果敢にフェニックスに飛びかかっていた頃、七海は混乱と恐怖の只中にいた。

 七海は元来臆病者だ。魔素がここまで濃い深層も怖ければフェニックスも恐ろしい。一足先にイデアル種への変容を遂げた二葉に対しても怖れの念がある。

 しかし、その身を突き動かしていたのは父と慕う高坂に見放されるのではないかと言う想像から来る恐怖だった。



(二葉ちゃんみたくなれなかったらどうしよう、戦えなかったらどうしよう、みんなと一緒にいられなくなったら……!)



 七海の足が向いたのは、混成パーティの女性魔法使いの所だった。

 怖いから敵に近づきたくない。だから魔法を使おう……七海は無意識下で安全を追い求めていた。

 女性魔法使いとは何度か話もした事もあるから、「お手本」にしても怒られないだろうと言う考えも、多分にあった。



「え、何? 七海ちゃん? どうしたの……きゃっ!?」



 七海の光に照らされた女性魔法使いが驚きの声を上げる。

 七海は頭上に現れた魔導書を手に取り、イデアル種へと変容した事に安堵のため息をついた。

 だが、その安心はすぐに不安に塗りつぶされた。



(ダメだ、これは攻撃魔法……攻撃魔法が当たらない敵が出てきたら……私、いらない子扱いになっちゃう……!)



 七海の心は杞憂と度を越した猜疑心で埋め尽くされ、暴走し始めた。

 手当たり次第に探索者に光を浴びせ、魔法に関するジョブやスキルを収集していく。



(支援魔法……ダメだ、一人じゃ戦えない……付与魔法……ダメだ、敵に近づかなきゃ意味がない……無属性魔法……重力魔法……精神感応魔法……)



 あたりを駆け回りながらのべつ幕なし探索者に光を当てていた七海が何者かによって抱き留められた。綾乃だった。



「ストップストップ! そんなにピカピカやってちゃ周りに迷惑がかかるでしょうがミギャーーーーー!」



 七海の光を直視してしまった綾乃がその手を離し、床にゴロゴロ転がった。



「精霊魔法、時空魔法、感知魔法……足りない、まだ足りない!」



 地面でのたうち回っている綾乃の手から逃れ、七海が最終的に辿り着いたのは渉の下だった。

 七海の光が渉に触れると、未だイデアル種に変容しきっていない七海の脳を大量の情報が灼いた。



「あああアアああァァァ!」



 苦痛の中で悲鳴を上げながら握りしめていた魔導書が金色の光を放ち、七海自身も光の奔流へと飲み込まれていった。

 やがて光の中で七海の体がか弱いヒロシマ・レッドキャップからイデアル種へと変容していく。

 見た目こそ変わらないが、魔素を多分に取り込んだ七海の身体能力は爆発的に向上していく。

 それは取り込んだジョブやスキルを留めておく脳髄もまた同様だった。

 強度を増し、伝達速度を増した脳が七海の思考能力を引き出し、一つの結論へと辿り着いた。



「ああ……あああ……そっか……どれだけ集めても、どれだけ強くなっても、怖いのは怖いんだ……だったら…だったら……!」



 七海を覆っていた光の奔流が消える。

 そこには分厚さを増した魔導書を開いてフェニックスを見据える七海がしっかりと地面を踏みしめて立っていた。



「私は、怖い気持ちと一緒に生きてく! 泣きそうなくらい怖くても、みんなと一緒にいたいから!」



 七海はユニフォームの袖で目元を拭い、魔導書を開く。

 中空に水で出来た矢じりがいくつも浮かび、フェニックスへと飛んでいく。



「イデアル・セージ、七海! 怖いけど……負けないっ!」



 七海の叫びに応えるように、その手の中の魔導書が輝いた。



 § § §



「二葉ちゃんも七海ちゃんも凄い事になってる……一体何なんスか、コレ?」



 美沙は自分の両手を握る三織と六花に声をかけた。だが、どちらも返答せずに光を放ち続けるだけだった。

 やがて光が収まると、三織は美沙が使っているような細剣を、六花は一振りの刀を手にしていた。



「えっとね、みおり達はみんなをお手本にして強くなるんだよ。んーと……六花ちゃん、お願いっ」


「お母様のジョブは魔剣士ですが、お母様の中にはジョブやスキルとして表に出てこられなかった素養や技術が眠っています。私達はそれらを見つけ出し、模倣し、その行き着く先……ジョブの極致へと至ります」


