スザン戦争・十七
またもや、一ヶ月ぶりの更新です
「……は?」
「以前、ゲオルグ将軍に誘いをかけたときは断られたが」
「えっ」
「しかし、いまやドロモス王は亡くなられ、寄る辺なき身となった。私はお二方を我が陣中に迎えたい。とはいえ、勝負の決着もつかぬままでは返答もしにくいかと思う。そこでそなたと一戦交え、私が勝利した暁には両将軍の身柄をもらい受ける。私が敗北したときはそなたの望みをなんなりと申すがいい。セグランにそのように取り図るよう命じておく」
アボルトは眼を見開いたまま、絶句した。
キルヴァはゲオルグとアレンジーに挑むような微笑をちらつかせた。
「いかがかな」
「気は確かか」と、アレンジー。
「そんなことイシュリー軍の幹部連中の誰も承知せんだろう」と、ゲオルグ。
「私は本気だ」
この会話は瞬く間に蔓延し、イシュリー軍も届いたようで爆発的な騒ぎが起こった。
だがキルヴァはどよめきを撥ね退けて、二人をじっと見据えていた。
「アボルトは手強いぞ」
と、ゲオルグが言った。
「なにせ、俺の自慢の部下だ。みくびられちゃあ、困る」
キルヴァはちょっと吐息して、
「私の方はたいした腕前ではない」
「おいおいおい」
「それでも闘わなくてはいけないときもあるだろう。ひとを請うときは、尚更だ。平時であるならば、幾度訪ねて頭を下げてもよい。だが戦場でまみえた以上、いたしかたない」
アボルトは腹をくくった声で、敢然とキルヴァに告げた。
「私が勝った暁には、追撃をせず全軍退却をお見逃しいただきたい。捕虜もお返しください。そして次代の国王が戴冠されるまでスザンへの侵攻はなきものとお約束を」
「わかった」
「こらこらー。そんな安請け合いをしていいのかー」
「安請け合いではない。お二方にはそれだけの価値があるということだ」
ゲオルグ・ニーゼンとアレンジー・ルドルはどちらともなく視線を交わした。この若き敵国の王子の真意を測りかねていた。
アボルトはキルヴァの包囲を解かせた。ずっと下がるように指示し、一旦剣の切っ先を下げてキルヴァと距離を置く。両手でも片手でも使用できる両刃の長剣で、刺突型と切斬型の両方の特徴を備えている。
キルヴァもまた味方の陣に手出し無用の合図を送り、腰に佩いていた剣を抜いた。片手用のやや長めの剣で、柄にナックルガードがついている。反りがないまっすぐの刃、先端は両刃となっていて、軽めで刺突にも有用であり、馬上で斬りつけるのにも適している。
二人は周囲の喧騒を余所に位置についた。
兜のバイザーを引き下ろす。ひと呼吸。
「いざ、参る!」
お久しぶりでございます。
すっかりご無沙汰しております。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。