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第72話

 定刻になり、再びやってきた樫原さんの先導のもと原爆ドームダンジョンを進む。

 気温は高いし、岩壁のあちこちから溶岩がドロドロと湧き出し、どこかへと流れていく。

 一部屋一部屋はとても広いが、この溶岩の流れによって進行が妨げられ、容易に突破出来ない迷路のようになっている。

 壁や衝立で視界が遮られている訳ではないので迷う事はないが、こんな所で戦うとなると少し厄介だ。



 探索者はステータスの恩恵のおかげで暑さ寒さに耐性がある。しかし、それは環境の一要素である気温に対する耐性に過ぎない。

 探索者でも溶岩を踏めば足の装備が損傷するし、大火傷を負う。溶岩に近付きすぎて「環境の範囲」を超える熱に晒されてもダメージを受ける。

 特殊な地形と言うだけでも厄介だが、それが戦闘に影響しかねないレベルで広がっているとなると、雑魚相手でも慎重にならざるを得ない。

 俺達のブリーフィング前に帰ってきたCチームの探索者達は、怪我こそ多かったが靴を溶かしたり足に火傷を負ったりしている者はいなかった。ちゃんと溶岩を意識した戦いを心がけた結果と言える。

 むしろBチームの探索者の一人が靴底を溶かしていたのが気になった。油断でもしたかな?



 ……これまでの人生経験から言えば、そういった「気をつけなければならない基本的な危険」で負傷するのは現場に慣れてきた奴が多い。

 事故は起こしたくて起こす物ではなく、起こってしまう物だ。慣れた頃にうっかり、というのはどんな業界にもある。

 工場勤めをしていた時も、警備員をしている今もそうだ。危険と隣り合わせの仕事をしていて怪我をせず無事に働いていると、実はこの作業はそんなに危なくないんじゃないか? という慢心が出てくる。

 実際にはそんな事はないんだが、なまじ平和で何事もない日々を過ごしていると、自分の運や現場や機械に備わっている安全機構を過信してしまう。

 そして何かの折にタイミング悪く色んな条件が重なって、事故を起こす。最悪の場合、死ぬ。

 探索者とて例外ではない。それどころか普通の業種と比べても死と隣り合わせの危険な仕事だ。

 第六階層からの博物館エリアも、その先に待ち受けているであろう未知のエリアも、そしてこの火山エリアも人間に優しくしてはくれない。

 注意して進まなければ、俺や美沙やあかりがこのレイド初の死者になるかもしれない。俺は気を引き締めて集団の中程で行軍を続ける。



 報告の通り、第三階層の最奥までは魔物一匹出現しなかった。

 若手主体のCチームの仕事と聞いていたので討ち漏らしがいるかと思っていたが、案外しっかりと働いていたようだ。

 リスポーンする様子もナシ。ナオビがダンジョン内でもきちんと作動する事をこれ以上なく実証している。

 俺達はこれからCチームがやったように降りた階層の魔物を駆逐し、次の階層に行く階段の前にナオビを設置する作業を繰り返しながら進んでいく事になる。

 第四階層へと向かう下り階段の前には、四人の探索者が待機していた。ナオビの魔素貯留タンクの監視役だ。



 ナオビの内部にはタンクがあり、まるで除湿機のドレンタンクのように吸い取った魔素を貯めておくタンクがある。

 当然ながら、これが満タンになってしまうと魔素を吸収出来なくなる。なので、満タンになったら交換しなければならない。

 それにダンジョンには異物を除去する機能がある。長らく人が触れていない物はダンジョンに吸収されてしまう。

 なので誰かがナオビに触れたり魔素タンクを交換したりしないと消えてしまう。一基ごとの生産コストはそこまで重くはないが、強い魔物が出てくるダンジョンで後詰めと分断されると考えたらぞっとしない。



「Aチームのみなさんお疲れ様でーす」


「お気をつけてー」



 ナオビのそばで待機していた探索者が俺達に挨拶をする。先頭を歩く樫原さんは会釈をしていたが、その後ろを歩いていた数名の探索者達は彼らを無視するようにさっさと階段を降りていく。何となく感じが悪い。

