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天人伝承  作者: 安芸
第七章 己の使命をまっとうするということ
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十八年目の再会

 半年ぶりの更新です。

 赤茶に近い金髪、紫がかった瞳の訪問客が安楽椅子から立ち上がり、膝を折って一礼した。


「はじめまして。お目にかかれて光栄です、殿下。私の名はアルマディオ・ベルシアーノ、もとい、アルマディオ・スエンディーと申します」


 キルヴァの背後でダリーの気配が濃厚になった。


「スエンディー……すると、君はダリーの身内の者か?」


 キルヴァがアルマディオから視線を外さずに訊ねると、彼はあっさりと頷いた。


「はい、息子にございます。母の名はイヴリンです」


 ダリーの眼がカッと見開かれた。激情にかられて身体が震えたが、横にいたミシカの手に肩を押さえられて感情の爆発をなんとか堪える。


「君の年齢は」

「ちょうど二十歳です」


 エディニィが彼と会ったとき彼は十七歳と言っていた。あれから三年、見た目と年齢は釣り合う。


「しかし、ダリーの話によれば彼が妻子を喪ったのは十八年も前のことだ。聞いての通り、ダリーは妻子を自らの手で葬ったと言っている。もし君が君の言う通りダリーの息子ならば、その身元を証明するものはなにかあるのか」


 そこでアルマディオはエディニィに首を向けた。


「あちらの女性に指輪を預けました」

「指輪?」


 思わず詰問する声で呻きダリーはエディニィを見た。

 同時にアルマディオが人懐こく笑い、エディニィに話しかける。


「ねぇ、お姉さん。三年前、俺が渡した指輪まだ持っているでしょ?」


 エディニィは嘆息し、まずキルヴァの判断を仰ぐ。


「発言と離席、持ち出しの許可を頂けますでしょうか」

「よい、許す」

「ありがとうございます。少々、御前を失礼いたします」


 エディニィは浅く会釈し、サッと身を翻すと応接の間を出て行ってまもなく戻ってきた。手に小さな箱を持っていて蓋を開く。中には指輪がひとつ。その細工はダリーがいまも指に嵌めているものとまったく同じものだった。

 ダリーが息を呑んで食い入るようにそれを見つめ、茫然とした顔で言った。


「……俺に、その指輪を、見せてもらえますか」


 キルヴァがエディニィに目配せし、エディニィは箱ごとダリーに手渡した。

 ダリーは指輪を見つめ、手に取り、裏を眺めた。


「……まちがいない、俺と対の指輪だ。妻の……イヴリンにやった……でも、どうして……」

「母さんの形見だよ」

「形見だと?」

「そう、死んだんだよ。ついこの間ね。だから」


 アルマディオは不自然なくらい無邪気に笑った。


「形見になった、という言い方の方が正しいかな。まああなたにしてみれば、母さんも俺も当の昔に死んだ人間だから、いまさら俺が生きていようが母さんが死んでいようが関係ないっていえば関係ないだろうけどさ」


 ダリーが死人のように蒼褪めながら呟いた。


「……死んだ? ついこの間、だと……?」

「うん。まあよく頑張った方だと思うよ。母さん真面目だからさぁ、最後まで組織に忠実だったよ、うん。まさに組織の犬の鑑だね。あなたは知らないだろうけどさ、あなたの命はずっと母さんが守っていたんだ。それこそ、文字通り身を削って働いてね」

「なんだと。どういうことだ?」


 ダリーは気色ばんでアルマディオに迫った。

 アルマディオは立ったまま喋るのがだるそうに椅子に座り直すと、肘掛けに肘をついた。


「ざっくり説明すると、母は某国の諜報員の身分を隠して、北の国の情報部を探る任務を受けていた。そのために北の国の国内不穏分子を洗い出す組織の潜入捜査員という偽看板を背負っていた。つまりは二重諜報員さ。で、欲しい情報を掻き集められるだけ集めたあとは、存在を抹消して、痕跡を残さないためにも所属組織を潰す予定だった」

「俺が潰した組織か」

「そうそう。俺と二人分の身代わりの焼死体を用意して姿を消すところまでは予定通りだったけど、誤算だったのは、あなたが組織を壊滅に追いやったことで北の情報部に追われる身になったこと。それと、母さんがあなたに本気になったこと」


 アルマディオが溜め息を吐いて、面倒くさそうに頭を掻いた。


「バカだよね。国の機密を知る諜報員が他人に入れ込んだところで弱みにしかならないなんてことは、重々知っていただろうにさ。母さんはお尋ねものになったあなたを守るために、なにをしたと思う?」


 ダリーはちょっと間をおいてから低い声で訊ねた。


「……なにをしたんだ?」

「自分と俺の身を売ったのさ」


 あっさりと答えたアルマディオは肩を竦めて手を広げた。


「もっとも、状況を考えれば俺には他に生き残る道はなかっただろうけどね。上の方でどんなやりとりがあったかは知らないけど、北の情報部はあなたの追跡を中断、代わりに母さんは死ぬまで某国のいいように使われた。俺は俺で、物心ついたときから立派な組織の犬。だから、こんなことべらべら喋るのも、今日が最初で最後だよ」


 会話の切れ目にミシカとセグランは前に出てキルヴァを背に隠した。エディニィは用心深く監視を続け、万が一の事態に備えていた。

 一呼吸おいてアルマディオはダリーを見て言った。


「俺がここに来たのは、ぼろ雑巾のようになって死んだ母さんがあんまり哀れだからさ、最期の親孝行をしようと思ってね。あなたに母さんの遺言を届けに来たわけ」

 拙宅ブログ 安芸物語 ただいま冬仕様中。お気に入りです。

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