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天人伝承  作者: 安芸
第六章 喪失の意味を知るということ
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スザン戦争・十二

 2011年もよろしくお願いいたします。



 後宮は燃え落ちた。

 火の回りは思った以上に早く、脱出がもう少し遅ければ炎と煙に巻かれて身動きがとれず、最悪の事態になっていただろう。

 だが実際のところ、カーチス軍は拍子抜けするほど首尾よくスザン王の首を奪った。味方に犠牲者はなく、呆気ない、暴れたりない、物足りない、という意見も飛び交う中――カーチスの遊撃隊は首都の門前まで戻った。

 静まり返る墓地の如く瓦解した首都は陰惨で、気が滅入った。

 早いところ、帰途につきたい。


「各自馬に水と餌をやれ。帰り支度だ、急げ。ちょいと休んだらすぐに出発だ」


 カーチスは姿の見えないアシュランスを呼ばわった。


「ここだ。王の首は俺が防腐処置をしとく。おまえはさっさとそっちの用を済ませろ」

「ああ。じゃ、頼む」

「任せろ」


 アシュランスはカーチスにとっとと行け、というしぐさをして作業に戻った。

 カーチスはひとりその場を離れた。

 しっかりと三翼の卵を抱きかかえ、徒歩で上空を見上げながら、十翼天人の姿を捜す。


「おおい、十翼天人様よお。待たせたなあ、どこにいるんだあー。降りて来て――」


 ばさっ、と後方で羽ばたき音がして、踝の辺りに風が渦巻いた。肩越しに振り返る。

 そこにいたのは十翼天人ではなく、六翼を大きく開いた、長い金髪にひと編みだけ細い三つ編みを揺らした、華奢な肢体の女性型天人だった。

 怨嗟と憤りに血走った蒼瞳と眼がぶつかる。

 まずい、とカーチスは思った。

 天人の、怒りに折れた指、卵を奪おうと突き出される腕、そしてかまいたちの如き風。

 瞬間、カーチスは両腕と胸を残して、細切れにされた。

 六翼の風の天人はカーチスの鮮血が飛び散った三翼の卵を夢中で奪い返した。それから身体の向きを変えた。腕を乱暴に振り上げる。支配する風を手の中に溜める。近くにいる人間共を一掃せん、としたその矢先――眼にも止まらぬ勢いで十翼天人が割り入った。


「やめろ」

 

 鋭い恫喝に六翼天人がびくりと震え、手の中の風が散じる。

 十翼天人は厳しいまなざしで変わり果てたカーチスの亡骸を一瞥し、六翼天人の腕におさまる三翼の卵を眺めて、苦痛の表情を浮かべた。


「貴様、なんてことを」


 アシュランスが異変に気がついたのはこのときだった。

 突如、天空から斬り込むように十翼天人が降下してきて、地上すれすれの低位置で停止し、翼をひろげた状態で、こちらに背を向けたまま声を荒げている。

 ふと漂ってきた、微かな血の臭い。

 アシュランスは王の首の加工を中断し、悪い予感に苛まれて起立した。


「カーチス?」


 そちらに行く。

 十翼天人の翼が邪魔で、カーチスの姿が見えない。

 慇懃無礼に礼をして傍までいったものの、カーチスは見当たらず、代わりに六翼の天人が増えていて、アシュランスは訝った。


「あれ? っかしいな、カーチス――あー、俺たちの隊長には会って……なくはないな。それ俺たちが奪還した卵だもんな。あいつ、どこでなにやって――」

 

 アシュランスは苛々しながら辺りを見回した。

 ある一点に、眼が止まる。

 どくん、と心臓が跳ねた。


 なんて殺伐とした新年早々の更新か……。


 今年もぼちぼちとやってまいりますので、おつきあいいただければさいわいです。

 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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