スザン戦争・二十
まもなくスザン戦終了です。
「キルヴァ王子におかれましては、スザンの王族の方々をどう扱われるおつもりで?」
キルヴァは肩をすくめた。
「あいにく、私個人の判断でどうこうできる問題ではない。とはいえ、ひとまず拘束させていただくことになろう。セグラン!」
気を揉みつつも動けずにいた青年軍師が駆けつける。手綱を引くのももどかしい様子で急ぎ鞍より降りた。王子の身を案じるばかりに、表情が険しく、緊張を解いてもいない。
「は」
「これから私は両将軍を連れて王族の方々をお迎えに参る。私の近衛を集めよ。ジェミス! ルゲル! そなたらはセグランをよく守るように。決して傍を離れてはならぬ。戦後のどさくさが一番危険ゆえ、警戒を怠るな。セグラン、君にこの場の陣頭指揮を任せる。負傷者の治療を優先し、部隊をとりまとめよ」
「はい」
「伝令を。各将軍においては状況の報告を要請し、手分けして周辺地域の鎮圧を命じる。首都カルバルスキーの制圧、全街道の一時封鎖及びすべての港の閉鎖を速やかにせよ。余計な混乱を招かず、一切の略奪・暴力・破壊行為を禁ずるものとする。違反者にはその場で厳罰を与えるように。よいな」
「畏まりました」
「それから、首都へは天人アノンを伴うように。まだ風の天人が残存しているやもしれぬゆえ、到着を争ってはならぬ。先発隊のカーチス隊でまだあちらに残っている兵は入れ替わりで帰還せよ。遊撃隊第一副隊長アシュランス・ベントラは私が戻るまで待機だ。見張りは常時二人ついて片時も眼を放すな。私はこれからウージン王に会いに行く」
「戦勝のご報告は?」
「まだ早い。まずは海岸線を抑えてスザン救済のための援軍を阻止してくれたライヒェン国海軍に謝意を述べねばなるまい。我らが自在に策を練れたのもスザン軍を完全に孤立することがかなったため。それはライヒェン軍の功績によるものが大きいだろう。我が国にも海軍はあるとはいえ、海戦においてはライヒェンに一日の長があることは否定できぬからな」
「はい。我が軍も本腰あげて海軍の強化に乗り出さなければなりません」
セグランは多くを語らなかったが、伏せた眼の奥には既にその秘策が目論まれているようだった。
キルヴァは上空を見上げてステラを呼ばわろうとした。だがそれより早く白い十二翼を閉じるような恰好で青い甲冑に身を包んだステラが垂直に急降下してきた。
美しい貌に翳りがある。口元が強張り、眼が細められてある方向に注がれたまま動かない。
「キルヴァ」
ステラの声は凛として深く、語尾の余韻がうたうように美しい。
キルヴァはステラに名を呼ばれるのが好きだった。残念ながら滅多に呼んでもらえないのが寂しい限りだが、たまに紡がれるのを聴くと胸の動悸が早まるほどだ。
キルヴァは空中へ手を差し伸べた。
しかしステラの手は重ならず、すっと腕が伸びて水平線の彼方を指差した。
「天人同士が争っている」
キルヴァは示された方角に注意を向けた。
お久しぶりでございます。
ようやくスザン戦終了間近です。いましばらくおつきあいくださいませ。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。