「それじゃあ、三織ちゃんが持ってる剣はあたしの魔剣士部分、六花ちゃんが持ってるのはあたしが修行してきた刀術の部分って事?」


「はい。三織はお母様の魔剣士の極致・ソーサリーフェンサー、私はお母様に眠っていた侍の極致・剣豪のイデアル種となりました」



 三織と六花はそれぞれ自分の獲物を抜いて美沙に見せつける。どちらも金色の輝きを放ち、魔素の燐光を纏っている。



「その武器……見た感じ、普通の鉄っぽく見えないけど……もしかして、魔素をギュッと固めてる?」


「さすがお母様、その通りです。私達の武器はヒロシマ・レッドキャップ種が持つバットのように確たる実体はありません。魔素から武器を生成しています」


「だから、この剣はみおりにしか使えないの。おとーさんやおかーさんに貸せないんだよねー」



 申し訳なさそうな表情の三織の肩を六花がポンポンと叩く。



「三織さん、そんな顔をしている暇はありませんよ。私達が頑張らないと、先に戦っている二葉や七海が疲れてしまいますからね」


「そうだったー! じゃ、おかーさん、おとーさんとゆっくりしててー! がんばってくるよー!」



 六花に引っ張られながら、三織が細剣をブンブン振る。

 美沙はそんな二人に手を振りながら、二人の背中を見送った。



「……これ、世間に公表したらとんでもない事になるんじゃないっスかね……? 探索者以上にフェニックスと戦えるテイムモンスターが九体、しかも全員渉さんの号令に忠実って……どう言い繕っても国家戦力扱いでしょ……」



 美沙は今後の情報操作に苦慮するあかりがげんなりしている所を想像して、苦笑いを浮かべるのだった。



 § § §



 三織と六花がイデアル種へと変貌している最中、ガリンペイロの面々が集まって立て直しを図っているエリアにも二体のイデアル種が誕生した。

 アーチャー・長岡雫を「お手本」にした八宵がイデアル・スナイパーに。

 ヘビーウォリアー・柿崎ちゆりを「お手本」にした五月がイデアル・フォートレスへと変容した。



 八宵が中空より金色の矢を生成し、同じく金色の長弓に番え、フェニックスに向けて放った。

 アーチャーの極致点であるスナイパーのイデアル種ではあるが、八宵本人の西洋弓術よりも弓道の趣が強い。

 流麗な射法八節から放たれた矢は、寸分違わずフェニックスの弱点に突き立った。

 近接攻撃を仕掛ける二葉と嶋原、遠距離から魔法を放つ七海、そして新たに駆けつけた三織と六花に気を取られていたフェニックスは、新たな乱入者の一撃を受けて大きく仰け反った。



