スザン戦争・八
若干短めですが、ご容赦を。
次話、更なる場の展開のため、キリがいいのでこの辺で。
エズガシアの地で血戦を展開するイシュリー本軍とは別に、イシュリー軍遊撃隊第二副隊長リビラ・イドゥライコスは、スザン軍の八箇所の糧道の中でも重要拠点である二箇所を同時に襲撃した。
カーチス・ゴート配下の遊撃隊千百名のうち、千名が二手に分かれて遂行にあたったこの作戦は、リビラにとって初の試みであるだけでなく、隊長も第一副隊長も不在、実質の作戦指揮を任されるという大任をも負っていた。
だが、リビラは持ち前の豪胆さでこの重圧を撥ね退けた。
「もし失敗したら、そりゃ軍師の作戦が悪いに違いない。責任をなすりつけてしまえばどうってことないサ」
と、勝手に心を決めて、早速行動に移った。
リビラは軍師命令により、キルヴァ直轄領の百名の領民を引き連れていたが、そのうちの器量のいい若い娘を選抜して、アレンジー・ルドル将軍とゲオルグ・ニーゼン将軍の名を騙ってスザン軍に大量の酒を差し入れた。
遊撃隊突撃兵のリッコ・ダスターディは首を捻って言った。
「けど、そんな見知らぬ娘が運んだ怪しい酒をかっくらいますかねぇ?」
「だから、差し入れる前に、両将軍の署名入りで一筆したためた書状を届けたのサ」
セグラン次軍師の指示は細やかだった。
あらかじめ、どこかからアレンジー・ルドル将軍とゲオルグ・ニーゼン将軍の筆跡がわかる書類を参考に、署名を偽造し、スザン軍で使用される皮紙とインクを用いて書状を作成した。
いかにも本物であるかのようなそれは速やかに糧道を管理・警護する部隊隊長のもとへまっすぐに届けられ、陽が落ちようかというときに、人足百名による、台車で十台分、五十樽もの酒が運びいれられた。
とびきりの美人が何名かまとまって前に進み出て、丁寧にお辞儀をする。
「アレンジー・ルドル将軍並びにゲオルグ・ニーゼン将軍よりの心ばかりのお届けものでございます」
「おお、知らせは受けている。せっかくのご厚意だ。ありがたく頂戴しよう」
酒には当然遅行性の眠り薬が混入されていたのだが、スザン兵の誰ひとりとして気づいた者はいなかった。
その夜は、見張りの兵を除いて慰安の宴が催された。
両将軍がここぞとばかりに称えられ、こっそりと見張りの兵にも振る舞い酒が届けられ、この夜は賑やか平穏に過ぎた。
翌朝、まだ闇が明けきらない頃に、すっかり寝静まった基地に侵入したリビラ率いる遊撃隊は次々と食糧庫を解放し、百名の領民に持てるだけ持たせてやった。
持ち運んだ分量だけ給金がもらえるし、加えて自分の運んだものは家に持って帰れるのである。
無論それを軍で買い取ってももらえるので、他国の潜入及び略奪行為加担にまつわる危険性はあっても、領民にとっては非常に割りのいい仕事であった。
そして速やかに撤退した。
こうして一滴の血も流さずして、スザン軍の糧食の大方はイシュリー軍のものとなった。
まったくのひとりごとではありますが。
私の敬愛するれいちぇる様の物語、”羽”がアルファポリス様SF部門webコンテンツup! に取り上げられることになったそうです。
おめでとうございます。
掲載は三日後だそうなので、場を改めてお祝いを申し上げたいとは思いますが、フライング告知ということでこの場をちょっと拝借しました。
まだ未読の方はこの機にどうぞ足を運んでみてください。とても壮大かつ素敵な物語です。
引き続きよろしくお願いいたします。
安芸でした。