 俺や美沙やガリンペイロの面々、それから他の探索者グループは手を振ったり「そちらもお気をつけて」と声をかけている。

 せっかく一緒に攻略を目指す仲間なんだから、挨拶くらいはしてもいいだろうに。一体何様なんだろうな、先頭集団は。



《あれは関東をメインに活動している探索者集団ですね。コンカラーって名前のグループです。主力は今半蔵門ダンジョンの最高到達点更新の為にダンジョン・アタック中ですので、二軍以下のメンツですね》



 まるでトーカの念話のように脳裏に響いたのはあかりの声だ。

 あかりの持つ原初の種子「ソウル・リンカー」は任意の対象と魔力のパスを繋ぎ、あれやこれやの支援を行う。この念話もその一つだ。



《コンカラー……? 確か前にもらった資料にも名前があったな、特に気にも留めなかったが……しかし変な名前だな、何か由来があるのか?》


《Conquerer、征服者ですね。その名の通り、攻略推奨ダンジョンに大勢で乗り込んで征服するように攻略していくスタイルの団体です。八人の一軍、十六人の二軍、二十四人の三軍で構成されていて、今回は二軍と三軍からピックアップしたようです。練度はそこそこ高いですが、人間性に難がある人選ですね》


《そうなのか? まあ、ロクに挨拶しないのはいかがな物かと思うが、人間性に難があるって程の事か?》


《いえ、一軍はともかく二軍三軍のメンバーは素行が悪いんです。他のパーティとトラブルをしょっちゅう起こしていて、今回参加しているコンカラーのメンバーは全員、過去に何らかの訓告処分を受けています。絡まれないように気をつけて下さいね》



 それきり念話が途絶えた。伝える事は伝えたぞと言う事だろうか? 俺の後ろを歩いていたあかりに視線を送ると、小さく頷いた。

 ……厄介事の気配がする。俺はなるべく美沙の近くに寄って、一緒に階段を降りた。



 § § §



「これより第四階層の掃討を行います。マップを開いて下さい。コンカラーの皆さんはA-1からB-4まで、広島サンブリンガーズとガリンペイロの皆さんはB-5からC-3、残りの皆さんは私と一緒に残りの区域を回って下さい。掃討が完了したチームはAチームチャットに報告をお願いします。それでは解散!」



 樫原さんの号令で、皆が三手に別れる。コンカラーの面々は他の探索者に目を向ける事なく面倒臭そうに奥に消え、樫原さん達は俺達に軽く頭を下げて反対側へと進んだ。

 俺達は前後に分かれて行った二手とは違う道……右側の道を行く。



「そろそろか?」



 俺が美沙に尋ねると、「そっスね」と短く答えた。コンカラーも樫原さん達も結構離れたようで、俺達以外の人の気配はない。



「他のメンツに知られると騒がれそうだから黙ってたけど、ウチにはもう一人同行者がいるんです。紹介させてもらっても?」


「……そうはおっしゃいますが、一体どこに……? ここには我々しかいないようですが?」


「認識阻害系のアイテムを使ってカモフラージュしてるんですよ。あ……幸村さん、どうぞ」



 一瞬「あかり」と呼びそうになったが、どうにか堪えた。アイドルを名前で呼び捨てにする訳にもいかないからな。

 俺の呼びかけに応えるかのようにあかりの雰囲気が強くなる。俺と美沙には最初から見えていたが、ガリンペイロのメンバーからしたらいきなりあかりが湧いて出たように見えるだろう。

 実際、笠木さんと長岡さんは目を丸くしてキョトンとしてるし、柿崎さんは「ぴゃーーーーー!!」と鳴き声を発しながらぴょんぴょん跳び、琉輝彌君も飛びのきながら「うわっとォ!?」とか言ってる。



