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天人伝承  作者: 安芸
第六章 喪失の意味を知るということ
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スザン戦争・十五

 久方ぶりの更新です



 手段の是非はともかく、鮮やかな奇襲だった。

 アボルト・ブロナンディスは、ゲオルグ・ニーゼンに五千の兵を任されたあと、すぐさま山林に潜った。そこでじっと機を待つことにした。

 軍人としてはスザンでも一、二を争うゲオルグが懸念していたことは、一重にキルヴァ・ダルトワ・イシュリー王子の存在だ。

 はじめは、キルヴァ王子の命を狙っていた。

 だが、刻々と戦況は厳しさを増し、敗色の色が濃厚になってきたところで、目的を差し替えた。

 このままでは、たとえ首を落としたところで反撃に遭い、そののち殲滅されることは眼に見えている。

 では、ここは一時撤退し、態勢を立て直し、軍を再編するのが最善策ではないかと判断した。

 それには、盾がいる。交渉に値する盾が。

 こちらの条件を呑まずにはいられない、イシュリー軍の要――金髪碧眼の若き王子。

 さいわいにして、預けられたダリエロ・アイアンの小隊には、弓兵隊に所属していないのが不思議なくらいの弓の名手がひとりいた。

 自前のクロス・ボウを所持しており、通常の長弓よりほぼ二倍の飛距離を稼いだ。解き放たれた矢は、見事に的中した。

 アボルトは勢いよく藪から飛び出し、キルヴァ王子めがけて突進した。

 間近に見る王子は健やかで、若いながらも威厳を備えていた。

 風の噂に聞いたところでは、ウージン・マルスカーヤ・ライヒェン国王を相手に一歩も譲らず、ライヒェン国との和議をただひとりで結び、軍師パドゥニー・グシカールの策を鼻にもかけず、末姫君を妻に迎える約束まで取り付けたという。

 せめて、亡きタルダム王子にキルヴァ王子の才覚の半分、いや、四分の一でもあれば、スザンの未来はいまとはまったく別のものであったろうに。

 と、アボルトは胸の内で嘆いた。

 王も王子も喪われ、次なる王位継承者は誰より早く火の粉を避けてプラスカヤ国へ亡命中の王弟ゼンダ。王位にも国政にも興味はなく、自称詩人を気取って思索に耽りつつ、飽食暖衣の日々を送っているらしい。

 そんな腰抜け男を王として迎えなければならないのか。

 いや――だめだ。

 それではスザンは立ち直れない。疲弊し、国力が限界まで落ちているいま、必要なのは正しい力で民を導く強い指導力を持った人間だ。

 革命。

 アボルトの心臓が熱く脈打った。

 王制を廃し、民意により選ばれた君主が国を統治する。

 夢のようなひらめきだったが、容易ではないことは歴然としていた。少なくとも、現時点ではない。他国の侵略の脅威にさらされている現状では、制度改革を訴えたところで耳を貸す者はいないだろう。

 まずは、態勢を立て直すことが肝心だ。

 そしてそれができるのは、スザンが誇る三人の英雄の中でも攻守どちらも均衡を図れるゲオルグ・ニーゼンが相応しい。

 ギィ大鷹を射落とすという奇をてらった策は功を奏した。

 キルヴァ王子をアボルトが包囲したことに、唖然とした様子のゲオルグとアレンジーの二将軍だったが、怒鳴ったのはアレンジーが先だった。


「王子を斬れ!」


 災害に見舞われたすべての方々へ、お悔やみ・お見舞い申し上げます。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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