「よし、当たった……弓とはなかなか難しい物ですね」


「おちびちゃん凄い……これもうあたしの腕前超えてない? 何かちょっと悲しくなってくるなぁ」


「いいえ、私はただ模倣しただけですから。お姉さんのこれまでの研鑽あってこそです」



 肩をすくめる雫に八宵が微笑みを返し、すぐさま次の矢を番える。



「あーあ、隙あらばサンブリンガーズに移籍って手も考えてたんだけどなー。魔法職だけじゃなくこんな射手がいるんじゃ後衛職は過剰でしょ」


「えっ、しずくちゃん移籍するつもりだったの!?」



 ちゆりは雫からもたらされた突然のカミングアウトに驚き、思わず声を上げた。

 八宵はちゆりのにも驚声にも心を乱されず、まるで機械のように正しい動作で矢を射った。



「いやー冗談冗談、ジョークだよ。やっぱりあたしはガリンペイロが一番……」


「お姉さん、私は全部分かっています。……その、お姉さんには私達の父上と母上の事を温かく見守って頂ければ幸いです」


「……そっか、そうだよね。うん、大丈夫。もう高坂さんにちょっかいはかけないよ」



 雫がどこか吹っ切れたような表情で八宵に告げ、八宵は軽くお辞儀をしてから再び矢を番えた。

 遠距離からの攻撃に業を煮やしたフェニックスの体色が青を通り越して白く変化する。

 度重なる決定打に晒され、いよいよ身の危険を感じ始めたフェニックスが怒りに任せて暴れ始める兆候だった。



「おっと、いけない! せっかく戦えるようになったのにこんな所で遊んでらんないよね! ちょっと行ってくる! ……っと、その前に、せっかく勉強したから……」



 巨大な金色のハンマーを肩に担ぎ、五月が飛び出そうとしたが、一旦立ち止まって大きく息を吸って《ウォー・クライ》を発動した。



「あかりんが見てるーー!!! ぴゃーーーー!!!!!」



「「「「そこは真似せんでよろしい!!!」」」」



 ガリンペイロの総ツッコミを背中に受け、五月はハンマーを構えたままロケットのようにフェニックスへと突っ込んだ。



 § § §



 フェニックスに集中攻撃が殺到している最中、ボス部屋にはイデアル種に変異した四季の歌声が響いている。

 聴く者の防御力を高め、苦痛を和らげ、代謝を促す事で負傷の治りを早めるスキル《息吹のリズム》を発動させた四季の歌声は、負傷した探索者達の回復に一役買っていた。

 ケラマが機動力役のタゴサクと一緒にカードに戻ってしまった以上、ヒールポーション以外に回復手段が無い状態だ。

 目に見えて傷が塞がる訳ではないが、痛みが治まった事で探索者達の顔に生気が戻っていく。

 一曲歌い終えた四季に、側でずっと聴いていたあかりが拍手する。



「上手になりましたね、私の部屋で歌ってた時はちょっと音程が外れてたのに」


「えへへ、あかりんみたくなりたかったから……嬉しいなあ」



 あかりに褒められた四季が顔を赤くする。



「でも良かったんですか? さっきの六花ちゃんの話が本当なら、もっと別のジョブもあったんじゃないですか?」


「うん。暗殺者とかストーカーとか色々あったよ。……でも、アイドルが良かったから」


「……私が言うのも何ですけど、アイドルは戦えませんよ? 支援効果こそ高いですが、直接的な戦闘能力はほぼ皆無です。モンスターテイマーといい勝負です。それなのに、アイドルを選んだんですか?」


「戦うのは、みんながやってくれるから……本当は、私も戦わなきゃいけないんだけど……でも、私はこれがやりたかったんだ」



 四季は目を輝かせながら、あかりの手を取る。



「光る棒を振るたくさんの人の前で、楽しそうに歌うあかりんが大好きなんだ。私にとってのイデアルはこれなんだって……心の底から思ったから。だから、いいんだ」


「本当にいいんですか? 後悔しませんか?」


「ううん、しないよ。だってあかりん、テレビの中ですごく楽しそうだったもん。……あかりんもアイドル、好きでしょ?」



 四季の問いに、あかりは答えを詰まらせた。

 あかりにとってアイドルは、ジョブを手に入れたから始めただけの話だった。

 深窓の令嬢として育てられたあかりがアイドルの情報を集め、歌やダンスを独学で学び、才能が無い中でも上達していくのが楽しくなっていった。

 両親に「アイドルなんか目指してどうする」と叱責されても、雪ヶ原の仕事と両立させてでも続けたかったアイドル。

 あかりはいつしかアイドルをジョブとして認識し、四季に対して「アイドルなんてやってどうする」と問うようになっていた自分を内心で恥じた。

 あかりは少しの間瞠目し、四季に笑顔を見せた。



「はい。アイドル、大好きです」


「だよねー!! 私の理想は、あかりんみたいなアイドルだからね!」



 イデアル・アイドル四季は、理想の(イデアル)アイドルであるあかりとしばらく笑いあっていた。



 § § §



「……まあ、嶋原氏は違いますが、レッドキャップの皆が弱点攻撃が可能になったのは九音嬢のおかげな訳でござるが」



 金色のバトンを振りかざし、あちこちに支援スキルを飛ばしている九音の後ろで、静香は唸りながら様子を見ていた。

 九音の持つバトンは元帥杖と呼ばれる、軍隊における元帥の位に就く物が持つ階級章のような扱いの物だ。

 九音がイデアル・マーシャルになった際、選んだ武器だった。



「左様でござるー、拙者は静香ちゃんが大好きでござる故ー」


「うん、九音嬢。口調まで真似する必要は無いのでは? いつも通りの九音嬢が拙者は好きですぞ」


「そう? じゃあ戻すー」



 軽く雑談しながらも、九音は支援の手を緩めない。必要な場所に必要なだけのバフを盛る様は、ジェネラルと言うジョブのみならず組織運営に一日の長がある静香をして舌を巻く程であった。



