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天人伝承  作者: 安芸
第七章 己の使命をまっとうするということ
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束の間の平穏

 お久し振りでございます。

 新章開始。三年後です。ちなみにキルヴァは24歳。

   


      一


 リアストン暦九九六年、ナーザローズの月、四日目。

 スザン戦争終結よりほぼ三年の月日が経った。



「キルヴァ」


 凛と響く声に名を呼ばれ、キルヴァは薄く眼を開けた。

 抜けるような青空を背景に舞い降りてくるのは、世にも稀有な十二翼天、火の天人(ラーク・シャーサ)

 三年前、スザン国と雌雄を決する戦いの最後の一場に天人兵で侵略攻撃をしかけてきたサルドニーク国をただひとりで撃退し、一躍その名が轟いた。


 あれから三年――。

 

 はからずも、最強の天人がイシュリー国を守護しているという事実は、他国の侵略を抑制させる一手となった。

 同時に、天人兵の有効性をはっきりと証明することにもなって、この三年の間に、急速に天人兵の需要が高まり、どの国も先を競って天人兵団の強化に取り組んでいた。

 そしていま、戦の気運が高まりつつあった。

 世界情勢は予断を許さず、冷たい腹の探り合いが続いている。


「こんなところにいたのか」


 キルヴァは丘の中腹にひっくり返って、腕を頭のうしろで組み、眼をつむっていた。

 瞼に感じる光がふっと翳る。

 勝手知ったる声に名前を唱えられてゆっくりと瞼を持ち上げたところ、そこにいたのは、案の定ステラだ。

 ひゅー、と垂直降下してきて、キルヴァの顔を覗き込む。


「黙って姿をくらますな。セグランが半狂乱になって探しているぞ」

「セグランは私に対して少し過保護すぎる」

「まあそうだな」


 キルヴァは寝っ転がったままステラに手を伸ばした。


「隣に来ないか」


 ステラは応と答えない。天人は地上に足をつけることを嫌う。ましてや大地に寝そべるなど、好きであるはずもない。

 だが、嫌ということもなく、十二枚の翼を次々に折りたたみ、キルヴァの手を取り、腰を下ろした。さすがに横になることはしない。

 つながる手と手。

 天人の体温はひとよりぐっと低い。だからステラの手はいつも冷たい。

 だがこうして手を握り合っているだけで、ささやかながら、幸福を感じる。


「ここでなにをしていた?」


 不思議そうにステラが訊ねる。


「なにも」

 

 キルヴァは安穏として答える。


「なにも?」

「なにもしていない。ただ……考えていたのだ」

「それでもおまえひとりで行動するな。危険がすぎる」


 キルヴァはステラの美しい顔を眺めた。

 その向こう、空の中に黒い点を見つける。ギィ大鷹のカドゥサだ。大きく力強く旋回している。高い位置を飛び回っているのは地上から見つけにくくするためだろう。カドゥサのいるところにキルヴァがいることは自明の理だ。


「ひとりではないよ。アズガルが一緒だ。それに君にもすぐに見つかると思っていた」

 

 キルヴァはいたずらっぽく微笑んだ。

 共に過ごした三年間でだいぶ互いの仲は進展していた。気を許し、軽口を叩く。


「君もたいがい心配性だ」

 

 ステラは無言で肩を竦めた。そうした人間的な小さなしぐさもすっかり板についている。


「それで、なにを考えていた。聞かせてみろ」

「……」

 

 キルヴァはステラの長い金の髪を指にからめた。(いじ)る。さらさらとした感触が心地いい。

 一呼吸おいて、ぽつりと呟く。


「父上の容体がお悪いのだ」


 ディレク・ダルトワ・イシュリー。

 キルヴァの実父で、現イシュリー国第十九代国王である。


「このままでは来春までもつかどうか……議会は既にその後の懸案事項の討議に入っている」

「おまえはそれがおもしろくないわけだ」

「必要であることは間違いないのだが……ありていに言って、気分が悪い」


 ステラの視線がそそがれる。


「その後の懸案事項とは、いくつある?」

「大きく分けて、六つ。後継者問題、鉄、金、農地開拓、天人、サルドニーク国」

 

 ステラは光彩のきらめく美しい瞳をぱちぱちさせた。


「……王位はおまえが継ぐのではないのか?」


 一場がもう少し続くので、長くなるため、ここまでに。

 現在、嵐の前の静けさです。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 * 当ブログサイトにて 書籍刊行情報含むあれやこれやを喋っています。興味を持たれた方、ひょいと覗いてやってください。

 安芸でした。

 安芸でした。

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