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天人伝承  作者: 安芸
第六章 喪失の意味を知るということ
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スザン戦争・十六

 一ヶ月ぶりです。


「いやです」

「王は討たれた! 仇だぞ!」

「そうです、王は討たれました! なればこそ、いま我が軍を統べるのはお二方をおいて他にはありません。私にはお二方をお守りする義務があります。あなたがたはスザンになくてはならぬ方――いえ、私にとっての大事、他に代えられぬのです。なにがなんでも、どんな手を使っても、この場より撤退していただく。私がお守りします」


 天の鳥を傷つけた罪で処断は免れない。

 もとより命を捨てた戦法であった。

 アボルトの並々ならぬ決意を前にアレンジーは押し黙り、ゲオルグは苦痛の表情を浮かべて歯を食いしばっている。

 そこへ、


「っははははは」


 キルヴァ王子が肩を揺すって笑った。


「あっはははははは」


 アボルトはむっとした。


「なにがおかしいのです」


 キルヴァ王子が笑いをおさめて、アボルトを正視した。翡翠の瞳は息を呑むくらい澄んでいる。


「そなたの名は」

「申し遅れました。ゲオルグ・ニーゼン将軍の補佐を務めますアボルト・ブロナンディスと申します」

「私はそなたの覚悟を笑ったわけではない。誤解を招いたのならば、すまぬことをした」

 

 アボルトはぎょっとした。敵国とはいえ、一国の王子が一介の臣下に詫びることなど考えられないことだ。あたふたして、頭を下げる。


「私こそ無礼な口をききました。お許しください」

 

 キルヴァ王子は鷹揚に微笑み、「顔を上げてくれ」と言った。


「私が笑ったのは、そなたがあまりにもあけすけで、実直だったからだよ。そなたはせっかく私を人質にしながらも、自らの口で、私に危害を加えるつもりがないことを、声を大に表明したのだ。それがおかしくて、つい笑ってしまった」


 緊迫した空気が霧散する気配。

 キルヴァ王子の落ち着いた振る舞いに、包囲する五千の兵も戸惑いし、構えた剣も鈍く弱まるのがわかった。

 アボルトは呑まれてはいけない、と自らを叱咤し、弛んだ気を引き締める。


「そんなことは一言も申し上げておりません」

「だが、私の身柄と引き換えにゲオルグ将軍とアレンジー将軍の命を乞うつもりなのだろう? そのためには私が生きていることが前提となる。まあ多少の怪我を負わせるくらいは交渉術のうちにもあるが、私の血が一滴でも流れた時点で、スザン軍は壊滅するよ」

「どういうことです」

 

 余計な口を挟んだと、己の失態に気づいたときは遅かった。

 キルヴァ王子は僅かに顎を持ち上げて、視線を空へ向けた。

 ぎくりとした。

 十二翼天と十翼天が対で頭上に浮いていた。

 アボルトは喘ぐように息を乱し、胸を上下させ、血の気の引いた顔でキルヴァ王子を見た。

 誇張ではない。

 十二翼の最強の天人とそれに次ぐ十翼の天人がいれば、この場を瞬時に平らげることくらいなんでもない。

 天人兵の強さはいやというほど知っている。

 スザンでは六翼の天人を兵士として練兵し、統制するのが精一杯で、それ以上の階級は見たこともなかったが、その破壊力は想像することすら恐ろしい。

 すっかり動転したアボルトを前に、だが、キルヴァ王子は意外なことを言った。


「私のカドゥサに矢を射かけた罪の代償は払ってもらうが、そなたの命を賭けた奇策に敬意を表しようかと思う」


 キルヴァ王子は首を巡らせ、ゲオルグ・ニーゼンとアレンジー・ルドルの両名を捉えた。


「実は、私もゲオルグ将軍とアレンジー将軍が欲しいのだ」


 被災地の皆様へ。

 一日も早い復興を、心より願っております。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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