「こんにちは! 広島サンブリンガーズの応援団長、幸村灯里です! 今回サンブリンガーズの初陣って事もあってこっそり同行しました! よろしくお願いします!」



 あかりが……いや、幸村灯里が皆に一礼する。

 本当に大したモンだ、今ここにいるのは俺達がよく見る雪ヶ原あかりではない。完全に外向けに作られた清楚で可憐なアイドル、幸村灯里だ。

 そういう演技をしているという訳ではない。雰囲気からしてガラリと変わっている。トップレベルのアイドルってのはかくも凄い存在なのかと実感させられる。

 ……浮気じゃない。浮気じゃないから脇腹をつねらないように。



「あ、あ、あああ、あかりんだー! かさっちかさっち、あかりんだよー! 本物だー!!」


「すげえ! 俺アイドル初めて見た! え、これ大丈夫だよな? なんか金取られたりしない? 大丈夫?」


「バカるっきー! 美人局とかじゃないんだからお金かかる訳がないじゃん! ……と、思う、多分……いや、でもライブとかお金かかるし……どうなんだろ……?」



 長岡さんと琉輝彌君が浮き足立ったままパニックになっている。……まあ、気持ちは分からなくはないが。

 柿崎さんは奇声を上げたっきり動かない。過呼吸気味に「まってまって」と繰り返している。テンパり方が女オタクのそれだが……いや、まさかな……?



「ガリンペイロの皆さん、はじめまして! 驚かせちゃったみたいでごめんなさい。最初から姿を見せてると騒ぎになっちゃうから、このタイミングまで出て来れなかったんです。後で他の部隊と合流したらまた隠れるので、それまで同行させてくださいね」



 あかりが笠木さんや長岡さん、琉輝彌君と握手をしながら一言二言話しかける。



「リーダーの笠木さんですね? よろしくお願いします。華厳の滝ダンジョンの大立ち回りの動画、楽しかったです」


「ご視聴頂いていたんですね、ありがとうございます。今回は一緒に戦えて光栄です、よろしくお願いします」


「アーチャーの方、長岡さんでしたね? どうぞよろしく!」


「わー! 名前覚えててもらってたー! うんうん、よろしくですー!」


「そしてあなたが虎林琉輝彌さんですね。うちの大事な主力に喧嘩を売ったって聞いた時はムッとしましたが、ちゃんと仲直りしたみたいなので許します! よろしくね!」


「あ、はい! その節はアニキにご迷惑をおかけしてすみませんっした! ……ちなみに大丈夫ですかこれ、握手券みてーなの俺持ってねえですけど」


「大丈夫です、仲間との握手で握手券付きCDを売りつけたりしませんよ。私、スキル発動の度に歌うんですよ? その度にライブチケットを売らなきゃいけなくなるじゃないですか。今回は特別です、私が最前席で皆さんの戦いを応援しながら観戦しますね」



 バッチリウインクをキメるあかりに何も言えなくなったのか、琉輝彌君は頭をかきながらお辞儀をした。

 あかりが最後に柿崎さんに手を差し出すが……柿崎さんは動かない。何なら目の焦点が合っていない。



「まってまってまってあかりんナンデ? 幻覚? 天国? 私死んじゃった? なんか心臓止まってる気がするんだけどそっかー私死んじゃったかー短い人生だったなー」



 異常を察したあかりがぶつぶつと呟く柿崎さんの目の前で手を振る。



「えーと……柿崎さん、でしたよね? 大丈夫ですか?」


「大丈夫かなぁ? 多分大丈夫じゃないんだよなぁ推しに認知されてるどころか目の前で手を振ってるんだもんおかしいよねもしかしてここって涅槃? アヴァロン? それともニライカナイ? 虹の橋のたもとだったりしない? おかしいなあ原爆ドームのダンジョンにこんな天国があるなんて魔物の幻覚魔法って言われても信じちゃうんだけど」


「……ごめんね、えいっ」



 あかりが柿崎さんの両の頬をつねった。

 おもちのような柔らかほっぺがつねられた事で赤くなり、柿崎さんの意識が覚醒と動転を高速で反復横跳びする。



「痛い痛い痛いぴゃーー!!!! あかりんが私に触ってる! 私に触ってつねってる! ほっぺつねり券もないのに! 尊い! 痛い! なにこれ罰とご褒美が糾える縄の如し!! むしろ罰すらご褒美!!! なにこれ!? なにこれねぇ待ってお願い待って!?」


