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天人伝承  作者: 安芸
第二章 命を懸けた誓いに生きるということ
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イシュリー国

 本当は地図でも作成できればよいのですが。


 広大なカダル大陸には大小十一の国々が権勢をしのぎ合っている。

 中でも四番目に建国が古く歴史のあるイシュリー国は、ほぼ中央にオーラン山脈が横断し、更に河川と湖沼も多く、水源に不足のない水に恵まれた国だった。

 国土は現在十の領地に区分され、第一領地から第十領地までと、それぞれ王家所縁のものが自治を任されていた。

 自治には国法とは別に各領地の自治法があり、通常は多くが独自の自治法によって管理運営されている。

 だが、戦時の場合においての主権はすべて王のものとなり、何人も異を唱えることは許されず、国法に基づき王命に従うことになる。

 いまイシュリー国は七年にわたる交戦状態にあった。

 はじめはライヒェン国とスザン国が領土の境界線を巡って開戦し、やがて双方に隣接するイシュリー国にどちらの国からも支援要請があった。

 これを断ったところ、二つの国からの攻撃を受け、侵略の対象とみなされたので反撃に出た。長きに及ぶ、三つ巴の戦のはじまりだった。

 オーラン山脈の山裾、第一領地に国の中枢を担う王宮があり、そこにイシュリー国第十九代国王ディレク・ダルトワ・イシュリーと、第二王妃(第一王妃はすでに死去)エリフェア・ダルトワ・イシュリーは在していた。

 いまは亡き第一王妃シュリトゥを母とする第一王子は第四領地へ領主として赴任、エリフェア王妃を母とする第二王子は第八領地へ領主として赴任(まだ成人年齢に達していないため後継人付き)中である。

 決着のつかないまま、戦線は膠着状態で二年が経つ。

 目下の前線は、ライヒェン国とは第二領地から第三領地にかけて、スザン国とは第六領地から第五領地にかけてひろがった。

 更にライヒェン国とスザン国も事を構えているので、状況は一進一退の攻防が続いたまま現在にいたる。

 しばらくはこのままかと思われた矢先、第五領地前線で異変があったと、第一報がもたらされた。

 さっそく、国王ディレクは自ら兵を率いて戦地へ向かった。ライヒェン国ともスザン国とも一線を交え、数々の死線をくぐり抜けてきた勇猛な王である、ちょっとやそっとの出来事で怯むことなどない。

 だが、いってみて驚いた。

 第五領地とスザン国との国境――その最前線に張った味方の陣が燃えていた。そればかりではない。国境線そのものが炎上していた。高く吹き上がる炎の柱は見渡す限りずっと続く。おそらく第六領地まで、もしくはそれ以上までも。

 これではこちらから攻め入ることは不可能、と判断した国王ディレクは事態の打開を火急に図るために軍師と次軍師二人を呼びつけた。

 リアストン暦九百九十三年、オーエンの月、第九日目のことである。


 イシュリー国第四領地は南側を中央にある第一領地に接し、また西側を第三領地と第十領地、東側を第五領地という具合に隣り合わせていた。

 数年前に戦線は一時拡大したものの、その後はほぼ膠着し停戦状態になってしまったので、第五領地よりいまだ支援の要請はない。

 王命も指令があるまで待機とのことなので、さいわいにも、まだ戦火の傷を負ってはいなかった。

 第四領地は、主に農作地である。

 農業を主軸に、ついで牧畜が盛んである。領民の多くは代々何世代も続く農民で、その暮らしぶりは質素で堅実、気質も穏やかで、自分たちの生活を過不足なく支えてくれる領主に信頼を寄せていた。

 領主城は領地の南側、第一領地側に寄っている。

だが城とは名ばかりで、実際のところは要塞である。危機の際は領民すべてを収容できる規模の頑健な建造物群は、完成までに八年の歳月をかけた。

 ここには、領主の居城、労働者の大型住居群、自治関連施設、大規模な兵舎、厩舎、練兵場、運動場、相当数の避難施設、備蓄を保管する倉庫群、医療施設、管理の徹底された井戸と水道と水を蓄える池、確保された農業地と家畜、武器工房、製鉄・鍛冶工房、そしてこれらの施設を建設、整備、管理する建築関連施設がある。

 有事に備えてこの要塞の建設に着手し、完成させたのは、いまだ若き現在の領主であった。

 着工当時前は費用や物資の面でさまざまに揉めたが、いざ開戦となると、それが危急に必要なものだということに納得がいった領民たちの行動は迅速だった。

 そうして完成した領主城に、いまおよそ二万の兵士が駐屯している。


 次でキルヴァの近衛の顔ぶれがそろいます。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

 

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