「時に九音嬢。ユーはどうしてジェネラルに?」



 静香はふと浮かんだ疑問を九音へぶつけた。

九音は無表情のまま静香に答えた。



「静香ちゃんが言ってたからね。知識は人を助けるって。ボクは殴ったり蹴ったりするの苦手だし、魔法をぶつけるのも矢を撃つのもダメだから……静香ちゃんが教えてくれたいっぱいの知識で、みんなを助けたかった。それだけだよ」


「……左様でござるか。ちょっと誇らしいですぞ」


「うん。静香ちゃんが教えてくれたいっぱいの知識で、みんなが戦う支援をするんだ。三国志、失敗国家、電撃戦、レーガン・ドクトリン、株式公開買い付け、エステル交換反応……あと本棚にこそっと隠してあった男の人同士がひっついてる漫画とか」


「待った! それちびっこが読んじゃダメな奴! 拙者が怒られるんだから絶対ダメですぞ!!」


「拙者魔物だからR-18とか関係ないですぞー」


「だから口調まで真似されたらアイデンティティが脅かされるから止めなさいとさっき言ったのにー! やめなされー!!」



 静香に揺さぶられながらも九音のバフは止まる事なく供給され続けていた。



 § § §



 一桜と渉の前に、魔素で構築された片手剣と盾がゆっくりと降りてくる。

 剣と盾は渉のジョブ、ナイトを象徴する豪奢な造りをしていた。



「……そうか、やっぱり俺はナイトだったか」



 渉が剣と盾を眺めて呟いた。

 一桜がそれらに手を伸ばし、掴もうとした時。



「ちがう」



 一桜が手を引っ込める。一桜に受け入れられなかった剣と盾は金色の粒子に戻り、再び形を変える。今度は杖だった。



「……魔法使いの杖? もしかしてファンゴ・ブラストやエリクシック・ヒールに反応したのか?」



 渉は思いついた可能性を口にする。

 確かに、ヒロシマ・レッドキャップに魔力弾による攻撃方法ファンゴ・ブラストを用意したり、エリクサー相当の回復スキルである《エリクシック・ヒール》を行使した事実を考えれば、魔法使いとしての適正が眠っていたと考えられる。



「ちがう」



 しかし、一桜は杖を拒否した。杖もまた金色の粒子に戻り、別の形を取った。

 短剣、斧、ナックルダスター……様々な武器の形になる魔素の武器を、一桜は全て拒否した。



「ちがう……違う、おとーさんの力はこんな物じゃない」



 長剣、弓、槍。一桜は首を縦に振らない。



「おとーさんは、誰にも負けないくらい強いんだ」



 ハンマー、長杖、三節棍。全て魔素へと還った。



「おとーさんは、優しくて……みんなのためにがんばる人で……」



 魔導書、細剣、双剣。受け入れられずに崩れ去る。



「おとーさんは! 何でも出来る! すごい人なんだ!!」



 やがて、魔素の塊は武器の姿を取らずに魔素の塊のまま一桜の前へと降りてきた。

 まるで「そこまで拒否するのなら、お前が勝手にやれ」とでも言わんばかりに。

 一桜は小さく頷いて、魔素の塊に手を伸ばし、握りしめた。



 一桜を中心に暴風が吹き荒れ、金色の粒子が撒き散らされる。体力が限界に達している渉は足がもつれ、その場に尻もちをついた。

 目を開けていられないほどの風の中で、渉は頭の中に響く声に身を委ねていた。



《未だその魂の形を知らぬ者よ》


《可能性の獣によりて道は示された》


《迷宮と原初の理によりて、汝に真なる力を授けん》



 中性的でどこか現実離れした声をぼんやりと受け止めながら、渉は無意識にステータスを開いていた。



《汝、これより──》


──────────────────

Advanced Status Activate System Ver. 5.13J


◆個人識別情報


名前:高坂 渉 性別:男性 年齢:39

所属:日本迷宮探索者協会 広島支部(特例甲種)

ジョブ:メサイアLv.1 武器種:制限無し


………

……

──────────────────



メサイア(救世主)と改める物とする》

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