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天人伝承  作者: 安芸
第七章 己の使命をまっとうするということ
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招かれざる訪問者

 

 第37話と46話をご参照ください。

      二



 キルヴァが領主城に戻るとすぐ次軍師セグラン・リージュが出迎えた。


「王子! ご無事でしたか」


 あきらかにほっと胸を撫で下ろしたセグランにキルヴァは苦笑した。


「少しくらい私の姿が見えないからといってそう気を揉むな。禿げるぞ」

「禿げようとデブろうとあなたさまのお傍においていただきますとも。ですが私の見た目を気になさるのでしたら、もう何百回もお願いしております通り、おひとりでふらっと消えるのはおやめください。私がどれだけお探ししたと――」

「わかった、わかった」

「城内はもとより、厩舎、兵舎、練兵場、運動場を駆けずりまわって、畑まで行きましたよ! 誰に訊いても行き先を知らないものですから、気が狂いそうな思いをしました」

「少し外の空気を吸ってきたのだ。アズガルとステラ、カドゥサも一緒だったから問題あるまい」

「それでしたらそうと私に一言おっしゃってくださればよいものを……」


 ブツブツと愚痴るセグランを宥めるようにキルヴァがいいわけすると、セグランの補佐を務めるジェミス・ウィルゴーが疲れ切った様子で頷いた。


「そうですよー。こいつ、王子が行方不明だっつって半狂乱だったんスから。絶対に誰か彼か傍についているだろうし、適当に散歩にでも出かけているんだろうって言っても納得しやしねぇ。そのまま走りまわるもんだから、俺たちまで付き合わされてえらい迷惑ですよ。挙句、大捜索命令を出す寸前でした。なぁ、そうだよなー?」


 ジェミスが相槌を求めたのはセグランの近衛兵長のルゲル・エギーユと副兵長のラージャ・ミクルスだ。二人共、歯切れの悪い調子ではあるが否定はしない。


「このご時世です、セグランが心配するのも無理はありません」


 と口を挟んだのはキルヴァの兵副長ミシカ・オブライエンだ。いつのまにかキルヴァの左横を歩いている。


「王子に来客です」

「誰だ」

「それが……」


 珍しくミシカが口ごもる。


「面会の間に通しました。いま、ダリーとエディニィがついております」


 余計にわからない。

 セグランが助け船を出してきた。


「本人はアルマディオ・ベルシアーノと名乗っています。国籍不明、身分証は偽造されたものでした」


 それが本当であれば本来キルヴァには取り次がず、それどころか目的不明の不審人物として尋問される対象だろう。

 しかし捕らえるでもなく、客人扱いで遇したらしい。


「一人か」

「はい」


 キルヴァの問いにセグランが頷く。

 疑わしすぎる。

 だが一方で納得した。それでセグランが騒いでいたのだ。単独の素性不明の訪問者は陽動で、他に確かな目的を持って動く輩が侵入したのではないかと恐れたのだろう。


「アルマディオ・ベルシアーノ……聞き覚えのある名だな」


 いまひとつ思い出せない。

 だが面会の間で訪問客の顔を一目見た瞬間、あっと声を上げそうになった。


「そなたは……」


 キルヴァの脳裡に近衛兵のひとり、エディニィ・ローパスと交わした記憶が甦った。


 あれは確か、三年ほど前だ。スザンでの戦闘を間近に控えた情報収集の作戦中にもたらされた報告。キルヴァの近衛兵長であるダリー・スエンディーの血縁者と思われる青年を一旦は身柄確保し保護したという報告があったものの、キルヴァが会う前に逃走されてしまった。


 その後、捜索するも行方は杳として知れず、残ったのは指輪のみ。

 ダリーに知らせるかどうか悩んだものの、結局うやむやのまま現在に至る。


 キルヴァはゆっくりと顔を巡らせてダリーを見た。ダリーはこれ以上にないほど厳しい顔つきで壁際に立ち、油断なく身構えている。またエディニィは戸惑いを隠せない様子で訪問客の背後に立ち、やはり不測の事態に備えて緊張している。


「そっくりだな」


 キルヴァは呟いた。

 ダリーよりはるかに若いが、よく似ている。これで肉親ではないと言う方がおかしい。

 セグランがそっと耳打ちした。


「門番の伝令でダリー・スエンディーの身内を名乗る者が王子に面会を願っていると知らせがあったのです。身元の保証はできませんでしたが、あまりにもダリーに似ていたため私の独断で来客として迎えました」


 キルヴァは薄い微笑を浮かべて座ったままの彼をじっと見つめた。


「そうか、アルマディオ。どうりで聞き憶えがあると思った。ダリー、彼は以前君が話してくれた二歳で生き別れになったという子供か?」


 葛藤はあるだろう。

 だがダリーは微塵もそれを感じさせない口調ではっきりと述べた。


「いいえ。以前お話したとおり、俺の子供は火事で妻と一緒に焼死したはずです。俺は二人の遺体をこの眼で見て、この手で埋葬したんです」


 なのに、どうして。


 澱まない声とは裏腹に、眼には感情がこもる。ダリーは悲哀と苦痛の滲んだまなざしで自分とよく似た面差しの彼を凝視した。

 なにかの間違いで生きていたというのであれば素直に喜べる話なのだろう。それができないのは、職業柄ある可能性を見出してしまったに違いない。


 キルヴァは沈黙する二人を見比べてから静かに口を切った。


「君は何者だ? 私になんの用でここへ?」


 おはようございます、安芸です。

 久しぶりの天人です。少しずつですが、進展していますのでどうぞのんびりおつきあいくださいませ。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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