スザン戦争・十二
2011年もよろしくお願いいたします。
後宮は燃え落ちた。
火の回りは思った以上に早く、脱出がもう少し遅ければ炎と煙に巻かれて身動きがとれず、最悪の事態になっていただろう。
だが実際のところ、カーチス軍は拍子抜けするほど首尾よくスザン王の首を奪った。味方に犠牲者はなく、呆気ない、暴れたりない、物足りない、という意見も飛び交う中――カーチスの遊撃隊は首都の門前まで戻った。
静まり返る墓地の如く瓦解した首都は陰惨で、気が滅入った。
早いところ、帰途につきたい。
「各自馬に水と餌をやれ。帰り支度だ、急げ。ちょいと休んだらすぐに出発だ」
カーチスは姿の見えないアシュランスを呼ばわった。
「ここだ。王の首は俺が防腐処置をしとく。おまえはさっさとそっちの用を済ませろ」
「ああ。じゃ、頼む」
「任せろ」
アシュランスはカーチスにとっとと行け、というしぐさをして作業に戻った。
カーチスはひとりその場を離れた。
しっかりと三翼の卵を抱きかかえ、徒歩で上空を見上げながら、十翼天人の姿を捜す。
「おおい、十翼天人様よお。待たせたなあ、どこにいるんだあー。降りて来て――」
ばさっ、と後方で羽ばたき音がして、踝の辺りに風が渦巻いた。肩越しに振り返る。
そこにいたのは十翼天人ではなく、六翼を大きく開いた、長い金髪にひと編みだけ細い三つ編みを揺らした、華奢な肢体の女性型天人だった。
怨嗟と憤りに血走った蒼瞳と眼がぶつかる。
まずい、とカーチスは思った。
天人の、怒りに折れた指、卵を奪おうと突き出される腕、そしてかまいたちの如き風。
瞬間、カーチスは両腕と胸を残して、細切れにされた。
六翼の風の天人はカーチスの鮮血が飛び散った三翼の卵を夢中で奪い返した。それから身体の向きを変えた。腕を乱暴に振り上げる。支配する風を手の中に溜める。近くにいる人間共を一掃せん、としたその矢先――眼にも止まらぬ勢いで十翼天人が割り入った。
「やめろ」
鋭い恫喝に六翼天人がびくりと震え、手の中の風が散じる。
十翼天人は厳しいまなざしで変わり果てたカーチスの亡骸を一瞥し、六翼天人の腕におさまる三翼の卵を眺めて、苦痛の表情を浮かべた。
「貴様、なんてことを」
アシュランスが異変に気がついたのはこのときだった。
突如、天空から斬り込むように十翼天人が降下してきて、地上すれすれの低位置で停止し、翼をひろげた状態で、こちらに背を向けたまま声を荒げている。
ふと漂ってきた、微かな血の臭い。
アシュランスは王の首の加工を中断し、悪い予感に苛まれて起立した。
「カーチス?」
そちらに行く。
十翼天人の翼が邪魔で、カーチスの姿が見えない。
慇懃無礼に礼をして傍までいったものの、カーチスは見当たらず、代わりに六翼の天人が増えていて、アシュランスは訝った。
「あれ? っかしいな、カーチス――あー、俺たちの隊長には会って……なくはないな。それ俺たちが奪還した卵だもんな。あいつ、どこでなにやって――」
アシュランスは苛々しながら辺りを見回した。
ある一点に、眼が止まる。
どくん、と心臓が跳ねた。
なんて殺伐とした新年早々の更新か……。
今年もぼちぼちとやってまいりますので、おつきあいいただければさいわいです。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。