「はーい待ちまーす。どう? 正気に戻りましたか?」


「あああ……あの……手を離して頂けると……私の心臓がサードアルバム収録曲の『Break order』みたいなリズムを刻んでるので……」


「あ、ごめんなさい……ってBPM170は頻脈ってレベルじゃないですからね!? はい、深呼吸! 吸ってー! 吐いてー!」


「すううう……あああこれあかりんの息吸ってるかもしれないのヤバい死ぬ! 吐きたくない! 私もう息止めて生きていきます!!」



 前後不覚に陥っている柿崎さんをあかりに任せて、俺は胃のあたりを抑えている笠木さんに声をかけた。この人、本当に苦労人だな。



「……大変ですね」


「はい……うちの柿崎、幸村灯里のファンなんですけど……まさかここまで取り乱すとは思っていませんでした。コラボ相手が広島サンブリンガーズですので可能性はあるかもとは思ってたんですが、集合の時にいらっしゃらなかったから大丈夫だと……」


「すみません、うちの応援団長がご迷惑を……」


「いえ、動画的には最高においしいんですけど……使えるのかなコレ、一応編集したらチェックお願いします」


「了解しました。……でも、そろそろ討伐始めないと遅れそうですよね」


「渉さん、いっそこのワチャワチャしてる状況はガリンペイロの面々にお任せして、あたし達だけで討伐しときます? あの調子だと何か変な事故起こしそうっスよ。あたしが言うのもアレっスけど、浮き足立ってます」



 俺達の行き先を軽く偵察してきた美沙が戻って来て、そんな提案をする。

 気持ちは分からなくもない、柿崎さんだけじゃなく長岡さんも少し浮かれている。琉輝彌君は……有名人に遭遇した程度のリアクションだからまだマシか。笠木さんは浮かれ気分どころか胃痛に苛まれている。

