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天人伝承  作者: 安芸
第七章 己の使命をまっとうするということ
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時の流れとともに

 キルヴァとステラの間にも、若干の変化が。


「私が後を継ぐのはいい。問題は、私の後なのだ。私の異母弟キャスザインか、はたまた私の子供か」

「おまえの子供だと?」


 珍しく、動揺したようである。

 キルヴァは小さく笑ってステラの想像を否定した。


「まだいない。当面、先の話だよ。でも、即位したならばすぐにでももうけなければならない。だが、どちらが私の後を継ぐ第一後継者となるか、いまから決めておくべきだと譲らない一派がいる」

「あててやろうじゃないか。弟王子の後援者だ」


 見え透いている、とステラが鼻を鳴らした。

 キルヴァは頷く。


「実権を欲しがる、ね。私に万が一『なにか』があった場合、第一位と第二位では権力に雲泥の差が出るゆえ、私に子供がいないいまのうちに決めておきたいのだ」

「なるほど。子供ができてからでは反対派の擁立は避けられないからな」

「うん、そういうこと」

「面倒なことだ」

「加えてサルドニーク国と開戦になれば武器がいる。鉄がいる。採掘を進めるために金がいる。糧食も必要となるから麦もいる。どれも一日や二日で片付く問題じゃない。もっぱらの噂ではサルドニーク国が天人兵の更なる強化に乗り出し、中でも、火の天人(ラーク・シャ-サ)に十翼天がいるらしい」


 同胞の話に、ステラがピクリと反応した。


「十翼天、だと? 名は?」

「わからない」

「十翼天……」


 ステラは眉根を寄せ、美しい顔を硬く強張らせ、考え込む。

 キルヴァは肘をついて身を起こし、ステラの手触りのいい髪に指を潜らせて頭部を軽く引き寄せた。


「そんな顔をしないでくれ。君が苦しむと、私も苦しい」

「……おまえこそ、そんな顔をするな。私はただ、懸念しただけだ。十翼天が戦線に出てくれば、必然、荒れる。こちらに火の十翼天はいない。抑えには私の力が必要となるだろう」

「いいや、必要となるのは君じゃない。守りの天人――水の天人(ウィア・シャーサ)だ」


 キルヴァはステラを見つめた。


「なれど、私は新たな天人狩りには反対だ」

「キルヴァ」

「このまま各国が先を争い天人狩りを強行すれば、どうなる。遠からず、第二次天人戦争が勃発し世界は荒れ果てよう。それだけではない。万が一、天人対人間となれば、どちらか絶滅するまで戦いは続くだろう。そうなる前に――止めないと……」

「おまえが、止めるのか」

「私ひとりでできることではないが、止めたいとは、思う。そのためにこの三年を費やしてきた」


 ステラが小さく微笑する。


「……人間が天人を育成するなど正気の沙汰ではないと思ったが、まあ、よくやったものだ」

「褒められることではないよ」

「褒めているわけじゃない、が、感心はする。矜持が高く誇りにかけて滅多に人間に屈しない我ら種族を、いったいどう懐柔し成長させたのか……私のように個に執着したゆえの変化というならば、話はわからないでもないのだが」


 個、という表現でわずかに瞳を甘くする。

 キルヴァはその視線を受け、こくりと咽喉を鳴らした。

 ステラがキルヴァのために一族のもとを離れ、単身彼のものとなった日のことはいまでもはっきり憶えている。

 戦場に舞い降りた、白い影。

 十二翼を広げたその神々しい美しさは、眼に焼きついている。

 キルヴァは黙ったままステラの髪に口づけた。


「しかし、十翼天か。いったい誰が堕ちたのか……気になるな」

「調べさせよう」


 そこへ、いままで気配を消していたアズガルから声がかかった。

 彼は相変わらず、黒一色を身に纏い、ひっそりと影のように従っている。


「セグラン様より知らせです。ただちにお戻りをとのこと」

「わかった」


 キルヴァは先に腰を上げ、ステラに、す、と手を差し伸べて言った。


「参ろう」


 次話、セグラン登場。

 招かれざる来客です。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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