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天人伝承  作者: 安芸
第六章 喪失の意味を知るということ
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スザン戦争・十

 とうとう師走になりました。


 スザン戦争もいよいよ大詰め――まで、もう少しかかります。

 カーチスとアシュランスは歩みを止めず、とうとう首都カルバルスキーの門を潜り抜けた。


 そこへ上空から力強い羽ばたき音が響いて、息を呑む二人の前に、十翼天人が姿を現した。金髪蒼眼、短髪で長身痩躯。姿は若い男性型。感情の起伏を欠いたまなざしと冷めた美貌。

 白い衣装を纏い、翼を全開にせず、やや小さく折りたたんでいる。


「どこへ行く」

「後宮へ」

「何用だ」

「スザン王の首を頂戴しに」

 

 カーチスは嘘を吐くつもりはなかった。

 他ならぬ王子に、天人には偽りなき真実をできるだけ貫き通せとありがたい助言をもらっていた。

 十翼天人は不愉快そうに二人の顔を指して言った。


「その黒い染料は、どうして手に入れた」

「我が主君より頂いた」

「……翡翠の瞳の王子か」

「……主をご存じで?」


 溜め息。十翼天人の研ぎ澄まされた気配が解かれ、仏頂面が覗く。


「またジアだな。あいつめ、まったく色々と拵えたものだ。俺の血を好き勝手にしやがって、みろ、おかげで関係ない輩にまでいいように使われる始末だ。どうしてくれる」


 カーチスは、キルヴァ王子の人脈の広さに敬服、と言うよりは気味悪さを覚えながら、額を指で掻いた。


「俺たちはあなたがたに非礼を働くつもりはない。ちょいと後宮にお邪魔して、王の首を狩ったらすぐに引き上げる。長居はしないんで、見逃してくれないか」

「条件がある」

「条件を呑む」

 

 アシュランスは強烈な肘鉄をカーチスに見舞った。カーチスは呻いて悶絶し、アシュランスは無視して訊ねた。


「その条件とはなんだ」

「……っ痛ってぇ。てめぇ、それが上司に対する態度か、ええ」

「ばかには付き合っていられん。内容も聞かないうちになんでもかんでも安請け合いするな」

「はじめからこっちに選択権はねぇから、いいんだよ。で、なに。俺たちはなにすりゃいいんだ、十翼天人様よ」

「中に我らの仲間が囚われている。そのうちのひとりが、まだ二翼の子供だ」

「ち、子供を盾か。えげつねぇな。よし、助けてやる」

 

 アシュランスは呆れてものも言えなかった。だが豪胆不敵なカーチスらしい。

 十翼天人は無表情のまま頷いた。

 翼をひろげ、大きく羽ばたく。


「では俺もおまえたちに一切の手出しをさせない。もし、首尾よく事を成し遂げた暁にはしかるべき礼も考えておこう」

「ありがたい」

 

 風の天人が一時引き上げたのを見届けて、カーチスはすぐに仲間に合図をした。


「馬も連れて来い、さっさとしやがれ」

 

 怒鳴ると、百名の男たちが一斉に馳せ参じた。天人を気にしたふうではあるが、精鋭揃いの兵だ。胆の据わった男たちは、カーチスの命令を待っている。


「旗用意!」

 

 カーチスはひらりと鞍上の者となり、棒に丸めて括っていたスザンの国旗をひろげた。手に持ち、天に振り翳す。


「目指すは、スザン王の首級ただひとつ。無駄死には許さん」

「火矢用意!」


 アシュランスが同じくスザンの旗を掲げながら叫ぶ。

 先鋒を務める弓矢部隊が火打石を打つ。蜜蝋に点す。火矢に点火する。


「ようし、突入!」


 剣を鞘から抜き放ち、カーチスは自ら先陣を切って手綱を振るった。

 そのまま、まっしぐらに後宮、即ちスザン王以外男子禁制の宮へと馬もろとも乗り込んでいく。


 お久しぶりでございます。

 風の天人、久方ぶりの登場。名前はまた後日に明らかになります。


 引き続きよろしくお願いいたします。

 安芸でした。

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