 この変なテンションの一団をいきなり魔物にぶつけるのは怖い。地形も特殊な火山フィールドだし、大事を取って俺達が先行するのは悪い手ではない。



「笠木さん、一旦あっちの騒動はお任せしていいですか? 俺と美沙で露払いがてら討伐して来ますんで」


「すみません、せっかくのコラボだって言うのにいきなりこんな事になってしまって……」


「いえ、遅かれ早かれ幸村さんの紹介をする必要がありましたし、切迫した状況でパニックになるよりは良かったと思います。……では、行ってきます」



 俺は笠木さんに頭を下げて、美沙と一緒に受け持ち区画の討伐へと出発した。



 § § §



 真っ赤で巨大なオオサンショウウオのような体躯のサラマンダーが口から火球を放つ。

 全長七メートルはあろうかという大トカゲの放つ特大のファイアボールだ、迫力満点なんてモンじゃない。

 さすが入場規制のある討伐推奨ダンジョンだ。雑魚と呼ぶのを躊躇ってしまう。

 俺は盾でメガサイズの火の玉を叩き落とし、大きく開けたままのサラマンダーの口に片手剣を捩じ込んだ。

 喉を内側から切り裂かれても、サラマンダーはまだ死なない。むしろ片手剣をしっかり噛み締めて離さない。大した生命力だ。



「美沙!」


「あいよー!」



 横合いから飛び出した美沙の細剣がサラマンダーの頭を刺し貫く。

 脳髄を破壊する一撃をお見舞いされたサラマンダーが断末魔の叫びを上げながら大口を開け、俺の剣を解放した。

 傷口から真紅の炎を噴き上げながら、サラマンダーは金色の粒子となって崩れて消えた。



「ナーイス!」


「渉さんもナイスでした!」



 俺達は溶岩流の間でハイタッチを交わした。

 これで通算三匹目のサラマンダーだ。ラーヴァスライムも七匹くらい倒しただろうか。

 ガリンペイロやあかりもいずれ合流するだろうと思ってズンズン進んでいるが、まだ皆が来る気配は無い。



「あかり達はまだ来ないのか……結構時間がかかってるのか?」


「いや、まだ十五分そこそこっスよ。このレベルの手合いにかける時間としては早い方だと思います。渉さんも強くなったモンっスね」



 美沙がカードをテキパキと拾いながら、視線を中空にさまよわせる。美沙はステータスをカスタムしているので、俺には見えない時計が表示されているんだろう。

 俺は梨々香を救出するために、ステータスとは違う力を鍛えた。具体的には原初の種子と、それを十全に扱う為の常識を超えた感覚、ユーバーセンスだ。

 それらのおかげで迷救会の教祖である求道聖蘭を倒す事が出来たが、逆に対魔物戦闘の機会から遠ざかっていた。

 勘を取り戻すためにダンジョンに潜りたかったが、多忙に次ぐ多忙のせいで叶わなかった。

 しかしなかなかどうして、こうして戦ってみると実にしっくり来る。



「やけに敵の動きが読みやすかったり、体がうまい具合に動いてる気がするが……これはユーバーセンスのおかげか?」


「それもあると思いますけど、レベルが上がってるんじゃないスか? ほら、自殺を図ったあかりさんを回復させる為に魔素を限界まで溜め込んだじゃないっスか。あの時の残りでレベルアップしてる可能性は?」


「トーカが言うには、あの時使った魔素はレベル上げには使えなかったそうだ。エリクシック・ヒール用の魔力として使うにも不純物が多くて、トーカがかなり無理をしてどうにか……って感じだったらしい」


「なるほど……じゃあ、あの後話し合いの時に言ってた『表に出たくない』って言うのは……」


「魔素を生のままで無理矢理使った事による副作用が予想以上に出たらしい。体内に残しても百害あって一理なしとの事だったんで、宮島ダンジョンの警備をしてた時にこっそり放出してもらったよ」


「ああ、田島さんとの最後の……」



 ふと、美沙の表情が曇る。

 美沙からしたら栄光警備の面々はただの同僚程度の付き合いだが、五号警備隊は別だ。

 俺の時ほどではないが交流もしていたし、同じ現場に入っても言うほど塩対応ではなかったと聞いている。

 美沙も美沙で、田島さんに思うところがあるんだろう。



「ところで……美沙はアレ、使わないのか? 東洋鉱業から渡されたレイピアだけで戦ってるみたいだが」


「アレ? ああ、月虹っスか?」



 美沙がどこからともなく黒い鞘に入った刀を取り出し、抜刀した。透き通る刀身に虹が煌めき、宝石のような美しさを湛えている。



「んー、ここの魔物は別に月虹を使わないといけないくらいキツい訳じゃないっスからね……あんまコレ使ってるの見られたくないって言うか、『お前魔剣士じゃねーのかよ!』って言われそうじゃないっスか?」


「確かに……刀が得意武器なのは侍か忍者くらいだろうしな。血の力もあんまり使ってないよな?」


「はい、今は第一相キープっスね。あたしの出自を知ってる人にバレるんなら別にいいんスけどね。五号警備員としてのあたししか知らない人に見られて、痛くもない腹を探られるのはめんどいっスから」



 美沙が刀を鞘に戻して中空へと放り投げると、刀は音もなく消滅した。

 出し入れ自由とは聞いているが、武器を好きに出し入れ出来るのは便利だ。ちょっと羨ましい。

 小説や漫画にあるようなアイテムボックスみたいな機能はこの世界には無いもんな。



「あたしの月虹や血の力の事を言うなら、渉さんも原初の種子の力使ってないでしょ?」


「ああ、今回は動画を撮るって話だからな。うっかりアビリティ化した追加スキルや制限を解除したスキルやトーカが生やしたトンデモスキルを使おうモンなら証拠が残ってしまう」


「ですよねー。後で検閲するって言っても人の口に戸は立てられぬって言いますからね。用心するに越した事はないっス。このままステータスの力だけでやっていきましょ」



 俺と美沙は互いに頷き合い、次の区画に移動しようとした時、後ろから人の気配がした。

 柿崎さんがようやく混乱状態から回復したようで、ガリンペイロの皆があかりに先導される形でやってきた。



「あーあ、もう来ちゃったんスね。せっかく渉さんと二人きりの共同作業を堪能出来ると思ったんスけどねー」


「しょうがないだろ、仕事なんだから。……さ、合流するぞ」


「へーい」



 美沙は若干不服そうに返事をして、一足先にあかりの所に歩いていく。

 俺はそんな美沙を追いかけるようにゆっくりと合流した。

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